第14話

 美雪は夢を見ていた。

 幼少期の中で最も記憶に残っている夢だ。

 

「うぅぅぅ……」


 その日も、美雪は一人部屋で泣いていた。

 父に与えられた部屋は一面が氷で覆われていた。

 美雪にはどうする事も出来ずにただ一人で泣いている。

 毎日、父が訪ねて来て氷をどうにかしようと試みているようだが、意味がない。

 父の伝手で火の魔法を使える魔導師が呼ばれて来たが、どの魔導師の火の魔法をもってしても氷は溶ける事は無かった。

 その日も父がやって来る筈だった。

 しかし、やって来たのは父ではなかった。


「誰?」


 それは美雪と同じ歳くらいの少年だが、表情は無く、少し大人びて見えた。

 少年は美雪を一瞥すると氷に触れる。

 美雪は無駄だろうと思いながらも、少年から目を離す事が出来なかった。

 少年が氷に触れるとそれは起きた。

 今までどんな火の魔法でも溶ける事のなかった氷が一瞬の内に消えてなくなった。

 まるで氷など始めからなかったかのように跡も形も残されてはいなかった。


「え……」


 その光景を美雪は茫然と見ているしかなかった。

 氷を消し去った少年は美雪の方に振り向く。

 今まで誰も溶かす事の出来なかった少年は何事もなかったかのように消し去っている。

 美雪は思わずびくりと身を構える。


「この力は使い方さえ間違えなければより多くを救える力となり得る」


 少年は淡々と話し出す。

 自分と同い年くらいなのにもかかわらず、感情を感じられない少年の事を本能的に恐れるが、同時に少年の言葉から耳を離す事も出来ない。


「今は難しいかも知れないが、いずれはお前の財産となるだろう。その力を与えてくれた親に感謝して大切にするんだ」


 少年はそう言うと、美雪から視線を逸らして部屋から出て行く。

 そのすぐ後に、父が勢いよく美雪の部屋に入って来ると美雪を強く抱きしめる。

 父に抱きしめられながらも、美雪は先ほどの少年の事を思っていた。

 この日を境に美雪は魔法の事を勉強しようと心に決めた。

 そうする事が自分の為でもあり、その先にいずれは少年と再開できると幼心に感じていた。


「ん……」


 懐かしい夢から美雪は覚めた。

 視界はぼやけているが、次第に自分に何が起きたのか思い出して来た。


「私は……」

「起きたか?」


 起きたばかりで声をかけられて身構えるが、声をかけて来た相手が鷹虎だと気付き、警戒を解く。

 ぼやける視界の中で鷹虎が明らかに自分から視界を反らしている事に気づくと、自分の状態にも気が付いた。

 男子用の制服が掛けられているはいるが、美雪は制服を脱がされて下着姿だ。


「俺は何もしていないからな。流石にあのままにして置く訳には行かなかったし……」


 鷹虎は珍しく必死に言い訳をしている。

 状況はどうあれ、鷹虎が美雪の制服を脱がした事は事実で、それ以上の事は何もしていないと鷹虎は主張している。

 

「制服は向こうに干してある。一晩は干してあるから多分、乾いていると思う」

「……そう」


 美雪も流石に同級生の異性に下着姿を見せた事は無い為、恥ずかしさで少し顔が赤い。

 鷹虎が乾かしておいた制服は十分に乾いており、美雪はすぐに着替える。


「体の方は大丈夫か?」

「ええ……眼鏡が無いから視界が少しぼやけているけど、大丈夫……それと助けてくれてありがとう」


 美雪もここまでの付き合いで鷹虎が不埒な真似をする事は無いと言う事は分かっている。

 記憶の最後を辿ると恐らくは鷹虎が自分を助けてくれたと言う事もだ。

 普段つけている眼鏡は流石に川に流された時に外れている為、視界はいつも通りとは言えないが、眼鏡が無くとも多少は周りの事は見えている。

 鷹虎には大丈夫と言ったものの、崖から落ちて川に流されている為、美雪は余り動ける程体力は残されてはいない。

 

「いや……俺達は仲間だからな」

「……そうね」

 

