第38話
その日の昼休みに翔子は来なかった。とりあえずチャットで今日の稽古には行けない旨を送信した。そして、竜次は一日中雪羽のデート相手と当日着て行く洋服をあれこれ悩んでリョウに相談していた。そのせいで相手が自分だという事も言い出せず、学校が終わってしまった。まぁそれが無くても切り出せたのかは怪しいものである。
「……帰るぞ。リョウ」
帰りのホームルームも終わって、カバンに荷物を詰めていると後ろからソラノが言った。
「お、おう」
すると竜次がこちらへ歩いて来た。
「稲葉ぁ。今日さ、付き合っ―――」
「無理」
即答。
「全部言ってね~だろぉ?」
「今日は他の用事があんだよ」
「ソラノさんと?」
「いや……」
いらないところで勘が鋭い。その言葉のせいで雪羽の動きが止まる。耳だけはしっかりこちらを向いているようだ。
「山田君」
そこで口を開いたのは意外にもソラノだった。
「ほえ?」
不意に竜次の言うところの校内トップの美人さんに声をかけられたので、間抜けな声を出してニヤけた。きもっ。
「今日はリョウに買い物の荷物持ちとして付き合ってもらう約束をしているんだ。すまない」
ソラノは冷たいトーンの声で「お前は来るな」という雰囲気を込めて言い、その後に殺人的な微笑みを繰り出す。これで竜次くらいの男子は笑顔が見られたから満足するはずだ。
「それなら仕方ないよね…。また今度な、稲葉」
「お、おう……また、ごめんな」
竜次は諦めて他の友人のところへ向かった。ソラノに微笑まれて嬉しそうに。よかったね。
「行くぞ、リョウ。じゃあまた明日、雪羽」
「……うん」
雪羽の返事がやけに小さく聞こえた。
「何かすまん」
リョウはとりあえず山田を追い払ってくれたことの礼を言った。
「何がだ?」
ソラノは何のことか本当にわからないようで、きょとんとしている。とりあえずそんなやり取りをしながら教室を出て行く。
「リョウ、雪羽と遊びに行くのか?」
ソラノが靴を履き替え、校舎を出た瞬間に言った一言はそれだった。隠すつもりもなかったが、背筋が凍った。何で凍るんでしょう。
「え」
「さっき話していただろう?」
「…まぁ……」
「そうか」
「いつだ?近々か?」
「いや、月末」
「いつアモルが襲われるかわからない状況によく遊びに行けるな」
言わずもがな怒っている。ソラノの歩くペースも少し早歩きな気がする。
「なんか、断れなくてさ……」
「きみは私が襲われている状況でも、断れなかったらそっちを優先するのか?」
「んなわけないだろ」
「どうだか……」
ソラノはいつも冷静かつ論理的に話し、相手を論破するのに、怒ると無茶苦茶な事を言うところがある。
ほとんど口喧嘩のような形で校門への道を歩いて行く。もうすぐ校門。
「わかったよ、断るからさ!」
「私はそんなことをして欲しいんじゃない」
「……」
「だいたい雪羽―――」
ソラノがそう言いながら校門を出ようとした瞬間だった。
「―――――――――ホントに帰る気だったのね……」
「―――ひっ」
殺気を帯びた冷たい氷のような声に、リョウは思わず声を出してしまう。
恐る恐ると声の方向を見ると、校門に寄り掛かって殺意の波動に満ち、腕組みをしている翔子がいた。
「…バカ弟子……今日は楽しみって言ったでしょ!?」
「あはは」
これはどう立ち向かえばいいのかわからない。どう出ても殺される。そう思った。
「師匠、今日はホント大事な用があって」
「この女と帰るのが大事な用だってこと?」
翔子はソラノを見ずに指差す。
「……」
ソラノの眉が少し上がった、そして、天上人が地上人を見下すかの如くの目で口を開いた。
「マメ頭」
「―――っ!」
翔子はすごい形相でソラノを見た。そして、プルプルと震えはじめた。
「また……!また言ったわね…!?全デカ女…」
「今日は、私を守るために一緒に行動しないといけないんだ。悪いが、リョウは暇じゃない」
「はぁ?アンタを守る?何でそんな事しなきゃいけないのよ!?自分の事は自分で―――」
「察しろ、キミなら意味がわかるだろう?」
ソラノは一際冷たい声で言った。翔子は前にアマテルのアイギスという男と戦っている。その事でリョウが普通の状況下にある人間ではないというのはわかっているはず。それで「察しろ」という言葉を使ったのだろう。
「……」
翔子もその言葉が効いたのか、押し黙る。
「デカ女……またなんかバカ弟子を巻き込んでるの?」
「その言い方は気に入らないが、状況的にいい状況ではないのは確かだな」
「回りくどい言い方ね」
「そうか?」
二人のやり取りの間に全く入ることができない。怖い。何この二人、武将か何かなの?
