第2話

 そのあとは何事もなく学校は終わった。

 クラスが変わって、まだ数日しか経っていない為、同じクラスに一緒に帰る友達もいない。前に同じクラスだった奴らは、新しく作った友達と各々帰って行った。竜次も部活をしているので、一緒に帰ったことは一度もない。いつも一人だ。

 リョウはここ数日、学校が終わるとゲーセンに行っている。一人暮らしをしている為、食事をとったら風呂に入ってネット番組を観て寝るだけだからだ。このままだと引きこもりになってしまう。それだけは避けたかった。

 季節は4月だが、日中の気温は30度を超える。人類の科学技術が発達し、地球温暖化の速度が緩んだのは2050年代だ。それまでに上がった地球の温度は下がるはずもなかった。

 ゲーセンの中に入るとクーラーが効いて気持ちよかった。

 リョウは入り口側の自販機で炭酸飲料を買い、目的のゲーム機に向かった。

リョウのやるゲームは、小さな部屋くらいのシュミレーターに入り、プレイヤー自身が仮想空間で選んだキャラクターの武器や装備を身に着けて戦う体感型格闘ゲームだ。リョウは巨大な大砲を持って戦うキャラを使っている。

 いつも行列が出来ているのだが、今日はすんなりとゲーム機に入ることが出来た。実は最近はじめたばかりのゲームで、対戦になると負けてばかりで練習にならない。

 「今日は練習できそうだな」

 リョウはニコニコしながらカバンをボックスの隅に置いたのだった。


 ※


 結局は対戦になってしまった…。リョウがゲームをしているのを見計らったかのように人が増え、対戦。当然勝てるはずもなく、再戦を何度も申し込んだが、一勝もできなかった。

 「このゲーム、素手で戦えんのかよ…」

相手のキャラは双剣使いだったのだが、あっという間に接近されて、まったく武器を使わずに倒された。

 リョウは少し腹が立ち、相手の顔を見てやろうとゲーム機の反対側へ回った。ゲーム機に入る扉は半透明で中の様子を見ることができる。

 リョウはその半透明の扉の向こうを睨んだ。

 「あれ?誰もいない…おわっ!」

 誰もいないのに突然扉が開いた。

 「なによ…」

 出て来たのは大きなお団子ヘアーの小さな女の子だった。お団子の部分がリョウの胸にやっと届くくらいの身長だ。

 「ちっさ…アァ!」

 リョウは悲鳴を上げた。お団子女子が足を思い切り踏んだのだ。

 「あんた…今小さいって言おうとしなかった…?もしそうだとしたら、ぶっ飛ばすわよ…!」

 「もう足踏ん…」

 「…」

 リョウは身の危険を感じた。

 「い、いえ…なんでもないです」

 「ふーん…。で?なに?私になんか用?」

 お団子女子は、その身体に比例した小さな胸を張る。

 「…強いですね…このゲーム…」

 「ん…?あぁ…あんたさっきの大砲使い?文句でも言いに来たの?あんた弱すぎるのよ…文句はちゃんと戦えるようになってからにしなさいよ」

 「この…チビ」

 「フン!」

 「うはっ!」

 正拳突きがリョウの腹に食い込む。

 「あんた…ぶっ飛ばすわよ!」

 「もうぶっ飛ばしてるし!」

 「うっさい!もう一発食らいたいの!?」

 「こわっ!」

 リョウは逃げるようにゲーセンを出て行った。

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