第34話
リョウとソラノ、そしてリンはその後、隣の部屋へ移った。
「昨日は大変だったわね。リョウくん、あなたが居なかったら危なかったわ」
リンはテーブルに四人分のコーヒーを置きながらそう言った。あとで誰か来るのだろうか?
「いえ…まぁいきなり殺されかけたので、焦りましたけど。それより……」
「アモルのことだろ?」
隣に座ったソラノがこちらを向いて言う。
「あの小さな女の子…が?昨日の化け物なのか?」
「そう、アモル…あの子が幻実のアプリエイターで、そのナノマシンが暴走した姿が昨日の化け物だ」
「…質問いい?」
「なんだ?」
隣に座るソラノは相変わらず距離が近い。ソラノの方を向くと顔がかなり近く。少しのけ反った。
「どうした?」
リョウがそんな状態に陥っているのはわからないだろうソラノは怪訝な顔をする。
「なんでもない……。んで、質問だけど、昨日の化け物は最期、粉にならなかった?」
「あの中に埋まっていた。それを回収した」
「俺、下手したら殺してた?あの子……」
首を消し飛ばしたのだ。あんな女の子が正体だったとも知らずに、知っていたらまた別の方法を考えていたかもしれない。ソラノが来るまでは自分も殺されかけていたから、反撃に手加減なんかしていなかった。それこそ殺す気でかかっていた。その時に殺してしまっていたら、中身のあの小さな女の子を殺してしまっていたかもしれないかと思うと、少し怖くなった。
「そうだな、最後に胴体にでも一撃を入れるか、電撃を流していたら…死んでいたかもしれないな」
「……そ、そか」
リョウは目の前のコーヒーカップに視線を落とす。
「結果は殺していないんだ。それでいい。というか、もうそれしか方法がないと思っていた。きみのおかげで彼女も助かったんだ」
そう言って、ソラノはリョウの手に自分の手を置こうとしたが、一瞬躊躇し、できなかった。その様子を黙って見て、リンは微笑む。
ソラノは気を取り直して続ける。
「彼女のナノマシンは、周囲の構造物を分解、吸収し、自分の周囲に再構成するナノマシン。再構成する場合、任意の物体、また、自分の身体へ再構成する場合も、任意の容姿に構成することができる」
「えっと…つまり……?」
リョウが難しい顔をして言う。あまり理解が出来なかった。そこにリンが補足してくれた。
「変身みたいなものよ。昨日の人狼のような姿みたいにね。周囲に再構成するときは…そうね。床に壁とか棘とか作ってみたり?」
「なるほど」
リンはリョウの真正面のソファに座った。スカートのスリットが意外に深くて太ももに目が行ってしまう。
ソラノはそれに気が付き、リョウをジト目で見ながら口を開く。
「再構成されたものは分解、吸収したものを元にして作るから、まったく人狼そのものにはなっていなかったはずだ」
「そういえば蹴った時にプラスチックとかそんな感じのもん蹴った様な感覚だった」
「それは周囲の物質から身体を構成したからだ」
「…で?なんで俺にあの子を見せたの?アレが何だったか?って質問だけでわざわざ見せる必要ないよな?」
質問に答える、ただそれだけのことなら内容を病室やカフェで説明すればいいだけだ。あのアモルという女の子を見せる必要はない。
「それはね」
そこでリンが間に入った。
「一昨日の襲撃の件なんだけどね。分かったことがあるの。まず奴らがイヴ製薬の人間だということ…。リョウくん、イヴ製薬はわかる?」
リョウは首を横に振った。
「まぁ女性用薬品や化粧品の製薬会社だからね…知らないのも無理はないわね」
「すみません……」
