第40話
※※オーコックス・インダストリー 食堂※※
リョウとアモルは昼前まではガオウバインを観ていたのだが、暑さに耐えかねて食堂の座敷になっている所へ移った。それから数時間。すでに日が暮れてきている。今32話。
「そろそろ休憩しようか、アモルちゃん」
「いや、もうちょっと……」
先程、31話でアモルが好きだったキャラのテファが死んでしまったあたりから、目の色が変わった気がする。
「いや、今ちょうど切りがいいし、飲み物でも飲も?」
「…わかった……」
アモルは渋々承諾。それを見てリョウは立ち上がり、飲み物を取りに行く。
ここの食堂はドリンクバー形式になっており、好きな飲み物を選択してボタンを押すことで、ナノマシンで自動的に決済されて飲み物が出てくる。しかし普通のナノマシンがないリョウにはそれが出来ない。
なので。
「すみませーん……」
食堂のスタッフの方に声をかけるのだ。これがなかなか恥ずかしい。食堂のなにもかもがほとんど自動で行われていてスタッフさんに助けを求める人なんていない。
「はいはーい」
リョウの呼びかけに快く応えてくれたのは、白いエプロンがよく似合う短髪の爽やかな男性だった。川岡さんだ。というかいつも川岡さんが反応してくれる。
「お、何か食べるの?稲葉君」
川岡さんはいつもにこにこ。
「いや、今は飲み物が欲しくて」
「だよねぇ!稲葉君は晩ご飯いつも遅いしね」
「あはは…そうそう」
「で?何飲むの?」
「コーラと…」
リョウは少し止まった。アモルの飲み物は何にしようか?何だか好きな飲み物があった気がするんだが、そこまで気にしていなかったせいで思い出せない。
「コーラで」
「結局コーラ2つだね」
川岡さんはにこにこツッコミ。
「はい、すみません」
そう笑いながら言って小銭を取り出す。
川岡さんはそれを受け取ると、ドリンクサーバーを操作してコーラをコップに2杯注いでくれた。
「はい。って…今日はソラノちゃんと一緒じゃないの?」
「今日は違いますよ。別にいつも一緒ってわけじゃないですから」
「付き合ってるんでしょ?」
「っ!」
リョウは言葉が詰まった。
「アレ?違った。あはははははは」
川岡さんはケラケラ笑う。わざとなのか天然なのかよくわからない。
「別に付き合ってるわけじゃ……」
「ふーん。まぁ、色々あるよね!」
川岡さんは少しいじわるに笑って肩を叩く、おかげで片方のコーラがちょっと零れた。これは自分が飲むことにしよう。
「では…」
「うん。また何かあったら言ってね!」
「あはは……」
リョウは若干逃げる様にその場を離れた。
「お待たせ~」
リョウはアモルのいる座敷へそそくさと上がる。
「リョウお兄ちゃん!遅いよ!」
アモルさんはご立腹。頬一杯に膨らませている。
「ほらよっと」
リョウはアモルの目の前にコーラを置いた。
「……」
「どうした?」
アモルはコーラを前にして固まっている。
「このしゅわしゅわは……炭酸飲料じゃあないか!」
リョウの方を勢いよく向いて声を荒げた。
「コーラだけど……ダメだった?」
「炭酸飲料は飲んだことがないんだよ」
アモルはまるで目の前に毒物でもあるかのように語る。
「マジかよ……美味しいぞ?」
「ママが、果汁100%のジュースしか飲んじゃダメだって…」
「マルナさんが?」
アモルがコクリと黙って頷く。
リョウは小さくため息を吐いた。なんだかマルナらしいというか、なんというか……。
「飲んでみ!」
「でも、ママが」
「飲んでみ!!黙っといてあげるから」
「う、うん」
アモルは慌ててコップに口を付けた。ごくごくという音が聞こえる。
「ぷはっ」
「どう?」
アモルはしばしの沈黙の後、意を決したかのように口を開く
「おいしいね」
「だろっ!?」
リョウは居酒屋の鬱陶しい客のように言い、コーラを飲む。なんだか嬉しい気持ちで飲むと、炭酸のノド越しが気持ち良くて一気に飲んでしまう。これが仕事の後にビールを一気飲みするおじさんの気持ちだろうか、もしそうなら少しわかる気がする。
「カーッ!」
最早おじさんだ。
「その掛け声は炭酸飲料を飲んだ後に言うセリフなのかい?」
「これは……」
アモルが目を輝かせて言う。
「そう!コーラを飲んだ後の掛け声!ちょっと待って!」
リョウは急いでコーラをまた取りに行き、川岡さんに微妙な顔をされながら座敷に戻る。
「一緒に一気に!」
「う、うん!!」
二人は体育会系のノリでコーラを一気飲み、ノド越しに耐えながら胃に流し込む。目をめいっぱい閉じてぞれを全身で感じる。
「「カーッ!」」
リョウとアモルは同時に飲み終わり、二人で叫ぶ。
「どう?美味しいしスカっとするだろ?」
「……」
「ん?どうした?」
アモルは難しい顔をして黙ってしまった。まさか炭酸飲料で具合でも悪くなってしまったのだろうか?
「げぷ」
何とアモルはかわいらしいゲップをしたのだ。そしてじわじわと自分がしたことに恥ずかしくなってきたのか、顔が真っ赤になっていった。
「僕はなんてことを……」
「気にしなくていいよ。炭酸を飲んだら出るもんなんだから」
「リョウお兄ちゃんは出ていないじゃないか!」
アモルは必死に食らいつく。よっぽど恥ずかしかったのだろう。
「たまたまだよ。今度また飲んだ時に出すからさ」
「むー…」
アモルは納得のいっていない模様。
「ほら、そろそろ部屋にも戻らないとマルナさんに怒られちゃうよ」
「う…うん、それもそうだね…」
その言葉を聞くとしぶしぶ立ち上がる。というかリョウ自身、そろそろ返さないと怒られちゃう。食堂には晩御飯を食べる為に、ちらほらと社員が現れてきていた。
「リョウお兄ちゃん」
「ん?」
「今日は楽しかったよ」
アモルは本当に楽しそうに笑う。心なしか無邪気さと言うか笑い方が本当に年相応の笑顔に見えた。
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