第6話 ゴールドフィッシュ

ネコ族のネイチャとミャウが山道を歩いている。

「これからお姉ちゃんが盗賊について教えてあげるからね」

「お姉ちゃんじゃなくて師匠なのにゃ」

「昨日はガンツの奴が試合に勝って良かったにゃ。はっ、敵にゃ」

「あの・・・ミャウ・・」

「なんにゃ?」

「あの三人のお金を盗んだ奴のことをどう思う?」

ネイチャが探りを入れる。

「あいつらは敵にゃ。でもお金を取った奴を見つけたらこの爪で八つ裂きにするにゃ」

ミャウの爪が鋭く光った。

「あはははは・・・そうだよね」

「コソ泥は許しておかないにゃ」

「うわぁー・・・とても本当のことを言える状況じゃないな・・・・」

道の横を小川が流れている。ちらほらと魚影が見える。

ネイチャの目が光る。

「ミャウ、そろそろ朝ごはんにするよ」

「にゃっ」

「競争するにゃ」

「ふっ、お姉ちゃんを甘く見るのも大概にすることね」

「時間は5分、獲れた数が多い方が勝ち。ただし食べるサイズ以下の物を獲ったら減点とします」

「ちっさいのはダメにゃのか」

「大きく育ってから頂くのがネコ族のポリシーだから」

ネイチャが人さし指を振って応える。

「むう、燃えるにゃ」

「スタート」

ネイチャがカバンから取り出した砂時計を置いた。

二人はまるで獣のようなスピードで小川に飛び込むと、爪で魚を引っ掛け始めた。岸には魚がバタバタと落ちて行った。

「猫ザムライの歌ぁぁぁ」

「猫の侍、猫の侍、猫の侍・・・」

「猫の歌ぁぁぁ」

「猫の暮らしはよぉぉぉ」

やかましい猫姉妹の歌が山に響く。

「結果発表します」

「わくわくするにゃ」

「ミャウ31匹、ネイチャ32匹でした」

「ミャウゥゥゥゥ・・・やっぱお姉ちゃんには敵わないにゃ」

「まさかこんなに追い詰められるなんて・・・1匹なんて誤差・・・侮れない」

河原の平らな岩をテーブルにして二人は魚をさばき始める。

「今食べられる分だけ食べて、後は干物にするよ。塩は持っている?」

「トヨタ印のセル塩を持っているにゃ」

「なっ、なんだって。あの超高級品の塩を。なんでまた」

「腹空かして困っているおっさんを助けたらくれたんにゃ」

「ミャウはいろんな所でいい事しているんだなあ。えらいなあ」

「それほどでもないにゃあ」

「でも、そんな高級品で干物を作るのは気が引けるわね。あたしの持っている超普及品携帯岩塩でいいかな」

「その塩はアユとか獲った時に使おうね」

「お姉ちゃん、アユってうまいにょか?」

「あたしなんてアユの味を想像しただけでぐにゃぐにゃ・・・・」

ネイチャがぐにゃぐにゃになっていく。

「そういえばミャウはフグを食べたことがあったにゃ。あんまり美味しくなかったからそう言ったら、ミャウはおいしいフグ食べたことがないんだろって言われたにゃ」

ミャウが悔し涙を流して肩を震わせている。

「実はわたしもフグは一度しか食べたことがない。味があんまりしなかった。ミャウと同じことを言ったら酒場の連中が大声出して笑いやがってよぉ」

ネイチャの両目から滝のような涙

「ニャッ、お姉ちゃんもなのか」

「ああ、あたしはあの時誓ったね。世界一美味しいフグとやらをたらふく食ってやるんだってね」

渋く決めるネイチャとそれを羨望の眼差しで見つめるミャウ。

「お姉ちゃん、獲った魚の中に一匹金色の奴がいるにゃ」

「ふーん、お姉ちゃんも知らない魚だね。もしかしたら価値がある魚かもしれないから。携帯水槽に入れて町で見てもらおうか」