 美雪の着替えが終わり、移動の準備を初めようとしたその時、近くで物音が聞こえた。

 鷹虎にはアウラの位置が分かっている為、斗真たちではない事は確かだ。


「見つけたぞ」

「……雄志か」


 捜索に来た学園関係者だと言う淡い期待は打ち砕かれた。

 鷹虎はすぐに臨戦態勢を取る。


「氷川は下がってろ」


 美雪は魔導具も無く、視界も定まらない。

 体力も余り残っていない為、戦力として数える訳には行かない。

 アウラを呼び出して戦う事も出来たが、アウラをこちらに呼んでしまうと斗真たちとの合流が出来なくなる。

 アウラを呼び出せない以上、出来る戦い方は一つしかない。


「……魔導装甲!」


 鷹虎は装甲形態へと姿を変える。

 それを見た雄志はもはや鷹虎は逃げる気が無いと言う事に気づくと自身もミノタウロスの力を持つ装甲形態へと姿を返る。

 鷹虎と雄志が戦闘態勢を取ると、美雪も自身が足手まといにならないように下がる。

 先に仕掛けたのは鷹虎だ。

 鷹虎は機動力を活かして、左右に揺さぶりながら仕掛ける。


「雄志! 何で俺がお前に狙われる?」


 鷹虎は爪で雄志に攻撃する。

 それを受け止めて雄志は反撃するが、鷹虎は距離を取って回避する。


「お前に恨まれる事をした思えはないんだが」

「恨みは無い。だが、俺達の邪魔をするのであれば潰すだけだ!」


 雄志の攻撃を鷹虎は必死に回避する。

 一撃でも喰らえば致命傷になり兼ねない。


「邪魔ってどういう事だよ?」

「答える気は無い」


 鷹虎は一度距離を取る。

 幸いな事に雄志の狙いは鷹虎が優先のようで、美雪には目もくれていない。

 

「そうかよ」


 鷹虎は雄志の攻撃を掻い潜り、素早い一撃を入れるが余りダメージを与える事は出来ない。


「くそ……」

「無駄だ。素早いだけが取り柄のお前では俺には勝てない」


 それはやる前から分かり切っていた事だ。

 元々、鷹虎は幻獣騎士団の中でも機動力がある事以外は特に長所は無い。

 それも、自分が騎士団でトップと言う訳でもない。

 それに対して、雄志のパワーは騎士団ないでも上位に位置する。

 

「分かっているさ……けど、俺にも引けない理由が出来た。お前が何で俺と戦っているかは分からないけど……俺は俺の新しい仲間を守る! その為ならかつての仲間だろうとぶっ飛ばす!」


