第6話
※ サクラシティ5階 ※
「…痛い…」
オレンジ色の髪の青年は、グローブのように大きな手袋でソラノの細腕を必要以上の力で掴んでいた。ソラノは地下街でリョウとはぐれてから、腕を掴まれたままだった。痛いと言っても手を放してくれない。
青年はこちらを向いた。
「僕が守るから」
「…え?」
ソラノはわけがわからず聞き返す。
「フィナルは僕が守るから」
「お前…私の…」
青年は笑顔で続けた。
「僕はね、フィナルを守る為に生きてる」
「…お前の言っている意味がわからない。なぜ私の名前を知っている…?私は他人に名乗ったことは無いぞ」
ソラノの声はひどく低い。フィナル、それはソラノの本来の名前だ。それなのにこの青年は知っている。
「僕は君のことを昔から知ってるんだよ」
「どういう意味だ?」
「言葉の通りだよ…。あ…まだ名乗っていなかったね。僕の名前はホルス・ソルウォール…よろしくね、フィナル」
ホルスは満面の笑みでソラノの腕を引いた。
地下街の騒動はサクラシティの5階ではそれほど騒がれてはおらず、何かが地下街で起きた。といった程度だった。しばらくすればここも警察が規制しだすだろう。
ソラノはこの呑気さに呆れた。1階では何百人もの人間が地下街から押し寄せてきたのに、何も無かったかのように皆が買い物をしたりして歩いているからだ。
それにしてもホルスから掴まれている腕の痛みは、もう限界に達していた。
「痛い…!放してくれ!」
ソラノは無理矢理手を振り解こうとした。だが、ホルスはしっかりと腕を掴んでいてビクともしない。ホルスは慌てて振り返る。
「え?痛かった!?ご、ごめん!」
ホルスは手を放す。
ホルスから離れて腕を見ると、痛々しく赤くなっていた。
「さっきから痛いと言っていた…」
「ごめん、僕…やっと会えたから…。嬉しくて、君を連れ出すことしか考えてなかった…」
ホルスは今にも泣きそうな目で言った。蒼い目をしていた。
ソラノは虎の目で睨む。
「私を…どこに連れていく気だ?」
「もちろんアマテルだよ」
サプライズプレゼントを見せたような無邪気な顔で言う。
「そうか…お前も奴らの一員ということか…。ならば断る。私はお前とは行けない」
「自分が生まれた場所には戻るべきだよ…?今まで辛かったんじゃないの?」
ホルスは親が子供を心配するような口調で言った。しかし、目からはそれを感じられず、どちらかと言うと哀れみのようなものが滲んでいた。
「お前1人ならば、黙らせることくらい出来るぞ…。それに、私の生まれた場所は断じてアマテルではないっ!」
ソラノは殺す勢いで睨みつける。
「僕はフィナルを守るために生きてるって言ったよね?当然、それなりの対策は出来てる。その証拠に…」
ホルスはソラノの腕をその大きな手で握った。
「こうやってフィナルに触れることが出来るんだよ…。君は僕が守る」
「…」
ソラノは黙って、無機質な手に握られた腕を見る。
「フィナル…君は僕にとって特別なんだ…いや、アマテルにとってもだよ!君しかいない。車に乗せた時は他の奴らが乱暴なことをしてしまったけど。僕がいる。大切に守っていくよ」
「お前たちは私を利用することしか考えていない。欲しいのは私じゃない…ソーラーノームの私だろう?」
「アマテルはそうかもしれない…。でもね、僕はフィナルのことが欲しい!」
ホルスは恥ずかしげもなく大声で言い、ソラノの腕を引いた。さすがに周りのカップルたちもこちらを見る。
「放せ!私には私が決めた帰る場所がある!」
「離さないよ。フィナルの帰る場所はアマテルだよ」
ここはオペラハウスのような吹き抜けになっていて1階の水上ステージまでが見下ろせる。
ソラノはホルスに引かれて6階へのエスカレーターに乗った。もがいてみたが、ホルスは手を離さない。
またホルスの腕を握る力が段々と強くなってきた。
「…痛い…!放せ」
「ダメだよ」
ソラノはまた赤くなってきている腕を見る。ふと頭に浮かんだのはリョウだった。リョウは違った、あいつは手と手を握ってくれた。あいつは何者かもわからない自分に「最後まで連れて行くよ」と言ってくれた。それを思い出すと、心が温かく、熱くなってくるのがわかった。
あいつがいない。
ソラノは下の水上ステージを見る。ミニチュアの様な小ささの人達が歩いていて、カップルがステージの端で肩を寄せ合っている。
そして、ソラノはその中で見つけた。
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