第26話

 「付き合い過ぎた…」

 時刻は21時。リョウはオーコックス・インダストリー社屋の前に立っていた。

 「お疲れ様でーす」

 リョウは警備員のおじさんに軽く挨拶をして、扉の横に付いているタッチパネルを操作する。通常はナノマシンのチェックで個人を認識し、自動ドアが開くのだが、リョウの場合は自分の身体に電流を流すたびに体内のナノマシンが焼き消えてしまうので、暗証番号と特別製のナノマシンスキャナーで扉が開くようになっている。

 まさか竜次があそこまで服のセンスがないとは思ってなかった。センスを叩き直すために指導をしていたらつい熱くなってこんな時間になってしまった。結局最終的には、いい感じの服屋さんの店員に予算を言って、コーディネートしてもらった。

 リョウは今、オーコックス・インダストリー社屋内にある社員寮に住んでいる。雷姫騒動の前に住んでいた家には機密保持と、リョウの身の安全の為に帰れていない。一応、情報操作で毎日帰っている事にはなっているようだ。

 「監視の人には申し訳ないなぁ…。すいませんねぇ」

 どこにいるかもわからない監視の人間に言う。たぶん聞こえているだろう。

 最低限の照明になっている社内へ入る。昼間はガラス張りで開放感のある広いロビーも夜になると、ビジネス街ということもあって周りもそれほど明るくなく、寂しさを感じさせる。ちょっとした屋内遊園地でもできそうなロビーはリョウの足音だけが響いていた。社員寮へ繋がる入口まではもう少し歩いたところだ。

 「ん?」

 ロビーの真ん中あたりに来ると、人影をうっすら確認することができた。

 「お疲れ様でーす」

 リョウは社員だと思って、さっきの調子で挨拶をする。

 「お疲れぇ…稲葉リョぉ…。こんな時間まで楽しかったぁ?」

 リョウの知っている人間で「稲葉リョぉ」と呼んでくる女は一人しかいない。ミズキだ。声の調子から機嫌は良くないことが分かった。

 「…ごめん、遅すぎた?」

 リョウは恐る恐る聞いてみる。

 「ううん、別にぃ~。監視も仕事だから文句は無いわよぉ」

 「どうしたんだ…?こんなところに突っ立って…」

 改めてミズキを見ると、仁王立ちをしてムッとしていた。そして、まだ制服のままで、いつもなら光学迷彩で見えなくしているはずのハンマーも姿を露わにして背負っていた。こう見ると二回りほど小さく折りたたまれているのに気が付く。

 「こんな時にあんた、よくフラついてたわねぇ…」

 やはりお怒りである…。

 「え?は?」

 リョウは当然訳が分からない。

 「もういいわよぉ…。とりあえず、あたしから離れないでよぉ?」

 そう言われたので、ほんの少しミズキに近付く。少し男らしくてかっこいいっす。

 「何かあったの?」

 「夕方くらいにぃ…正面玄関から…来たらしいのよぉ…」

 険しかった表情がさらに険しくなった。

 「…え?」

 あまりに意味が解らない返事だったので聞き返してしまう。

 「あたし達が学校行ってる間にぃ!普通のサラリーマンがここに来てぇ!商談じゃなくて、「おたくのアプリエイター下さい」って言って来たんだって!」

 「はぁ?」

 聞いても全く意味が解らなかった。

 「だからぁ!普通にアポイントとってうちに来てぇ!応接室に通したらいきなりそんな話をしだしたんだって!」

 ミズキは怒っているというかイライラしているのだ。それがやっとわかった。そう言えば怒っているときは語尾が伸びない気がする。たぶん。

 「…それで、大丈夫なのかよ…?」

 「今お引き取り願ってるわよぉ。平和的な手段で…」

 ミズキは口を膨らませる。こういう顔は非常にかわいらしい。

 「今回もソラノを狙って?つーか、ソラノは無事なの?」

 「ソーラーは大丈夫よぉ。もう移動してるぅ」

 「そっか…よかった。相手はアマテルなのか?」

 リョウが制服の袖をまくる。

 「ううん…どっかの製薬会社らしいのよぉ。大手の」

 どうやらミズキも細かい情報までは聞いていないらしい。ミズキは難しい顔を続けている。

 「…」

 しばしの沈黙。このロビーには、ミズキとリョウしかいないようである。しかし、そんなアプリエイターを狙っている者が今、ここにいるのならミズキがいるべきはソラノの傍のはずだ。

