第48話

 放課後、いつものように稽古の為に公園へ行くと、翔子が腕組みをして待っていた。

 ちなみに雪羽と竜次の件は言わずもがな、リョウは何も言うことが出来なかった。ご丁寧に待ち合わせ場所と時間を教えてもらい。完全に雪羽とデートする運びとなっている。おめでとうございます。

 「走ってきなさいよ」

 腕組みをして呆れ顔で翔子は言う。確かにいつも同じような時間に授業が終わるのに、先に公園に着いて準備万端な状態で待っていられるのは、毎回走ってここまで来ているからなのかもしれない。

 「ほら、学校疲れるじゃん?だから歩きたくなるというか……」

 「うっさい!!!」

 翔子の手にはすでに赤いボール。

 「もう始めんのかよ!」

 「当たり前でしょうっ!!時間がもったいないわよ!!!」

 そう言いながら剛速球を遠慮なくぶん投げてくる翔子。何個か投げた後、不意に青いボールを掴んだ。

 「来た!!!」

 ソラノから教えてもらったことを試すチャンス。翔子はボールを先ほどまでの剛速球ストレートではなくゆっくりと宙に放った。

 その瞬間に身体を加速。駆けだし、助走をつける。ボールはまだ頂点までは達していない。

 「行くぞっ!!」

 リョウは踏み切りながら身体を捻り、回転をかける。加速のかかった捻りは十分なほどに身体を回転させた。そして、ソラノに言われた通りに脚を閉じ、身体をできる限り細くした。すると先ほどまでの倍といっても過言ではないほど急速に回転がかかる。

 「んくっ……!」

 ボールを目で追う、回転しつつも狙いを定め、ボールが頂点に来るであろう場所を予想する。

 「ここ……!!!だぁあああ!!!」

 狙いが定まった瞬間。渾身の蹴りをボールにぶち込む。

 ボールは脚に当たった瞬間におかしな形にへしゃげて破裂した。

 「っしゃあああああ!!!」

 それを認めたリョウは自由落下しながら喜ぶ。以前とは全然違う威力。これで威力と時間の問題は解決した。

 ドヤ顔で翔子に目をやると。

 赤いボールが目の前に迫ってきていた。

 「かはっ!いってぇぇぇぇぇ!!!」

 ボールは顔面に直撃し、リョウは下手くそに着地、よろけて転倒。

 「ふん!ふん!ふん!」

 転倒したリョウに翔子は遠慮なく赤いボールを投げつける。

 「うっわ!ちょっと!師匠!」

 リョウは咄嗟に起き上がり、回避。

 「なによ!」

 「当てただろ!ボール!威力も!時間も!クリアしたって!」

 「おめでと!う!!!!」

 最後の赤いボールに全身全霊を込めたのか、今までとは段違いの速度でリョウの脇腹に直撃。その場にうずくま

 「くうううう……!」

 「威力と時間の問題をクリアしたことは褒めてあげるわ」

 翔子はこちらへ歩いてきて立ち止まり、両手を腰に置いて言った。下から見上げるが相変わらずスパッツなので残念である。 

 「でも、敵に撃たれたらアウトよ?」

 「う……。まぁ、でも空中じゃなきゃ……」

 「空中でも避けられる方法を考えなさい。さっきの〝嵐天・突風〟も私が考えてた方法とちょっと違うやり方でやってたし……。あんたしかできない方法、考えなさい」

 「……俺しかできない方法でか」

 「そ。せっかくその力があるんだし。それこそバリアとかできないの!?」

 翔子は少しニヤついた。できるのなら見せてくれとでも言いたげ。

 「いや、そんなのないから……できたらやってる」

 「はぁ……そうよね」

 翔子はあからさまに肩を落とし、くるりと振り返りボールを集め始めた。また投げるのかしら。なんだかそのガッカリの仕方が妙に気になってしまった。

 「電気とか流したら何かできるかも……」

 「ほんと!?」

 翔子は振り返ると爛々と目を輝かせていた。手には集めていた赤いボール。

 「いや、やったことないし、電流で防御とか……さぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 すでに赤いボールは放たれていた。リョウは1個目のボールを軽く跳んで回避。その勢いで立ち上がる。

 「避けるな!」

 「それ避けろって言ってたボール!!」

 「バリア張りなさいっ!よっ!」

 そう言って翔子は相変わらずの剛速球を投げた。ほんとにプロに行ってくださいお願いします。

 しかし、リョウも覚悟を決める。今まで電流を流したことがあるのは、直接触れた、触れられた時ばかりだ。どうやったらいいのかもわからないが……。

 「おおおあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 腹に力を込めて叫ぶ。流す対象がないせいで全身に力が入った。

 電流が身体をバチバチと流れる音がした。

 加速させた時とは違う感覚。

 赤いボールはそのままリョウの身体に当たり、バリッと紙が破けるような音がして、勢いよく割れ弾けた。

 足元の芝生は触れていた部分だけ焦げている。

 「はぁ……はぁ…。できた……」

 少しの脱力感。加速させた時と違って放電量が違うのだろうか。

 「いや、ダメでしょ……」

 翔子は口を半開きで言った。先ほどまでの目の輝きもなく、まるで失敗したかのような言い方だ。

 「……?だめ?なんで?え?出来たよ師匠」

 「出来てないわよ!!!ボール当たってから割れてるじゃない。バカ弟子っ」

 無茶苦茶だ。今初めてやった、人生初めてやったことなのに、ここまで言われないといけないのだろうか。

 なので。

 「師匠やったことないだろー!そんな触れてないものに電流通すとか無理だって」

 不満を言ってみる。

 「1回無理だった程度で諦めてんじゃないわよ……」

 翔子は腕組みしてリョウをジッと見つめる。そんな見つめられるとゾクゾクします。間合いを一気に詰めて蹴られそうで。

 「できるようになるまでやるわよ……」

 「えっ?」

 そう言って翔子は赤いボールを構えたのだった。

 「倒れない程度にしといてあげるから」

 翔子はとてもとても楽しそうで、とてつもなくいじわるな顔をしていた。

 

  

 

 

 

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