 鷹虎は思い切り大地を蹴ると、雄志に向かって行く。

 雄志は真っ向から受けるつもりだ。

 鷹虎は集中していた為、気づく事は無かったが、この時、普段よりも体が重く、力が漲っていた。

 変化に気が付いたのは鷹虎本人よりも先に対峙していた雄志、そして二人の戦いを見ていた美雪だった。

 鷹虎の渾身の一撃を真っ向から反撃する雄志。

 二人の拳はぶつかり合う。

 本来ならば鷹虎の攻撃では雄志は気にする事もない程の力の差があった。

 しかし、鷹虎の拳が打ち勝ち雄志は殴り飛ばされた。


「ぐっ!」


 雄志は何とか踏ん張って止まる。

 そして、鷹虎を見て驚きの声を上げる。


「何だ……その姿は!」


 鷹虎の装甲形態は狼の姿を模していた。

 だが、今の鷹虎は姿は狼ではない。

 その姿はまさに虎の姿をしていた。










 鷹虎が雄志と戦闘を繰り広げられている頃、総真は一人で行方不明となっているE班の捜索に向かっていた。

 尤も、捜索よりも昨日自身の魔力でマーキングをしていた澪の足取りを追いつつではあるが。

 その道中で総真は明らかに自然に出来たとは思えない隠し扉を見つけていた。

 隠し扉と言っても隠し方は余りのもずさんで今まで行方不明者が出た時に捜索して見つからない事は考え難い。

 そうなると最近までは完全に隠されていたが、ここを使っている者達のミスか、意図的に誘い込む狙いがあるのだろう。

 ここで悩んでいたところで、答えを出す事が出来ない為、総真は警戒しながらも中に入る事にした。

 内部を進んでいると、内部が最近まで何者かが出入りしていた痕跡は残されているが、それが誰なのかを特定する手がかりは完璧に消されている。

 道中でトラップをいくつか見つけたが、総真の行く手を遮る事は出来ない。

 トラップはあるが、誰とも出くわす事もなく、総真は先に進んで行く。

 澪に付けたマーキングもこの辺りには無く、トラップも普段から仕掛けられている物ならここを使っていた者達の邪魔になる為、トラップは敵がここに来る事を想定してから仕掛けられた物で内部に人がいる事は余りないだろう。

 しばらく歩いているとやがて開けた部屋に出る。

 扉には電子ロックがかけられていた為、総真は扉だけを炎で溶かして中に入る。

 強引なやり方で中に入ったが、警報が鳴る事は無かった。


「すでに廃棄されているか……当然か」


 総真もここまでの道中で、この施設はすでに廃棄された物であると予想はしていた。

 総真のいる場所はモニタールームと思われる場所で、いくつかの実験サンプルを置く場所らしきものがあるが、手がかりになりそうな物は残されてはいない。

 

「どれだけの情報が残されているのか」


 総真は大型モニターの前のコンピュータを起動させる。

 コンピュータ自体は壊されてはいないが、肝心のデータの方は余り期待できそうには無い。


「成程……ここは八神雛菊の研究所の一つか。まだ残っていたとはな」


 総真はコンピュータ内に残されていたデータからそう結論付けた。

 八神雛菊とはかつては魔法管理局の研究員の名だ。

 優秀な研究者だったが、特殊部隊と言う名目で違法研究の末に作り上げた生体兵器を使っていた事が発覚し、魔法管理局により処刑されている。

 その後、彼女が作り上げた生体兵器は管理局で確保され、雛菊が極秘裏に使っていた研究施設は抑えられている。

 ここはその中でも管理局の手を逃れた研究施設で、彼女の死後、何者かが使っていたのだろう。


「これ以上の情報をここで得る事は出来ないか……」


 残されている情報はすでに管理局の方でも回収済みの物で、総真も知っている事しか残されてはいない。

 ここが八神雛菊の研究所であると言う事は、彼女の研究に何らかの関わりがあるか、彼女の研究が目当てでここを使っていたと言う事しか分からない。

 それ以上の情報はすでに消されている。

 総真はこれ以上は無駄であると結論を出して、戻ろうとする。

 しかし、総真がここに入って来た時点で、施設の証拠隠滅の為の自爆システムが起動していた。

 そして、コンピュータを起動させた事で、それに連動して自爆システムが作動し、施設内のいたるどころで爆発が起き、総真のいるモニタールームも一瞬の内に爆発に包まれた。











 雄志との戦いの最中、鷹虎は新たな姿へと変貌した。

 この現象はかつての幻獣騎士団の中でも起きた事は一度もない。

 姿が大きく変わり、鷹虎も体が重く感じるが、同時に今まで以上に力が漲っている事を感じていた。


「これならいける!」


 理由は分からないが、新しい姿でなら雄志とも真っ向から戦える。

 鷹虎はそう確信していた。

 鷹虎が雄志に向かい、雄志はそれを迎え撃つ。


「何だ! その姿は!」

「俺も良く分からん。けど、これならお前とも戦える」


 狼の姿の時よりも機動力は落ちているが、雄志相手なら問題になる程ではない。

 そして、力は雄志を相手に互角に渡り合える。


(どうやらコイツは力に秀でているようだ)


 鷹虎は何度も雄志を打合いながら、自身の新しい力を分析している。

 

(力負けはしなくなったが……余り長期戦はしたくないな)


 殴り合いではほぼ互角ではあるが、このまま時間が経てば鷹虎の疲労も限界になって来る。

 先に雄志の体力や魔力が限界となって引いて貰えると言う事は今は考えても仕方が無い。


(なら……試して見るか)


 このままでは分が悪いと判断した鷹虎は戦い方を変える為にある事を試みる。

 鷹虎の姿が虎から今までのような狼の姿へと戻る。

 どうやら狼の姿と虎の姿は自分の意志で切り替える事が可能と言う事だ。

 それが分かれば戦い方を変える事も出来た。

 狼の姿では虎の時よりも素早く動く事が出来る。

 手始めに狼の機動力で雄志を揺さぶる。


「ちょこまかと!」


 雄志の攻撃を掻い潜り、鷹虎は懐に飛び込む。


(ここだ!)


