第16話
結局、部屋からソラノが怒って出て行ったあと、追いかけようとしたがドアが何故か開かず、部屋から出ることは叶わなかった。
翌日、リョウはリンに早朝からラボ内を引っ張り回され、あれこれ検査された。ラボの中で翔子を探してみたが見つけられず、リンに聞いてみると「ヤマトが駆けつけたときにはあなたとアイギスしかいなかった」と言われた。
ひと通り検査が終わると、独りで登校することになった。遅刻寸前で学校に到着すると、ソラノたち、オーコックス・インダストリーの皆さんは自分の席にもう着いていた。
※※
授業は何事もなく進み、昼休みを迎える。ちなみにソラノは、話しかけても「あぁ」や「そうだな」と一言で返事をするだけで、ちゃんと話せていない。何か怒っているようだ。
そのままここで昼食を食べても気まずいだけなので、リョウは教室を出た。
「さて…一年の教室でも行くか…」
リョウにはもう一つ目的があった。リョウが気を失ったあと姿を消した翔子だ。登校はしていないかもしれないが、無事なのかだけでも知りたかった。
一年の教室がある階に着く。昼休みということもあって、廊下に生徒が出てきており、あまり来ることがない二年生が廊下を歩いているので注目を集めた。一目見た感じでは廊下には翔子はいないようだ。
「ぼふ」
犬が吠えるのを怒られた時のような声と同時に胸のあたりに何かが当たった。
「ん…?何かに当たったような気が…ガァッ!!」
脇腹に衝撃が走る。
「冗談だったらぶっ飛ばすけど、本気だったらぶっ殺すわよ!」
そこには翔子が立っていた。
「…師匠…いってぇ…」
リョウはうずくまる。
「あんた…なんで…」
「探したんだよ!昨日あれからいなかったから!心配したんだぞ!?」
「別に…あんたに心配されるほど私はヤワじゃないわよ!」
翔子はそっぽを向く。翔子は昨日と違って長袖を着ていることに気付いた。
「師匠、腕…」
「だから大丈夫だって!」
翔子は昨日アイギスに踏まれた腕で何かを投げた。リョウはそれを受け取る。 見てみるとメモリーカードだった。
「これは?」
「翔雷天空拳の技が全部入ってるわ!それ編集したせいで寝不足よ!…ありがたく思いなさい?」
翔子はそんなに無い胸を張って威張る。
「これって…つまり…」
「ガオウバインの映像ファイルよ!」
「…」
「これ、全ッ部観て!技覚えて!!」
翔子の目が輝いていた。
「あんたの昨日のライジングモードなら絶対!全部再現できるからッッ!!」
「ライジングモードて…」
まさかあんなことがあった後にこれを思いついて、そそくさと家に帰って動画を編集したんだろうか…。
「覚えてない!?ほら!ガオウバインの高速戦闘形態よ!全身に電流を走らせて、必殺の雷天系の技を出すのよ!」
翔子の声が廊下に響き渡る。何の恥ずかしげもなくアニメ用語を叫ぶところを見るとこれは止まりそうもない。周りの生徒が遠目にこちらを見ていた。もちろん異物を見るような目。
「ちょっと師匠こっち!」
リョウは翔子の腕を掴む。
「いっ…!」
翔子は小さな声で言った。やはり、痛むのだ。
「あ、ごめん…大丈夫?」
「大丈夫だって言ってるで…しょっ!」
翔子は掴んでいた腕をぶん殴った。
「いってっ!」
とりあえず人も多すぎて昨日の話もまともに出来ないので、すぐそこの中庭に連れて行った。
中庭はロの字になった校舎の真ん中に位置する為、どの位置からもすぐに行くことが出来る。中庭に着くと数人の生徒が弁当を食べたり遊んだりしていたが、ここなら周りに遠慮せずに話すことが出来るだろう。翔子をベンチに座らせる。まだ目を輝かせている。
「ここで見せてくれるの!?」
「いつまで言ってんだよ!」
リョウは腰に手を置いて呆れ顔で言う。
「違うの?てっきりライジングモード見せてくれるのかと…」
「しない!…昨日の話をしに来たんだよ!あのあと、どうしてたんだよ!?」
「なんであんたなんかに言わなきゃいけないのよ?」
「死ぬほど心配したんだよ」
「じゃあ死んでたらよかったじゃない」
翔子は脚を組んでまるで女王のように言う。無茶苦茶だ。
「…あんたを病院に運ぼうと思ったら、ウチの制服を着た生徒がこっちに来たのよ…だから急いで隠れたの…。そしたらあんたを連れて行っちゃって…」
恐らく、ヤマトの事だろう。
「本当に…?」
「なんで嘘つく必要があるのよ…」
