クリスタルアイズ

@kawasakiz900rs

第1話 旅立ち

旅の初日に金品を盗まれる。宿代を踏み倒すわけにもいかず、(凄く人のいいおばあちゃんだから)ローズ達は町で大道芸をする。しかし、小銭しか貯まらず、町の仕事のモンスター退治に手を出すことになった。

「ほぇー、100ギャラだってこれだけあれば、宿代払って少し残るよ」

「ローズ聞きなさい。50ギャラを×して100ギャラになっているだろ。ということは難易度がうんと高いということだ」

「生息地が山の洞窟と書いてあるから、入口から燻せば、イチコロじゃない」

「ガンツに言って岩で入り口を塞いじゃって餓死させるという手もあるわ」

「餓死って・・・非人道的すぎるんじゃ」

気の優しいガンツが口を挟む。

「こんな凄いモンスターとまともにやったら、私達子供軍団に勝てる見込みないわ。それとも、宿代踏み倒してトンずらしようっていうの?」

「いいこと、ガンツ、人の良い宿屋のおばあさんを裏切って、逃げるってことの方がよっぽど非人道的でしょ」

「それにこのモンスターは町の人がみんな困っているのよ。それをどんな手段で倒そうと、感謝されこそすれ、非難されることなんてないはずよ」

「お譲ちゃん。餓死じゃ賞金は出せねえな」

酒場兼雑貨屋のマスターが言った。

「なんでよ、村人がこいつの恐怖から解放されるのよ」

ローズが懸賞金のポスターを指さして言う。

「死亡を確認できない限り金は出せねえ」

「あくまでも北方領土は四島返還ということね」

「二島なんかじゃ、ダメだ。てゆーかカラフトも返せ」

「間宮海峡がだな・・・・」

「ご主人、わかりました。このモンスターの死をもって懸賞金が支払われると

いうことですね」

ランスが前に出て言った。

「おうよ」

「私たちにはそんなに時間がない。いつまでもここに留まるわけにもいかない」

「何か策があるってゆうの」

ローズは心配そうに聞いた。魔法学校で学んだとは言え、実戦は初めてなのだ。

自分の黒魔法が効かないことも十分ありうる。

「おいおい、ちょかい出して、怒らせて町に乱入とかは勘弁してくれよな」

ローズの表情から何かを読み取ったのかマスターが口を出した。

「ご心配なく。そのようなことにはなりません」

居酒屋兼雑貨屋を出た一行は山の洞窟に向かっていた。

「ローズ。さっきのモンスター退治の件だが、確かにおかしいところがある」

「さっき、ローズが言ったとおり、閉じ込めてしまえば実質、町人に危害は与

えられないから、問題ないはずだ」

「それなのになんで死体を確認しなければならないかというと」

「というと」

「死体マニアだから」

ランスはローズに軽蔑の眼差しを向ける。

「違うぞ。ローズ。もしかしたら山の洞窟にはモンスターはいないんじゃないかと思う。何かを隠すためにそんな噂を流して、洞窟に人が近づかないようにした」

「だから入り口を塞がれたら困る」

ガンツが言った。

「そう、大事なお宝が取り出せなくなるからな」

ガンツはローズを得意げに見た。

「ぐっ、ガンツのくせに」

「じゃあ、どうするのさ」

「私達がモンスター退治に行くといった以上、居酒屋のマスターは洞窟に行かざるを得ない」

「ふむふむ」

「で、そこで交渉するのさ」

「口止め料として100ギャラくださいってね」

「ひつもん」

「なんだ、ローズ」

「もし、本当にモンスターがいたらどうするんですか。スゲーのが」

「そんときは穴を塞ぐ」

「えっ、それじゃお金もらえないんじゃ」

「だいじょうぶだよ。岩をどけてくれって、マスターが俺達に頼んでくるさ」

「町の連中は、怪物を閉じ込めた岩なんて、どかすの手伝わないだろ」

「そうしたら、報酬として100ギャラもらうさ」

「町を荒すモンスターといって貴金属を奪っていくとうのは解せない。なんでそんなものを取っていくんだ」

「さて、困った」

洞窟の周辺には洞窟を塞ぐような岩はなかったのだ。

「あんた馬鹿でしょ、ばーか、ばーか」

ローズがランスを囃し立てる。

「もともと、ローズが言ってた計画では」

ガンツがぼそっと呟いた。

「うごっ」

