第8話





 風の神器アウラと契約をした事で面倒事を背負う事となり、平穏な生活を願う鷹虎の平穏はその日の内に崩れ去った。

 屋上での会話の後、夕食の時にそれは起きた。

 班員同士は基本的に行動を共にする事が多いが、常に一緒にいる訳ではない。

 食堂で一人夕食を取ろうと食堂に来ると、食堂全体に聞こえる程の大きな音が鳴る。

 何事かと音の方を見ると食堂のテーブルの一つに総真たちが座っている。

 その傍らには穂乃火と晶も座っている。

 この3人は大抵の時は行動を共にしている。 

 だが、音の主は総真ではない。


「よう。炎龍寺。少し面貸せ」


 鷹虎は軽くため息をつく。

 先ほど、美雪は結愛が荒れていると言っていたが、未だに収まっていないのか、総真に絡んでいるようだ。


「何ですか? いきなり」

「取りあえず、妹の方には用は無いんだよ。少し黙ってろ」


 喧嘩腰の結愛に穂乃火が文句を言うが、あくまでも結愛は総真に絡んでいる。

 その態度に穂乃火も頭に血が昇りかけるも、晶が抑える。


「何のようだ?」


 軽い騒ぎとなり、食堂は静まり返り誰もが息を飲んでこれ以上何事も置きないように見守っているが、総真は相変わらずの表情を変える事は無い。


「少し聞きたい事があるんだよ」

「終わった事だ。話す必要はない」


 総真は取りつく暇を与えないが、その受け答えで、結愛が何を聞きたいのか、そして、総真が何か知っていると分かる。


「ふざけんなよ」


 ただでさえ、気が立っている結愛を総真の返答が更に火に油を注ぐ事になる。

 それにより、もはや結愛を止める事は出来ない事態となり、鷹虎は静かに食堂から逃げ出したくなる。


「明日の放課後、グラウンドで相手になってやる」

「そこでお前をぶっ飛ばしたら答えるって事だな」

「そこまで無茶は言わん。俺に一撃入れる事が出来ればお前の問いになんでも答えてやる」


 明らかに自分を下に見る発言にこの場で殴りかかりたい衝動に駆られるも、結愛は残り少ない理性で堪える。

 総真に対する怒りよりも、真実を知る事をギリギリのところで選んだ。


「男に二言は無いよな?」

「無論だ」

「首を洗って待ってろよ」


 結愛はそう言い残して食堂から出て行く。

 結愛が居なくなった事で、食堂の中に緊張感が解かれる。

 そんな中、結愛に絡まれた本人の総真はまるで何事の無かったかのように食事を始める。


「兄さん。何であんな事を?」

「ああでもしないと収まらなかっただろう」


 総真の言うように、あのままでは結愛はこの場で殴りかかって来ただろう。

 そこで、改めて総真と戦う場を与えた事で、食堂での騒ぎを収める事が出来た。

 それは穂乃火も分かる。

 だが、勝負の場を作る必要はあっての、相手を下に見て結愛に有利な条件を出す必要もない。

 ただでさえ、頭に血が昇っている状態で、相手に見下されていると思えば、その場で切れる可能性もある。


「そうでなく、何故、本郷さんに有利な条件を出したのかとお嬢様は言いたいのですよ」

「有利? 何を言っている。模擬戦とはいえ俺に一撃を当て得れば勝ちと言うのは最大限の譲歩だ。それ以上に勝敗のハードルを上げてしまえば勝負は公平ではなくなる」


 単に勝負である以上は公平な条件でする必要がある為、結愛の勝利条件は総真に一撃入れる事と提示したに過ぎなかった。

 それでも総真からすれば結愛は不利だと思っている。

 自分と結愛の実力を測った上での判断で、総真は結愛を見下している訳ではないらしい。

 尤も、客観的に見れば総真の発言は相手を見下していると取られても仕方が無いが、総真は事実を事実として言ったに過ぎないのだろう。

 騒ぎは収まったもののこの日、この場に居た生徒達は夕食の味を殆ど覚えていなかった。







 翌日の放課後、総真と結愛は魔法科専用グラウンドで対峙していた。

 グラウンドは放課後は魔法科の生徒が自由に使う事が出来るが、事前に予約を入れる事でグラウンド全体を使った模擬戦を行う事も出来る。

 