「別に謝ることじゃないわ。そのイヴ製薬には一人のアプリエイターが居たの」
どうにもアプリエイターという単語に反応してしまう。自分の人生を変えてしまった言葉、存在。
「そのアプリエイターは軍事的な利用はされずにイヴ製薬に監禁。利用され続けていた」
「ナノマシンを?」
「ええ…彼女は
「演じる?」
ただ単に他の物質になり代わるなら、役割を【担う】やただ単に【代わる】でいいはずだ。
「そのままの意味。ナノマシンが演じているの」
「?」
意味が解らない。
「…それって…どういう……」
リョウがそう言うとスライドドアがいきなり開く。リョウ達がそちらを向くと、そこにはショートカットの白衣を着た20代中盤の女性が立っていた。
「その先は私が話すわ」
「マルナ。もう大丈夫なの?」
リンが心配そうに声をかける。リンと同じ白衣…どうやらオーコックス・インダストリーの研究員の一人のようだ。
「大丈夫よ。それより……」
マルナはこちらを向く。目の下にくっきりとクマがあるのがわかった。
「紹介するわ、リョウくん。こちら、マルナ・ベールアンヘル室長…人工臓器などの医療部門最高責任者」
「どうも…稲葉リョウです。…ベールアンヘル……」
リョウは座ったまま見上げるように挨拶をする。そして、ベールアンヘルの名に引っかかった。
「あの…さっきのアモルちゃんのお姉さんか何か……?」
「嬉しいわね…違うわよ。私はアモルの母」
マルナは少し笑顔を見せながら向かいのリンの隣に座った。こちらはリンと対照的でパンツルックだ。
「稲葉リョウくん。私みたいな女を喜ばせてどうするの?」
「あっはは…」
リョウは生唾を飲んだ。何というか本物の大人の魅力というか威力を感じた。
「マルナ。続きを…っ!」
ソラノは横から語尾に怒気をこもらせて言う。
「ソラノ、相変わらずの口ぶりね。まぁいいわ……。さっきの話の続きだけれど、演命のアプリエイター…シュルム・ベールアンヘルはアモルの姉だった」
「…アモルちゃんもアプリエイターでしたよね?」
姉妹でアプリエイターだなんて……。しかも監禁されていた……?それに「だった?」
「主に母胎からのナノマシン遺伝によって発生するのがアプリエイターよ。別に二人とも私から生まれたのだから不思議ではないはずよ。そして、稲葉リョウくん、あなたが引っかかっていた演じるという意味は文字通りよ。シュルム自体がナノマシンなの」
「…?」
ますます意味が解らなかった。横のソラノを見る。
黙ってマルナの方を見ている。
「ナノマシンがシュルムを演じているの…もうあの子はこの世にはいない」
マルナはごく普通な目で言う。
「それって……。あの…ナノマシン群体って奴ですか?」
「まぁ意味合いとしてはそんな感じね」
「そんなものアニメとか映画とかでしか…」
「あら?アプリエイターの存在もそう言うものじゃない?」
リョウの投げかけにマルナは不敵な笑みで答える。
「…確かに…。じゃあアモルちゃんもそのナノマシン群体…?」
「いや、それは違うわ。あの子は私たちと同じニンゲンよ」
まるでシュルムはニンゲンではないと言っているようだ。
「マルナ。話が脱線しかかっている。話を戻そう」
ソラノが口をはさんだ。
「そうね、その演命のシュルムがイヴ製薬の施設から脱走したの。それで慌てたのはイヴ製薬の幹部…。今までシュルムを使って人工臓器や新型ナノマシンを作っていたのに、それができなくなってしまった。人工臓器が製造できなくなったら一瞬であの会社は無くなってしまうわ。何せあそこは数年間、人工臓器だけで急成長したところだから。人工臓器はたしかに高価だったけれど、拒絶反応なんかが絶対に発生しない高性能なものだった」
