第20話
「キャハハハハハハハッ!誰お前ぇ!?邪魔しないでくれるぅ?!」
今までの可愛さが弾け飛び、甲高い笑い声が響く。先ほどまでとは打って変わって鋭い目でミズキを睨む。
ミズキはミョルニルのジェット噴出口を地面に向けた。
「稲葉リョウ!!離れなさい!」
リョウは後ずさる。エールはニヤついた口のままリョウを一瞥するが、ミズキの方を見た。
「お前ってぇ…!」
点火。
ミョルニルから爆音とともに煙が立ち込める。
「言うなァァァァァ!」
爆発。
ハンマーのジェットが一気に放出される。さながらミサイルのようにミズキは跳ぶ。高速で放物線を描き、エールへ。
エールはそのまま逃げもしない。ただ笑っている。そして、ハンマーが直撃――――
―――しなかった。エールの数十センチ手前で、薄いガラスのような壁が生まれていて、それにハンマーを叩きつけているかたちになり、ミズキが浮いている。ジェットも点火したままである。壁が受け止めているのだ。
「キャハハハハハハハッ!!!お前、いきなり何なの?失礼じゃない?自己紹介しなさいよ!自己紹介ィっ!」
「っくぅ!」
ジェットをフルスロットルへ。空間を震わす轟音。ジェットの炎はミズキの身体の数倍の大きさになっていて、本当に隕石がエールに落ちているように見える。周りの一般人も流石に逃げてしまった。
「お前って…言うなぁ!」
ミズキは明確な殺意を持った目で数十センチ先のエールを見る。
すると、エールは鼻で笑った。そして口を大きく開く。
「あぁ…お前って言われるのが嫌いなんだ…。キャハッ!じゃあ言ってやるよ!お前ッ!お前ッ!お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前オマエオマエェェェェェェ!キャハハハハハハッ!」
その瞬間、甲高い金属同士が当たる音がし、それと同時にミズキが弾き飛ばされる。
「真国!」
ミズキは十数メートル近く飛ばされ、風に弄ばれる人形の様に転げたあと、受け身をとる。
リョウはミズキのもとへ走った。
「真国ぃぃぃ!」
ミズキは少しよろけながらも立ち上がり、リョウを睨みつける。
「早く、逃げなさい…。あんたじゃ敵わないわ…」
ミズキの口調はいつものそれとは違っていた。
「あいつ…雷姫か…」
リョウも薄々わかっていた。そうであって欲しくなかった。
「リョウちゃん!なんでそっち行くのぉ!?そっちのお前女が仕掛けてきたんだよ?」
エールがゆっくりこちらに歩いてくる。悲劇的な雰囲気でセリフを吐いていたが、その顔は全く正反対で、ニヤついていた。そして、一瞬、身体を電流が迸ったのが見えた。
「そうよ…」
ミズキはハンマーを下段で構える。
「お前って言った回数殺す!」
ミズキは走り、エールに接近。下段から打ち上げるようにジェットを点火。
「お前もういい…」
エールは蠅でも払うような動作。
今度は一瞬でハンマーが弾かれる。そして
「がぁっ!」
エールが流れるようにミズキの首を掴んだ。
「ビリビリしびれちゃおうか!キャハッ!」
エールが大きく口を開けて笑った。その笑顔からは恐怖しか生まれない。ミズキに電流を流すつもりだ。
「やめろぉ!」
リョウは拳を握りしめ加速。一気に接近し、ミズキを引き剥がしにかかった。
「キャハッ!リョウちゃん!速いね!でもね!姫はそれのやり方!すぐわかっちゃたんだよ!今度参考にするね!」
そう言うや否やエールはミズキから手を離し、リョウに抱きついた。
今だっ。そう思った。
「…!アアァァァァァっ!」
リョウが放電。二人に電流が流れる。
