Revive〜僕と怪訝な不死話譚〜
和銅修一
イモータルヴァンパイア01
親が寝静まった深夜にコンビニへ出かけると通り魔に遭った。
いや詳しくは通り鬼だろう。
何故僕は『鬼』と称するかというとナイフの代わりに首筋に牙を刺してきたからだ。
そしてまるであの伝説の吸血鬼のように血を吸ってきた。
だからこそ僕は『鬼』と称したのだが、驚いたのはそこではなく、この通り鬼が美しかったからだ。
満月と星よりの光がくすんでしまうほどの艶やかな赤髪。この闇と同化してしまいそうな西洋の黒いドレス。
僕はその姿に目を奪われて、少し見惚れてその場に立ち尽くしてしまった。そのせいで血を吸われてしまったわけだが。
「むっ! 御主、面白い味がするの。どれ、試してやるかの」
彼女は楽しそうに鋭く尖った爪を何の躊躇いもなく僕の肉壁を突き破って心臓に穴を空けてきた。
十センチほどぽっかりと空いたその穴からは止めどなく血が溢れ出してそのまま足元に零れ落ちる。
「いっ………ったいな! 死んじまうだろうが!」
僕はその空いた穴を手で押さえて今年一番の怒声をあげた。多分、大声コンテストに出場したなら優勝できるような、そんな怒声を。
「ほほう。心臓に穴を空けても死なぬとは。御主何者じゃ?」
「あることがきっかけで不死なっただけの、ただの男子高校生だよ」
だから心臓がどうなろうが、いくら血が出ようが吸われようが死なない。死ねない。
不死だから。
「ふん、面白い。ただの人間にしておくには勿体ない。どうじゃ? 妾の眷属になる気はないか」
「断る。いきなり血を吸って心臓に穴空けてくる奴のいうことなんて聞くかよ」
不死だからといって痛みがないわけではない。
死なないだけで、普通の人と同様に心臓に穴を空けられた痛みがある。
理不尽にこんな痛みを味わせた張本人の話など聞きたくもない。
「ふむ、残念じゃ。ならこうしよう。妾はこれからこの街の人間を片っ端から喰らう。いずれ御主の親族か友人に当たるじゃろうな」
「それってただの脅しじゃねーか」
本人は遠回しに言っているつもりらしいが「言うことを聞かんならお前の大事にしておる者たちを殺す」と宣言しているようなものだ。
「なんと思ってくれても構わん。ただ妾は楽しみたいだけなのじゃ」
「なら、僕がそのゲームをもっと面白くしてあげるよ吸血鬼ちゃん。いや、メリーレ・ヴァン・ホルミレと呼んだ方がいいのかな?」
渋い声のオジサンはパーカーとジーンズという謎の組み合わせの服装で、そしていつものようにやけ顔で現れた。
「ほう、妾の名を知っておるとは何者じゃ」
「ただの通りすがりのオジサンだよ。少しその不死の人間、伏見くんと面識があってね」
そう、僕はこの男を知っている。
恩人であり今まで会った誰よりも一番嫌いな奴。
「成る程、それで助けに来たわけか」
「助ける? いいや違うね。僕はただ一方的なやり方を止めにきただけだよ。だから公平にしようとおもってね」
助けはしない。
手助けをしてくれるだけだ。
本格的に事に突っ込む事がない。それが寿のやり方であり生き方だ。
「妾がそれに従うとでも?」
彼女、吸血鬼にとって寿はただの人間だ。
年がいくつだろうと、どれだけ儲かっている奴でも、いくら頭が良かろうとも彼女にはその違いは無いに等しい。
どれも自分よりも下の人間という存在という事には変わりないのだから。
「その言い方はあまり好きじゃないな。僕的に言うとこれは妥協だよ。二人には妥協をしてもらう」
「寿……。こいつを知ってるのか?」
「勿論、僕の専門は不死だと言ったろ。彼女は伝説の吸血鬼。確か僕の記憶違いでなければ彼女は七百年も生きている。つまりは人生の大先輩だね」
説明という説明になってはいないが大体は把握できていた。
やはり、この月も霞んでしまう美しい女性は不死にして伝説の吸血鬼らしい。
でなければ七百年なんて生きられないだろう。
「おい、妾の事などどうでも良い。伏見……じゃったなそのお喋りが言うには。これは最後の警告じゃ。妾の物となれ」
「あ〜、だからさ。僕の話を聞いてたかな? これは悪い話じゃないんだよ。それともまた封印されたいのかい?」
今まで散々寿を無視していた吸血鬼は明らからに殺意がダダ漏れになって怒り心頭といった感じになった。
「なんじゃと?」
「おやおや? 急に顔色が変わったけど、何かあったのかい?」
絶対お前のせいなのだがいちいちツッコミしているとキリがないし、何より心臓が痛い!
「貴様、戯言にしては随分と自信があるようじゃが回りくどいのは面倒じゃ。今ここでやってみよ」
「残念ながら今はできないよ。ただし、条件さえ揃えば簡単だ。それにしても、話は変わるけどさゲームをより楽しくする方法を知ってるんだけど聞くかい?」
「ほう、なんじゃ言ってみい」
唐突な話の切り替えだが寿も脅しをしたのだ。
流石に嘘かどうか分からない状況で抗うのは吉ではないと悟った吸血鬼は耳を傾けた。
「隠れ鬼をしようよ。鬼らしく、鬼だからこそ」
この闇の中で。
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