「そそそそ、それはそうかもしれないけど、モンスターがいたら岩で塞げないじゃないの」

ランスは洞窟の中に向かって叫んだ。

「おーい、今から火を焚くぞ。すぐにモンスターの燻製が出来上がるぞ」

耳を澄ませてみても何も聞こえない。

「あの、外にご飯食べに行っているということはあるまいか」

ガンツが呑気なことを言っている。

「ローズ殿、火球魔法を披露してもらえないでしょうか」

ランスが慇懃にローズに頭を下げた。

「くっ、それしか使えないこと知っているくせに」

「もし、中に凄いのがいて飛び出してきても知らないから」

「飛び出してきたら、ガンツがぶん殴ってくれ」

「うお?」

「ローズ、全力禁止だ。山が壊れるかもしれない」

「わかってるわよ。力加減ができればやっているわよ」

「ファイア!!」

火球が洞窟の奥にふっ飛んでいく。

洞窟の奥が明るくなった。

「あっちちちちちちちっ」

誰かか飛び出してきた。

居酒屋のマスターだった。

「ご名答でございます」

ローズとガンツがランスを称えて拍手する。

「まあ、抑えて、抑えて」

ランスも自分の読みにまんざらでもない様子だ。

「マスター、で、この後始末はどうしましょうか」

「ううう、俺が村人から金品を盗んでいたと皆に言うつもりか・・・」

「さて、私たちは旅の者です。明日にはここを立ちたいと思っています。しか

し、昨日我々の旅費が盗まれまして、ちと困っております」

「宿屋のばあちゃんに迷惑はかけられんねえ」

「ちと、待って・・・私たちのお金を盗んだのはもしかしたら、こいつじゃないか」

「うおっ?」

ローズとガンツが殺すモードに突入。眼の色が変わった。

「ちょっ、ちょっと待った。確か侵入したのは猫族のようだったぞ」

「壁を水平に移動していたし、並みじゃない運動力から猫族でしょうけど・・」

「俺は知らねえ・・・俺じゃねえ」

かぶりを振るマスター。

「金か、金で話がつくなら話が早い。いくら欲しいんだ」

「ひゃ、1万ギャラよ」

「ローズ、吹っかけすぎです。私たちが盗まれたお金だって3千ギャラでしょ」

ランスが小声でローズに囁いた。

「1万か、安いもんだ。」

マスターがひょいと投げてよこした。

「ばかっ、こんなに簡単にくれるんだったら、10万とかいっときゃよかったのよ。この小心者!!」

「小心者とはなんだ。小心者とは!!」

「うぉっ、100万ギャラ」

「えっ?」「えっ?」ローズとランスがガンツを見た。

「こいつに1万ギャラ、こいつに10万ギャラ、俺様に100万ギャラ」

「100万ギャラ・・・ですか」

「ナイスよガンツ。相手の弱った心の隙間に入り込んでズイズイと勢力拡大し

ようというのね」

さすがにマスターが青ざめている。

「・・・やばい・・かな」

「窮鼠猫を咬むってやつですよ」

マスターは立ち上がると洞窟の中に入って行った。

「ガンツ、ダメよ。駆け引きっていうのは押し引きなんだから。押してばかりいたらだめよ。マスターすっかりビビっちゃったじゃない」

「ローズ、さっきナイスって言った」

「ばばばば、馬鹿ね。どうしよう、ランスこのままトンズラする?」

「うーん、予定の100倍は稼いだので良しとするというのも手ですが・・・どうやら、ことはそう簡単にいきそうもありませんよ」

マスターが洞窟からモンスターを連れて出てきたのだ。

「モンスターがいるっていうのはまんざら嘘じゃねえ。ただ、こいつは力はあ

るが悪さはしねえ。大人しい奴さ。でもよ、弱みを握って脅してやりゃあ、こ

のとおりよ」

マスターの後ろにいるのは大猿のモンスターだった。あの賞金首の手配書の

モンスターに間違いない。

「100万ギャラだ?いくらなんでも吹っかけすぎだ。お兄ちゃん。おいらが

平和主義者で穏便に話をつけようって思っていたのに。そりゃ聞けねえや」

「魔サル、お前の子供の居場所が知りてえなら、おいらの言うことを聞くんだ。さっさと助けにいかねえと、死んじまうことになるぜ。かわいそうだろ」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

