椎名のお陰で、夜七時には病院から抜け出す事ができた。

先程呼んでおいたタクシーに乗って、神社へ向かう。村瀬と共通の友人に、俺に何かあったらって荷物をあずけてあるから、俺が死んだら、村瀬にあの恥ずかしい手紙が届くのか。

死にたくねえな。


もうすぐ着くけど、正直言って何も考えてない。

ライターとマッチは持ってきたが、丸腰である。

でも、時間がない。明日になる頃には楓がいなくなってしまう。いや、世間的に言えば楓は存在し続けるが、俺の知ってる楓は世から消えてしまう。なんとしてでもあの桜木を燃やさなくては。


到着して、見上げた階段はトラウマになりそうなほど高かった。

よく俺ここから落ちて生きてたな。タフすぎんだろ。

よし、いくか。

一段目に足をかけた時だった。


「え?なんでここにいるの!」

「お前こそ、なんでいんだよ!」


俺の後ろにいたのは村瀬だった。頭が混乱して星が見えそうだ。


「なんでいんだ!の前にあんた入院してたじゃない!朝見たときはまだ寝てたじゃない!」

興奮状態で涙ぐむ彼女をあやしながら事情を簡単に説明した。

「と、いうわけだ。だから帰れ。」

「いや。私も行く。」

「帰れ」

「帰らない」

これは時間がかかりそうだ。

その時

『ぐゔゔゔゔゔぅああああああ』

何がすごいデカイ声で叫んだ。桜木の方だ。

俺はすぐに階段を駆け上がる。

「ちょっと!待ちなさいってば!」

村瀬もついてきた。お前まで巻き込みたくねえのに。

あと百段くらいという所で、何かにぶつかった。ヤバイ!落ちる?!

とっさに目を瞑った。


どん。

後ろの村瀬が必死に背中を押している。

「ファイトォォォォォ」

「い、いっぱーつ?」

危なかった、ありがとう。

でも、

「ここから先は入れねえのか?」

何もない空間に手を置くと、壁みたいなのがある。 叩くとコンコンと音がなる。

「なにやってんの?」

「いや、なんか壁がある。」

「え、壁なんてないよ?何言ってんの?」

彼女は俺より上の段に立っている。

どうやら視えない人は入れるらしい。

「村瀬、このライターでもマッチでも使って桜を、桜木を燃やしてきてくれ!」

「何いってんのよ!あれは街のシンボルでテレビとかにも出てるやつじゃ……!」

反論するのを止めた彼女は何かを悟ったようで、強引にマッチをひったくった。

「全部終わったら洗いざらい話してもらうんだからね!」

元陸上選手の彼女はあっという間に見えなくなった。

さあ、俺は壁の綻びを探さねば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る