「お宝だったらいいにゃー」


小規模な町に入った。雑貨屋、酒場兼食堂、武器屋、防具屋などが並んでいる。なかなか活発な町のようだ。

「ミャウ、盗賊の第一は情報だ。それとなく町の声を集めて来な。待ち合わせは。ここの雑貨屋の前にしようか」

「あい、師匠」

ミャウは町の人混みの中に紛れて行った。

「さて、あたしも情報仕入れとこの魚のことでも聞いてみるか」


「ゴールドフィッシュ?!・・・・」

雑貨屋の主人が驚いている何か知っているようだ。

「へえ、こいつの名前はゴールドフィッシュっていうのかい。ちったあ価値があるもんなのかい?」

「そんなことも知らねえで持ち込んで来たのかい。こいつはいいカモだ。う

まいこと言って二束三文で巻き上げてやれ」

「おっさん、途中から心の声がだだ漏れになっていたぞ」

「こんなのはただの金色の魚です。大したことないです。凄く嫌だけど私が買い取りましょう。なんて親切なんだろう(棒読み)」

「おっさん、手の内ばれても強引に切り込んで来たね。いいぜ。世の中粘りや往生際の悪さって必要さ。で、いくらで買うつもりだい?」

「5000ギャラ・・・いや、もとい50ギャラですけどばい」

「5000ギャラの物を50ギャラで手に入れようっていうのかよ」

ネイチャが雑貨屋の主人に詰め寄った。

「ううううう・・・・なんで悪いこと考えると口に出してしまうんだろう」

その時、雑貨屋の扉が開いた。

「師匠、町の中央の大きな家の庭をのぞいたら、これと同じ魚の大きいのが泳いでいたにゃ。そこの家の人にミャウ達が川で一匹捕まえて持っているって言ったら、ぜひ欲しい、手付金だって言って1万ギャラくれたにゃ」

「ぶほっ!!!」

「おっさん、売り手まで確保済みってわけかい。なかなかやるね。しかし、1万ギャラのものを50ギャラとは濡れ手に粟もいい所だね」

「ちっくしょー!!!!おいらのバカヤロー。うまく巻きあげたら一年は遊んで暮せたのにぃ」

雑貨屋主人は大荒れである。

「師匠、早く魚を買ってくれる人の所に行くにゃ」

「まっ、待ってくれ。その魚私が買おう。ギリギリのところで150ギャラでどうだろうか?」

「何言ってるんにゃ、この人は?」

ミャウが不思議がる。

「既に1万ギャラの手付金をもらっているんだから売れる訳ないにゃ」

「そこを何とかよろしくお頼み申し上げ奉りまするうぅ」

真っ青な顔をして髪を振り乱して哀願する主人。

「師匠、なんか怖いにゃ」

ネイチャは黙ってことの成行きを見ている。

「実は、私の今年三歳になる息子がとても重い病気のなのです。そして1万ギャラの薬を飲めば直るとお医者様から言われたのです。もう一度、元気な息子とピクニックに行ってみたい・・・・もちろん図々しいお願いなのはわかっています。それでもなんでも、この雑貨店経営では1万ギャラの薬など望む術もございません」

そういうと主人は目頭を押さえた。

「その子の名前はなんていうのにゃ」

「マイケルです。マイケール」

雑貨屋内は主人の独り舞台だった。

「お、お姉ちゃん・・・」

その時雑貨屋の扉が開いた。

「呼んだかい?父さん」

扉を開けて入ってきたのは青年だった。

「マイケルは三歳じゃないにょか?」

「私は26歳ですよ」

「父さん、旅の人をだましてお金を巻き上げるのは違法だって、この間保安官から注意されたばかりだろう。この店だって普通にやっていればそこそこ儲かるんだし、馬鹿なことは止めてくれよな」

