風流で粋な終活年賀状

11月末になると、喪中はがきが届き始めます。

年が明けると、高齢の知人・親族から『終活年賀状』が届きます。


新年の挨拶の後「本年をもちまして年始のごあいさつを失礼させていただきます」という一文が書き添えられた年賀状の終了宣言です。


昔、妹の舅(妹の夫の父親)から初めて受け取った時「これは区切りがついて良いアイデアだ」と思ったものです。


私が短大生の頃に国語の授業を受けた先生へ、毎年年賀状を書いてきました。先生からも「年賀状ありがとう」から始まる返事の賀状が届きます。

私が四十歳過ぎた頃のこと、先生からの年賀状がいつもと違っていました。

初めて短歌が書かれています。

万年筆のいかにも書き慣れた達筆の上、連綿の草書。

もうお手上げです。読めません。

しかし、これで年賀状は終わりにするんだな、と直感しました。

やはり、翌年から届くことはありませんでした。

先生もその時はよわい七十を越えていらしたでしょうか。あるいは病を得ていらしたかもしれません。後になって想像することです。


別れの歌だったに違いありません。

とても風流で、粋な計らい。

終活年賀状のようにハッキリと明言せず、相手に悟って貰うやり方。


今にして真似したいと思い、さんざん探しましたが見当たりません。先生の賀状を惜しげもなく処分していた様で残念です。

当時の私は、幼稚園、小学校、中学校に通う三人の子供をかかえ、てんてこ舞い。

子育てに重きを置く生活でしたから、年賀状は毎年機械的に更新を繰り返す作業でしかありませんでした。

浅はかな私です。


いったいどんな三十一文字みそひともじだったのか。後悔するばかりです。



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