マルナはテーブルに置かれたコーヒーを一口飲む。そして続けた。
「ここからが本題。イヴ製薬は人工臓器の製造を一日たりとも止めるわけにはいかなかった。そこにどこからかシュルムの妹、アモルの所在がイヴ製薬にリークされたの。そして、どこに逃げたかもわからないシュルムを追うよりも所在がわかって性質も近いアモルを捕らえ、人工臓器製造にとりかかった方が時間のロスが少ないと判断して、オーコックス・インダストリーを襲撃した」
「…」
リョウは黙ってマルナの話を聞く。どうもマルナの話に引っかかる部分があった。しかし、今は黙っておく。
そして、横のリンが口を開いた。
「リョウくんにアモルを見てもらって、こういった話をしているのは、あなたにヤマトとガルムが回復するまでの間、ソラノとアモルの護衛になって欲しいからなの。もちろんミズキはこれまで通りに護衛には付くけど、ソラノが学校に行っている間はリョウくん、あなただけに付いてもらうわ。ミズキはここ全体とここにいるアモルの護衛に付いてもらうことになる。そんなに長い期間じゃないわ。2、3日よ。もちろんあなたを日頃、護衛してる人間はいるし、できるだけ協力する。人手不足なのよ」
「あ…はい…それは、大丈夫ですけど。元から俺はそのつもりですし」
リョウはソラノを見る。ソラノはコチラを二度見して無視した。いったいなんですかソラノさん。
「さっきマルナが説明したとおり、イヴ製薬は崖っぷちの状況なの。いつ襲撃が来てもおかしくない。しかもヤマト達が動けないとなるとリョウくんにも手伝ってもらうしかないのよ」
「質問していいですか?」
「なに?」
「アモルちゃんにはソラノみたいな護衛…フィッシュボウルはいないんですか?」
ミズキたちのような護衛を専門としたチームをこの会社では、フィッシュボウルと呼んでいる。
「アモルはソラノと違って、ウチでかなり厳重に秘匿されていたから。その必要がほとんどなかったのよ。ただ、存在と居所がリークされたとなると、これからはアモルにも護衛を付ける必要はあるわね」
「私は元々別の組織にいたからな…。最初から狙われている」
ソラノが言う。なんだかそういう事を聞いた気がする。
そして、リョウは一番聞きたかった事を口にする。
「そのシュルムさん…?がイヴ製薬に掴まっていて、しかも利用されていたのは知っていたんですか?」
「確証はなかったわ……。イヴ製薬の人工臓器の性能から見てシュルムが製造に関わっている可能性は高いと疑っていたけれど」
マルナは表情一つ崩さずに言う。
「それだけでも十分証拠になっていたじゃないですかっ。今までシュルムさんを助けに行かなかったんですか?」
「そうね」
マルナは冷淡に答える。その態度にリョウはムカつきを堪えきれない。
「あなたの娘じゃないんですか?」
「今回の件では、あなたにも護衛の件でも関係ない事よ。ただアモルを護って欲しいだけ」
「……っ!母親でしょう!?脱走したシュルムさんを探したりしないんですか?俺はてっきりシュルムさんが日本にいて、それを探すのを手伝うとか、そっちの方かと思っていましたよ!」
「リョウ」
ソラノがリョウの手首を握る。
「さっきから何か気に入らない!この人!自分の娘が今まで酷い事されていたのにそれを淡々と俺に説明する!」
リョウは声を荒げる。
「シュルムはもういないからよ」
マルナが嫌に低い声で言った。
「……?」
「リョウ。もうやめろ」