 「一つ聞いていいか?」

 「なに?」

 ミズキは腕組みをしたまま言う。意外とたわわな胸が腕に乗っている。

 「なんでここに立ってるんだ?」

 「5機…」

 ミズキはコチラも見ずに小さく言った。

 「この社屋周辺に、5機、マシンフレームがいるのよ…。交渉決裂したら強行手段で来るはずよ…。んま、バレてる時点で三下決定だけど」

 ミズキの話し方にいつもの呑気さは消えていた。どうやら、そろそろ来るのだろう。

 「稲葉リョぉ」

 「はいっ」

 少し低めの声で言われたので緊張した。

 「あそこの中岡さんこっちに避難させてきて…。」

 「お…おう」

 中岡さんは先ほどの警備員のおじさんのようだ。リョウは駆け足で入り口へ向かった。

 「警備員さーん…」

 リョウがそうやって入り口へ向かっていると、後ろの方から足音が響いてきた。振り返ると、ミズキのさらに後ろのエレベーターから誰かが出てきて、こっちに向かってきているようだ。おそらくくだんだろう。

 「警備員さん!こっから出て!すぐ避難して!」

 リョウは警備員のおじさんにとりあえず伝える。

 「えぇ?何かあるの?」

 おじさんは呑気に頭をボリボリと掻く。いきなりそう言われてもそう反応するのは普通だろう。

 「そうそう!危ないからとりあえずここから離れて!」

 「でもなぁ…。俺が危ないんなら稲葉くんも危ないんじゃない。稲葉くんが先に逃げなさい」

 おじさんはニコリ。当然、リョウがアプリエイターであるという事を知らない。というか、周囲に5機ものマシンフレームがいることを知らないだろう。名前を憶えててくれて自分は知らなかったことに罪悪感を覚えながら続ける。

 「あぁ~!だからね!?おじさん!」

 「俺はまだおじさんじゃないよ!」

 おじさんはわけのわからないところに食いついた。

 「あぁ!もう!警備員さん!真面目にヤバいの!死ぬかもしれないよ!」

 「あっ!ありがとうございました!お気をつけて!」

 おじさんはいきなり挨拶をした。リョウは挨拶をした方を見る。すると、眼鏡をかけたスーツの男が会釈もせずに自動ドアを通って行った。

 「…」

 リョウは黙ってその男を見る。いかにもエリートという感じで、髪を上げ固めて涼しげな眼をしている。そして、ある程度社屋を離れると電話をし始めた。もう始まる。

 「…ってだから!おじさん!はやくどこか―――ッ!」

 リョウの言葉を遮ったのは巨大な震動と音だった。

 「え…」

 リョウとおじさんは恐る恐る振り向く。

 そこには、マシンフレームと呼ばれる人型の機動兵器、簡単に言うと全高5メートルほどのロボットが立っていた。黒いロボットは明らかにその光る眼をこちらに向けている。

 「…クソ!」

 「ふぇ…」

 腑抜けた声を出しておじさんは地面に腰を抜かせて座り込んでしまった。

 「ちょっ…マジ?!おじさん!立って!」

 リョウは怒鳴りながらおじさんを引っ張る。座り込んでしまった人間がこうも重いとは思わなかった。

 すると、マシンフレームがこちらを捕まえようと手を伸ばしてくる。その手は機械というよりも手袋をはめた人間の手のようだ。それが逆に恐怖に拍車をかける。

 「いかんいかんいかんいかぁん!」

 リョウは咄嗟に、拳に力を込めた。身体が一気に軽くなっていくのを感じた。全身に電流が流れ、一時的に身体能力を上げた。

 腕がそこまで迫っている。

 「ふんぬぅ!」

 「ほあ!」

 リョウはおじさんの腕と腰あたりの服を掴んで一気に横へ跳ぶ。加速した身体のおかげで超人的な距離を跳んだ。直後にマシンフレームの手が空を握る。やはり捕まえる気だった。