「ちょうどよかった。昼休みにキミが来た時にでも話そうと思っていたんだが、来なかったから忘れそうだった」
「何よ……」
翔子は寄りかかっていた壁から背中を離し、腕を組んだまま仁王立ち、ソラノを睨む。
ソラノはゆっくりと口を開いた。
「もう帰る準備は出来ているのか?」
「は?」
意外な質問に少し拍子抜けしたようだ。
「もう帰る準備しているのか?」
「ま、まぁ……カバンは持ってきてるわよ…」
「そうか、じゃあ帰ろう」
「へ?」
「聞こえなかったのか?一緒に帰ろうと言ったんだ」
「ソラノ?」
余りにも予想外の言葉だったのでリョウも思わず間に入る。
「リョウは後ろを少し離れてついて来ていてくれ」
「へ?いや、でも、それじゃ護衛の意味が」
「……いいからっ」
ソラノは少し語尾を強める。
「わかった」
リョウは気圧されて返事をしてしまう。まるで従順な犬だ。
「行くぞ、マメ頭」
「その呼び方やめなさいよね!デカ女!」
「…じゃあその呼び方もやめるんだな…」
「あんたねぇ!!!」
ソラノと翔子、二人は並んで歩きだす。リョウはその後ろを距離を開けて歩いた。
「ふー…」
リョウは短くため息。まさかこの二人が並んで歩くとは、夢にも思わなかった。
※※
「何話してたんだ?」
リョウとソラノは翔子と別れ、オーコックス・インダストリーへ帰っていた。
「なんでもない」
「あんだけ話してて?」
ソラノと翔子は歩いたり止まったりして、実質30分以上は話していたはずだ。何でもない訳がない。
「リョウ、きみは女が秘密と言っているのに無理矢理聞き出そうとするのか?」
言葉はキツかったが、ソラノの機嫌は意外にも良さげだ。本当に何があったのだろうか。
「……」
「リョウ、そんなことよりも、来週からマメ頭の稽古はきつくなるぞ」
「あぁ…わかった…。って、え!?」
「そういうことだ」
それはソラノが翔子にそうするように、というような事をさっき言ったという事か?
「なぁ、ソラノ……ホント師匠に何言ったんだよ?」
「安心しろきみにも私にも有益な事しか話していない」
「その結果で稽古がきつくなんの?」
「そうだ。ちなみに明日までは稽古を休んでいい。それも話しておいた」
稽古自体は自分が強くなる為にやっているのだが、今の状態でもきつい。それが更にきつくなるなんて……。
「ハハ…」
笑いが出てくる。死んだな。
「何を笑っているんだ」
「ソラノは絶望を前にして笑いが出る事は無い……?」
ソラノは答え辛そうな表情。リョウはその表情を見て、やっと自分の発言がまずかった事に気が付いた。
「あ、ごめん」
「いいよ。でも……リョウ、本当に絶望を前にした時、笑いなんか出ないよ…。声すら出ない。何も」
「……」
ソラノの言葉に辛い重みが滲み出ていた。リョウは自分の軽率な言葉に後悔した。本当に絶望に直面してきた人間に軽々しく言う言葉ではなかった。そして、雷姫の時も絶望を感じただろう。
「そんなに重い顔をするな。私は今、絶望していないんだから。それでいい」
ソラノの顔はすっきりと綺麗な顔をしていた。いや、いつも綺麗なのだが、なんとなくいつも以上に感じた。
「そっか……」
「うん…。あ、そうだ…リョウ!」
ソラノは何かを思い出したように言う。
「ん?」
「雪羽の件、私は何も思ってないし、何も言わないからなっ!」
そう言って、ソラノは少し早歩きで先に行ってしまった。
「………もう言ってるじゃん」
リョウはそうぼやいてソラノを追いかけた。
※※オーコックス・インダストリー社屋1階中庭※※
オーコックス・インダストリーの社屋には、建物で四方を囲まれた中庭がある。そこは会社の入り口からも少し遠く、初めて会社に入った人間ではすぐにはわからない位置にあり、社員もあまり利用しない。しかし、清掃も整備も行き届いていて非常に過ごしやすい。
