明日で俺は二十歳になる

そして

おうじき様の桜木の養分となる。

この街の一番大きい桜は、本当に人間の血を吸って生きている。

犠牲となる対象はこの街で生まれ育った子で、おうじき様を視ることができる子。そして、おうじき様に魅入ってしまった子。

俺は五歳の時、冬なのに咲く桜木の下にいるおうじき様を見てしまった。

人間とはかけ離れた外見と、愛おしそうに桜を見つめる目に魅入ってしまった。

気がついたら後ろにおうじき様がいた。


「ヨクキタネ」


って。

それからはあまり覚えてない。社の中に閉じ込められたから。

社のなかには十四歳年上のお姉さんがいた。

お姉さんに色々聞いたんだ。

おうじき様は俺達を、二十歳になった誕生日に食べるってこと。

その養分で桜木を生かしてるってこと。

俺のコピーみたいなやつが、今、俺の代わりに過ごしているから誰にも助けてもらえないってこと。

そして、


お姉さんの二十歳の誕生日は明日だってこと。


次の日、お姉さんだけ社から連れて行かれた。

窓から少し見えちゃった。

おうじき様は透明なスライムみたいになって、お姉さんを飲み込んだ。

お姉さんの肉がどんどん溶けて、骨になった。

骨もゆっくり溶けて、お姉さんを構成する物はなにもなくなった。


なにも、なくなった。


その時俺からしか見えないような角度に小さな男の子が見えた。

多分、敦だった。

ここから手を振って、助けてって叫んだら気づくかもしれない。

でも、敦にはおうじき様が見えていたようだったから、何もしなかった。

ただ、早く逃げろと心の中で叫んだ。

俺をいじめっ子から助けてくれたのは敦だった。だから、助けを求めるなんて、あいつを巻き込むなんて出来なかった。


だから明日、僕はお姉さんと同じように死ぬ。

さっき、社に小さな女の子が連れてこられた。

きっと怖いだろうけど、俺が知ってる事全部教えた。俺達は、漠然としてやってくる死を待つしかできないのか、また犠牲者が出るのを何もせずに見てることしかできないのか。

きっと解決策はあるんだろうけど、もう俺には時間がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る