双子
今となっては昔のことだが仲の良い双子の兄弟がいた。
兄は来年、江戸へのぼる。若くして役人となる、いわゆる天才だった。
弟は植物を愛する優しい人だった。
ただ、優しすぎた。
その夏、弟は軽い病にかかった。
一週間ほど休まなければならないようだったので、朝顔をはじめとする数種類の植物の世話を兄にお願いした。
兄は快く引き受け、毎朝毎晩、弟の愛でる植物達にせっせと水をやった。
弟が床から回復して、久しぶりに庭を見に行くとそこには腐りかけの無残な姿になった朝顔があった。
兄に話を聞くと、水をやっても元気にならないのを心配し、余計にやってしまったと言うことだ。
「本当にすまない。朝顔一つ面倒を見れないなど、俺は兄失格だ。」
兄はいたたまれない気持ちになった。
自分がやっていたことは助長に過ぎなかったのだから。
しかし、弟は優しく笑った。
「いいかい兄さん、植物は水をやり過ぎてもいけない。甘やかされた人が上手く生きていけないように、腐ってしまうんだ。兄さんはそういう人を沢山見てきただろう?」
兄は顔をぐちゃぐちゃにして、ありがとう、すまない。を繰り返した。
「大丈夫だよ兄さんは僕と違ってしっかりしてるから、同じ事はしないと思うし。それに、一度腐るともう戻らないからしょうがないよ。失ってしまったら戻らないんだ。」
弟は泣きじゃくる兄を抱きしめた。
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