 「あっぶね…」

 「稲葉リョぉッ!」

 ミズキが社屋のホールから叫び、こちらに走ってきている。手には戦闘形態へと変形して大きくなったカタパルトハンマーミョルニル。

 「人んちの玄関で暴れてんじゃぁ…!」

 ミズキはミョルニルを横に構え、最大の特徴である後部のジェットを点火。ミズキが加速する。軽くリズムよく跳ぶように走りながら接近。そして、マシンフレームの下がった腕のところまで来る。

 「ないわよぉッッ!!!」

 その勢いのまま腕にハンマーを斜め上にぶち込む。

 マシンフレームの腕は肘から下が一気にもげて、会社前の道路に派手に転がった。

 「よりによってウチのマシンフレーム使うとかいい度胸じゃない!」

 ミズキはそう言いながら、腕が吹き飛んで狼狽えているマシンフレームの足元へ向かう。

 「なんで…こんな」

 おじさんが震えた声で言う。いきなりマシンフレームが自分に襲い掛かってくれば誰でもそう思うだろう。

 「終わりぃぃぃぃ!」

 ミズキはマシンフレームの膝にハンマーをぶち込んだ。強烈な一撃を食らったマシンフレームは膝をおかしな方向へ曲げ、前のめりに。そして、着地と同時にミズキがジェットを点火し、跳躍。そのまま後頭部にハンマーを叩き付ける。鐘を突いたような音を響かせて頭から派手に倒れた。その瞬間に機能を失ったのかマシンフレームは全く動かなくなった。

 「ふぅ…」

 ミズキはマシンフレームの背中で一息つく。

 「真国!」

 リョウは叫んだ。

 背後から2機、マシンフレームが突如現れたからだ。おそらく光学迷彩を解いたのだろう。

 「わかってるわよぉ!」

 ミズキがそう言ったと同時に一機のマシンフレームが手に持っていたマシンガンを発砲。けたたましい音を立て、巨大な空薬莢が地面に落ちる。

 着弾する寸前、ミズキはジェットで跳躍。乗っていたマシンフレームにほぼ全弾が命中する。着弾した場所からチリチリと火花が散る。

 「すっげ…」

 リョウがその見事な跳躍に見とれているとミズキが回転をキメて、スカートを片手で押さえて着地。

 「稲葉リョぉ…」

 「…なんだよ」

 「見た?」

 気にするところはそこなのだろうか。ミズキにツッコミを入れようとしたが。

 「…って…」

 ミズキが倒したマシンフレームがいかにもヤバそうな火花を出し始めた。リョウは焦って腰を抜かしたおじさんを引っ張る。

 案の定、マシンフレームは爆発。社屋のガラスが派手に割れ散る。間一髪で爆炎を逃れるリョウとおじさん。この爆炎ではマシンフレームのパイロットは焼け死んでいるだろう。

 「おじさん!さっさと逃げて!」

 リョウは改めて邪魔なおじさんに言う。

 「い、稲葉くんは…?」

 「俺は大丈夫だから!はやくっ!」

 リョウは怒鳴る。ここまで心配してくれるとマジありがたいが、それで怪我でもされると後悔しかない。

 「…わ、わかった…早く逃げるんだよ」

 おじさんはへっぴり腰で立ち上がって、社屋の奥へと逃げていった。

 「これでよし…」

 リョウはひとまず安心する。そして、ミズキの様子を見る。

 「二機目ぇぇ!」

ミズキは二機目のマシンフレームのスネにハンマーを叩き込んだところだった。夜間の襲撃用なのか、漆黒に染まる機体は赤いカメラアイだけを光らせて倒れる。そして、ミズキはジェットで跳び上がる。

 「てええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 数メートルの高さからジェットで勢いに乗ったハンマーが背中に叩き込まれる。鈍い音が響き、それと同時にミズキはすでに三機目に飛びかかっていった。

