楓
この社に来てから十五年が経とうとしている。
しっかし、お腹は空かないし、トイレに行きたいとも思わないし、お風呂入らなくても臭くないし、眠くもならない。死んでるみたいだ。
部屋の端で泣いている十八人目の女の子は美香ちゃんと言うらしい。鼻をすする音とたまに聞こえるお母さん、お父さんという単語が、俺の涙腺まで刺激する。俺が死んだ後、この子は独りで十五年を過ごさなくてはならなくなる。
父親に怒られた時より、敦とケンカした事より、飼ってたインコが死んだ時より苦しくて辛かった。
その苦痛をこの子が受けるのだと思うと悔しくて、唇を噛む。口の中に広がった鉄の味に、自分はまだ生きているのだと実感させられる。
『ぐゔゔゔゔゔぅああああああ』
桜食さまは興奮状態にあるようで叫んでる。
もうすぐ夜だ。
そろそろ俺に迎えがくる。
ごめんね、小さな君を助けてあげられなくて。抱きしめる事も出来ない俺を、出来れば忘れないでほしい。
ホンモノの俺を覚えてる人なんてきっといないだろうから。
「オイデオイデ オソトヘオイデ」
ほらもう、サヨナラはすぐそこだ。
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