第2話 ネコ族 ミャウ

「猫の暮らしはよぉーー♪」

猫族が川で歌いながら魚を獲っている。

泳いでいる魚を爪で引っ掛けて岸に放っている。

「うーん、今日はこんなもんで勘弁してやるにゃ」

独り言を言って額の汗をぬぐうと、今度は岸にある枝を拾い集め始めた。

川で魚を追いかけているローズ達。バシャバシャと水しぶきを上げながら

魚を追いかけまわしているが全く捕まえられない。

「ガンツ、そっちに行ったわよ」

「うおおお」

魚はガンツの股の間からするりと逃げた。

「んっ、もう。なにやってんのよ」

「ランス、腰の剣は飾り物なの?そいつでチャッチャと魚を獲ってよ」

「わがルーガン家の誇りであるこの剣を魚獲りに使えと?」

「誇りもなにも私達3日間ご飯食べていないのよ。そんなもの捨てなさい」

ローズ達の鼻腔をくすぐる匂い。魚の塩焼きの匂いだ。

「猫の暮らしはよぉー♪実はここまでしか知らないにゃ。にゃははは」

「猫のお譲さん・・・そのお魚を分けていただくわけにはいかないでしょうか」

ローズがヨロヨロと猫族の娘に近づいて言った。

「にゃ?お腹空いているのにゃ」

「はい・・ぐるるるる」

「困っている時はお互いさまにゃ」

猫娘は焼けた魚を差し出した。残っていた魚に枝で踊り刺しを始めた。

「ありがとう。実は旅の途中でお金を盗まれて・・もう3日間も食べていないの」ローズはムシャムシャと貪るように食べていた。

「あの人たちはいいのかにゃ?」

「ランスはプライドが服着てるみたいな男だからダメなの」

「あっちの大きい人は」

「あいつは巨人族で8時間の休養に入っているから大丈夫。てか起きない」

「私の名前はローズ。ローズ・クリスタル。黒魔導士の修行中なの」

「あっちのプライド馬鹿はランス。ランス・ルーガン。あいつは白魔導士」

「あの大きい奴がガンツ。ガンツ・D」

「私は猫族のミャウ。真名は教えると支配されるから言うなってお姉ちゃんに言われているから教えられないにゃ」

ランスは頑として食べ物を口にしなかった。自分は物乞いではないという。

もし、それで死んでもそれは自分の運命だという。

「うーん、じゃあこうしましょう」

「どうするにゃ」

「あの馬鹿に食べさすには仕事の報酬として食べさすのが説得しやすいから、私達をミャウが雇ってちょうだい」

「わかったにゃ。頑固者は大変だにゃ」

「というわけよ。私達この猫族のミャウに雇われた。仕事内容はこの河原で一晩警護をすること。火も絶やさないでちょうだい。その代わり報酬として魚の塩焼きをもらえるということでどうかしら」