ミズキとアモルはそこに居た。
「おっかえりぃ~!」
ソラノとリョウの姿を見るや最初に声をかけてきたのは、このくそ暑い中、生地が厚そうなブレザーを着たミズキだった。
「何をしているんだ……こんなところで」
少し戸惑い気味にソラノは言う。
ソラノの言っている事はもっともだ、確かアモルは移動制限が設けられていたはずだ。今までこんな時間に外に出た事は無いだろう。
そう考えていたりしてると、アモルがニコニコしてこちらに歩いて来た。
「何をって、アモルは外の空気を吸いながら本を読んでいるんだよ」
「もうねぇ、あたしが護衛してるからぁ、別にビクビクしてる必要ないってわけぇ。ていうか、ずっとあんなとこで本なんか読んでいたら腐るわよいろいろぉ、ねぇ?アモルぅ」
ミズキがそう言うとアモルも同調してにっこりと笑う。これが女の友情なのだろうか。
「あー今まではマルナさんとか戦えない人が付いてたから、移動に制限とかあったってことか…?」
ミズキが一緒なら関係はない。戦闘員としては申し分ないはず。
「ママも安心してお仕事ができるからこっちの方がいいだろうね」
アモルはそう言ってベンチにちょこんと座って、本を開いた。
「アモルちゃんは何読んでるんだ?」
「……?これだよ」
アモルが本を閉じて表紙を見せてくれる。それは【赤ずきんちゃん】だった。
「…意外だな」
「そうかい?」
「もっと畏まったもん読んでたのかと思った」
「失礼だね。これはアモルの愛読書だよ!?いつも読んでいるんだ」
「その本、この前も読んでたよな?」
「そうだね」
そう言ってアモルは本を開く。
「……」
リョウはその姿をジッと見ていて、何か違和感、引っかかるところがあった。それが今、何の事なのかはよくわからなかった。
わからなかった…。けれども。
「アモルちゃん」
リョウはそう言って無慈悲に絵本を取り上げる。
「!?何をするんだ!リョウお兄ちゃん!返してくれ!」
アモルは丁寧且つ可愛らしいお声で怒って本を手で追う。
「この絵本もいいけど、同じのばっか読んでいてもつまらんだろ?」
「アモルはこれでいいの!」
「だーめ、俺がもっと面白いもん見せてやるから。これは預かっとく」
「そんなものはいい!アモルはそれを読んでいないといけないの!」
アモルの言い回しが気になるが、アモルの歳で絵本ばっかり読んでいるのが気に入らない。もっと素晴らしい作品に触れさせていかなければ。そう思った。
「真国」
「ん~?」
ソラノと何か話していたミズキが、こちらも見ずに返事をする。まるで公園で子供を子供同士で遊ばせといて自分はママ友と喋る母親のようだ。ミズキママ~。
「明後日は俺もアモルちゃんの面倒を見るんだよな!?」
「そうねぇ。たぶんそこまではヤマト達も休ませときたいし…」
「明後日の土曜日は俺に預けてくんない?」
「えぇ?」
「何を言っているんだ!」
その言葉に一番驚いたのはもちろんアモルだ。
「変な事しないぃ?」
「わかってんだろ?何もしないって」
ミズキのホークアイでアモルとリョウの会話は聞こえていたはずだ。だいたい何がしたいかわかっているはず。
「いいわよん。あたしもそろそろソラノ不足だしぃ?むふふ……」
ミズキは何とも言えない気持ち悪い笑み。ソラノの顔が引きつっていた。
「ということで、明後日は俺が面倒見るからな」
そう言ってアモルの頭を撫でた。
「アモルを子供扱いするな!」
アモルは本当に鬱陶しそうに手を跳ね除けたのだった。
翌朝、リョウは真っ先にアモルの部屋へ行った。アモルはガラス張りのあの部屋にポツンとあるベッドに座っていた。
リョウを見つけると「なんでここに居るのか?」という風な目でこちらを見てきたが、一瞬で理解できたらしく。うんざりした目に切り替わった。
「そんな嫌そうな目で見るなよ」
リョウはガラスの部屋に声を流すマイクに言う。