 「つええ…」

 リョウは呟く。

 「稲葉リョぉ!」

 ミズキが三機目の腕を吹き飛ばしてからリョウを呼ぶ。

 「パンツ見たら殺すからァ!」

 「…もうおせぇよ…」

 殺されるだろうな。黒だった。ありがたや。

 ヤマトから聞いた話だが、ミズキはオーコックス・インダストリーの中でもトップクラスの強さなのだそうだ。雷姫らいひめの時は相手が強すぎたせいでわからなかったが今これを見れば納得もできる。

 「って、あと二機は?」

 ミズキは確か、5機いると言っていた。

 「おおぉぉぉりゃああぁぁぁぁ!」

 ミズキが三機目のマシンフレームの胸にハンマーをぶち込んだ。マシンフレームはゆっくりと仰向けに倒れていく。

 その時だ。ミズキの背景がぐにゃりと曲り、そこからマシンフレームが現れた。

 「真国!」

 リョウは思わず叫ぶ。しかし、背後の四機目のマシンフレームは、突如顔面に大穴を開けた。

 「…!」

 ヤマトだ。ヤマトの高性能小型ライフルアグニの銃弾だ。

 「ありがぁとお!」

 ミズキがお礼を叫びながら三機目に止めの一撃。

 顔面に大穴を開けた四機目のマシンフレームはもがきながら倒れていく。

 その光景は、ミズキが主役のサーカスを見ているような気分にさせた。

 「…ん!?」

 二機目のマシンフレームが目の前に腕立て伏せをするような感じで倒れていたのだが、その胸のコクピットハッチが開いた。

 「…あ」

 リョウがじっと見ていると、ハッチから黒いパイロットスーツを着た男が飛び降りてきた。右手には自動小銃。

 「…あ」

 そして、パイロットもリョウに気が付いた。すぐさまパイロットは銃を構える。

 「いきなりかよっ!」

 リョウは身体に電流を流し、身体を加速させる。

 発砲。

 リョウはジグザグに軌道を取ってパイロットに接近。銃弾をすれすれで避け、懐へ。

 「何だ!このガキ!?」

パイロットは明らかに狼狽えた声で言った。その一瞬の隙にリョウは掌底で銃を弾き飛ばす。そして、腰を低く構える。この前翔子に教えてもらった…。

 「〝聖天・彗星!〟」

 銃を弾いた手で、パイロットの胸部に掌底を素早く当てる。

 「グぅ!」

 パイロットはおかしな声をあげて吹っ飛び、マシンフレームの腕に背中をしたたかに打ちつけた。そのまま地面に倒れる。

 「!」

 一瞬、足音が聞こえた気がした。確実にではないが、背後から感じ取った。その勘を頼りにリョウは振り向く。

 「しゅっ!」

 振り向くとそこには先ほど飛ばしたパイロットと同じものを着た別の男が、大きめのナイフを逆手に持ってリョウに斬りかかっていた。その光景だけで一瞬血が引いて眩暈めまいがした。

 「!」

 リョウはバックステップで一閃をかわす。すぐさまナイフを弾こうと掌底。男はそれを別の手で受け止めた。先程の男よりは手練れだ。しかし。

 「あぎいいいっ!…ィ!」

 男は痙攣して倒れた。リョウが電流を流したからだ。

 「ちょろいな…」

 リョウは鼻で笑って乱暴に男を地面に倒した。もちろんナイフはその辺りに投げて捨て置く。

 「またか!」

 リョウはまた背後の気配に気が付く、しかし、今回は違う。震動…マシンフレームだ。

 「うっは!」

 リョウが後ろを振り向くとすでにマシンフレームはコチラにマシンガンを向けていた。

 発砲。鼓膜が割れんばかりに銃声が響く。

 リョウは加速させた身体で跳ぶ。人間の跳躍とは思えない程の高さに到達し、腕に着地。そしてさらに跳躍。マシンフレームのサングラスを着けたような顔がちょうど目の前に来る。

