第42話

 「〝嵐天・突風!!!〟」

 翌日、学校は通常通りに行った。ヤマトはアモルの警護の為に休み、ミズキは普段通りのソラノの警護に戻った。そしてリョウはと言うと……。

 「遅い!もう一回!」

 放課後、公園で約束通り翔子の厳しくなった稽古を受けていた。内容はリョウが飛び上がり、翔子が投げた青いボールを蹴り技である〝嵐天・突風〟で蹴り返すということ。赤いボールは避けなければならず、当たると翔子から〝嵐天・突風〟を食らうというものである。ちなみに今のボールは青で、蹴りは外れてしまった。

 「師匠……。ボール早すぎるって……」

 翔子のボールはぜひ野球で活躍してほしい剛速球で、避けるとか当てるとかそういう問題ではなかった。

 「遅くしたら意味がないわよ。私はあの女からあんたの蹴り技の練度を高めてくれって言われてんだから」

 翔子は不満げに頬を膨らませる。その仕草はとてもかわいい。仕草は。

 「……そこにボールを空中で避けたり蹴り返すって要素は含まれてない気がするんだけど…」

 「あんたこの前マシンフレームとやりあったんでしょ?これからもそういうことになるかもしれないじゃない?」

 「そりゃ……なるかもしれないけど……」

 「弟子が弱くて死なれちゃ私も嫌なの!!」

 翔子は無い胸を張って言う。その表情は真剣そのものだ。

 「この球は銃弾。わかる?」

 いきなり何を言っているんだこの小さい巨人は……。

 「マ・シ・ン・フ・レーム!の!銃弾よっっ!」

 そう言って翔子はボールをぶん投げた。

 「うお!」

 驚いてリョウはボールをキャッチする。しかし、やわらかめのボールなはずなのに手にはジンジンと痛みが伝わる。ちなみにこれは赤いボール。

 「はい、当たったわね」

 翔子はテクテクと近づいてくると、リョウを間合いに捉え、構える。

 「ちょっと待って!今のは俺跳んでない!」

 「一発食らわないとわからないわよ!ふんっ!!」

 そういうや否や翔子はくるくると回って滑らかに〝嵐天・突風〟をリョウの尻にぶち込んだ。

 「いってぇ!!!」

 2メートルは飛んだだろうか。身体が乱暴に前へ押し出されたのがわかった。相変わらず人間の威力ではない。

 「わかった?」

 「何が……」

 これで何か分かったのなら苦労はない。

 「はぁ……。あんたと私の違い」

 「いや、まったく……」

 すると翔子は青いボールを取り出してこちらに投げた。

 「ほら」

 「ひっ」

 また剛速球で来るかと思って身構えてしまった。ついでに情けない声も。緩く投げられたボールをキャッチする。

 「それ私の頭の上くらいの高さに投げてみなさい」

 そう言い、翔子は構える。ボールを蹴り返す手本でも見せていただけるのだろうか?まぁさっきの蹴りのお返しと言うわけではないが。

 「そんじゃ遠慮なく!!!」 

 リョウは全身全霊を込めてぶん投げた。危うく身体に電流を流してしまうかと思ったほどだ。

 「〝嵐天・突風!〟」

 翔子はひょいと飛び上がり、二回転くるくると回り、勢いがついたところで蹴る。その蹴りはちょうどボールに当たり……。

 「ちょ!んがっ!!!」

 リョウの顔面にピッチャー返し。あまりの速さに対応できず、直撃を受けた。

 「いいいいいいってえええええ!!!」

 悶絶。鼻が曲がった、絶対曲がった!顔はやめてよぉ!!!お嫁に行けなくなる!!