ソラノもリョウを睨み、言う。手首を握る力が強くなる。痛くはないがリョウを止めるには十分な存在感だ。
「……」
「ソラノとアモル護衛の件頼んだわよ。リン。あとで彼をアモルに接触させて」
マルナは手短にそう言うと立ち上がる。
「ちょっと!まだ俺は!」
「リョウ!いいから!」
ソラノを見ると黙って首を振った。ここは黙っておけと言っている。
その間にマルナは出て行ってしまった。
部屋に嫌な空気が流れる……。
「リョウくん…。あなたが言いたい事はわからないでもないわ…。でも、それは彼女の問題なのよ」
「私も、リンもあの親子に何があったかは知っている。だけど、勝手に教えてもいいとは思えない」
ソラノはまだリョウの手首から手を離さずに言う。
「何だよそれ……」
「それだけのことなんだ……」
「……。あぁ!…わかったよ!もうあのマルナさんって人も行っちゃったんだし…」
何だか釈然としなかったが、ソラノがこれだけ止めるのだ。無理矢理マルナを追いかけて言いたい事を言う気にもなれなかった。
「ありがとう……」
「いや、ありがとうとか言われたら……。はぁ、ごめん…なんか。カッと来た…」
リョウはうな垂れる。
その後、アモルがいる部屋に戻ったリョウは幻実のアプリエイター、アモル・ベールアンヘルと面会することとなった。
ガラス張りの部屋への扉の前に、リョウとソラノは立っていた。扉を開ける手続きと、アモルのバイタルのチェックが終わるのを待っているのだ。
「一応、数日間だが傍にいることになるんだ。精神を不安定にさせない為にも少し話をしておく必要がある。昨日の暴走も安定しなかった精神が原因だ」
昨日の記憶がリフレインする。正直言って殺されかけたので、今でも自分の攻撃の一手一手が失敗したらと思うとゾッとした。
「あのさ、なんであの子は狼になったの?」
「……恐らくあの子が今一番怖いと思っているモノなんだろう…。特に何って決まったモノではない。今回は何者かに自分が狙われていると感じて、外敵を排除する形態をとったんだと思う」
「あと、普通さ、あのくらいの歳の子どもだったら暴れるしか能がないと思うんだけど…」
「…どういう意味?」
「いや、なんかこう…戦い慣れてるって感じ?考えて行動してた」
「戦いはよくわからないけど、考えているという点ではあの子に会ってみればわかる」
「…?じゃあさ、話戻るけど、怖いモノがマルナさんだったらどうなってたんだ?」
リョウは素朴にそう思って聞いた。
「きみは相当マルナが嫌いだな…」
ソラノがヤレヤレという風にこちらを見る。
「いや、俺はただ単に思っただけだけど…」
リョウは引き攣った笑顔で返す。
「あまりマルナの事は責めないでやってくれ…」
「別にそんなつもりじゃないよ…だけど、ムカついた」
二人がやりとりをしていると。リンが声をかけてくる。
「準備ができたわ。入って」
その言葉を合図に鈍い銀色の扉が炭酸飲料の気が抜ける時の様な音を立て、開く。
「行くぞ、リョウ」
「お、おう」
ソラノがそそくさと部屋に入って行き、それに続いてリョウが入る。
「やぁ、アモル」
ベッドの上にちょこんと座って絵本を読んでいたアモルはゆっくりと視線をソラノとリョウへ向けた。
「やぁソーラーノーム。ひさしぶりだね」
「そうだな…アラスカの時以来か?」
アモルの話し方はなんというかとっても歳不相応だった。
「そこのお兄ちゃんは誰?」
アモルはコチラに視線を向けてニコリと笑う。
「稲葉リョウだ。今日から数日間。私とアモルのお世話をしてくれる」
お世話?執事か何か?
