十章11:聯絡は、勇者の魔力を媒介に
「いやあ、何だかんだ言って寂しいもんだねえ。アンサングのおじいちゃんが居なくなると」
アンサング一行を乗せ、ミランへと去っていく列車を眺め、フィオナがふうと溜息をつく。
「まあ、お前とまともに議論を交わせるのはアンサングぐらいだもんなあ……」
中身がじじいのアンサングは、突飛な性癖はともかくとして、その知見だけは本物だ。ナヴィク随一の頭脳たるフィオナの思考を理解し打てば響くのは、いかに大陸広しと言えども彼(?)ぐらいのものだろう。
「そうなっちゃうんだよねえ……基本、アタシの技術って『魔法が使えない人がどう戦うか』って所に端を発してるから、そもそも使える人には訴求力が無いというか」
ううむと顎をさすりながら頷くフィオナは「明らかにパワーだけなら、エメリアにケイちゃんと強い面子が揃ってるんだけど、話ってなるとね」と諦めたように肩を落とし「やっぱりアンサングのおじいちゃんかな」と締める。
「僕にもせめて概論だけでも知る術があればなあ。この鎧は『魔法』って過去の知識は与えてくれたけど、フィオが考えた『これから』には全く無力だ」
やれやれと
「ううん、ううん。お兄ちゃんはそういうポジじゃないから気にしないで! どっちかっていうと、アタシの言葉に
頬を染めて言うフィオナに「そんなもんか?」と僕は返す。
「そんなもの……っていうか。それが一番重要だから! 副作用の無い精神安定剤。とっても、とーっても重要だよ??」
まあ、じゃあ、行こっか、と。照れ隠しの様に僕の手を引くフィオナは「折角だから、研究の進捗を報告しておくね」と
* *
「……これは随分だな」
「ふふ……いい気味だよね。アレから薬の投薬量もちょっとずつ増やしてるから、見て、ほら」
フィオナはユークトバニアの側まで歩み寄ると、胸元から注射器を取り出して囁く。
「ほーら39番。今日もお注射のお時間ですよ〜」
フォオナがユークトバニアに対してだけ見せる、残忍で嗜虐的な一面。彼女はユークトバニアを、名前では無く「リンクス39」という、被検体の番号でしか、もはや呼ばない。
「……ッ!!!」
案の定と、言うべきか、びくりと身体を震わすユークトバニア。よく見れば身体そのものも変体を来しているようで、指先のように膨れ上がった乳首が、針の先でぷるぷると揺れている。
「ねえ39。はしたなく勃起しちゃった馬鹿乳首、お兄ちゃんに見てもらおっか〜」
情け容赦無く針を突き立てるフィオナは「見て見てお兄ちゃん、こいつ、こんなに乳首勃たせちゃって」と、卑猥な笑みで舌なめずりをする。
「感度がだいぶ上がってるの。収得できる魔力の量も結構増えたから……調教はまずまず順調って感じかな?」
僕の反応を他所にまくしたてるフィオナは「あ!」と思い出した様に駆けてきて、ポケットから卵状の何かを取り出す。
「それでね、これが出来たんだ。お互いが離れていても、ボタン一つで通話が出来る携帯結界!」
自信満々といった風に機能を説明するフィオナの概略を示すとこうだ。
この小型機械には、
「――それは凄いな」
「えへへ、そーでしょーそーでしょー! 通称ヒエロコフィン、かな。褒めて褒めて! お兄ちゃん♡」
抱きついてくるフィオナの頭をわしわしとし、絡みついてくる身体を
「ね、見てよお兄ちゃん。アタシたちがイチャイチャしてるの見て、アイツまた興奮してるよ」
侮蔑すら込めた視線で指差すフィオナの先で、ユークトバニアはびくびくと身体を震わせている。
「どういう事だ?」
「アイツにね、アタシに対するものすご〜く強い恋愛感情を抱かせてるの。だけれどアタシは、絶対にアイツに優しくしてやらない。んでもって手の届かない所で、お兄ちゃんとだけイチャイチャする。――ああもう地獄だろうね。たまらない、たまらない」
へっへっへと涎を
「――これはね、お兄ちゃん。アタシの身体をさんざん
フィオナは何度も僕を求めながら「ほら触って、アイツの所為で服の上からでも分かる様になっちゃった、アタシの乳首」と、僕の手を取って自らの胸に当てる。
フィオナの淫行も元を正せば、原因は眼前のユークトバニアにある。連れ去られ陵辱の限りを尽くされた半年間、薬の投与を受け続けたフィオナは、それに抗う抗生物質でしか性欲を抑えられない身体になってしまった。シンシアの治療なら多少はマシになる可能性はあるのだが、当の本人が多忙を理由に断っている手前、その処理に付き合うのは兄たる僕の役目とも言えた。
「フィオ……アイツの前でこれをやるのか?」
「アイツの前だからいいんだよ。好きな女が眼の前で弄ばれる様を、これでもかって見せつけてやりたい」
どうやら頬を上気させるフィオナの耳には、僕の言葉は届かないらしい。淫臭と嬌声を辺りに撒き、僕の妹だった何かは獣の様な声をあげる。
* *
「……ねえお兄ちゃん、アタシの事、好き?」
一通りの情事を終え耳元で問う妹に「ああ、好きだよ」と僕は返す。
「ごめんね……お兄ちゃん……ごめん……」
自らの欲望を解放したあと、決まって自己嫌悪の波に飲み込まれるフィオナ。そのフィオナの頭を優しくさすりながら「あやまならくていいんだ」と僕は諭す。
「いいか、フィオがどんなになったって、お兄ちゃんはフィオを愛している。だからフィオも、好きな様に僕を愛してくれ」
「うん……うん……」
ようやくフィオナは、僕の知るかつての、つまりはいつもの義妹に戻りつつある。発作さえ収まってしまえば大丈夫なのだから、暫くはこの方法で乗り切る以外にないのだろう。
* *
「――そういえばフィオ、さっきのヒエロコフィン、もう実用段階に移ってるのか?」
「あ、忘れてた。アレね。試作機は幾つかできてるんだ。さっきアンサングのおじいちゃんに一個渡して……」
檻を出て数分。落ち着いて会話ができるまでになったフィオナは、うーんと顎に指を当てて天を仰ぐ。どうやら言葉は戻っても、思考まではまだらしい。
「ひーふーみー。各国の代表者と、それからベルカの要人たちと繋がる様に作ったから、全部で九つかな?」
曰く、マクミランのアンサング、ノーデンナヴィクのゾディアック、さらにはエルジアのイリヤに、エスベルカのシャムロック。これにエメリアたち四人に僕を加えた九人用に、フィオナはヒエロコフィンを設計してくれたのだと言う。
「万が一ってこともあるからね。全員が全員、ある程度連絡を取り合えるようにしておかないと」
フィオナの提案は最もで、これまで各軍にチャンネルを開けるだけの魔道士を配備していた手間を考えれば、随分と有り難い話だった。なにせこの子機だけがあれば、どことでも話がつくのだ。自身の魔力の、一切の消費無しに。
「凄いな……ありがとうフィオ。これが指揮官クラスにまで行き渡れば、全軍の連携もより密なものに出来るだろう。見逃しがちだが、即席の結界を発生させられる機能も良い」
「へっへっへ……お兄ちゃんに褒められると……嬉しいなあ。アタシ、その一言でもっともっと頑張れるって思っちゃうよ」
顔を真っ赤にして眼鏡をくいとさせる我が妹を、僕は我ながら可愛らしいなあとまじまじ見つめる。あんな事さえ無ければ、こんな事にもならず
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