魔サルの雄叫びで、森の木々が震えている。飛び立つ鳥だち。

「ランス、ガンツ、今の話聞いた?」

「許せませんな」

「許せん」

「あっう・・・今回の旅は白魔導士としての修行の旅・・・腰の剣は使えません」

ランスが歯ぎしりをしながら言った。

「さっさとやっちまえ。魔サル」

「うごぉぉぉぉぉぉ」

魔サルの体当たり。ガンツが正面から受け止める。

「ウソだろ・・・魔サルの体当たりで吹き飛ばないだと」

「ガンツ、そいつは止めるだけにして。傷つけたりしないでね」

「うおっ」

「さあ、どうしようかしら。あなたの切り札は使い物にならないわよ」

「お前のようなチビ女に何ができる?」

マスターが鼻で笑った。

「あらあら、うふふふ」

ビターン・・・・マスターがローズの頬を張った。吹っ飛ぶローズ。

「おら、そっちのお前はどうした。白魔導士だか何だか知らねえが、腰ぬけめ。おまえにも一発食らわしてやる」

マスターが左右のパンチを繰り出すも、全て空を切った。目測を誤るような距

離ではないのにかすりもしなかったのだ。

「今の技は白魔導士のものではないが、人を傷つけるものではないではないで許されるでしょう」

「謝って許しを乞うなら今のうちですよ。そこの女子は黒魔導士です。あなた

に殴られて吹っ飛ばされましたが、魔法詠唱中ですよ」

「なにっ?」

「しかも、魔法院で覚えたての強力な奴です。うまく制御できなければ、この

洞窟はおろか山ごと吹き飛びますよ」

「はったりだ、こんなチビに何ができるって言うんだ」

「火に油ですな」

ランスはため息をつくとガンツをみた。

「そっちはどうですか」

「ううう」魔さると力比べの真っ最中のガンツ

「ローズ、だめ。殺すと子供の行方わかんなくなる」

ローズはトランス状態

精神を炎の神まで飛ばしている。

「こんにちは。弟子のローズです。ご無沙汰しています」

「おう、よう来た。ローズ」

「炎の神様におかれましてはご健勝のことと、お喜び申し上げます」

「まあまあ、堅い挨拶は抜きじゃ」

「そう?あのさあ親方さあ。ちょっと聞いてよ」

「柔らかすぎじゃ!!」

「実はかくかくしかじか」

「私のことを馬鹿にするならまだしも、親方のことをクソ爺だって」

「ほう、わしをクソ爺呼ばわりする輩がおるのか」

「ゆるせんと親方の名誉のために戦いを挑んだら張り倒されて・・・」

ローズ嘘泣きする。「すんすんすん」

「で、親方の力を借りて超強力な奴で懲らしめてやろうと思ったんです」

「わかった。なんかハラワタぐらぐらしてきたから、わしが直接行こうかな」

「いえいえ、それには及びませぬ」

ローズは炎の神の書棚を漁っている。

「わが弟子ローズよ。この魔法で懲らしめなさい」

炎神が魔術書をローズに渡した。

ローズが魔術書を開くとそこに封印されていた力が入りこんでいった。

びょんと飛び跳ねるとローズが右手を前にして構えた。

「お待たせでした。凄いの仕入れてきました」

「お、脅したってな。魔サルの子供の居場所は死んでも言わねえ」

「ぐぎぎぎぎぎ・・・」

ローズが歯ぎしりをする。

「さあ、魔サルこいつらを全員やっつけちまえ」

「がるるるる」

魔サルはどうしていいかわからない。

「ローズ、俺こいつの首を引っ張る」

