第27話

 結局、リョウのスネは完全完璧に折れていた。ミズキにラボへ運んでもらった後、リンに診てもらったが治療用ナノマシンを注入しても完治するまで一日かかると言う。原因はわかりきっている。マシンフレームの首が歪むほどの超加速からの蹴り。いくらリョウがアプリエイターといっても骨までは強化できないのだ。

 「これは…対策が必要かもね…」

 リンは腕組みをして言った。

 ここは襲撃のあった社屋のラボ。あんなことがあった後なので、社員のほとんどが慌ただしく作業している。

 「対策…ですか?」

 リョウは椅子に座って、固定された足をブラブラさせて言う。

 「そう、対策…今後、あんな風にマシンフレームやら強化スーツか何かで襲撃があるかもしれないでしょ?」

 リンは端末を操作しながら言う。

 「だぁいじょうぶよぉ~。あたし達があんな感じで倒すからぁ」

 ミズキがのん気な声で横から入ってきた。一応、ミズキもリンに身体を診てもらっていたのだ。ミズキが使っているカタパルトハンマーは、筋力こそそこまで必要ではないが、やはり身体への負担はあるらしい。メンテナンス的なものが必要なようだ。

 「さっきの連中は素人同然でしょ?」

 リンは少し呆れたように言う。

 確かにそうだった。まずは機体だ。先程の襲撃者たちが乗っていたマシンフレームはオーコックス・インダストリー製の量産機、レヴォルベルという機体だった。これは一世代前の機体で、人間並みの関節駆動と機動力が売りらしい。しかしながら防御力に少々難がある玄人向けの機体なのだそうだ。そんな機体を使って製造元に殴り込みをかけて、成功するはずがない。ましてや隠れていたのが最初からバレていたのだから。

 「まぁねぇ、レヴォルベルだった時点で楽勝だと思ったケドぉ?」

 「確かに今回のは。レベルが低かったわ…。でも次がそうとは限らない…いえ、相手がアマテルだったら機体は違ったはずだし、パイロット自体の練度も違ったはずよ」

 リンは少し強めに言った。ミズキは黙って頬を膨らませる。

 「もしそんな相手が来て襲われた場合、ミズキとヤマトだけじゃリョウくんとソラノを守れないわ…」

 リョウはその言葉を聞いて口を開く。

 「俺は戦うって!」

 「一撃でそんなになるのにぃ?」

 ミズキは小ばかにしたような言い方だ。いじわるな目をしている。

 「これはっ!…俺がバカだっただけだ…。ちゃんとやれば何とかなるよ…」

 「どうするのよぉ?」

 「…電撃流すとか…」

 「あんたねぇ。人間相手ならまだわかるけど、マシンフレーム相手に通じると思う?仮に通じたとしても力使い切っちゃって眠っちゃうわよぉ?」

 ミズキは少し真面目に戻り言う。

 「俺は…ッ!」

 リョウが反論しようとした瞬間にリンが間に割って入った。

 「やめなさい…ミズキ。リョウくん、戦う意思はわかる。でも、ミズキの言うとおり、攻撃をして自分が動けない程に負傷したら意味がないわ」

 「…はい」

 リンにまでそう言われると、もう何も言えなかった。しかし、リョウは続けた。

 「…せめて、雷姫を倒した時のがあれば…」

 アレとは、雷姫と戦闘になった時に発現した力のことだ。雷姫のレールガンと電撃を防ぎ、ビームのような光で消し去った力。ソラノは雷姫から吸収したエネルギーをリョウに移したこと、それがトリガーになったんだと推測している。しかし、リョウもエネルギーの移し方がわかるはずもなく、ソラノも本来はエネルギーを吸収する事しかできないアプリエイターだ。彼女自体もどうやったのかわからないらしい。

 「そのアレはどういう条件で発動するのかも完全にわからないんだし、武器としては不適格ね…。その後二週間も眠ってたんだし…」

 「そうですよね…」

 リョウは肩を落とす。結局は守られるしかないのか…。

 「まぁいいわ…。今日は早く休みなさい…。疲れているでしょ?」

 リンは小さくため息を吐いてリョウの肩に手を置いた。

 「…わかりました」

 リョウはぼそりと言うと、松葉杖をついて立ち上がる。そして小さくお休みを言うと部屋を出て行った。

 「ミズキ…さっきのは言い過ぎよ。リョウくんだって役に立ちたくて此処ここにいるんだから…」

 リンはそう言って、デスクに置いてある、ぬるくなったコーヒーを飲んだ。

 「…もしとか、できれば、とかで生き残れるような甘いもんじゃないのよ。稲葉リョぉがいなくなったらソーラーが悲しむだけなの…。あいつは傍にいるだけでいいのよ。死なれたら困る」

 ミズキはリョウが出た扉を睨みながら言う。

 「あなたはソーラーの事が一番ね」

 「当たり前でしょぉ?」

 ミズキはにんまりとして言い、立ち上がる。

 「ミズキもおやすみなさい」

 リンが寝るのだろうと思って言う。

 「誰が寝るのよぉ」

 「え?」

 「今日の襲ってきた奴らに事情を聴かないと寝られないでしょぉ!」

 ミズキはふんすと鼻息を荒くして言う。

 「…あんまり暴れないようにね…」

 「やぁねぇ、わかってるわよぉ…。あ…」

 「ん?」

 「そういえばぁ、さっき言ってた対策って何ぃ?」

 ミズキが思い出したように言う。

 「具体的にはまだ考えてないけど、リョウくんに強化スーツとか何かを着せるとか?」

 「ふぅん」

 ミズキは口を尖らせる。

 「何?」

 「ちょっと、この前、ミョルニルの調整で開発部に行ったときぃ、面白そうなものがあったと思ってぇ…」

 「ミョルニルの調整ってことはパワードスーツの開発部ね…ちょっと声かけてみるわ」

 「うん、じゃあ、任せたわぁ」

 ミズキは腕をブンブン回しながら部屋を出て行った。

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