第55話

 9:07 隔離棟

 

 隔離棟への入口のドアは反応せず、ミズキがョルニルで無理やりぶち抜いた。

 「だぁーれもいない」

 ミズキは小声で言った。入口に入ってすぐ受付があり、そこには誰もいなかった。何かが壊されているというわけでもなく、人の気配を微塵も感じられなかった。いや、ドアをぶち抜いたので扉の板がひしゃげて転がっているが。調べてわかったことだが、アモルの時と同じように隔離棟自体に人が異常に少なかったのだ。

 「こちら隔離棟に入ったけどぉ、誰もいないわねぇ」

 「そう、注意して探索して。ホルスとサプサーンは地下5階に収容してる」

 リンがそう返すとひとつ返事をしてミズキは進んでいった。外では駆けつけたオーコックス・インダストリーの人間が、倒したG-1のコクピットをこじ開ける作業を進めている。社屋の方に残っていたG-3はガルムが難なく仕留めており、そちらのパイロットはすんなりコクピットから引きずり出すことができた。G-2も同じでパイロットは投降した。G-4のパイロットは死亡。

 「稲葉リョぉは何も異常なしぃ?」

 「あ、うん。なんもない」

 「ふぅん……。んま、気を抜かないでねぇ」

 「わかってる」

 ミズキはリョウの何でもない返事を聞くと目を前に向けた。エレベーターがあったがそれは地下5階を表示していた。密閉施設でさらにハッキングを受けて内部の監視カメラなどがうまく作動しないせいでホークアイでの内部の検索ができない。階段を降りることにする。ミョルニルは非戦闘状態にし背負った。かわりにお尻のホルダーから拳銃とナイフを取り出す。

 扉をぶち壊したおかげで外の作業音が中まで響いてくる。半面、中はシンとしていて気味が悪い。

 しばらく降りていき、地下4階に辿り着くと、ミズキは立ち止った。血の匂いがしたからだ。ミョルニルは構えるほどの広さはなく、今持っている拳銃とナイフでは心許ないが、気を取り直し、降りる。外の音も聞こえなくなってきたせいで、慎重に動いているつもりだが自分の足音が異常に大きく聞こえてしまう。内装は白で、照明も点いているので降りる先ははっきりと見える。

 はっきりと見えるのだ。

 「うーわ……」

 ミズキは小さく言う。地下5階のフロアへのドアが開け放たれており、そのドアと先の廊下に真っ赤な血がぶち撒けられているのだ。

 ペースを落とさず降りていく、フロアにつくと、すぐそばに警備の制服を着た職員が倒れていた。ホークアイを起動し、状態を見てみると心肺停止している。そのままフロアを検索する。検索した結果がでるとミズキは構えを解いた。

 小さくため息を吐いて、通信をする。

 「リン~。それらしき人間も生存者もなし……、見事に逃げられてるわぁ。6人、回収してあげてぇ……」

 「そう……。態勢を立て直しましょ、一度戻ってきて」

 「了解ぃ~」

 ミズキはそう言ってエレベーターへ向かい、呼出しボタンを押す。すぐに扉は開き、中に入って1階のボタンを押す。

 するとリョウの声が通信に割り込んでくる。

 「リンさん、今エレベーターが動いているんですけど……大丈夫ですよね?」

 社屋の方のエレベーターだろう。しかし、今は厳戒態勢、リョウのいるフロアに繋がるエレベーターは使えないようにしている。

 「今!?」

 リンが語気を強めて言った。それはそうだろう。使えないはずなのだから。管理はリンの方でしている。

 そこから考えられる最悪の答えは……。

 「稲葉リョぉ!!」

 ミズキがそう叫んだ瞬間だった。突然の爆発音が耳を塞いだ。

 ミズキが乗っているエレベーターは激しく揺れて、照明が消える。暗闇の中でもなおミズキは揺さぶられた。

 「クッ」

 ミズキは振動の中、ミョルニルを取り出し、それを傘にして踏ん張った。エレベーターの天井に破片などが落ちているようでコツコツゴツゴツ、音が不気味に響く。

 幸いエレベーターが落ちたり、天井が壊れて潰される事はなかった。揺れが治まるとすぐに赤暗い非常灯が点灯する。

 「リン!?何があったの!?」

 「ミズキ?大丈夫なのね!?」

 「いいから!」

 「G-1が爆発した!隔離棟もかなりの損害を受けてるわ!あなたは!?状況は!?」

 「エレベーターが止まってる。地下2階だったと思う。G-1の作業に取り掛かってた人たちは?」

 「……爆発の威力が強すぎて……恐らく……」

 「……はぁ……そう……。稲葉リョぉ!?聞こえる!?」

 ミズキはリョウに呼びかけるが返事はなかった。

 

  

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