「そうね、抜けない程度にね」

ガンツがマスターの頭をわしづかみにするとグイグイと引っ張り始めた。

「ぐがががが・・・・抜ける、ほんとに抜けちまう」

「言う気になった?」

「ばーか、ばーか、今ので完全に言う気がなくなった」

「魔サル、あんたもこいつの言いなりになってないで、死なない程度に殺しな

さい」

「うごっ?」

「いいこと思いつきました。半殺しにした所で、私の回復魔法で元気にして

また、最初からというのはどうでしょうか。回復魔法使ってんだし白魔導士の

規則に反していないよね」

ランスがにこやかに提案した。

「発想は悪魔なんだけどね」

「では、最新魔法のお披露目といきますか」

ローズの右手の上の火球がどんどん大きくなっていく。

「で、どうすんの無間地獄の旅に出発すんの?」

「人でなし、ひきょう者、そんなことして楽しいのか。このどぐされどもが」

「あああっ?」

ローズの火球が3メートルほどに膨らんだ。

ガンツが石斧を蝿叩きのように振り回している。ひゅん、ひゅん。

「半殺しですよ。殺しちゃだめですよ。私、まだ蘇生の魔法習得してませんから」

「はい、何なりと聞いてくださいまし」

マスターは正座して話し始めた。


魔サルの子供は無事だった。魔サルは脅されたとはいえ、村人に迷惑をかけたことを恥じ、これからは村を守ることを約束した。

一夜明けて、盗まれた金品は村人に返された。ローズ達のもらった1万ギャラも当然返した。

「あんた達には世話になった。これは少ねえがお礼だ。受け取ってくんな」

「泥棒の上前はねるなんて良い気がしないでしょ」

ローズはランスに耳打ちをした。

「失礼な。僕は初めからこうするつもりでしたよ」

「また、またあー」

「失敬な、我が家は名門ですぞ。決してそのようにことは・・・」

村人からもらった100ギャラはなんだか誇らしかった。

「さっそく宿屋のおばちゃんにお金を払わないと」

ローズ達は宿屋に向かった。

「あなた達が取り返してくれた盗品の中に、とても大事なものが入っていたんよ」

おばちゃんの見せてくれたものは古びた櫛だった。

「こんな古臭い物大事にしてるのも照れくさいんだけど・・・死んだ旦那が

くれた大切な宝物なんだよ」

「それは良かった。」

「宿代なんていいよ。お金では買えないものを取り返してくれたんだ」

「いや、しかし」

「若いもんが遠慮するもんじゃないよ。あんた達だって盗人にお金を取られち

ゃったんだしさ。そのお金は大切にしな」

「これから長い旅になるんだろ。また、ここに寄ることがあったら。私の宿に

泊っとくれ。ごちそうを用意するよ」

「おうっ、おうっ」ガンツが泣き出した。

「大男のくせに大声あげて泣くんじゃないよ。みっともない」

「ほら行くよ」

「それでは失礼します」

「おばちゃん、また必ずここに戻るから」

「うおうお・・・」

ローズ達一行は北の大地に向かい歩き出した。夜は魔物が支配する世界。

日の明るいうちに次の町までたどり着かないといけない。旅はまだ始まったばかりである。

寸評

長文をお読みいただいて感謝です。

時間があれば挿絵入れます。

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