「あ、どうも、稲葉リョウです。よろしくね」
リョウは子供が嫌いでもなかったので、少し姿勢を低くして優しく言った。それこそ保育園の先生のように。
「……」
アモルはリョウとソラノの顔を交互に見る。
「大丈夫だ。リョウも私と同じアプリエイターだ…。敵になったりはしない。私が保証する」
ソラノはリョウの肩に手を置いて優しく言う。何だかむず痒くなった。今日はよくソラノが触ってくる。
「そうなんだね。じゃあ、よろしくね。リョウお兄ちゃん」
「リョウお兄ちゃん…」
少しにんまりしてしまった。決してそういう趣味ではないが。この可愛さは危険だ。
ソラノがジッとこっちを見ている。
「俺は別にそんな趣味じゃないぞ」
ソラノがいらない勘違いしそうなので釘を刺しておく。
「ん?何の事だ?」
「おっと?違ったか?」
そういえばソラノはそういった趣味を持った人間がいるという事すらわからないだろうな。
すると横から幼い声でアモルが言う。
「ソーラーノーム。さっきのリョウお兄ちゃんの言った趣味と言うのはアモルの事を見て性的に興奮を覚える変態の事だと思うよ」
「……」
アモルが余りにもペラペラと普通に喋るせいで何とも反応が出来なかった。
「あぁそれなら十分わかっているぞ。リョウはそんな趣味ではないはずだ」
安心したが何だかいろいろと文句が言いたい気持ちだ。
「ねぇソーラーノーム。アモルはいつになったら出られるの?」
「そろそろ出られると思うぞ。精密検査の結果も良好なようだし」
アモルは嬉しそうに笑った。
「昨日の今日で出られるのか?」
リョウはそう言いながらソラノを見る。
「…」
そうだった。
リョウはこの部屋に来る前、ソラノにある事を言われていた。
※※少し前、地下A階通路※※
「リョウ」
「ん?」
アモルが待つ部屋へ行く途中、ソラノが思い出したように話し始めた。
「昨日の件なのだが…。アモルには言わないでくれ」
「…?もしかして…。覚えてないの?昨日の事」
「あぁ…覚えていないらしい」
「自分がアプリエイターだってことは?」
「それは知っている。しかし、自分が何のアプリエイターかは教えていない。昨日、アモルが何をしたかを知れば、かなりの精神的なストレスになりかねない」
「そっか…わかった」
リョウは少し引っかかるモノがあったが、それはマルナにまだムカついているせいだと自分に納得させた。これ以上意見していても話が続かない。
※※戻って、アモルの部屋※※
「昨日の今日?」
アモルは首をかわいらしく傾げて言う。「リョウお兄ちゃんは彼女はいるのー?」とか、「アモルとリョウお兄ちゃんは結婚できるのー?」とかいう質問だったら笑顔で答えてやりたかったが、答えに困ってしまう。
すかさずソラノが助け舟を出す。
「昨日熱を出して眠ってしまっただろう?それでだよ」
「うん。アモルは昨日頭が、ぽぉーってなっていたよ」
アモルは目を大きくして言い、続けた。
「でも、もう大丈夫だよ。元気だもの!」
「そうか、ならいい」
ソラノは笑う。
その表情は安心感を与える。リョウに見せるのとは別な笑顔だった。
「……」
「ん…?どうした?」
リョウがその笑顔を見ていると、ソラノはリョウの視線に気が付いた。
「いや、ソラノの笑顔が…キレイ…だな…と思いまして…はい……」
「……っ」
ソラノは目を見開いて、リョウを見た。少し顔が紅くなっている気がする。
「あいや、別に深い意味は―――…」
「私はアモルに何か飲み物をとってくる。リョウ、余計な事はするなよ……」
ソラノはそう言い残して、小走りで部屋を出て行った。
「……」
「……」
二人が沈黙して静かな部屋でドアが閉まる音だけがやけに響く。
「行っちゃったな……」
リョウはなるべくアモルが退屈しないように適当にそう言った。
「リョウお兄ちゃんとソーラーノームはどういう関係なのかい?」
「どういう……」
リョウは少し考える。もう少し無邪気な話題が飛んでくるかと思っていた。まぁ無邪気と言えば無邪気だが。
「まぁ…そうだな……。俺はソラノがいないとホントの力が出せない。ソラノはわからないけど……。とにかく、俺はソラノのことが必要だよ」
「…ソラノ?」
「あぁ…ソーラーノーム?のこと」
「ふーん……」
