イモータルヴァンパイア06
メロンパンというのは不完全なパンだ。
中をもう少し焼こうと思うと周りのカリカリの部分が焦げてしまう。逆もまた然り。どちらかを良くしようとすると、どちらかが悪くなってしまう。
僕は周りのカリカリの部分が好きなのでそれは絶対食べるのだが中の方は少し齧る程度で残りは燗南にあげる事が多々あるが致し方ない。
人間というものは好きなものだけを欲しがり、それ以外は全く興味のない存在だからだ。他人の事情など考えもしない。
メロンパンは不完全だから僕に全部食べてもらえなかった。次は全部食べてくれるように、完全に近づいてまた僕の目の前に現れる事だろう。その時は残さず食べるつもりだ。
そして僕は人間とメロンパンが似ている事に気づく。
人間は不完全だからこそ完全に近づく為の努力をして生きている。だが人間は完全にはなれない。
だがそれでも努力し続ける。僕がテストで百点をとるのが無理でも出来るだけ良い点がとれるように努力するように、人間は努力する生き物だ。
成長し、学ぶ生き物だ。
メロンパンには学ぶ脳はないが成長をさせる職人がいる。つまり生産者。人間でいう神。彼らの手助けが必要だが努力しているのは彼らだ。でないと美味しくはならない。
アンパンのヒーローより弱くたって、出番が少なくたって、僕はメロンパンは人間と近しい存在だと思う。不完全だからこそ。
そし僕らは完全はなく、成長をするメロンパンたまからこそ心惹かれてしまうのかもしれない。
と、何故かメロンパンで熱く語ってしまった僕だがそれほどメロンパンは好きではない。ぶっちゃけるとアンパンの方が好きだ。顔を引きちぎって渡されるのなら、やはりメロンパンではなくアンパンがいい。
「さて、朝飯も済んだ事だし、どうしようかな」
あれから寿は音沙汰なしで今何処で何をしているのか全く分からず、まだ英気とやらを養う必要があるのか? もう十分じゃない? という状態だ。
正直、あんな化け物と戦うなんてお断りしたいが寿の頼みとなるとその権利は剥奪されてしまう。
「どうしたお兄ちゃん、暇なのか? 暇なんだろ? 暇すぎて私の髪の毛の数を数えるくらい暇なんだろ?」
「いや、いくら暇だったとしてもそんな事しねえよ。なんだよ、妹の髪の毛を数える兄って。ただの変態じゃねえか」
燗南の僕に対するイメージが酷すぎる件についてこれは今後解決しなくてはいけなくなるだろうな。
「てかお前はどうなんだよ? 部活はいいのか?」
中学一年時に鍛えるにはこれが一番と言って始めた陸上部は確か土曜日の午前中も練習があるはずだったが……って何で僕が妹が何の部活をしているのか説明しなくちゃいけないだ。あ、僕が帰宅部だからか。
「ふふん、お兄ちゃん。私を舐めてもらっちゃあ困るよ。まあ、物理的に舐めるならいいけど」
「そこは拒めよ! 妹として、異性として」
というか僕は妹でなくとも女体を舐める趣味はない。無論、同性もだ。
「異性……おいおい、お兄ちゃん。私は妹とという性別だという事をお忘れか?」
「うん、ごめん忘れてた。お前が想像を絶する馬鹿だって事を」
「なっ! お兄ちゃん、私が馬鹿なのは自覚してるけど言われると傷つくぞ! こうなったらお姉ちゃんに言いつけてやる」
「確か三連休中は友達の家に泊まるって言ってなかったけ?」
三連休の前の朝、つまり僕が吸血鬼に出会った日の朝にそう言って大きな荷物を抱えて出て行ったのは記憶に新しい。
が、僕の妹にとってその記憶はもう古いらしく驚愕を顔で表現していた。
「そんな、私の最終兵器が……」
「最終兵器の割にはまるで青いネコ型ロボットの如く使うなお前は」
毎回毎回頼られて仕方なく秘密道具を貸すパターンか? たまには貸さないというのも見てみたいがそうは問屋が卸さないか。
「私は最初から全力なんだよお兄ちゃん」
「姉に言いつけるのがお前の全力って、それたかが知れてるな。それより本当に部活はいいのかよ」
針は七時五十分丁度を指している。 いつもなら出かけている時間のはずだ。
「おおっと、もう朝練始まっちゃうよ。じゃあねお兄ちゃん。戸締りに気をつけてね誰かが私のお気に入りのパンツを盗らないかちゃんと見張っててね」
荷物を肩に担ぐと全速力で家から出て燗南はあっという間に見えなくなってしまった。まるで嵐みたいだ。
「さて、僕はどうしようかな?」
邪魔者は去った。
自由になった僕はあの完全無欠の化け物とどう戦えばいいか自分なりに考えを巡らせていると音信不通だったはずの寿から突然一通のメールが届いた。
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