「すいません、父が迷惑をおかけしました。お詫びにこの店の商品を全て一割引きにしますから許してください」

青年は深深と頭を下げた。

「えっ、全部ウソだったのにゃ?ええええ」

「いいえ、妹の勉強になった。助かった。涙を流して作り話をして平然と人をだます人間がいるというのを教えるのはなかなか難しいからね」

「ほーら、見ろ。マイケル。この人だってタメになったって言っているじゃないか。感謝されたんだぞ」

「反面教師としてね」

マイケルはぴしゃりと言った。


ネイチャ達は町の中央のお屋敷に到着した。

庭の池には何匹かのゴールドフィッシュが泳いでいた。ネイチャの持っているものと比べたら桁違いに大きいサイズだった。

「これにゃ」

ミャウが屋敷の主人オーバンに簡易水槽の魚を見せた。

「ふむ、ゴールドフィッシュの幼魚に間違いない」

「追金の1万ギャラを渡そう」

「ありがとうにゃ」

「ありがとうございました。オーバンさんちょっと聞いていいですか、この魚の大きい奴の価値はどれくらいなんでしょうか?」

「うーん、あのキンカブトが1000万ギャラだったかな。まあ金持ちの趣味みたいなもんだ」

「1000万ゴクリ・・・・」

「ああ、盗んでも金にするのは難しいよ。ゴールドフィシュは柄とか登録されているし盗品取引に関わると次回から魚を売ってもらえなくなるんだよ」

「盗もうなんてそんな・・・」

「あれ」

オーバン氏が指さす先でミャウが池に入って魚を獲ろうとしていた。

「やめっ、やめろ。ミャウ」

「まあ、また川で見つけたら同じ値段で買うよ。私は育てて売ってもいるんでね。幼魚飼育はこずかい稼ぎみたいなもんさ」


2万ギャラを手に入れホクホクでオーバン氏の元を去る二人。

「しかし、魚に1000万ギャラとか値が付くんだな知らなかった」

「あの魚おいしいのかにゃ?」

「ミャウ、その意見には私も賛成だが、やはり見つけたらあのオーバン氏に買ってもらった方が得だな。2万ギャラあったらうまいものがたらふく食べられるぞ」

「でも、お姉ちゃん・・・フグより美味しいかもしれませんにょ」

ミャウがネイチャのトラウマを突いた・・・・

「確かに・・・フグが高いって言ってもせいぜい1000ギャラ。なのにあんなにちっこいのに2万ギャラ・・・」

「よしっ、今度川で捕まえたら二人して食べてみよう」

「はいにゃ」

猫にかつぶしモード突入。二人の眼はキラキラと輝いていた。

「都市伝説のうまいものを食うとほっぺが落ちるを体験することになるかもしれんな」

「にゃ、師匠。そんなことが本当にあるのきゃ?」

「ミャウ、世の中は不思議なことでいっぱいなんだよ」


居酒屋兼食堂「ダブリン」で食事をとることにした。

「ミャウ、お金がいっぱいあるから贅沢しようぜ」

「おねぇ・・・師匠は太っ腹にゃ」

メニューを見ている二人。そこに3人組が入ってきた。どうやらローズ達と同じトライアルツアーの者らしい。

「スーチー、順調に進んでいるのかしら私達」

「アクアちゃん、大丈夫よ。この調子でいけば後一週間くらいで目的地に到着といった感じかしら」

「しかし、旅費が3000ギャラで決められているっていうのが辛いとこですね。これで3カ月近くを旅しろって言うんだもんね。宿は最低の所、食事も最低限じゃやってられないですわ」

