第3話 うそつき

ローズ達一行は町に滞在していた。旅費をなくしてしまったせいで、町でちょ

っとした仕事をして旅費を稼ぎながら旅を続けなければならなかったのだ。

「結構大きな町だわねぇ。どこか人の集まる所で何かやってみる?」

「いや、私は白魔導士の修行も兼ねて病人を見て回りますよ」

「それってお金にならないじゃん」

「そうです。白魔法でお金を稼ぐのはご法度です」

「スーパーイリュージョンとかいって、病人を治したらどうかしら」

「あいにく重病の人を治せるほどの法力はありません」

「ガンツ、力仕事とかないの?」

ガンツが無言でポスターを指差した。

「んー、格闘技大会飛び入り歓迎!!賞金1000ギャラ」

「ガンツ、バババーンとなぎ倒してお金を稼いで来なさい。そうしなさい」

「しかし、巨人族にはハンデがつきものなんだよな。もしくは出場不可」

「ハンデけっこうじゃない。200キロぐらいの岩石背負って戦いなさいよ」

「無茶苦茶いうなよ。ローズ。相手だって格闘技経験者だぞ。凹られて終わり

さ」

「・・・・・そういえばミャウはどこ行ったの?」

「お姉ちゃん探してくるって走って行ったよ」

その頃ミャウは姉のネイチャと合流していた。

「良かったにゃ、村からずっと一人ぼっちだったから心細かったにゃ」

「でも途中からローズ達と一緒だったから楽しかったにゃ」

「誰なのローズって?」

「旅をしている三人組にゃ。クリスタル王国の仕来たりの三人旅にゃ」

「ああ、子供達だけで三人旅をして無事目的を達成して帰ってくれば大人とし

て認められるってやつね」

「ということはその三人組は大金を持っていそうね」

「ローズ達は旅の初日に有り金盗まれたって言っていたにゃ」

「あはははははは・・・・間抜けすぎね。初日に盗まれるって最低でも三月

以上かかろうかっていう旅なのにね」

「ネコ族に盗られたって言っていたから、言ってやったにゃ。ネコ族は盗賊だ

けどお金持ちからしか盗まない義賊なんだってにゃ」

「そっ、そうよね。ミャウ。私達は盗賊にプライド持っているからね・・

「お姉ちゃん、なんか汗が凄いにゃ」

ネイチャはここのところ稼ぎが悪くてコソ泥みたいなことばかりしていた。

妹の手前そんなことは知られるわけにはいかない。

「ローズ達はバカで間抜けだけどいい人なのにゃ。一緒に猫の歌を歌ってくれたにゃ。魚も取れない半人前だけどにゃ。にゃはははは」

「そうにゃ、ローズ達にお姉ちゃんを紹介するにゃ。ミャウのこと心配してく

れていたから喜んでくれるにゃ」

(まずい・・・きっと私が金を盗んだ奴らだ。ミャウにバレたら立場がないぞ。

なんとかしないと・・・)

「そんなことより、ミャウ大切なことを話します。私達ネコ族は基本的に群れ

にならないの。それぞれが独立採算でやっているのよ。だから大人になった

私は村を離れたのよ」

「一人は寂しいにゃ・・・」

ミャウの顔が曇る。耳もペタンとなった。

「仕方がないの。ネコ族の掟なのよ。無論大きな仕事とかで人数が必要な時はあるけど、基本的に一人で行動するものなの」

「ミュウ・・・・」

「掟よ。ミャウ。あんたも猫族なのだから掟に従いなさい」

「・・・・」

「でも、3日間だったけどローズ達と馬鹿言ったりしながら旅したのは凄く楽し

かったのに」

「わかったにゃ。掟に従うにゃ」

(説得成功・・・あとはミャウがそいつらと付き合えないようにしないとね)

ネイチャは耳をぴんと立ててニンマリと笑った。悪い姉である。



「ええっ?巨人族なのかい。そっちの兄ちゃんは」

「格闘技大会に出場させてもらえませんか・・・」

「うーん、確かにこの町はここいらじゃ一番大きな町だけどなあ・・ちょっと

待ってな」

格闘技大会の主催者に問い合わせしてもらったところ、子供なのでハンデなしで良いとのことだった。

「えーと・・・1000ギャラもらっていいんですか?」

「あはははは・・・兄ちゃん。いくらなんだって優勝は無理だろ。この大会は

大人も出るし、体重差別もないんだぜ。兄ちゃんがいくら巨人族だって言っ

ても、この大会では小さい方だぞ。まあ、ベスト10まで残ったら150ギャラ

出るからよ。で、出場料金100ギャラな」

「うごっ・・・・100ギャラ・・・」

ガンツの顔が真っ青になった・・・

「おじさん・・・5ギャラに負からないだろうか」

「兄ちゃん、てんご言うたらあかんで」(意 冗談言ったらだめだよ)