「アハハハハッ!くすぐったいよぉ!気持ちい」
エールは笑顔のままリョウを見つめる。電撃をまともに浴びて何も感じていないエールに恐怖にますます恐怖を覚えた。しばらくすると限界がやってきてリョウは放電をやめる。
「そんな…。はぁ…はぁ…」
「当たり前だよぉ!姫は雷姫だよ?電撃なんか効くわけないじゃん…?じゃあ、今度は姫の番ね!」
エールはそのまま、リョウをさらに抱きしめ放電。
「わあぁぁぁぁぁ!」
リョウは悲鳴を上げる。
「そっかぁ…リョウちゃん、耐性はあるけど痛いんだねぇ…、蓄電もしてないねぇ、ただ流れてる感じ…。なんか不思議な感じ。キャハハハッ!」
背後からミズキがハンマーを持って飛びかかる。
「放せェェェェ!」
「お前、黙れっ」
電撃が一筋エールから離れ、ミズキに直撃する。
「キャアァァァァァァ!」
ミズキは悲鳴を上げ、手に持っていたハンマーは小さく爆発する。ミズキはその場に崩れ落ちた。
「雷姫っ!」
「…?」
エールは放電をやめる。
そこにはソラノが立っていた。肩で息をしている。騒ぎを聞きつけ走ってきたのだろう、その表情は何とも言えない気迫というか、怒気に満ちていた。
「ソラノ…なんで…」
リョウが途切れ途切れに言い、その場に崩れた。
「キャハッ!やっぱ居たんだ?」
「…」
「ソー…ラー…なんで…逃げなかったの…」
ミズキがかすれた声で言う。ソラノはミズキの傍へ駆け寄る。
「リョウとミズキが殺されてまで生きたいと思わない…」
「馬鹿…。ヤ、ヤマトは…」
「雪羽たちを避難させてる…。大丈夫…応援も呼んでる…」
エールはしゃがみこみ、倒れたリョウの頭を持ち上げて膝に乗せた。
「やだなぁ、ソーラーノーム…殺さないよぉ…?リョウちゃんはね…キャハッ!」
エールが手をかざす。その手からミズキへ向かって電撃が一直線に伸びた。
「ミズキ!」
ソラノは手を伸ばして電撃を手の平で受け止めた。電撃はソラノの身体を流れるわけでなく、手の平で消えていった。
「おぉ~流石、
エールはリョウの頭を撫でる。リョウの意識は辛うじてあったがもう身体が動かなかった。
「リョウとミズキは関係ない…私だけ連れて行けばいい!」
「今まで逃げ回ってたあなたが急にどうしたのよ…?わかった…。あ、ちょっと待って」
そう言うと、エールは自分の耳に手を当てた。通信が入ったようだ。
「姫だけど…。ん?リョウちゃんとは会ったわよ…。今膝の上…ふふ…」
エールが話しているうちにミズキが立ち上がる。
「ミズキ…大丈夫か?」
ソラノは怯えた小動物のように震えていた。
「馬鹿…あたしがそう簡単に死ぬわけないでしょぉ?」
ミズキは無理やり笑って見せた。
「…ごめん…、でも…」
「あたしたちはソーラーの為に戦ってるんだから!」
ミズキもヤマトに通信をかける。
「ヤマト?どこ?」
『こちらヤマト、森だ。雷姫が見える位置に来ている』
「流石、仕事が早いわね」
『お前の方は大丈夫なのか?』
「お前って言うな…」
『まだ大丈夫そうだな』
「ま、ギリギリね…」
『逃げられそうか?』
エールの方を見ると、しっかりと目だけはこちらを向いていた。
「無理でしょうね…あいつ、ヘラヘラしてるけど腐ってもプロね…隙がない。そっちは撃てる?」
『いつでも』
「撃って」
『了解』
その返事と同時に構えていたアグニを発砲。
エールの周囲に壁が瞬時に発生、大口径弾が音を立てて弾かれた。
エールは何事もなかったように通信を続けながら銃弾が飛んできた森の方へ指を差す。
「あぁ…邪魔が入ったのよ…今は戦闘中。うん」