「アイスちゃんは夏が苦手ですものね」

「そうよ、いつもの夏は別荘で避暑していますわ」

アイスがフウとため息をつくとスターダストが広がった。


「ローズ達と同じようだな」

「この人たちは三人女なのにゃ」

「で、ミャウ。注文は決まったかい」

「ミャウは焼き魚定食にメロンソーダを頼むにゃ」

「おっ、一品増やしてきたね。お姉ちゃんはメロンソーダにアイスを追加するよ」

「あう、ミャウも真似してアイス追加にゃ」

「まあ、旅は長いし、これでいいか。すいませーん」


「あの猫族。二人して定食頼んでいる。あたしらはラーメンかチャーハンの二択なのに。きぃぃぃぃ、くやしいわ。猫に負けるなんて」

「アクアちゃん、旅に出てから性格がいやしくなったね」

「うっさい、たまには味噌汁と漬物なんかの一品が欲しいんじゃ」

「ラーメンは汁と一体だし、メンマを漬物に見立てれば何とか・・」

「スーチー・・・幸せ回路全開ね」

「わたしだって、パッフェとか食べたいです。超甘党のわたしが氷砂糖舐めてんですよ。冗談じゃないですわよ」

ついにスーチーが切れた。

「ぎゃい、ぎゃい」

「二人ともうるさい」

アイスがスーチーとアクアを睨みつけると二人が凍った。本当に固まった。

「しばらくそうしていなさい」


「師匠、あの人たちに奢ってあげようか?」

「よしなよ。変な同情は返って怒りを招くことになるよ。ほっとけばいいのさ」

「そうなのかにゃ。ローズ達なら喜びそうだがニャ」

「みんな素直にできていればいいけどな。プライドとか色々あるからな」

「あんまりじろじろ見るな。さっさと食べちゃおうぜ」


「私には冷やし中華をこの二人はラーメンをお願いします。」

アイスが良く通る澄んだ声でオーダーをした。

「あの猫、ローズとか言ってなかった?」

「言ってた、言ってた。どこかで知り合ったのかもしれないわね」

「ちょっと探り入れてくる」

つかつかとアクアがネイチャ達のテーブルに向かった。

「ちょっといいかしら?」

「なんにゃ?」

「ちょっと、あなた達の話を小耳にはさんだのだけど、ローズって言っていなかったかしら」

「ローズは旅の途中で知り合った黒魔導士のことにゃ」

「ああ、やっぱり。あたしローズの親友(ウソ)なんだけど、どんな感じだったかしら」

「ローズの親友なのか。ローズ達はお金無くして旅の行程が遅れているようにゃ。でも、この間、隣り町の格闘技大会で優勝していたから、大丈夫だと思うにゃ」

ミャウは何だが自分のことのように誇らしげに語った。

「格闘技?あー、ガンツの奴が出たんだな。あいつなら負ける訳ないもの」

「ガンツ様・・・ああガンツ様のことでしたら私にも聞かせてください」

アイスがガンツという言葉に反応して駆け寄ってきた。

「ガンツなんてどこがいいんだよ。あたしはランスの方が好きだぜ」

「たわけ者がっ!!ガンツ様の良さがわからないなんて。この私が教育して差し上げても良くってよ」

アイスとアクアの間に険悪な空気が流れる。

「アクアちゃん、嘘言うのは止めて。ローズちゃんと親友なのは私じゃないの。あなたはいつも嫌がらせばかりしていたじゃないの」

スーチー参戦

「ローズなんてお譲様は大嫌いなんだよ。ふん」

「嘘ついたのか・・・・ガルルルル」

ミャウ参戦

「おまえらこんな所で喧嘩すんなよ。他のお客さんの注目浴びているだろ」

ネイチャが仲裁に入った。

「とりあえず飯が来たから食べろ。腹減っているからイライラしてんだ」

何故か同じテーブルで昼御飯を食べることになった。

「すみません。それでガンツ様は圧倒的な勝利でしたの?」

アイスが早々に冷やし中華を食べきるとミャウに質問した。

「序盤は楽勝だったけど、決勝戦では苦戦したにゃ」

「ガンツ様が苦戦・・・・」

「対戦相手はその大会の9回連続優勝者なのにゃ。ガンツと打撃戦をしないで寝技に持ち込んできたにゃ」

「卑怯者ですわね。そいつ。おまけに寝技なんていやらしい・・・」

アイスの顔が赤くなった。

「そっちの寝技じゃねえよ。いやらしいのはお前じゃないか」

アクアが茶々を入れる。

「アクア、私にそんな口をきいてただで済むと思っているの?」

アイスの目が怖い・・・・

「で、ガンツさんは苦戦したけど勝ったのね」

スーチーが二人を無視して話を進める。

「苦戦したけど私とローズとカーズの三人でお色気ポーズで応援したら、サクッて勝ったんにゃ。にゃふふふーん」

ミャウが自慢げに鼻息を出す。

「カーズ?聞かない名前ですわね。何者ですの?」

「カーズ・ダイヤは巨人族の女にゃ。ガンツの婚約者とかいってたにゃ」

「・・・こんにゃくしゃ」

アイスの白い顔が青に変わった。

「おねえさん、安心するにゃ。カーズという女が勝手に言っているだけにゃ」

「ほっぉおおおおおおーーー」

アイスの深いため息。スターダストが店内に広がる。

「猫ちゃん、情報は正確に伝えてちょうだいね」

「いきなり現れて、自分で言い出したから、最初は信じてしまったにゃ」

「なんて図々しい女でしょう。ゆるせませんわ」

アイスの顔が青から赤に変わった。

「おねえさん、ガンツのこと大好きなんにゃね」

「いいえ、大好きなんて言葉では言い表せません」

「つまりそれほどなんにゃね」

「そういわれれば」

「そんなことよりランスはどうしたんだ」

「そんなこと?」

アイスがキッと睨んだ。

「ランスは白魔導士だから格闘は無しにゃ。町の人に無償で治療を施していたにゃ」

「ふーん、騎士様がねぇ・・・」

「騎士になるには白魔法は必須なのよ。オヤジさんから剣術は学べても魔法となるとそうはいかないからね」

「剣を使うと修行がダメになるとか言って、絶対に剣は抜かなかったにゃ」

「ねね、ローズちゃんは元気だった?」

「ローズは隣町の祭りの日に焼き芋焼いていたにゃ。結構繁盛していたにゃ」

「あははは・・・私達が良く山に行ってやっていたことだわ。私がイモを掘り出して、ローズちゃんが焼くの。よくやってたなあ」

「早く家に帰りたい・・・」

スーチーが泣き出した。

「ばっか、スーチーなに泣いてんだよ。もう旅は半分は終わっているんだから、家に帰るのももう少しの我慢だろうが」

「それにこのトライアルツアーを投げ出すとまた来年やることになるんだぜ」

「そうですわスーチーさん。この炎天下延々と旅を続けてきてせっかくここまで来たのですもの、立派にやり遂げて帰りましょう」

三人が肩を抱き合って円陣を組んだ。

「ファイト・オォォー」

「実は仲がいいんだニャ」

ミャウは何か安心した思いだった。

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