第54話

 ミズキはミョルニルを構えなおして、チラリと隔離棟を見る。元から窓など余計なものがないおかげで異様な雰囲気はあったのだが、この騒ぎの中で何も異変がないのはさらに気持ちが悪かった。

 「アモルの時と同じってことはもう中に侵入されてるってことぉ?」

 「そうね。連絡はつかないし、中のネットワークも平常時を装った状態になってる。誰かが私たちの接続を邪魔してるわね、さっきまで気が付かなかった!」

 リンが焦りを滲ませて返事をする。

 「いっちょぉ、入口ぶっ壊すぅ?」

 「あの機体がさせてくれないでしょ」

 「たぁしかに……」

 あの機体、G-1は不気味にも積極的には攻撃をしてこない。ヤマトの狙撃も死角にうまく入られていて、他の味方機が止めを刺されそうになると妨害してくる程度だ。しかし、こちらの動きはしっかりと捉えている模様。

 「隊長!俺はどうする!?」

 この声はグロスハートに乗ったタカシだ、いつもハイテンションな口調で緊張感をぶち壊してくださる。

 「とりあえずぅG-1との交戦は避けつつG-2の相手してぇ。あたしがG-1狙ってみるぅ……」

 「了解ぃ!!」

 グロスハートはミズキの後方に位置している。低いビルの向こうに隔離棟があり、そのさらに向こう側にG-1が隠れている。G-2はというとヤマトからの狙撃を恐れて隔離棟の陰に隠れているが、こちらへの攻撃のタイミングを窺っているようだ。

 グロスハートは無骨な身体にもかかわらず、細いビルの間を通って低いビルの前面へ出る。

 G-2がそれを察知してマシンガンを構える。しかし、それ以上進んで隔離棟の陰から出てしまうとヤマトの狙撃の格好の餌食になってしまう為、狙いを定めることができない。

 グロスハートはG-2を誘うように大胆に道路に出てマシンガンを構える。陰から飛び出せば狙えるように誘う。

 それを許さなかったのはG-1だった。

 G-1は一瞬でG-2とは反対側から姿を現せた。一瞬でもそんなチャンスを逃さないのはヤマトだ。

 「……っ!!!」

 ヤマトは無言のまま引き金を引く。爆発音だけがその合図に応えた。

 狙いは正確。G-1の動きの予測まで含めた。

 そして、G-1は見事に予測通り動いた。これで仕留められる。

 ミズキもその様子を、グロスハートの真上を飛びながら見ていた。ホークアイはその一瞬も解析して欲しい情報を可視化してくれる。ヤマトの弾は命中する。そしてそこに自分が追撃する。これで仕留められる。

 「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!るぅうううああああ!!!」

 ミズキは獣のような叫びをあげてミョルニルをぶつけに行く。

 「っ!?」

 弾がG-1に当たる刹那。G-1は足を振り回し、腰を捻る。小さなスラスターを噴かせて無理やり体勢を変えた。

 まるで操り人形が無理やり糸で上に引っ張られたようになり、弾丸を紙一重で回避。

 弾丸は隔離棟にぶち当たり、大きめの穴を開けてしまった。

 「チッ!」

 ヤマトの舌打ちが聞こえる。それを聞き流しつつ、それでもG-1を叩き潰せる軌道に乗ったミズキはそのまま突っ込む。

 「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 G-1はおかしな体勢のままだ。上半身が反対を向いたままだ。しかしそのままミズキのミョルニルを腕で受ける構えをとった。

 「上等だぁ!!!!!!!!」

 ミョルニルを最大出力にする。

 一瞬。

 一瞬でG-1にミョルニルをぶち込んだ。

 酷く甲高い金属音とともに衝撃が周囲を襲う。建物の窓や脆いものが砕ける音がした。

 G-1は強かに背中を地面に打ち付けた。それでもなおミズキは噴射を止めず、釘付けにする。

 「めんりこめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 G-2がそれに助太刀しようと飛び込んでくる。しかし、そこにグロスハートが対応し、押さえる。

 ヤマトは静かに狙撃。踏ん張っていたG-1の脚に弾丸が命中し、貫通。一層地面に崩れ込んだ。

 ミズキはそれを確認するとジェット噴射を弱める。弱めるとG-1が押し返していた腕が勢いで上がる。

 「ヤマトォォォ!」

 ガラ空きになったボディを狙わないはずがない。その瞬間に弾丸が両腕と腹部に三発、G-1に直撃した。

 派手な配色の機体はそれを合図に糸が切れたように動きを止めた。

 「ふぅ」

 ミズキは着地し、一息つく。

 G-2の方を見やるとグロスハートが沈黙させていた。

 「終わったわねぇ……。さ、次はぁ隔離棟ねぇ」


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