アモルは笑顔ともとれるような微妙な表情でリョウを見た。なんだか同い年か、年上の女性と話しているような感覚だ。
「……。アモルはソラノとは付き合いは長いの?」
「いきなり呼び捨てかい?そういうのはもう少し仲良くなってからにしてもらえるかい?」
アモルは頬を膨らます。
「あぁ…ごめん」
「わかってくれたならいいよ」
アモルは気を取り直して続ける。
「ソラノとはね、別の施設に居た時に出会ったんだ。それからしばらくは会ってなくて。今日久しぶりに会ったよ」
「アモルちゃんはいつからカントーESSに?」
「アモルはここに来て一年にはなるね」
「じゃあソラノは一か月前くらいからこっちに来ていたけど、アモルちゃんはそれまで接点なし?」
「そうだね。アモルは地下2階までしか自由には行けないんだ。1階にはお昼にママと一緒に上がることしかできない。だから今まで全く会えなかった」
「そうか……」
「そんな事より、リョウお兄ちゃんは一体どんな能力を持つアプリエイターなのかい?」
アモルはまるで御伽話でも聞かせてもらうように目を爛々と輝かせて言う。
「俺の能力は……。基本的には電撃を使う能力だね」
「電撃……。それは珍しいね。でも、もう一人いたよね?」
「雷姫だろ?それは俺が倒した」
ちょっと自慢げにふんすと鼻息を漏らす。
「おー」
アモルは目を大きくして言う。しかし、そんなに驚いてそうでもない、大きくリアクションだけをとったという感じだ。
「でも、電撃を使えるだけじゃアプリエイターだという説明にはならないよね?やっぱり、何か特別なものでもあるのかい?」
「俺の能力はさっきも言ったけど、基本的には電撃。でも本当はまだよくわかってないんだよ。生命力をエネルギーに変換するって言ったらいいみたいだけど」
「…生命力…具体的には?」
よく色々と質問してくる子供だ…。
「び、ビーム出したり?」
「ビーム?」
アモルはまたかわいらしく首を傾げた。
「ま、まぁそんなもん!アモルちゃんは自分がどんな能力なのかはわかってるの?」
何の能力かは本人にはまだ秘密―――。
リョウはその質問をしてしまってから気が付いた。完全に失念していた。
「アモルはまだ能力が覚醒していないから知る必要がないって聞いたよ」
「…そうなのか」
「うん。リョウお兄ちゃんは何か―――」
アモルが何か言いかけた時、スライドドアが開いた。ソラノだ。
両手にはペットボトルのオレンジジュースとコーラらしき飲み物を持っていた。
「待たせたな、何の話をしていたんだ?」
「アモルはアプリエイターの話をしていたんだよ」
「…ん?」
ソラノの顔が少し険しくなる。それはそうだろう。
「あ、俺の能力の話をしていたんだ!知りたいって言われたもんで」
アモルが返事をしないうちに大声で間に入る。
「そうか…ならいい。アモル、オレンジジュースだ」
ソラノは笑顔に戻ってアモルにペットボトルを手渡す。
「リョウにも」
リョウにもコーラを渡してくれた。
「ちゃんとアモルが好きな果汁100パーセントだね?覚えていてくれたんだ!ありがとう」
「ふふ……」
アモルはニコニコしてペットボトルの封を開け、まるで数日間飲まず食わずだったかのように飲む。
「そんなに喉が渇いていたのか?」
「ぷはっ。外に出られない状態になってからというもの、水しか飲み物は飲んでいなかったからね!」
アモルはとても満足そうだ。
「アモル、リョウくんは気に入った?」
リンの声がスピーカーから響く。
「うん。まぁいいと思うよ」
「……」
何とも言えないご感想。
「じゃあアモル。明日からお世話になるんだから、よろしくお願いしますは?」
「む~……」
アモルは無理矢理言わされるのが嫌なのか口を【へ】の字にしている。
「よ、よろしくお願いします……」
嫌そうにションボリ言うところが何だかかわいい。
「こちらこそ」
リョウは笑顔で返した。
「リョウお兄ちゃん。期待しているよ。しっかりと頼むからね」
アモルはベッドから足をプラプラさせて言った。
「ソラノ……」
「ん?なんだ?」
「アプリエイターってみんなこんな喋り方なのか?」
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