 懐に飛び込んだ状態で鷹虎は虎の姿に変わる。

 狼の状態では攻撃力が足りずに、雄志の装甲に有効打を入れる事が出来ない。

 虎の状態では機動力が足りずに、雄志に攻撃をまともに当てる事が出来ない。

 ならな、狼の機動力で懐に入り、虎の一撃でなら雄志に大打撃を入れる事が出来る。

 問題は二つの姿を自分の意志で切り替える事が出来るかだが、それは可能だった。

 

「コイツで!」

「なっ!」


 鷹虎の渾身の一撃は雄志の腹部に直撃する。

 雄志は大きく吹き飛ばされると装甲形態が解除されて倒れる。


「はあはぁ」


 鷹虎は何とか上手く言って息を整えると装甲形態を解除する。


「何故、止めを刺さない?」


 雄志は自身の敗北を認めたのはそう問う。

 鷹虎も余力は余り残っていないが、それでも装甲形態を解除した雄志に留めを刺す事くらいは出来る。

 だが、鷹虎はそれをしなかった。


「別に俺はお前と殺し合いをする気はないって。それに……俺には新しい仲間が出来たけどさ……お前達は俺にとっては家族だろ」

「……家族か……そうだったな」


 鷹虎たちは皆、身寄りがいない。

 幻獣騎士団の中でも性格的に合う合わないはあったが、共通して皆が家族として団結していたと言う一面もあった。

 一人また一人といなくなる中で、いつしかいなくなった時の事を考えて誰しもがその事を思い出さないようにしていた。

 

「雄志が何で俺に襲い掛かって来たのかは聞かない。だけど、俺にはお前を殺す理由はないから殺さない」


 元々は雄志が襲い掛かって来たから鷹虎は応戦したに過ぎない。

 その理由に関しては雄志にもそれなりの理由があるのだろうが、向こうが話さない以上は鷹虎も何も聞かない。


「鷹虎、一つ忠告だ。これ以上、この山には関わるな」


 雄志はゆっくりと起き上がる。

 ダメージはあるが、何とか動く事は出来る。

 すでに雄志も鷹虎に対する敵意はないようだ。


「この山には……がっ!」


 鷹虎に対する雄志の警告は途中で遮られた。

 鷹虎も始めは何が起きたのか分からなかったが、雄志は後ろから腹部を剣で突き刺されていた。


「破棄すると言っても必要以上に情報を漏らすと言うのは関心しないわね」

「ぐっ……何故」


 剣が雄志から抜かれる。

 先ほどまで周囲に気配を感じられなかったが、雄志の後ろ数メートルにいつの間にかエルヴィナが立っていた。

 エルヴィナは数メートル先の雄志を刺していたが、その剣は一般的な剣ではなかった。

 刃が複数に別れ間をエルヴィナの雷の魔法でつないだ蛇腹剣だ。

 蛇腹剣が雄志から抜けれるとエルヴィナの元に戻る。


「雄志!」


 鷹虎は雄志に駆け寄る。

 鷹虎たちは皆腹部に魔導石が埋め込まれている為、それを破壊されると自身の生体機能を維持できない。

 腹部を貫かれている雄志はすでに魔導石が完全に破壊されている為、息を引き取っている。

 

