第4話 格闘大会
格闘技大会会場
「赤コーナー、対するは巨人族のガンツ・ディーゼル」
ガンツの名乗りが行われている。ざわざわとあいつ巨人族かよ、などと騒がれている。
「青コーナー、巨漢、馬鹿力持ちのヘル・シーンク」
ガンツの相手は体重身長が1.5倍は違った。体重制では手合い違いも甚だしい状況だった。そしてけが人も続出しており主催者の言っていたこともあながち嘘ではなかった。
青コーナーのヘルがガンツの腕の防御篭手にクレームを付けている。あれでは打撃が効きにくくなると主張しているようだ。
「ばか・・・引っかかりやがったな」
ローズがにやりと笑った。
「ローズ、あれってガンツの力を封印している篭手ではなかったのか?」
「そう、あれは日常生活を送るのに必要な装備なのよ。攻撃力が3倍に跳ね上がるわよ」
「殺したりしないでしょうね。いくら格闘技大会といっても殺人はちょっと」
「そうね、血みどろとかシャレになんないわね。ちょっと加減するように言ってく
る」ローズはリングサイドに走って行った。
「ガンツ・・・手加減して。殺しちゃだめよ」
「お姉ちゃん、俺のこと心配してくれんのかい?いくら巨人族でもこんなガキ
相手に手加減してもらう必要はねえぜ」
「えっ、でも・・・ほんとヤバい」
「うっせー!!なめんじゃねえ。殺すぞ!こらっ!!」
ヘルが大声で怒鳴った。
「おおっと、エキサイティングしています。ヘル選手。赤コーナーのセコンドの女子を罵倒しております」
ブー、ブー、お客さんがヘル選手の態度に不満を表明しています。
「いけませんねぇ、向こう正面のババさん」
「向こう正面ってどこだよ。まあ巨人族絶対の定説を崩せるかっていうのが、この試合の見所だね。少年とはいえ巨人族の力は通常の倍以上あるしね」
試合開始のゴングが鳴った。
「へっ、巨人族って皆ビビりすぎなんだよ。こんなガキ一捻りだぜ」
「青い顔してビビってんのか?」
ガンツは最初から顔色が良くなかった。
「ミャウに嫌われたのが自分のせいだと思っているのだろう」
「みんなゲラゲラ笑って楽しかったのに、なんでそんなこと思うんだろうね」
「小さい時から一人でいたせいで自分に自信がないのかもしれません」
「私の父様がガンツを預かった時に、私がガンツの姉宣言したのがまずかったのか・・な」
「いじめたりしたのですか」
「そんなことするわけないだろ。ただでさえ巨人族ってことで人目を引くのに、
あいつは大人しいから、馬鹿どもがからかいに来たのさ。そんで馬鹿どもを蹴散ら
して、ガンツにはあたしが付いているんだって言ってやったんだ」
「あははは・・ローズらしい。小さいくせにすぐに突っ込んでいく」
「身体の大きい小さいは関係ないでしょ」
「そのときは結局、皆にボコボコされたんじゃなかったですか?」
「ど、どうしてそれを・・・・」
「私の父がそれを見ていて、いたく感動して、散々話を聞かされましたから」
「曰く、勝ち負けが行動の前にあってはならない。ローズ殿のようにならなければ
ならんてね」
「私はどうも勝てない戦を躊躇すると言われて大変でした。勝ち負けは行動の後についてくる。勝てると踏んで勝つなど最低な行為であるとかなんとか」
「おおっーと、ヘル選手の回し蹴りが決まったぁぁぁぁ」
「おいおい、ガンツ負ける気か?」
「巨人族らしくさっさとやっつけちまえ」
「俺の夕飯がかかってんだぞ。ちくそー!!」
観客が口々に罵声を浴びせる。
「ガンツは優しい奴なんだ。力を使えば勝つのがわかってんのに使わねえんだ」
ローズはガンツの性格を知っていた。
ヘル選手は肩で息をしている。まだ3分も戦っていないのにだ。理由は簡単だった、ヘル選手の全力技が全てヒットしているのに、ガンツは疲労の色もなかったからだ。
「人間を相手にしている気がしねえ・・・こいつは化けもんだ・・・・」
「ガンツ!!フィニッシュ!!」
ローズが叫ぶ。
ガンツが左ストレートを出しかに見えたが、会場にいたほとんどの人間には見えなかった。ヘル選手はアゴを高速で突かれ、脳震盪でダウン。きっと彼も何をされたのかさえ分からなかったことだろう。
やっかいなのはレフリーにも分からなかったことだ。
「スリップダウン??????」
「レフリー!!相手は白眼むいちゃっているよ。もう起きてこないよ」
ローズが叫んだ。レフリーが確認するとその通りで、なんだか納得しないまま
ガンツの判定勝ちとなった。
「おいっ、いま何があったんだ?」
「わかんね、いきなり倒れたぞい」
「左ストレート一閃・・・撫でるように顎をかすったのさ」
大きな女がボソッと言った。巨人族の女だった。
「こんな所でお仲間に会うなんてうれしいねぇ」
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