第7話
暗い。暗い、暗い。真っ暗な世界だった。どこまでも暗く、一体どこからどこまで世界が広がっているのかすらわからなかった。
とてつもなく広いような気もするし、手を伸ばせば端に届く狭さかも知れない。
優は上下左右も分からない世界でただひとり漂っていた。
眠っているような、目が覚めているような、夢うつつの状態に似ていた。ああ、これは睡眠薬で頭がぼんやりしてるのに似ている。優は思った。時間の感覚も分からない。一体いつからここにいるのかすらもう分からない。そもそもここには時間の流れなどあるのだろうか。覚めない夢を見ているかのようだ。
この気の遠くなるような世界がまさに魔界なのか。ここから出る方法というのはないのだろうか?
どこを見ても暗い空間が広がっているだけで、何も見えない。出口などありそうもない。
仮に出口があったとしてもここから出られるのかすら分からない。足を動かそうとしても動いているのか分からないし、手を動かしても何も触れない。そもそも今両足は地面に立っているのかすら分からない。
ふと優は、今自分は生きているのか、死んでいるのか? という疑問を抱いた。もし死んで死の国があるとしたらこんな感じなのだろうか? いや死の国ならば、ほかの死者もいるはずだ。ここだけ特別な世界なのだ。
そうか妖魔たちはこの魔界にずっと閉じ込められていたのだな。そして人間や神々に怒りを募らせていたのだな。今頃妖魔たちは人間や神と戦っているのだろうか。
妖魔という言葉で、りりりのことを思い出した。彼女はどうなったのだろう。自分の身代わりになって死んでしまったのだろうか? 彼女が見せたあの目は一体なんだったのだろう。心が通いあった瞬間だったように思うのは自分だけなのだろうか。
「死にたい」
しばらくすると優はその言葉しか出てこなくなってきた。しかし死ぬことはできなかった。死への渇望が強まるほどに、実現できない現実に落胆することしかできなかった。ここには薬もなければ、飛び降りる場所もなければ、首を吊ることもできない。手首を切ることも舌を噛み切ることもできない。
生きることも、死ぬこともできない。
そういえば、あの石板はどうなったろう? 優はふと思い出した。
誰かあの石板を使って自分を呼び出してはくれないだろうか? そして自分を殺してくれないだろうか?
優はそう願うようになっていった。
もし。もし、りりりが生きていて、彼女が自分を呼び出したらどうなるだろう? その時はあの目が合った時のことを聞こう。その時が来るまで、この魔界で夢うつつでいよう。
眠ることも起きることもできない、つらいこの真っ暗な世界で。
妖魔紀行譚(ようまきこうたん) 真風玉葉(まかぜたまは) @nekopoku
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