第19話

 公園のカフェで昼食をとったリョウたちは、公園内にある風力発電所に向かっていた。発電所内は見学ができ、簡単なテーマパークにもなっている。その発電所に繋がる道は森のように木が植えられていて、日差しも柔らかく、歩きやすかった。

 リョウとソラノは並んで歩くかたちになっている。ミズキが何だかんだ理由をつけて二人にさせようとしているのが丸わかりだった。雪羽もそれには気付いているのいないのか、意外に抵抗して、健闘している。傍から見ていると分かりやすいせいで苦笑いするしかなかった。

 その様子を見ながらリョウが口を開いた。

 「ソラノ」

 「なんだ?」

 「ソラノは本当に此処を離れるのか?」

 「なんだいきなり…」

 ソラノは少し機嫌が悪そうな顔になった。それでもリョウは大きく息を吸う。

 「もうさ、俺もあんなことがあって…。アマテルだっけ?それに狙われてるんだろうしさ…。もう行かなくてもいいんじゃないか?」

 「…変更はない」

 ソラノは少し強めの語気で言った。その声は驚くほど冷たかった。

 「俺も戦う。一昨日の俺の映像とか観たんだろ?戦える、それに言っただろ?俺はソラノの―――」

 「さっき言っただろ?きみは力を使い過ぎると死ぬ。そんなことが分かりきってる人間を戦わせたくなんかないっ」

 ソラノは小さな声だったが低く、力が入っていた。押し殺しているようだ。

 「…大丈夫、自分で頑張る。調整すればなんとかイケるって!」

 「大丈夫なもんかっ!なんでそんなに楽観的なんだ!知っているのか!?あのアイギスは私の探し方できみを偶然見つけたと言っているんだぞ?つまり、奴らはきみを探せるんだ!いつ襲われてもおかしくない状況なの!」

 ソラノが我慢していたものを爆発させる。感情的になると話し方が年相応に近づいてくる。

 ソラノは足を速める。リョウもそれについていく。

 「奴らの最優先目標は私だ。まず私が離れれば、きみは私が捕まらない限り、目標にはされにくい…。仮に他の組織がきみを狙ってもウチが警護してくれる。相手が雷姫クラスじゃなければ十分すぎる警護だ。それできみが二度と力を使わなければ余計な問題は起きないはず」

 「待て」

 リョウは小さく言った。

 「私も甘かった…。簡単に探す方法があったなんて…。外から隔離された施設に入るしかないかもしれないな…」

 ソラノは一人で淡々と話している。リョウは苛立ち、乱暴に腕を掴んだ。

 「待てって!」

 「…」

 ソラノは立ち止まる。木々の揺れる音と、鳥の鳴き声が一瞬聞こえた。

 「なんで勝手にどんどん決めてるんだよ!?なに意味わかんないことに意地張ってんだ!」

 「意地?私はそんなものどこで張ってる!?」

 ソラノが振り向く。目が潤んでいた。

 「全部だよ!なに無理矢理全部背負い込んで、自分が犠牲になれば俺は大丈夫みたいなこと、言ってんだよ!それで俺が普通に生きていけると思えるのかよ!?俺はソラノが辛い思いしてるのに、平気でこの先、生きていくとか嫌だからな!」

 「私は辛くなんかない!私がいなければ、私がきみに逢わなければ、きみは今までと変わらずに生きてこれた!」

 ソラノは大声で言って、リョウの腕を振り払った。

 「なんでわかんないんだ!」

 「何がわからないんだ!?私が考えた結果がこれだ!どうしてもこうなる!こうなるからこうするしかないんだよ!」

 ソラノの頬を涙が一つ零れた。

 「俺は行って欲しくない!力になりたい!後悔したくない!」

 「…」

 ソラノは涙をポロポロと流しながら歯を食いしばっていた。リョウを見つめる。

 「…何で今さらそんなこと言うんだ…。決めていたのに、わからなかったけど決めたのに…。またわからなくなったじゃないっ!」

 もうソラノは全身で声を張る。

 「…」

 「独りにしてくれ…どこか行ってくれ!一緒にいたくない!」

 ソラノはリョウの胸をトンと殴った。

 「…」

 リョウはポケットに手を突っ込んで、今来た道を戻り始める。後ろでソラノが鼻をすすっているのがわかった。

 「…クソ」

 リョウは一人で悪態を吐いたのだった。これっぽっちも痛くないのに、胸にソラノの拳の感覚がいやに残った。



 ※※



 気付くとリョウは、昼食前にいた高台にまで戻っていた。

 「だいぶ歩いたな…」

 風はやはり強かったが、今の気分にはこの位がちょうどよかった。胸辺りまであるフェンスに沿って歩く。東京の摩天楼がここから小さく見え、雲も小さなものがのんびり浮かんでいるだけで、最高の景色だった。