 「わかった?」

 翔子はリョウがのた打ち回っているのにも関わらず問う。

 「わかんねぇって!」

 「もー!ここまでしてあげたのにわからないの!?このバカ弟子!」

 やっと痛みに慣れてきて目を少し開けると、翔子は手を差し出していた。

 「……」

 「なによ…」

 「い、いやなんでもない」

 リョウはそれを借りて立ち上がる。

 「いや、わかんねぇってやっぱ……」

 「……あのね、あんたの〝嵐天・突風〟は回りすぎなの」

 確かガオウバインの〝嵐天・突風〟は何回転もして蹴りをぶち込んでいる。翔子もアニメを観てそれを真似ろと言っていた。

 「いや、師匠は2回転くらいで十分威力出てるけど……。俺2回転じゃそんな威力でねーよ」

 「言い方が悪かったわ、時間ね。実戦でそんな回ってたら対応されるわよ?あと当てられないし」

 「じゃあ、どうしたら……」

 「自分で考えなさい!」

 そういうと同時に翔子は赤いボールを投げてきた。ちなみにこちらはまだ跳んでいない。

 「またっ!?」

 跳躍。勢いのまま2メートル近く跳んだ。少し身体を加速させてしまった。

 「ふんっ!」

 翔子はまた赤いボールを投げる。空中で体勢を変えようとするが、腰を少し捻るくらいしかできず、当たってしまう。

 「いや、よく考えたらさ師しょ…うお!」

 着地すると間髪入れずに赤いボール。

 身体を逸らし、ギリギリで避ける。

 「空中で避けるって難しくない!?」

 「そう…!よぉっ!」

 赤。

 「おっと!」

 跳んで回避。

 「わかってんなら跳ぶなぁ!!!!!!!!!!!!」

 翔子は跳ぶのがわかっていたようで手に3つの赤いボールを持っていた。

 「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」

 それを射出機の如く連続して投げる。全部命中。

 「ダメ弟子!」

 「でも跳んだときに避けろって言っただろ師匠!」

 リョウは不満を露わにしながら着地。この短い間に何回跳んだんだろうか。トランポリン競技でもあるまいし、むちゃくちゃな回数だ。

 「青は空中で蹴り返せって言ったけど、赤は避けろとしか言ってないわよ!」

 「詐欺だ!!!」

 「うっさい!」

 翔子は青をリョウの頭上に投げた。ここで全身に電流を流し、加速させる。

 跳躍。

 さっき翔子が言っていたことを守れば……。

 「〝嵐天・突風!!〟」

 空中で回転。回転。

 勢いは付いていないが、ボールが適切な位置に来た瞬間が見えた。狙える。さっきとは違う。

 命中。

 「っしゃあっ!!!」

 あれだけ当たらなかったものが当たると、ここまでうれしいものか。ボールを蹴るだけなのに……。

 喜びに浸りつつ着地する。と。

 「ふんっ!!!!」

 「いって!」

 翔子のジャストミートな蹴りが待っていた。加減したのか吹っ飛ばされはしなかった。が、痛い。

 「威力がない」

 「めっちゃ痛いですけど」

 「あんたの技がよっ!」

 今日の翔子は辛口すぎる。それだけ真剣にやっているということだろうか……。それにしても厳しすぎない?師匠にも60年前くらいに日本がやってたゆとり教育を採用してください。

 「たった2回転じゃ、さすがにそんな勢いつかねぇし……」

 「じゃあ、どうしたらいいのか考えることね」

 「うぅぅむぅぅ」

 リョウはミズキのように唸っていると、翔子はボールを一個一個拾い始めた。黙って見てるわけにもいかないので、リョウも手伝う。良い弟子だ。

 「今日はもうこれくらいにしておいてあげるわ」

 「え、マジ?」

 まだこれからに時間はやるものかと思っていたので意外だ。思わず笑みがこぼれてしまう。

 「どうやったら少ないで威力が出せて、正確にボールを蹴られるのか考えてきなさい」

 心なしか、翔子のいつもの勢いが感じられない。というか、明らかに元気がない。

 「師匠?」

 「私は、あんたの師匠なのよ」

 「ん???わかって……るけど」

 今更何を言っているんだろうか?言葉づかいとか?もっと敬えってこと?

 翔子は集めたボールを持ってきたケースに入れた。リョウもそれに従い、入れる。これで全部集めたっぽい。ふと気がつけば、陽ももう落ちようとしていた。

 「なんでもない!明日も厳しく行くからね!覚悟しなさい!!!!」

 先ほど感じた勢いのなさなどどこかへ消え、いつもの翔子に戻っていた。

 「う……はい……。考えてきます」

 「よろしいっ!」

 翔子は幼稚園の先生のようなゆっくりとした言い方で、にっかりと歯を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

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