おっさんが凄味の利いた声と眼で睨んだ。

「毎回ケガ人続出なんだぜ。この金額には応急治療費も込みなんだ。負かったりしないぜ」

「と、いうわけなのだ」

ガンツはがっかり報告をローズにした。

「むう・・・私のポケットには10ギャラしかないのだ」

「どうしたのですか。浮かない顔をして」

「白魔導士様のおでましだよ」

ローズか不貞腐れたように言った。

「実は・・」

ガンツが事情を説明する。

「なるほど、だったら私が用立てしましょう」

「お金の話だよ。パンツにでもお金を縫い込んで来たとかいうんじゃないでし

ょうね」

「私が治療を施したおじいさんが頑固者で、どうしても治療費を出すって聞か

ないんですよ。それを出場金にすればよろしい」

「いいの、お金もらって?」

「頑固爺さんが、私がお金を取らなきゃ殺すっていう勢いだったので仕方がないでしょ」

「どんな治療をしたのよ」

「ぎっくり腰の治療ですよ。完治までとはいかなかったけど、だいぶん楽になった

ようですよ」

「いいなあ白魔法は皆に感謝されて。私の火球なんか普段は焼きイモくらいしか役に立たない・・・」


「さあ、寄ってらっしゃい。ローズ印のヤキイモだよ。魔法で焼いているので

遠赤焙煎も真っ青っていう代物だぁ。おいしいうよぉ」

ランスのお金でイモを仕入れてローズが焼いて、イモは飛ぶように売れた。

生イモをその場で焼いて見せるパフォーマンスが効いたのか、格闘技大会の

おやつとして売れたのか定かでないが、あっという間に300ギャラになった。

「ヤキイモちょうだいにゃ」

ニコニコしてネコ族の少女が立っていた。

「あれっ、ミャウじゃないか」

「あうっ・・・ローズ・・・」

「ミャウだったらお代はいらないよ。一番大きいイモを持っていくといいわ」

「そんなことはできないにゃ、ローズ達とは絶交にゃ!!てゆーか敵にゃ」

「えええ・・・この短時間に何があったの。ネコの歌、歌ったら親友だって言

っていたじゃないの」

「あれはウソにゃ・・・大ウソにゃ」

「そうだ、お姉ちゃんは見つかったの?」

「そうそう、お姉ちゃんとは会えたにゃ」ミャウの顔が明るくなった。

「うおっ、良かったな。ミャウ」

「私もうれしいですよ」

「よかったねえ、ミャウ・・・」ローズが涙ぐんだ。

「ローズも・・・ローズのお姉ちゃんに会えるといいにゃ・・」

「はっ、敵にゃ!!今度からどこかで会っても話しかけたらだめにゃ」

「敵だったら、敵なんにゃ。もう仲良くしちゃいけないんにゃ」

「何か事情があるようですが・・・」

ランスがミャウの異常な態度に何かを感じたようだが、ミャウの剣幕に何も言

えなくなってしまったようだ。

「では、ローズ。ミャウ殿にお礼とお別れの挨拶をしましょう」

「あっ、そうね。ミャウはお姉ちゃんに会えて旅の目的が終わったんだからね」

「あう、なにか俺が怒らせるようなことをしたのだろうか・・・」

バカで小心で心優しいガンツは自分を責め始めた。

「・・・・・ミュウ」

ミャウの耳がペタンと折れて、今にも泣き出しそうだった。

「ミャウ、あなたが私達を敵って思うのは悲しいけど、私はミャウが焼いてく

れた焼き魚の味は一生忘れないわ。ありがとう」

「ミャウ殿、あなたの情けがなければ私は飢え死にしていただろう。ローズと

色々考えを巡らせてくれたことに感謝する。今、敵であるとしても私の力が

必要とあらばいつでも声をかけてくだされ。山を三つ超えてでも助っ人に参

上いたす所存。しかと心得られよ。」

「俺、うまく言えないけど・・・ミャウのこと仲間だと思っている。この旅に

出て、お前といた3日間が一番楽しかった。いつか俺のことを許してくれる

なら、また一緒に旅に出よう」

「・・・・ミュウ・・・アジガド・・・」

ミャウが泣き出した。ミャウは皆に背を向けるとトボトボと歩きだした。

「ミャウ・・・誰かに何か言われたのか・・・」

ガンツの言葉をランスが遮り耳元で囁いた。

「大好きな姉に言われたのでしょう・・・察して上げなさい」

「うぉ・・・・うううう」


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