七章07:九竜は、幼馴染みと相まみえて

彼方かなたもなかなかやるではないか……」

 大鎌を杖に、負け惜しみの様に手を差し出すのはカオルーンが二席、タマモ・カイ・ナインテイルズ。それに応じて「あなたも、中々ね」と手を握り返すのは、我が栄えあるグレースメリア騎士団の団長、エメリア・アウレリウス・ユリシーズ。――フガクから昇る朝日に照らされ握手を交わす二人の姿は、さながら青春マンガの1コマの様でもあった。


 翌朝。ケイを引き連れ現れた僕を、上機嫌で迎えたのはエルジアが首魁、イリヤ・カイ・ナインテイルズで、彼女はその白面に笑みを湛えながらこう言ったのだ。「つ国のみかど……まこと恐ろしき女子おなごよ、貴殿の国の騎士のつかさは」と。


 見ればタマモだけでは無い。剣豪サイモンを筆頭に、姿の見えない一席を除く全てのカオルーンが、疲れきった表情でエメリアに跪いていたのだ。

 

「約半日じゃな。昨晩貴殿らと別れ、それからずっとあの女子おなごは剣を振るい続けておった。先ずは三席から五席。次に回復したタマモを加え、それでも足らずに一席以外の全員を、じゃ。――まったく、妾の国の九本刀カオルーンが情けないやら、貴国の子女があっぱれやら」


 そう笑ったイリヤは、僕に向かい「さあ、騎士の肩を抱くは主君の務めぞ。外つ国の帝」と袖で促し、僕もまたそれに従った。




「――エメリア、よくやった」

 声を掛ける僕に、満面の笑みを讃えスフィルナを掲げたエメリアは、そのままに胸の中に倒れこんできた「やったよララト……私、一人でも出来た……」と、唱えながら。


「ああ、よくやった。お前は私の誇りだ……二振りと無い無二の剣だ」

 眠りこけるエメリアを姫君の様に抱え、曙光を背に立つ僕の横で、うずくまるサイモンが申し訳なさそうに呟く。


「レイヴリーヒ殿、もしエメリア殿が眼を覚ました暁には、是非お伝え下され……このサイモン、女人にょにんがなどと無礼を働き、誠に申し訳なかったと」


 隻眼の老兵の言葉に「ああ」と頷いた僕は「諸君らも、我が国のたわむれに付き合って貰い済まなかった。これはその礼だ」と続けると、指を弾きバンテイの周囲に結界を巡らせた。


「こ、この魔力は……」

 相変わらず鎌の柄を杖に、カオルーンの中ではただ一人立っているタマモが言う。


彼方かなた……これだけの魔力を……なれば此方こなたなど足元にも及ばぬではないか……」

 そこで初めてがくりと膝をつくと、見かねたイリヤが口を挟む「だから言ったであろう、愚女よ」とかぶりを振って。




日出るひいずる国の天子。見ての通り結界は張らせてもらった。コキュートス級がやってきてもびくともしない程度だ……三ヶ月は保つ。カオルーンが英気を養うまでそれで許せ」

 そのままイリヤの横を通りすぎようとする僕に、エルジアの首魁は呼び止める様に声をかける。


「のう……時に外つ国の帝。貴殿はわらわの娘、タマモをめとる気はないかの?」

 びくりと肩を震わせた僕以上に、背後から甲高い少女の声が響く「何を申しておる母上ッ!」と。


「騒ぐでない愚女。勇者エイセス千人力の殿方ぞ。強き子を孕み育てるは九尾ナインテイルズの務めじゃ」

 明らかに真剣な眼差しのイリヤだったが、僕は「ベルカに一夫一妻の制度は無い。ただ甲冑に身を包む異形の事だ。子女が望むならその様に、望まぬならその様に」と返すと、さらりと入り口に戻る。――その間に勇者エイセスらの乗った霊柩馬車ハースを引き連れたケイは、メイド服姿で僕を待っていて、傍らにはバートレットの義妹、ユリ・オヴニルの姿も見える。




「――ではさらばだ。日出るひいずる国の天子。勇者エイセスの処遇は翌月の議場にて。ユリは一足先に貰い受ける」

 ガシャリと閉まる鉄柵の奥で、イリヤが「うむ。つ国のみかど、そして日出ひいる国の未来のみかど」とニヤリと笑っていた。

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