「まぁ、どの道廃棄するつもりだから問題はないわね」

「……お前!」


 エルヴィナと雄志の関係は分からないが、目の前で家族を殺されたとなれば鷹虎が本気で怒るには十分だった。

 鷹虎は狼の装甲形態になると、エルヴィナに飛び掛かる。

 今まで最も早い速度でエルヴィナに向かう。

 だが、すでに鷹虎はエルヴィナの間合いに入っていた。

 エルヴィナの間合いは自身の視界に入れば蛇腹剣を伸ばして攻撃出来る。

 エルヴィナは蛇腹剣を振るう。

 頭に血が昇っていたとしても十分にエルヴィナの攻撃には警戒していた。

 しかし、エルヴィナが剣を振るおうと言う動きを認識した瞬間に、鷹虎は蛇腹剣で切りつけられていた。


「何が……」


 装甲はエルヴィナの一閃で切り裂かれて鷹虎は倒れる。

 鷹虎もそれなりに実戦は経験しているが、人並外れた能力を与えられた鷹虎たちでも見切れない速さの攻撃をして来る魔導師と戦った事は一度もない。

 つまりはエルヴィナは今まで鷹虎たちが戦って来た相手の誰よりも強い。


「確か君は風の神器を契約していたわね」


 エルヴィナは倒れる鷹虎にゆっくりと近づいて来る。


「今のところ判明している神器の所有者はどれも狙うにはリスクが高すぎるけど、君程度の魔導師ならついでに殺しておいても問題はないわ」


 鷹虎が風の神器アウラと契約してからは日も浅く、その事実は余り知れ渡ってはいない筈だが、エルヴィナはアウラと契約している事を知っているようだ。

 神器は魔導具としては最強に位置し、全部で7つしか存在していない。

 それぞれに意志を持ち、自身を使うに値しない魔導師に使わせる事は無い。

 そうなると、必然的に神器を持つ魔導師の実力は高い。

 アウラは暇つぶしに鷹虎と契約している為、神器を手に入れるには鷹虎は狙い目なのだろう。

 

(コイツはやばい!)


 鷹虎も先ほどの一撃で自分と相手の実力差を悟っている。

 雄志の仇は取りたいが、新しい力をもってしてもエルヴィナには勝てる気はしない。

 ここで戦ったところで勝ち目は無く、自分がやられてそれで引き下がるとは思えない。

 この場には自分以外にも美雪がいる。

 エルヴィナが自分を殺して美雪を見逃してくれると考える事はできない。

 そうと決まれば、鷹虎は素早く立ち上がると美雪の方に向かう。

 今はただ、目の前のエルヴィナから逃げる事だけを考えて走った。


「逃がさないわ」


 エルヴィナは逃げようとする鷹虎目掛けて蛇腹剣を振り落す。

 雷で繋がれた刃は一直線に鷹虎の方に向かって行く。

 

「くっ!」

「大神君!」


 鷹虎よりも速度の速いエルヴィナの刃が鷹虎に追いつき、突き刺さろうとする。

 だが、鷹虎に刃が届く事は無かった。

 刃は蒼い炎により遮られた。


「何だ?」

「蒼い……炎?」


 鷹虎は美雪と何とか合流し、美雪の前に立つ。

 蒼い炎は鷹虎と美雪を守るように燃えている。

 自分達も蒼い炎に囲まれているが、不思議と恐怖は無く蒼い炎を美しいとすら感じている。


「蒼炎……まさか」


 そんな中、エルヴィナは先ほどまでの余裕の表情が消えていた。

 エルヴィナにはこの蒼い炎が何なのか分かっていた。

 魔法の属性は基本的には7つだが、その中でも稀に特殊な力を持っている魔導師がいる。

 一般的には訓練では身に着ける事が出来ず、血筋等先天的な理由や何らかの理由で後天的に得られる事がある。

 そして、火の魔法の中でも蒼い炎は蒼炎と呼ばれ一般的な火の魔法よりも威力は高いとされている。

 その蒼炎を使える魔導師は魔法管理局の中でも一人しかいない。

 管理局の中で火の魔法を使う魔導師としては総真の実家である炎龍寺家が有名だが、炎龍寺家を抑えて管理局の中で火の魔導師で最強とも名高い魔導師。


「……緋村真理」


 蒼炎の中に人影が見えた。

 それは鷹虎も美雪も見覚えがある。

 鷹虎がアウラと契約した一件で形だけの事情聴取をしていた管理局の魔導師。

 結愛が昔世話になった事で慕っていた緋村真理。

 真理が太刀の姿となった火の神器ヴェスタを手にそこに立っていた。

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