第21話

 「…リョウ…!起きろ…!」

 「…」

 体が重い。目を開けるとミズキが顔を覗き込んで呼びかけていた。

 「…起きろぉ…!起きろ!」

 意識がはっきりしてくる。重い身体を無理やり起こす。重いというか、これは力が入らないのだ。

 「く…」

 よく見るとミズキは額や腕、足から血を流していて片腕を押さえていた。

 「真国…!?その怪我…」

 「あたしの心配より…早くっ!…行くわよ!」

 周りを見渡すと、そこには先程までの公園はなかった。木々は燃え、フェンスは原形を留めておらず、地面には所々に穴や黒い焦げ跡が残っていた。そして、ミズキの後ろにはヤマトが倒れており、さらにその後ろには戦闘ヘリがいびつな形になって墜落していた。

 「高岡!?これは…。ソラノは!?…ソラノはどうしたんだよ!」

 「だから早く!行くのよォ!」

 ミズキが声を嗄らしながら叫んだ。ミズキはよろけながらも立ち上がる。そして、リョウの胸ぐらを掴み、無理やり起こす。

 「まだそんなに時間も経ってない!間に合う!だから!」

 ミズキはリョウを引っ張って走り出した。鮮血が地面に落ちる。

 「…何があった…」

 リョウも動かない身体を無理矢理動かして走り出す。

 「雷姫に連れて行かれた!ソラノがリミッターを解除して、雷姫の力を発現できなくした…。一斉にかかったのに…あいつは生きてた。そのあとはあのあり様よ…勝てるとか勝てないとかの問題じゃなかった!最後にあんたを殺そうとして、ソラノは身代わりになったのよ!」

 ミズキは声を振り絞り泣くように言う。

 「…なんで…」

 リョウがそう言った瞬間、ミズキは立ち止まり、リョウをギリギリまで引き寄せて叫んだ。

 「アンタが大切だったからよ!!!あの子はね…。奪命のアプリエイターなのよ!自分の意思に関係なくエネルギーを奪う最強で最悪のナノマシンの持ち主!」

 「…奪命…」

 「あの子は生まれた瞬間に自分の母親の全てを奪った…。幼いときに力が暴走して周りの大人たちと研究者だった父親の命も奪った!あの子はね!生まれたときから心から安心して、人に触れることが出来なかったのよ!」

 ミズキの目には涙が溢れていた。

 「そんな中で、稲葉リョウ!アンタが現れた!アンタは初めてソラノと本当の意味で触れ合えたのよ!だからねェ!あの子はアンタを大切に!大切にしたかったのよ!失いたくなかったのよォ!」

 今までのリョウを巻き込まないように、頑なに離れようとしていたソラノの姿が浮かぶ。

 「あの子の手を握れるのは!稲葉リョウ!アンタだけなのよ!」

 ミズキは乱暴に涙を拭く。ソラノを泣かせた自分を本気で殴りたかった。

 再び走り出すと二人が走る先に、何かが落ちている。

 「ソラノの…」

 それはピンクの靴だった。ソラノは嬉しそうに今日も履いていた。

 ミズキはそれを手に取る。そして、小さく震えだした。

 「ソー…ら…」

 ミズキは力が抜け、しゃがみ込む。涙が止めどなく流れていた。

 「そぉ…らぁ…」

 「真国…」

 呼びかけるが、ミズキはもう自分にはどうもできなくなっているのだろう。精神力だけでここまで来ていたのだろう。靴を見てそれが崩れてしまったのだろう。泣きじゃくって靴を握りしめる。

 「真国!」

 「う…うぅ…」

 「ミズキ!」

 リョウはしゃがみ、肩を掴んで叫んだ。

 「…!」

 ミズキがピクリと肩を震わす。

 「俺もあいつが大切だ。俺を大切に想ってくれる人を俺は大切にしたい…。ここで終わりにしたくない。絶対にここで納得しないっ」

 ミズキは真っ赤な目でリョウを見上げた。

 「お前は身体がもたないだろ…戻って高岡たちを…リンさんにも連絡を取ってくれ」

 「…あんたは…?」

 「俺はもう大丈夫だ。絶対にソラノを助ける!」

 リョウは立ち上がり、拳を握りしめた。身体に電流が流れ、軽くなっていく。

 「ソラノ…」

 「稲葉…リョぉ…」

 「連れて戻ってくるから!絶対に!」

 駆け出す。そして、加速。リョウは一気に森の先を目指す。さらに加速を身体にかけて駆け抜ける。

 ミズキは手を組んで祈った。

 「お願いします…」

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