イモータルヴァンパイア02

 吸血鬼が寿が提案した隠れ鬼を承諾したのには二つの理由があるのだと言う。

 一つはやはり、より楽しくしたいからという何とも子供っぽい理由。

 そしてもう一つは太陽が出ている時には決して襲わないというルールがあったからだ。

 しかしこれでは吸血鬼、つまりはメリーレ・ヴァン・ホルミレにしか得がない。

 だから彼女にも妥協はしてもらい、この隠れ鬼をしている間は人間を襲わないと約束してもらった。

「吸血鬼って良く知られていると思うけど太陽の光に弱いんだよ。十字架や聖水とかもね。いくら怪力無双、変幻自在、神出鬼没の吸血鬼でも弱点はあるのさ」

 人間に完璧な者などいない様に、化け物でも吸血鬼でも完璧ではない。

 伝説にあるように太陽に弱いそうだ。

 他にも銀の弾丸とか色々あるようだが一番は太陽らしい。

「待て、寿。この流れだと僕もその馬鹿げた隠れ鬼に参加する感じだよな」

 まさに隠れ鬼。

 吸血鬼に見つからないように隠れつつ、人間は悪の根源である鬼を倒す。

 後半は隠れ鬼ではないが、鬼に追いかけられるのだから同じだ。

 寧ろ、本物の鬼なのだから誰もがやったことがあるであろう隠れ鬼なんかよりスリル満点だろう。

「当たり前じゃない。彼女に対抗できるのは不死である伏見くんだけだし、こうなったのには君の責任もあるわけだからさ」

 たまたま、偶然不死だったから興味を持たれ、吸血鬼はここに巣食うことになってしまった。

 唐突な出来事続きで納得できないが妥協するしかない。

 寿が大好きで、愛して止まない妥協だ。

「だけどお前がこうして来たってことは何か策はあるんだろ?」

 隠れ鬼をすると言い出した時は遂に脳味噌が腐ってしまったのかと気掛かりだったがどうやらいらぬ心配だったらしい。

「あるにはある。けど、やっぱり君に頼りっぱなしの策にるだろうね」

 寿は戦わない。

 弱いとかそんな問題ではなく、相手が不死ならばこちはも不死でなければお話にならないからだ。

「どうせ、お前には期待してない。で、何をすればいい?」

 こうなればもうヤケだ。

 あの美しい吸血鬼が人を喰うというのなら止めなくてはならない。たとえ、この隠れ鬼の間は協定のお陰で手を出さないといっても負ければご破算、無意味となってしまう。

 それを避けるには勝つ他にないのだが彼女に勝てる気など毛ほどない。頼りは寿だけだ。

「そう慌てなさんな。まずは下準備だよ」

 これがないと何も始まらない、と寿はその重い腰を上げた。

「おい、一人でどこ行くつもりだ。話は終わってないぞ。一体僕は何をすればいいんだ⁉︎」

 策があるとしか聞かさせていないのでこちらとしては準備のしようがない。

「だからそう慌てるなよ伏見くん。君は大事は戦力だ。家に帰って英気を養っててくれよ」

「それだけ? あの伝説の吸血鬼相手にそれだけか僕がする事は」

 仲間を集める時間はないだろうが、僕はあれに一矢報いる事は愚か、触れる事もかなわないだろう。

「大きな仕事は後にあるからね。セッティングは僕一人で十分さ」

「わかった。僕は恩人としてお前を信じてる。必ずあいつを倒せるような手助けをしてくれるって期待してるぜ」

 そのおちゃらけた態度は気にくわないがそれなりに頼りになる男だ。

「それは僕を過大評価しすぎだよ伏見くん。だって相手は伝説の化け物、吸血鬼なんだよ。僕程度なんか息を吐かれたら吹き飛ぶような脇役だよ」

「だけどよ寿、過大評価ってんならお前もそうだろ? 僕をその伝説の化け物、吸血鬼と戦わせて勝たそうとしているだからさ」

 突如現れたあれの暴挙を止めるには最早勝つしかないが当然隠れ鬼で勝って鬼退治が出来るなど甘い考えを持ち合わせていない。彼女がそんな律儀な奴なはずがない。

「ん? ああ、その点に関しては同感だね。伏見くんが勝てるはずがない」

「だったらなんで……」

 なんであんな約束したんだ? どうせ戦わなくちゃいけなくなる隠れ鬼なんて、と問いただそうとする前に当の本人がそれを遮るように口を開いた。

「そこで僕だ。確かに相手は手強いを通り越して手詰まりだけどそれをどうにかするのが不死の専門家である僕のお仕事さ」

「それはまた随分と幅の狭い仕事だな」

 自己紹介の時にこの出っ張りがあると危険だからそれを直す仕事をしていますと言われた時と同じリアクションになってしまった。

「あっはー。だからこそやり甲斐があるのさ。ま、働いたことがない伏見くんには分からないだろうけどそれが仕事ってやつさ」

「そうかよ。じゃあ、楽しい楽しいお仕事頑張ってくれ。僕は家に帰ってるとするよ」

 と、その前にこんな夜中にまで出て手ぶらで帰るのは癪なので予定通りあれを買って英気を養うとしよう。

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