「別にそんな目で見ていない。それよりもまず言う事がないのかい?」
こちらのスピーカーから声が聞こえ、アモルはぷくーっと頬を膨らませる。
「おはよう」
「おはよう。リョウお兄ちゃん」
アモルはやわらかい笑顔でそう言ったのだった。しゃべり方を抜きにしたら本当にかわいらしい小学生だ。とてもあの暴走する巨大な狼だったとは思えない…。
「それで?今日は学校じゃなかったのかい?」
「学校に行く前に…これ!」
リョウはポケットから小さなメモリーカードを取り出した。
アモルは不思議そうな顔をしている。何のことか理解できないようだ。
「これ、俺が帰ってくるまで観といてな!最初は受け付けないかもしれないけど、絶対ハマるから!」
「なんなんだい?それは…」
「いいからいいから!んじゃ!置いとくから!!」
アモルに無理やりメモリーカードを押し付けるかたちで部屋を出て行った。
その日の学校は、特に何事も無く終了した。翔子は押しかけもせず、放課後待っていたりもしなかった。竜次はいつものようにニヤニヤとプレオープンの事を話していたし、雪羽は思いのほか静かだった。昨日の夜、チャットなんかでやり取りはしたし、話す事もなかったのかもしれない。と自分で結論付ける。
帰りもソラノはいつものような口数で、特段なにもなかった。
オーコックス・インダストリーに着くとリョウとソラノの二人はアモルのいる地下A階へ向かった。例のガラス張りの部屋がある部屋に入ると、アモルの姿がなかった。
「?…アモルは?」
ソラノは仕事の報告を催促するように誰となしに言う。
「おっ帰りぃ」
ミズキが椅子に座っていて、こちらに元気よく手を振った。
「ただいま、ミズキ」
「おつかれ。真国」
「稲葉リョぉ~。アモルに何あげたのぉ?」
「え?メモリーカードだけど」
「じゃなくてぇ、中身ぃ!」
ミズキは口を大きく開けて言う、美人はどんな顔をしても様になる。
「……アニメ」
リョウは小さく死に際の言葉のように言った。ミズキは聞こえているくせに手を耳に当ててさらに大声で。
「なにぃ!?聞こえないぃ!」
「ガオウバインのアニメだよ!全話!特別編!OVAも入れた!何か文句あるのかよ!?」
「あれ」
ミズキは目でガラス張りの部屋を示す。そして、そこにいた女性スタッフもやれやれという風に微笑みながら部屋に入ったばかりのソラノ達からは死角になっている床を指差した。
「ん…?」
ソラノとリョウは指差された床を見ると、そこには床に座ってパソコンの画面をジッと見ているアモルが居た。
「今朝からずっとあれなんだけどぉ……」
ミズキは呆れ顔。
「マジか」
「マルナが少し怒ってたわよぉ?」
ミズキは歯を見せて笑う。意地悪な目だ。
「まさかそこまでハマるとは……。そんなに面白かったんだな……うん」
リョウは自分にそう納得させる。自分が薦めたアニメをこうもハマってくれると嬉しいものだ。
「真国、部屋に入っていいか?」
「何する気よぉ~?」
ミズキの目はまるで変態を見る目。
「一緒に観るんだよ!アニメ!」
「そぉ?じゃあ任せてもいいかなぁ?あたしはソラノに付くからぁ、むふふ」
「わかった、じゃあ交代だな」
「……」
ソラノは勝手に話を進められて不満そう。
「ほぉらぁ!そんな顔しなぁい!行くよぉ!」
ミズキはニコニコしてソラノを急かし、部屋を出て行った。
「じゃあな、リョウ。またな」
「おう、またあとで」
リョウはソラノを見送ると、アモルのいるガラス張りの部屋へ入った。
スライド式のドアが開き、リョウが入るとアモルは一瞬だけ入り口の方を見て、画面に目を戻した。
リョウも集中したい気持ちがわかるので、そっと隣に座った。
画面を見ると恐らくガオウバインは中盤に差しかかろうとしていた。逆算すると本当にずっと観ていたことになる。なんて集中力なのだろう。
