第58話
9:25 隔離棟付近の高層ビル
ヤマトは高層ビルの一室に待機していた。土曜日という事もあり、元から誰も居ないし、このエリアの一般人は退去させているのでこの建物には誰も居ない。このくらいのことは簡単にできるのだが、人的被害が少なくてもあまり暴れられるといろいろと後処理が大変になる。それにこうも先月に続き、短期間にあんなのが来られると住民が怯えて
そんなことを思いながらヤマトはスナイパーライフル仕様にカスタムしているアグニを窓のガラスに当てた。外の景色は
先ほどG-1が爆発した。その威力はかなり大きく、隔離棟の一部が崩れていて、作業に取り掛かっていた社員も巻き込まれている。ミズキはまだエレベーターの中にいたおかげで無事だが、外にいたキール・マイルは応答がない。グロスハートに乗ったカタギリは一番の戦力であるミズキの救出に取り掛かっている。稲葉は爆発と同時に連絡が取れなくなったが、様子を確認しに行ったレナからは通信機が壊れただけとの報告があった。
今のところ辺りを見る限りおかしな様子は見受けられない。黒煙が立ち上り、少し下の方が見えにくいくらいだ。
「ミズキ、どんな調子だ」
「うぅ~ん。どうしようもないわねぇ……」
ミズキはいつもの調子で返す。
「意外と落ち着いてるな」
「まぁねぇ~」
「ホルスが脱走しているって言ったよな?あいつ、ソラノの方に向かうかもしれないだろ、今周囲を見ている感じだとマシンフレームはいなさそうだし、俺がソラノの方に応援に向かうか?」
「たぶん大丈夫でしょぉ?同じ階にいたサプサーンも居なくなってるんだしぃ、それと一緒に逃走してるんじゃない?」
「……」
ヤマトは外を見ながら思考した。仮にアモルの拉致がフェイクで、本当の狙いがホルス、サプサーンだったとしても、アモルを連れていくという怪盗の予告状のような行動が必要だっただろうか?本社屋を狙うのなら何かの細工をするためだとかそういう理由も考えられるが、隔離棟ならばいきなり襲撃すればいいだけである。それに、ホルスもサプサーンも何十億もする量産機数機とそれを上回る高性能機を使い捨てにするほどの莫大な価値はないはずだ。
「ヤマトぉ~」
黙って思考を巡らせていると、腑抜けたミズキの声だ。
「なんだ?」
「人手足りないみたいだから、あたしの方の作業手伝ってぇ~。あたしにとどめ刺しに来るかもしれないしぃ~護衛も兼ねてぇ」
「お前に護衛は要らんだろ」
「ひど!」
ヤマトは少しため息交じりに返す。そうは言いつつ、指揮官の命令だ。銃の構えを解いて狙撃ポイントから離れようとする。
「!?」
ヤマトはとてつもない違和感に襲われた。吐きそうな、いや、引き金を引くと弾が発射されないような。何かがヤマトを不安にさせた。
一瞬くらっとして倒れそうになったが持ちこたえた。不安感、違和感の原因はすぐにわかったから。
「ミズキ」
「ん?」
「少し離れたとこにいたから、お前のところまで行くのに時間がかかるが、それまで持ち堪えろ」
「おっけー!早く来なさいよぉ?」
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