イモータルヴァンパイア05

「わかったよ。これからはお兄ちゃんが言う通り、ちゃんと、普通にパンツを履いていくよ」

 これだけ聞いた人は一体どんな会話してるんだよとツッコミをしてくれるんだろうが、これは妹が露出狂にならない為の計らいだ。僕は断じて変態ではない。それだけは断言しておこう。

「さて、んじゃあそろそろ眠くなってきたから僕は寝るぞ」

 ウサギの形をした妹の目覚まし時計八十二号は一時を指している。僕はもう少し遅くまで起きていられる自信はあるが寿に頼まれているし、早めに寝るに越したことはない。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。一体なんで妹の部屋に来たのか忘れてないかね?」

「えーと、お前にちゃんとパンツを履くように注意する為……だったか?」

 それは反省してこれからはちゃんとするように誓ってくれたから解決しているはずだが。

「全然違う! 私の怪談話を聞くためでしょ。もー、これだからお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから」

「ごめんごめん。でも怪談ってもどうせ大したことないだろ」

 学校の怪談がいい例だ。小学生なら怖がるかもしれないが中学生ともなるとその程度では怖がらないだろう。というか実際怖がってなんかいない。こいつはやたら僕にちょっかいを出してくるから今回のネタにその怪談を使いたいだけだろう。

「ま、怖い系ではないけどね。でもお兄ちゃん、これは結構近い昔に起きた事だから気になるんだよ」

 花子さんとかは昭和とかその辺? とにかく、僕らが産まれる以前に死んだ人霊になって出てくるわけだがそれだと現実味がなく、全く怖くないが友達から聞いたのとは違うらしい。

「この怪談は十三年前、つまり私が産まれた次の年の話なんだけどこの町に吸血鬼が出たらしいの」

「吸血鬼……だと」

 一切妹の話など聞く気がなかったがその単語で気が変わった。

「実際に噛まれた人が何人かいるらしくて私が個人的に調べたところによると十三人もいたらしいいんだ」

 僕の妹は行動力旺盛でいろんな知り合いがいて、その中には寿のような奴もいるらしく、この人数も間違いではないだろう。

「多いな。それに不吉な数字だ」

 十三日の金曜日、死神の十三。見るのも聞くのも嫌になるほど不吉な数字だ。まるでこれからの僕を暗示しているかのようだ。

「うん。で、これは友達が言ってたんだけど吸血鬼がこの町を出るときに、『血を吸った人数と同じ年月が経ったたら帰ってくる』って言い残したらしいの」

 そして十三年が経って約束通り戻って来たというわけだ。あの冷徹な鬼、メリーレ・ヴァン・ホルミレは。

 吸血鬼が彼女以外にいるのかいないのかは知らないがきっと彼女なのだろう。僕の血を吸ったのはきっと気まぐれか何かだろうがこの町に彼女が来た。その事実は十三年前の怪談が事実に繋がる。

「でも言い残したって事はその言葉を実際に聞いた人がいるって事だよな。それが誰か分かるか?」

 もしそれが分かったら交渉の時に使えるかもしれない。

「うーん。それが今調べ中なんだけど、中々わからなくてね。尻尾の毛も掴めてないんだよお兄ちゃん」

「そうか、でもあまり深く突っ込みなよ」

「お兄ちゃんじゃないんだからツッコミはしないよ」

「そっちのツッコミじゃない。その怪談、つまりは吸血鬼についてはもう何も調べるな。血を吸われた人にも会っちゃダメだ。いいか、これはお前の事を思って言ってるんだからな」

 あの美しい吸血鬼は確かに美しいが心は絶対零度だ。人間なんて餌の入った袋としか考えていないはず。

 そんな袋がチョロチョロと自分の事を嗅ぎ回ってると知ったら一体何を仕出かすか分かったものではない。

「私の為……うん分かった。この怪談の事は忘れる。じゃあ、早速だけど明日着るパンツを選んでよお兄ちゃん」

「お前、切り替え早すぎるだろ! 確かに僕的には忘れてくれた方がいいけど、いつもの友達に調査をやめさせるようにするのを忘れるなよ」

 もしその友達にあの吸血鬼の目に止まったらと思うとゾッとする。

「あ、そうだ。後でメールしとくよ。それでお兄ちゃん、どんなパンツがいいの」

 タンスからありとあらゆるパンツを見せびらかしてきたが僕は戸惑う事なく答える。

「そうだな。僕は緑色のパンが食べたいな」

 こうして明日の朝食は決まった。

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