第47話
「はぁ……」
ソラノ、ミズキと登校中、リョウは大きめのため息を吐いた。やはり、連日の稽古の疲れと雪羽とのデートの件で眠れずにいた。もう明日なのである。今日こそ何とかしなければ、明日竜次に会ったときになんて説明すればいいのか……。
「ふぁぁぁぁ……」
リョウがそうこう考えていると、隣を歩くソラノは珍しく大きな欠伸をした。自分の姿に気が付き、我に返って口を咄嗟に隠すがもう遅い。ジトッとした虎の目でリョウを睨んだ。黙殺しろと言わんばかりの眼力……怖いよマジで。
とりあえず黙殺してあげるために話題を振る。
「昨日遅かったのか?」
「……そうだな、例の装備の最終調整でどうしても寝られなかった」
「なんか……お疲れさん。ありがとな」
それしかリョウには言えなかった。他のことを言ってしまえば違う気がしたし、また変な雰囲気になってしまう。ただ思った感謝を伝えた方がいい。
「……いや、私もそうしたい事だから……」
ソラノは少し驚いたような顔をしてリョウを見つめそう言った。
もうすぐ梅雨に入ろうとしているのか、気温が高く、湿気も多いはずなのに、涼しい風が吹いたかのような居心地で気持ちが良かった。
「明日はその装備のテストを18時にするから」
ソラノは何一つ澱みもなく言い放つ。
「え?」
「18時だ。わかったな?」
「はい」
なるほど言いたいことはわかった。気温も高く、湿気も多いはずなのに、吹雪でも吹いたかのように寒気が走って、生きている心地がしなかった。ソラノさん結構根に持つ方なのかな?
「そういえば、マメ頭との方はどうなんだ?」
「え?あぁ……まぁ、それなりかなぁ…」
「なんだ、うまくいっていないのか?」
ソラノは遠慮なく不快感を露わにした。
「いや、相手の攻撃を避けるって言うのはだいぶできるようになってきてるんだけど、少ない時間で蹴りの威力を出せっていうのがよくわからなくて……。どうしても威力を出すならそれなりに回って蹴らないといけないんだよね……」
ソラノはそれを聞くと、ほむと顎に手を置いて考え事を始めた。
「ソラノぉ~。昨日遅かったんだからあんまり考え過ぎちゃうとぉ、授業中寝ちゃうよぉ?」
今までの様子を後ろから見ていたミズキが、これまた後ろから母親のように声をかける。
「わかっている……。リョウ、一回その蹴りを見せてくれ」
「え?ここで?」
「そう、ここで」
リョウは周りを見渡す、人が密集する場所から少し離れているとはいえ学校に行く生徒がチラホラと周りを歩いている。しかも、ソラノとミズキという高レベル女子がいるのだ。視線も
「ミズキ、一瞬だけ誰にも見られない場所かタイミングはあるか?」
ソラノがミズキに問うと、ミズキは人差し指を顎に置いて虚空を見た。格好だけならあざとい。
「うーん……その角曲がった後10秒くらい誰も見なさそうねぇ」
「え、わかるの?」
なんだこいつは……。未来予知でもしてるの?
「ホークアイのぉ機能を最大まで拡大してぇ周辺の人の動きを見て計算してるだけよん」
そう言ってミズキは歯を見せてニコッと笑う。周囲の人の動きを見て計算するって結構すごい事だと思うのだが……。
「じゃあ、そのタイミングでミズキが合図を出すから、リョウは蹴りを見せてくれ」
「……」
もうやらないといけない状況になってしまっている。あきらめてリョウは軽くウォーミングアップを始めた。
少し歩くと角を曲がった。そうすると確かに前は遠くで誰かが同じ方向へ歩いており、後ろは誰もいなかった。
「どうぞぉ~」
ミズキがやる気なく合図を送られたのと同時に全身に電流を巡らせ、加速する。
その場で跳躍。普通の人間が見ていたら確実に映像でも撮られるであろう高さへ。
ソラノは相変わらず顎に手を当てて見上げる。
中空で身体を捻り、勢いをつけ回転を始める。
回転。回転。
3周ほど回ったところで蹴りを放つ。
びゅうという風を切る音が聞こえ、そのまま自由落下し着地する。
「っと!こんな感じ?」
稽古の時に履いている靴じゃないので少し足がジンジンしたがうまくいった。満足気にソラノを見ると特段何も表情を変えることなく口を開いた。
「それで威力はどのくらい出しているんだ?」
「うーん……半分も出てないと思う。師匠がそれ以上時間をかけたら相手に対応されるって言うんだよな……。何か分かった?」
「……そうだな……」
ソラノはそう言って歩き出した。こんなことをしているが登校中なのだ。
「とりあえず、地上にいる時から勢いをつけるのはダメなのか?」
「ん……。ダメってことはないと思うけど……確かに」
「きみは跳んでから回転を始めているが、それは長い滞空時間と無理矢理にでも回転させられる身体能力のせいだ。普通に考えたら助走をつける」
「そう言われてみれば……」
「あと、回転の時は脚を閉じて身体を細くした方がいいんじゃないのか?フィギュアスケートなんかでもそれで回転が速くなっているはずだ」
「おぉ……確かにそうだ!ちょっと後でやってみるよソラノ!」
本当は今すぐにやってみたいのだが、もうすでに周囲にはそれなりに人の目がある。だが、なんだかうずうずして嬉しさのあまりソラノの腕を軽くポンポンと触る。ちなみに女の子には頭ポンポンはダメらしいですよ。
「や、役に立てれば幸いだ……」
ソラノはリョウの急なハイテンションのせいなのか口をポカンとあけて言った。
「はぁ……いいなぁぁぁぁぁ~」
それを見ていたミズキがため息交じりに言う。
「あたしもソラノの柔らかそうな腕触りたぁぁぁぁぁい!」
ミズキにそう言われると生肌を触ったことに対して急に恥ずかしくなってきた。
「うわっごめん!別になんかそういう意味で触ったわけじゃ……」
「じゃぁ~どぉいう意味よぉ!いいなぁぁぁぁぁぁぁぁ!自分だけ触れるからってぇ!」
「だから別に……ちょっと嬉しくて!」
「触れるのがぁぁぁぁぁ!?」
ミズキはそのまま教室に着くまでリョウをいじり続けた。
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