「そっか…。でも、マジで心配したんだ。あんな無理しないでくれ…」
リョウが言うと翔子は顔を真っ赤にした。
「…わ、わかってるわよ!あんたもでしょ!?バカ!」
「あはは…まぁ師匠が学校来てるか気になっただけだから…これで戻るわ…」
リョウは教室へ戻ろうと、小さく手を振って踵を返した。
すると数歩進んだところで翔子が口を開いた。
「ちょっと待ちなさいよ!あれは…何なの?」
「あれ?」
リョウが振り向くと先程までとは打って変わって、刺すような眼光でこちらを見る翔子がいた。
「あの硬い切れ目のヤツ、ライジングモード、電撃…あんた何者?」
「詳しくは言えない…。これ以上師匠を巻き込むわけにもいかないよ…」
「ふん!」
「かはっ!」
翔子はハイキックをリョウの肩にお見舞いする。今日もスパッツを穿いているようだ。残念。
「あんた…もう十分巻き込まれてるのよ!今さら他人事と思って私があんたを放っとくと思う!?」
「…」
リョウは呆気にとられ、何も言えなかった。翔子の長袖が目に入る。
「あんた、翔子天空拳、全くなってないのよ…。また、あいつみたいなのとやり合うんでしょ…?そんなんじゃ死ぬわよ。巻き込ませたんなら、とことん巻き込みなさいよ…」
とても女子高生が吐く言葉ではない。
「…ぷっ…」
リョウは少し噴き出した。
「…なによ…気持ち悪い…」
「いや、師匠の言葉って、いつも俺に答えをくれるなぁと思って…」
翔子は再び顔を真っ赤にした。
「…師匠、俺は負けたくない…」
二人は悪友と悪戯を企むように笑った。
「負けるわけないでしょ?私がこれから完璧に叩き込むんだから!」
「あぁ…」
リョウの中でモヤモヤしていたものが晴れた気がした。
※※
リョウが教室に戻ると、ソラノたちは昼食を終えて談笑していた。入り辛かったが、そのグループの中に自分の席があるので仕方なく座った。
「…はぁ…」
「リョウ」
直後、不意に後ろのソラノから声をかけられた。何故かすぐに振り返られなかった。前を向いたまま返事をする。
「…え、何…?」
自分でも何でこんなに冷たい声が出るのかと驚いた。
「あ、明日は空いているか?」
「え…?明日?あ~明日はケータイを…。…っ!?」
リョウは何かの殺気に気が付く。その殺気の方向にゆっくりと向く。
「…」
視線の先のミズキが殺気に満ちた目でこちらを見ていた。
「あんたに自由はないわよぉ?」
ミズキはニコリ。
「…それはどういう…?」
「どうせ、ラボに帰るんだからねぇ」
ミズキはニヤリと口を歪ませて言った。
「え…?それって、俺は帰れないってこと…?」
「ラボ?」
黙って話を聞いていた雪羽がかわいらしく首を傾げて言う。慌ててリョウが誤魔化しにかかる。
「わあぁ!湯野原さん…。あはは…」
ソラノはそんな様子を気にするでもなく。
「…いいか?リョウ…」
何故かソラノはモジモジしている。とてつもなくかわいい。
「…あ、あぁ、いいよ…。ちなみに明日は空いてるっぽいよ…俺…」
自分事なのに他人事。
「明日、展望公園に行かないか?」
「え?」
「い、いや、雪羽が誘ってくれて、行くならきみもどうかと雪羽が―――」
「わああああ!ソラノちゃん!」
雪羽はソラノの口を塞ぎにかかる。ソラノは慣れた動きでそれをかわした。
「…私に言えと…」
「湯野原さんが…?いいの?」
雪羽と目が合う。雪羽の顔は一気に真っ赤になった。
「い、稲葉くんが良ければ、みんなでどうかな?って…」
「全然いいわよぉ」
「お…、真国が答えるなよ」
「あんた、お前って言おうとしたでしょ…?」
ミズキが鬼の形相で睨む。口調が変わるのマジで怖いです。
「いえ…」
「そ、それで…稲葉くんは大丈夫…なのかな?」
雪羽が上目使いでリョウを見つめる。
「…大丈夫…だよ…あはは…」
「ホント!?じゃあ、明日Dユニットの駅に集合ね!」
雪羽が元気にそう言うと、ちょうど昼休みが終わったのだった。
その日は、何事もなく学校も終わった。ソラノとミズキは二人で「買い物があるから」と言って、さっさとどこかへ行ってしまった。
リョウはと言うと、ヤマトに付き添われて自分の家に戻り、必要なものを集めさせられ、ラボへと連れて行かれた。ラボでもゆっくりする暇はなく、検査に次ぐ検査で、眠りについたのは午前二時を過ぎていた。
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