村瀬

真っ白なベッドの上で眠る君を見る度に嗚咽が漏れる。

今日の花は淡い色のガーベラ。

君はあまり好きじゃないかも。

もらったベレー帽も毎日被ってるよ。褒めてくれた絵も毎日描いてるよ。

だから

「早く起きてよ。」

警察は不慮の事故って言ってたけど絶対違う。

私の大好きな恋人は、敦は、何かない限りあの場所へは近づかない。いや、近づけない。

でも、誰を責めたらいいのかわかんないよ。

早く本当のこと、聞かせてよ。



「今日ね、近くの大学の学祭見て来たの。お隣の椎名さんがライブで歌ってたよ。ラブソングだった。聞いてたら敦に会いたくなったよ。」

返事のない空間に息が詰まって逃げたくなる。

「ちょっとコーヒー買ってくる。」


アイスコーヒーのせいで冷たくなった手でもっと冷たい彼の手を握る。

相変わらず会話は一方通行で。


「なんで神社の階段から落ちたの?なんで神社にいたの?言ってたじゃない、あそこに神様なんていないって。」

「楓くんとは会えないんだって言ってたじゃない。」


私は所詮アウトサイダーで、彼の気持ちなんてわかんない。わかんないから、言ってよ。相談してくれたってよかったのに。

私には彼の好きな絵を描くことしかできないんだろうか。


以前、楓くんという神社で暮らしている敦の友人の話を聞いたことがある。

敦ととても仲がよかったらしい。


「また来るね。」

そう言って病室を出ようとした時に敦と共通の友人からメールがあった。

【今すぐ家にきて】

どうやらとても急を要するらしい。


友人の家は一週間ほど前に来た時よりも少し遠く感じた。

ピンポーン

「村瀬っ!早く入って!」

促されるままに入ってとりあえず話を聞いた。

友人の話をまとめると、

敦が以前あずけてきた紙袋のなかに私宛ての手紙あったということ。

私は受け取って開いた。


村瀬 へ

ごめんな。これを読んでる村瀬の横には俺はいないと思います。

でも、どうにかしてあの桜木を切るか燃やすかしなきゃいけない。

これ以上古い伝説に付き合ってはいられない。

楓を助けに行ってきます。


意味がわからなかった。

古い伝説ってなに?

楓くんを助ける?


とりあえず、神社に走った。


夕焼けと暗がりが頭上を過ぎ去ろうとしていた。


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