「うむ、背に腹は代えられん。いただくとしよう」

ローズとミャウが顔を見合わせた。

「もっと薪を拾ってくるにゃ。キャンプファイヤーみたいにするにゃ」

ミャウはオレンジ色の川岸を走って行った。

「ローズ。旅に出る時に父上殿から説明を受けたのだが覚えているか」

「夜は町の宿に泊まること」

「夜の闇はモンスターの力を倍加する。昼間に襲ってこなかったモンスターも夜になると襲ってくる。だから絶対野宿はするなと言っていたわね」

「それがどうだ。旅の初日を除いて野宿連発ではないか」

「じゃ、スタート地点に戻って、お金盗られちゃった。テヘペロって言うの」

「御免こうむる。大体そんなこと言ったら騎士の家系の我が一族の恥とかいって父上殿がどんなことになるか」

「あんたんとこのお父さん。厳しいもんね」

「ローズの所だって大変だろう」

「魔法を封じられて座敷牢に閉じ込められるのは覚悟しないと」

「私の父様、お姉様があんなことになったから、特別に厳しくなっちゃったのよ」

「私も期待されていた兄があんなことになったのだから、父上殿が取り乱すのも当然と言えば当然なのだが」

「ガンツはいずれ巨人族に合流するのかしら。クリスタル国の戦士長になってくれれば百人力なのだけど」

「薪を拾ってきたにゃ」

両手いっぱいに薪を抱えたミャウの背後に巨大カニがついてきていた。

「うおっ、ミャウ。ビックキャンサ(オオガニ)」ローズは飛び上がる。

「こいつはさっき雇ったにゃ。でっかい薪を鋏でちょん切ってもらったにゃ」

「これは約束の魚にゃ。生が良ければこっちをあげるにゃ」

カニはモクモクと食べているが、ローズ達に警戒心は解いていない。

「さあ、どんどん薪をくべるにゃ。火が大きくなって明るくなるとモンスターも寄ってこなくなるにゃ」

一人で旅をしているらしいミャウは野宿の心得を持っていた。

「わたしはなあ、お姉ちゃんを捜しているにゃあ。私達が住んでいた村に災害があって皆散りじりになっちゃたんにゃ」

「ちょうど、お姉ちゃんが旅に出ていたから、寄りそうな所を探して回ってい

るんにゃ」

「今日は久しぶりにたくさんの人と一緒だからうれしいにゃ」

「うれしい夜は長く続くといいにゃあ」

ニャウは眠ってしまった。夜の闇が降りてきて辺りは漆黒になった。

「じゃ、順番で歩哨に立つわよ。一時間したら起こして。緊急時は叩き起こしていいわよ」

ローズは2分で眠りについた。ガンツは巨人族特有の休眠状態に入っている。動物の冬眠に近い。こんな状態の時に敵に襲われればひとたまりもないだろう。無理やり起こせないことないが、バーサク状態になるので敵味方なく、力加減もなく暴れまわるので「寝ている巨人は起すな」という諺があるくらいだ。昔、ローズが試してみようってやって、腕を折られた経験がある。その時は城の兵が100人かがりで止められなかったというけど、ローズは気絶していたため覚えていない。

「むーん、黒魔導士と戦士がお休みですか。歩哨が白魔導士とは頼りないもんですね」

火が小さくなってきたので、薪をくべていると何かがそばにやってきた。

「やはり、水辺はダメですね。できればゴースト系なら白魔法も有効なのですが・・・」

目を凝らすとユラユラと揺れている。

「魔法学院で習った奴ですね。下級ゴーストのテラーって奴ですか」

「白魔導士による初戦闘ですね。いっちょやりますか」

テラーの攻撃 ワカメの様な身体をぶつけてくる。

「あらあら、結構効きますね」

まずは防御魔法と

「シールド」(防御力が10ポイント上昇します。)