エールの指先に電流が集中していく。エネルギーの流れをホークアイを通して見ることが出来るミズキは咄嗟に叫ぶ。
「ヤマト!さが―――」
強烈な光と轟音。エールの指先から極太の電撃が一直線に森の奥へと進んだ。
爆発。
「ヤマト!ヤマト!?」
ミズキが呼びかける。耳には何かが燃えたり倒れる音しか聞こえない。
『大丈夫…だ。ギリで避けた…。破片がかすったけどな…』
「よかった…。さぁ、どうする…。稲葉リョウもあれだし…」
エールはリョウの頭を優しく地面に置いて、立ち上がった。
「うん、リョウちゃんの血ぐらい採取しとく…?いいの?わかった、じゃあ今日はソーラーノームを連れて行くわね」
エールはまるで友達との電話だったように通信を終える。
「お待たせ。今日はソーラーノームだけ連れて帰るわ」
そう言うとエールは、リョウに手をかざして電撃を放った。リョウは悲鳴すらあげず、小さく痙攣した。
「リョウ!」
ソラノは今にも飛び出しそうになるのをミズキが止めた。
「ソーラー!ダメ!」
「大丈夫大丈夫。気絶しただけだから…。あんまりやると死ぬかもね…。ソーラーノームさん…行きましょ?」
エールは抑揚もつけずに言う。
「ソーラー、行かなくていい。あたし達の最優先はソーラーなんだから…」
ミズキはソラノの前に立ってそう言った。
「別に来ないなら無理矢理だけど、いいの?そのSPさん一瞬で終わるわよ?」
「…みんなには手を出すな」
「姫も無駄に人は殺したくないわよぉ。大人しく行きましょ」
ソラノは歩き出す。
「ソーラー!」
ミズキは止めようと前に出る。
「私がきっかけを作る…」
ソラノは小さな声で呟いた。
「…」
ソラノはエールのもとへと着く。足元のリョウは本当に死んでいるようにピクリとも動かない。ソラノは心配になって脈を確かめた。
脈はある。
「よかった…」
「へぇ~。あなたが普通に触れるってことはリョウちゃんは奪命されない特殊なナノマシンってことね?やっぱ連れて帰ろうかなぁ」
エールは挑発的な笑みを向けた。
「約束が違う…」
「怖い顔しない。姫も男一人抱えて、あなたを連れて行くなんてきついわよ。ヘリなんか呼んでも撃ち落されそうだし?行くわよ。ついて来てね」
エールとソラノは風力発電所へ繋がる森の道へ。
「あ、そうそう!」
しばらく奥へ入って行くと、エールはミズキの方を向いて大声で叫んだ。
「追って来たら殺すから!キャハハッ!」
「雷姫!」
ソラノが叫ぶ、エールが振り向くと同時にソラノは抱きついた。
「リミッター解除!」
一瞬、ソラノの周りの空間がぐにゃりと歪む。
「そんなことしてもあなたを引き剥がせば!」
エールはソラノを突き飛ばす。
「今だ!ミズキィィッ!ヤマトォォォォ」
「「了解ィッ!」」
ミズキはまたどこから出したのかミョルニルを持って、ジェット噴射で接近する。
ヤマトはアグニを連射。
爆音が連続して響き、落雷のように聞こえる。
そして、断崖からソラノが呼んでいた応援の無音戦闘ヘリが二機、突如として現れた。
「学習しないわね!無駄よォ!」
エールは大きく口を開けて笑う。そして、手をかざした。
「…あれ?」
あの壁も、何も出てこない。
「私の奪命のリミッターを外した!触れなくても近くにいるだけで!お前は―」
ソラノはその場から跳ぶ。
機動兵器を数機破壊してもお釣りが来るほどのミサイルと銃弾、そして、そのあとにミズキの渾身の一撃が隕石さながらの勢いでエールへ突っ込んで行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます