イモータルヴァンパイア03

 寿が策を成功させる為に動いたが手伝いはいらないと言われ、手持ち無沙汰となった僕は本来の目的であるコンビニで僕好みのトレジャー本を買って普通に家に帰るとそこには深夜だというのに何故か仁王立ちで待ち構えているポニーテールの少女の姿があった。しかも左手で顔を覆い隠して奇妙なポーズをとっている。

 そして僕は彼女の事を良く知っている。というか僕の妹だ。

 名前は伏見 燗南かんな。両親がどういう意図でこの名前にしたかは知らないが天真爛漫になる事を予期しての事だったら的中だ。元気すぎて困る。それが僕の妹だ。

「おかえりお兄ちゃん。そしてさよならだお兄ちゃん」

「帰って早々、死刑宣告⁉︎ 理不尽にもほどがあるだろ」

 前言撤回。

 天真爛漫なんかじゃない。こいつは横暴だ。横暴が美少女の皮を被っている、それがこいつの本性。僕も何度か被害に遭っている。

「しらばっくれてもお兄ちゃんが考えていることなんてお見通しでさぁ。どうせ日課のトレジャー採取でもしていたんでしょ」

「どうでもいいからキャラを定めてくれ。あのその構えもやめろ」

 もし、人通りが多い交差点のど真ん中でこの格好をしていたら僕はこの妹を今後妹と認めないだろう。いや、認めない。これは断定だ。

 だが燗南ちゃんも人前ではしないだろう。僕の前だからこそこうしている訳であって決して瘋癲ふうてんではない。

 と、兄として妹の言動を弁解をしておく。

「否定はしないんだねお兄ちゃん。お姉ちゃんに見つかった大変だよそれ」

「だからこんな時間に行ってるんだよ。この袋の中を察する前に僕の心の中を察せ」

 理解ある、もとい、諦め気味な妹はこのビニール袋に入っているような書籍を僕が隠れて買っているのを知っている。知っているが親に報告をせず、これが自分の兄なのだと受け入れてくれている。

 なので見つかっても焦りはしない。寧ろ開き直る。妹ではなく、親もしくは姉ちゃんだったら僕は地獄絵図そのものになっていただろう。

「ごめんごめん、そう怒るなよお兄ちゃん。私だって地球を半壊出来ても人の心を読むなんて芸当出来ないんだからさ」

「後者より前者の方が凄いように思うのは僕だけか⁉︎」

 超能力者か世界の破壊者。

 どちらも凄いがやはり後者の方が凄そうだ。もしかして僕がおかしいのか?

「お兄ちゃん、細い事を気にしていたらこの家では生きていけないぜよ」

「そうか。ならお前のボケも気にしない。だからそこをどいてくれないか?」

 もう妙な立ちから普通の仁王立ちになったが一向にここを通してくれそうにない。

「釣れないこと言うなよブラザー。実は寝付けなく困ってるんだよ。ここは可愛い妹の為に一肌脱いでくれてもいいんじゃないか? 寧ろそうするべきだよお兄ちゃん」

「何故お前がこんな深夜からテンションが高いのかは知らないけど僕はお前にかまってる暇なんてないんだよ」

 そう、僕には伝説の化け物、吸血鬼と戦う為に英気を養うという立派な使命がある。例え可愛い妹だろうと睡眠時間を割くほどにはなれない。

「ふふん、なら一方的に私がお兄ちゃんに対してお話ししてやる」

「ご遠慮するよ。お前って運動とかは得意でも人に何かを伝えるのって苦手だろ? テストも……」

「おおっと! みなまで言うな。その点に関しては自分が一番わかっているつもりだから」

「そうか、じゃあこれで」

 何気なく横をすり抜けて安全地帯(自室)へと行こうとしたが、服の袖と一緒に肉を引きちぎるのではないかというほどの力で捕まれ、そこから一歩も動けなくなってしまった。

「何逃げようとしてるのお兄ちゃん。明日から三連休なんだろ? だったら妹の一人や二人相手してくれたってバチは当たらないぞ」

「これ以上妹が増えてたまるか! 僕の体がもたない」

 たとえ不死になったからって気力が無限大にあるわけではないのだから何時か息絶えてしまう。

「恥ずかしがらなくてもいいぞお兄ちゃん。この機会だし、私の部屋でゆっくりと語ろうじゃないか」

「お前僕の話を聞いてないだろ。僕はお前の相手をするほど暇じゃないんだよ」

 いつもは夜遅くまで起きている事が多いが今回ばかりは今まさに準備をしているであろう寿の為に早めに寝なくはならないんだ。

「へ〜、三連休が明けたらお姉ちゃんにそれの事、話すしかないか〜」

「ぐっ……僕がそんな脅しに屈するとでも……」

「思ってる!」

 そんは力強く言わなくても、それにお前の声は常人の声量を軽く超えているんだから近所迷惑になるってのに。

 しかし、僕は結局、僕の尊厳と諸々の為にこの面倒臭くて人の話を聞かない迷惑な妹の部屋に行くしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る