 リョウは中空で自分の身体に最大の回転をかける。常人では不可能な空中での回転、電流による加速。

 回る。

 回る。

 加速。

 「〝嵐天!〟」

 高速で何回も回った。そして狙いを定め。

 「〝突風ッ!!!!!〟」

 マシンフレームの顔面を勢いに任せて蹴る。

 その瞬間、鉄と鉄が激突したかのような音が響く。マシンフレームの首があり得ない方向に傾いた。

 そして、リョウにも体の中の方から前にも聞いた事があるような痛々しい音が聞こえる。

 「…いっ!!」

 確実に骨が折れた。絶対折れた。リョウはそのまま落下。

 マシンフレームは何とかバランスを保とうとしてジタバタしている。

 「痛って!」

 リョウは着地とは到底言えない受け身を取り、スネを押さえる。

 「…ってえぇぇ!」

 「…あんたバカねぇ…」

 ミズキが後方から呆れ声で走ってくる。そして、滑らかな軌道を描いてマシンフレームのスネ辺りにハンマーをぶち込んだ。

 マシンフレームは足を思い切りすくわれ、一気に背中から倒れる。

 「…いてぇ…」

 リョウは情けない声で言う。

 「バカだな…」

 あとから歩いて来た金髪の似合うヤマトが言った。愛銃であるアグニのマガジンを取り換える。

 「よいしょ!」

 ミズキはちょっとした作業をするような掛け声でマシンフレームのコクピットをハンマーで叩き付けた。中のパイロットはハッチが軋んで出られないか、すでに振動で気絶しているだろう。

 ヤマトは銃を構えたまま片手でリョウが最初に倒した男を器用に拘束する。

 「ミズキ、そっちは?」

 「中で気絶してるわねぇ~。よっと!」

 のん気な声でミズキがマシンフレームから飛び降りる。そして、ハンマーを操作、変形させた。ハンマーが最初見たくらいの大きさに縮んでいく。

 「あっはっはっはっはっはっはっはっは!」

 ハンマーを背負った途端にミズキはお腹を抱えて笑いだす。

 「あんた、何やってんのよぉ!」

 ミズキはそんなに面白いのか?と疑問に思えるほど笑う。

 「いってぇ…。お前…笑い過ぎ…」

 リョウは足を押さえながら言う。絶対に骨が折れている。

 「だって…あっはっは…!あの勢いでマシンフレームとか蹴ったら折れるに決まってんじゃぁん!いっひっひ…」

 「…」

 リョウは笑い続けるミズキを睨んだ。

 「あとぉ…」

 「なんだよ」

 「お前って言うな…」

 「はい、すません」

 怒気のこもった声でミズキが言う。先程までの戦闘を見ていると、反論しがたい。元から反論などしないが。

 そんな中、ひとり冷静なヤマトが口を開く。相変わらず見た目はホストのようだ。

 「ミズキ、ひとりで逃げたさっきの男も確保したそうだ」

 「そかそかぁ。わかったぁ…。ふぅ」

 ミズキは一息ついて腕組みをする。

 「さてぇ…んじゃ、その男に色々と聞きましょうかねぇ!」

 ミズキはこれからが本番とばかりに楽しそうに舌なめずり。表情がエロい。

 「俺はこいつを連れて行く。あとは回収班に任せよう」

 ヤマトがこいつと言って持ち上げたのは、なんと拘束した男の方だった。

 「俺じゃねぇのかよ」

 「なんでお前みたいな野郎を抱えなきゃいけないんだよ」

 ホントに嫌そうな顔で言う。

 「そいつだって男だろ!」

 ヤマトは思い切り無視して行ってしまう。

 「最悪だ…」

 リョウは独り呟いた。

 「しょうがないわねぇ」

 そうミズキがいじわるな目を向けてこちらを見ていた。なんだかんだ面倒見がいいのだミズキニキは。

 「ありがとう、いろいろ」

 「別にぃ?」

 そうミズキがリョウに手を差し伸べた。リョウが手を掴むと、ミズキは「にひひ」と笑って口を開いた。

 「何色だったぁ?」

 これは正直に言うしかあるまい…。

 「黒でした」

 リョウがそう言うや否や、ミズキは乱暴にリョウを引っ張り首に手を回し、ヘッドロックをかけた。あの、苦しいけど、たわわなものも当たってます。

 「ざぁんねん!正解はブルーの星柄でしたぁ!」

 リョウはそのままミズキに運ばれたのだった。

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