イモータルヴァンパイア07
「やあ、伏見くん。英気は養われたかい? って聞くのは野暮みたいだね」
メールにあった通り、寿は僕が例のトレジャーを購入したコンビニの近くにある公園のベンチに腰を下ろしていて、その姿は妙にしっくりくる。
そして僕はその隣に腰を下ろすが自分でもいい大人と高校生が公園でベンチに二人で座っているのは奇妙だと思った。
「ああ、僕の家にいる嵐が心を荒らしていったから」
しかもあの嵐はタチの悪い事に僕を集中的に攻撃してくる奴だ。
「いつものお転婆かい? いゃあ〜妹に好かれるのは兄として順風満帆じゃないの?」
「まあな。でももうお腹いっぱいだぜ。それより、僕をこんな所に呼び出して何の用だ?」
メールには場所と集合時間だけで具体的な内容が記されていなかった。いつもの事だが淡白なメールだ。
「決まってるだろ伏見くん。吸血鬼攻略のお話をする為だよ」
討伐ではない攻略。
端から討伐、つまり殺す事など不可能なのだから無力化する事を考えているらしい。
「やっぱりか。何か策は思いついたのか?」
高校生で、しかも学年順位は下から数えた方が早い僕に策など練られる頭など存在しないので寿に任せっきりにしてしまったが、今思うといささか不躾だったのかもしれない。
「確実、ではないけれどそれなりに勝算のある策だよ」
その物言いに不安を感じざるを得ないがあの化け物相手なのだからそこは甘受しよう。
「ならいいけど負け戦は勘弁だからな。不死だからって僕をまるでモルモットみたいに扱うし、いや不死なる前からお前は僕をモルモット扱いしてたな」
忘れもしない、僕が不死になったあの節目な日。
「あっはー。痛いとこをつくね伏見くん。でも今回ばかりは僕を信じて戦ってくれないかな?」
「別に、お前を信じてないわけじゃないよ。それに僕に選択肢はないんだろ?」
「いやいや不死になった伏見くんも人権はあるんだから選択肢は二つあるよ。頑張って僕の策を実行して吸血鬼を倒してこの町を救うか、見て見ぬ振りして助けられた人を見殺しにするか。どちらでも君の好きな方を選んでいいんだよ」
「それ実質的に選択肢一つじゃねえか」
寿は僕の事を良く知っている。別にそんなに付き合いは長くないけど、ただ単に僕が単純すぎるせいかもしれないけど、こうやって半ば強制的にせざるを得ない状況を提示してくるのでいやらしい。本当に嫌いだこの人は。
「あっはー。流石は僕が選んだ事だけはあるよ。早速だけど今日の夜に彼女に挑戦してもらうよ」
「それはまた急だな。だけど一体何処で戦わせる気だよ」
夜というのは問題ない。不死になった時に視覚、聴覚諸々が普通の人より長けている。戦うのに支障はない。
が、場所だけは問題だ。住宅街だと誰かが戦いの騒ぎで起きてしまい、巻き込んでしまいかねない。
しかし、僕が心配するのはそこではなかった。
「ここだよ、ここ。この公園で伏見くんはあの吸血鬼を待ち構えていればいいを時間は三時。もちろん深夜の三時だよ」
「ああ、でも重大な何かを忘れてないか?」
「え? ああ、もしかして策の事?」
キョトンとした顔を一瞬浮かべて、まるで本当に忘れていた……いや本当に忘れていたのかこれ?
「それしかないよ逆に。策なしじゃあ僕が勝てる確率は一桁もないぞ。小数点が必要だ」
百回やっても百回負けるだろう。自慢じゃないがそうゆう自信はある。
「大丈夫、大丈夫。どうせ死なないんだから失敗は焦らず行ってくれよ伏見くん。この策は君にかかってるんだ。あ、それとこれ。ぜひ戦う時に使ってくれ。きっと君の役に立つだろう」
「お前は村長か!」
毒消しをくれる。そんな大切でありがたい存在なのか? とツッコミを入れたが素直に差し出されたギターケースを受け取る。
ベンチに立て掛けてあったので遠目から見ると寿は売れないミュージシャンみたいに見えたのはここだけの秘密だ。
受け取るのに少し抵抗があったがそれは想像以上に重量があって、これを持ち帰るのもあれなので草むらの中に隠す事にした。
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