初級魔法のシールドは詠唱なしで唱えられますね。

テラーの攻撃 毒霧噴射

「毒消し・・毒消し・・」

テラーの攻撃

ビシッ、ビシッ・・・

「なんでこっちの攻撃は一回なのにあんたらは二回何ですかね」

なんか攻撃しないと。

「ケアー!!」

回復魔法はアンデット系には攻撃魔法として有効である。

これも初期魔法なので詠唱なしで唱えられる。

「きぇぇぇぇあああ」

「効いているのでしょうか、モンスは表情からダメージわかりませんね」

「いけない毒消し忘れていた」

テラーの攻撃

ビシッ、ビシッ・・

「ケアー!!」

「きぇぇぇぇあああ」

剣を使うか・・・白魔導士の修行とはいえここで負けるわけにはいかない。

聖剣だからこんな雑魚モンスターは一振りでやっつけられる。

テラーの攻撃

ビシッ、ビシッ・・・

どうしてこんなに早く体力が無くなるんだろう。そうだ毒か効いているんだ。

「くっそ・・」

「ケアー!!」

「ぎぃええええええええ」

テラーは消滅した。

「デ、デトックス」

ランスの毒は浄化された。

「ふう・・・白魔導士の闘いは勝手が違いますね」


「午前0時00分 ローズ二等兵 歩哨に立つ」

「うわぁ・・不気味な静けさだよね。川も真っ黒で墨汁が流れているみたい」

闇はローズの独り言も吸い込み食べてしまうようだった。

「隣の家に囲いができたってね」

「へい」

「・・・・馬鹿なこと言ってたら余計に心細くなっちゃった」

ローズの肩に触れるものがあった。

「やーね、ランス脅かそうとしたってそうはいかない・・・」

ランスは焚火のそばで口を開けて眠っている。

「わ、わかった。ガンツね。悪戯すんの止めてよ」

ガンツの影が焚火の向こうに見える。

「ミャウでしょ、お姉さんこういう冗談あんま好きじゃないの。おしっこ出ちゃう」

猫娘も焚火のそばで寝ていた。

恐る恐る振り返ると骸骨(アンデットボーンズ)のモンスターだった。

「ぎゃあああああああああ」静かな山に絶叫が木霊する。

骸骨のモンスの方が驚いている。

「かっかかかかかか」

「ファイア!!ファイア!!ファイア!!ファイア!!ファイア!!」

ローズの打ち出した火球がロケット花火のように闇を切り裂く。

「ランス、交代の時間よ」

「ローズどうしたんだ。凄い顔しているぞ」

「うっさい、寝不足はお肌の大敵なんだ」

コテンとローズが横になった。


「そうか、浄化魔法で陣幕を張ればよかったんですね。忘れてました」

ランスは魔導書を開いて浄化魔法の一節を一読した。

「大地の聖霊よ・・・・川面の妖精・・・月の光の守護と共に我らを守りたま

え・・・」

「浄化のカーテン」

焚火を中心に金色の光のカーテンが展開された。

「強力な奴でなければ入ってこれないでしょ」

「綺麗だにゃー。オーロラみたいにゃ」

「起こしてしまいましたか。これは失礼しました」

「おにいさん、魔法使いなんにゃね」

「駆け出しの白魔導士ですがね」

「ミャウはお姉ちゃんと同じシーフ(盗賊)をめざすにゃ。でも魔法使いもかっこいいにゃ・・悩むにゃん」

「そろそろ夜が明けるにゃ、みんなのご飯取ってくるにゃ」

ミャウは朝もやの中、川岸に走って行った。

ガンツも休眠状態から覚めた。皆で川で顔を洗っている。朝靄の風景。

モンスターたちの気配もなくなった。

石のテーブルの上の魚と野菜がジュウジュウと焼け、味噌の香りと漂っている。

「これはにゃんにゃん焼きにゃ」

「ちゃんちゃん焼き?」

「にゃんにゃん焼き?ちゃんにゃん焼き?にゃんちゃん焼き?」

「あそこの大きいお兄さんのためにシャケを獲ってきたにゃ」

ニャウは自慢げに言った。

「さあさあ、みんなで食べるにゃ」

「食べる前に猫神様に歌を捧げるにゃ・・・みんなミャウについて歌うにゃ」

「猫の暮らしはよぉー♪」

「猫の暮らしはよぉー♪」「猫の暮らしはよぉー♪」「猫の暮らしはよぉー♪」

「・・・ここまでしか知らないにゃ」

「えっ?」「えっ?」「えっ?」

「いただきにゃす」

「いただきにゃす」「いただきにゃす」「いただきにゃす」

「そこまで真似しないでいいにゃ・・にゃはははは」

「うお、うまいよ。生きていてよかったよ。ローズ」

「おいしいね。ミャウに感謝しなきゃね」

「ミャウ殿・・・かたじけない」

「かたじけにゃいってなんにゃ?何かの呪文にゃ」

「ランス、堅い堅い。ありがとにゃんて、猫の真似しながら」

「・・・・ありがと・・・できん。自分はだめな人間だ・・・」

「真面目な人をからかっちゃいけないにゃん」

次の町に向けて出発。

「ローズ、次の町までご一緒していいですか」

「いいよ」

「うはっ、レッゴー」

「次の町でお姉ちゃんに会えるといいね」

「はいにゃ」

「お姉ちゃんの名前はネイチャー。有名な盗賊なんにゃ」

「へえ、猫族の素早さって凄いんでしょうね」

「回避能力は抜群にゃ」

ローズ達の有り金を盗んだのがこのネイチャーだとはローズ達もミャウも

知らない。初夏の日差しが木々の葉を照らして輝いていた。

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