エミと葵3

ホーム構内にアナウンスが鳴り響く。


「間も無く6番線に11時28分発 381号岡山行きが到着します…」


「あの、こんにちは。葵区マンさんですよね?私今日のイベントに付き添いする葵と申します。よろしくお願いします」


緊張気味に声をかけたがありさの声は半分以上アナウンスによって掻き消された。


騒音やアナウンスによって掻き消された『葵区マン』が『悪魔』と聞こえたのか初めてありさの存在に気付きエミは振り返った。


ありさの顔と全身をマジマジと見つめる。


コートから出て見えている細い足首と手首、触覚かと思えるような両頬を伝う長い黒髪、パッチリとした目にふっくらとした下唇。


「モキュキュイーン!!!」


エミの目が一瞬パトライトのようにクルッと回った。回る瞬間ハートの形になったようにも見える。エミ自身は音が鳴ったことにそれほど違和感がない。人間にしてみたら軽く咳払いでもした程度なのだ。


ありさは去年一時バイトしていたパチンコ屋さんの店内を思い出した。まるでパチンコの大当たりが確定した時のよーな音が聞こえたからだ。エミから鳴ったとは思わなかったので少しだけキョロキョロしたがとくに気にしなかった。エミの返事を待った。


エミはありさに萌えた。


「え?え!?これが秋葉原の女の子!?星で勉強してたのとは違う!なんだろう、このもっとこの子を見ていたい気持ち……これが本場の萌え?」


エミは自分の星で見ていた資料との差に戸惑い、慌てて周りを見回してみたがありさ程萌える女の子は見当たらない。『静岡』と書いてある看板を見つけ、両脇に名古屋、東京と矢印が出ていたのでここは秋葉原では無い事を知った。


何かブツブツ言ってるエミを見てありさは少し無礼な人だと感じムッとしたが望の顔をツブすわけにも行かないので作り笑い。


着ぐるみのせいで言葉も聞き取りにくいんだと自分に言い聞かせて、挨拶の時にホームに入ってきた新幹線に乗らなければいけないのもわかっていたので焦ったフリをしてエミを新幹線に乗るように促した。


「あ、これですね。この新幹線に乗らなきゃです。」


発車までまだ少し時間の余裕もあるがまるで今すぐ乗らなければ間に合わないかのように。





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