「そろそろ休け…」
「……」
この話が終わってから話しかけるようにしよう。そう思った。
※※20分後※※
次回予告をしっかりと確認して動画を停止したアモルはゆっくりとこちらを向いた。
「アモルちゃん、どうだった?」
リョウは挨拶もなく言った。
「うーん……そうだねぇ…」
アモルは小さな腕を組んで唸り、口を開いた。
「ストーリーはしっかりとしてるんじゃないかな?だんだんとこう…引き込まれていったねぇ…いや、良い物をオススメしてもらったよ。リョウお兄ちゃん」
「そうですか。ありがとうございます」
何故か敬語でお礼を言ってしまう。
「うん」
アモルはそう言いながら次の話を再生しようとする。
「おっと」
リョウはアモルの手を止めた。
「何をするんだい?リョウお兄ちゃん」
「まだ観るの?」
アモルはコクリと頷く。
「何時間一気観する気なんだよ…」
「ダメかい?」
何か問題でも?という感じで言うところがまた怖い。
「マルナさんも心配するし―――」
「その通りよ。もうやめなさい」
スピーカーから聞こえた声はマルナのものだった。ガラスの向こうでマイクに向かって話している。相変わらず淡々とした物言いだ。
「…はい」
アモルは大人しく返事をした。
「稲葉君…ちょっといいかしら?」
リョウがマルナの方を見ると、とても友好的ではない目をこちらに向けられているのがわかった。
「はい」
リョウも大人しく返事をしたのだった。
「なんでしょうか」
ガラス張りの部屋を出て、マイクの前に座るマルナにリョウは言った。もちろんマイクは切っている。
「なんであんな事したの?」
「……?あんな事って?」
若干わかってはいたがとぼけてみる。マルナは足を組み直して口を開いた。
「あのアニメのことよっ!」
「いや、いつも同じ絵本を読んでいたので……」
「あの子はあれでいいのよ」
「すごく楽しそうでしたよ?ていうか同じ絵本読んでいても面白くないと思ったので」
「…あの子はあの絵本が好きなの、あの子が言っているんだから…それに余計な感情を入れたらまた暴走するかもしれないし、あんなアニメなんか見たら自分がどんな能力なのか気が付くかもしれないでしょ?」
「それは考えすぎじゃ……」
「あの子はまだ子供なのよ……不安になるような事、させないで。あとでメモリーカードを回収してきて」
「……」
それは考えすぎ、過保護すぎるのではないか?
「あと、本も取り上げたんでしょ?返しておいて」
「……」
「何か言いたい事でも?」
「まぁ…。わかりました」
リョウは不満の意思を隠さずに言い、そのまま一礼、アモルのさっさと部屋に入った。
「アモルちゃん」
アモルは部屋の真ん中あたりのテーブルで夕食をとっていた。ゆっくりとこちらを見上げる。
「ママは怒っていたかい?」
「はは……まぁね…。……ガオウバインは明日にしようか……」
メモリーカードを取り外す。最後の方を小さく言ったのはマルナに聞かれないためだ。
「うん…。明日も……いいのかい?」
「しー」
アモルは理解したようで何も言わずに頷いた。そして、リョウの袖をクイクイと引っ張った。
「どした?」
「本を返してくれ」
「あぁ…」
リョウはそう言ってカバンから絵本を取り出した。
「ごめんな、忘れるとこだった」
絵本をテーブルに置く。アモルの夕食はグラタンとサラダ、それに何かの飲み物だった。サプリも数種類置いてある。食べ物自体は美味しそうだったが。なんだかさみしそうだ。恐らくマルナが作ったモノでもないだろう。
「美味しいか?」
「うん」
そう言ってグラタンを口にする。
「…」
リョウはアモルの頭に手を置いた。
「明日、また来るから」
リョウはなるべく優しく言ったのだった。
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