 「ケンカするつもりなんかなかったのに…」

 ソラノの泣き顔が頭に浮かんだ。泣かせるのがこんなに後味が悪いものだとは思ってもみなかった。しばらく景色を眺めながら歩くと何かの陰の下に入った。

 「絶景絶景!」

 上から声がした。

 上を向くと腰に両手を置いて、絶妙なバランスでフェンスに立っている女の子がいた。短いスカートを履いていて、下からだったので何もかもが見えてしまっていた。

 「確かに絶景だわ」

 リョウはそう言って名残惜しいが、その下を通過して行った。

 「変な子もいるもんだ…」

 シミジミ言って少し進んでから振り返る。女の子は黄金のツインテールを風になびかせる。短いスカートは強風でやはり何もかもが見えていた。周りのカップルなども彼女に注目していた。特に男が。そりゃそうだろう。

 女の子は視線に気付いたのか、こちらを向く。美少女を絵に描いたような完璧な小顔の少女だった。フェンスをぴょんと飛び降り、リョウの方へ向かってきた。

 「見る物は見た?!」

 美少女は笑いながらそう言った。小柄だが、胸の谷間を強調するように大きくシャツのボタンを外している。目のやり場に困った。

 「そんなつもりはなかったんだけど…あはは…すいません」

 「謝るなら代わりに自己紹介していいかな?」

 「は?…ど、どうぞ…」

 一体何の代わりなのかよくわからなかった。それで不問にしてくれるのだろうか?

 「姫の名前はエールっていうの!あなたのお名前は?」

 エールは小さな男の子のような声で言う。近くで見るとさらにスタイルが良さがわかった。自分のことを姫と言っているのは気にしないでおく。

 「稲葉…リョウ…」

 「リョウちゃんね。わかった!姫ね…探してたんだ」

 エールは目を爛々と輝かせている。

 「あ…はぁ…何を?」

 いきなりの展開についていけなかったが辛うじて返事をする。

 「うーん。もちろんリョウちゃんっ!」

 上目使いでリョウに人差し指を向ける。慣れている感じだ。

 「…なんで俺のこと、知ってる感じなのかな?」 

 「知らないよ?同じ匂いのする人ってことしか知らないよ!でも、気になるんだぁ!」

 どうも噛み合わない。折角かわいいのに残念だ。

 「どういうところが同じ匂いかな?あはは…」

 「身体の中だよ…姫と一緒…。一緒って、いいよね」

 エールは腕を絡めてリョウにべったりとくっつく。普通なら喜ぶべき状況だ。が、リョウの中では最悪な状況の想像が生まれつつあった。

 「リョウちゃん、彼女は?」

 「…いないけど…」

 「じゃあ、姫にもチャンスあるのかなぁ?」

 エールは満面の笑みでリョウを見つめる。リョウは笑うしかなかった。エールの色気のようなものに飲まれないようにするのが精一杯だ。

 「あはは…」

 「じゃあ今日は一人で来たの?」

 エールのペースに持って行かれていたが、隙をついて言葉を出す。

 「きみこそ一人で来たの?」

 「きみじゃないよ。名前で呼んでよ…!姫は一人で来たよ。リョウちゃんを探してたんだって言ったじゃん」

 そう言って頭をリョウの肩に傾ける。

 「どうやって探すんだよ」

 リョウは笑いながらも探りを入れる。

 「知りたい?」

 エールは口元だけで笑った。そして、口を耳に近づける。グロスを塗った唇が近付いてくる。

 「それはネ…」

 「稲葉リョウ!!」

 それはミズキの声だった。ミズキは走って来たのであろう、肩で息をして立っていた。

 「そいつから離れなさい!」

 いつものミズキの雰囲気ではない。

 「真国…」

 助かった。リョウは正直にそう思った。そして、想像していた最悪な状況が現実味を帯びてきた。

 ミズキは指を動かす。すると光学迷彩が解かれ、カタパルトハンマーのミョルニルが姿を現した。

「キャッハハハハハハハハハハハハハッ!」

 エールは先程までの可愛さを弾き飛ばし、甲高く笑い声を響かせる。そして、リョウの腕を放した。

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