「それでどうしてこんなことになったのかしら?」

「色々とあったんだよ」


 グラウンドには観客席もある為、斗真たちは結愛と総真の模擬戦の見に来ていた。

 あの場には美雪はいなかった為、どういう経由でこの事態になったのか知らないらしい。

 

「凄かったよな。俺も思わず止めに入る事が出来なかった」


 斗真もあの場にいたらしいが、結愛の剣幕に結愛を止める事はできなかった。


「にしても……結構人いるよな」


 観客席を見渡す限り、この模擬戦の観客は結構な数だ。

 食堂で揉めた事もあり、クラスの大半が総真と結愛の模擬戦の事は知っており、今日一日のクラスでの雰囲気は重かったが、観客の数は明らかにクラスメイトの数よりも多い。

 

「大方、炎龍寺家次期当主の実力が気になるのだろう」

 

 ライラは集まった観客達の目的をそう考える。

 斗真たちは余り意識していないが、炎龍寺家は魔法の名門で、総真はそこの跡取りだ。

 風見ヶ岡学園の魔法科の生徒達の多くは将来は魔法管理局かその関連企業に就職する。

 そうなると、総真は将来的には自分達の上に立つ人物となる。

 そんな総真の実力は誰もが気になるところだろう。

 

「結愛は結構、喧嘩慣れをしているようだけど、炎龍寺はどうなんだろうな?」

「炎龍寺家は名門一族だから幼少期から魔法の訓練はしているでしょうね」

「少なくとも体力は化物じみていたな」


 総真の実力は未知数だが、斗真も煮え湯を飲まされた授業初日のランニングではずば抜けた体力を見せつけられている。

 体力が実力に直結する訳ではないが、総真が家柄だけのお坊ちゃんではない事は分かっている。


「ずいぶんと余裕そうだけど、魔道具を使わないのかよ?」

「必要ないだろう」



 グラウンドで軽くストレッチをして準備をしている中、結愛は総真が手ぶらである事を指摘する。

 見た限りでは装飾品の類を魔道具として使っているようには見えない。

 

「だが、お前は魔法を好きに使っても構わない」

「……ふざけやがって」


 ただでさえ、自分が有利な条件で総真は魔道具すら使わないと言う。

 明らかに自分が舐められていると感じて、結愛はいますぐにでも総真を殴りたい衝動に駆られる。


「準備は良いな?」


 放課後とはいえ正式な模擬戦である為、やり過ぎないようにクラスの担任である火凜が審判に付いている。

 火凜が総真と結愛が準備を終えたかを確認する。 

 

「いつでも!」

「問題ない」


 すでに二人とも準備を終えて、結愛はいつでも始められるように拳を構えている。

 対する総真は特に構える事もない。


「では……始め!」


 火凜の合図と共に結愛は一気に地面を蹴る。

 まずは先手を取って様子の一撃を食らわせるつもりだ。

 距離を詰めると結愛は総真に殴りかかる。

 総真は微動だにしない。

 結愛は初撃を当てられる確信を持った。

 だが、次の瞬間、総真は左手で軽く、殴りかかる結愛の腕を弾く。

 初撃を弾かれたと結愛が認識した瞬間、結愛は腹部に衝撃を受ける。

 

「ぐっ!」


 結愛は思わず衝撃を受けた腹部を抑えながら後ろに下がる。

 その一部始終を見ていた観客は起こった事を理解するまでに少し時間がかかった。

 それほど、総真の動きは無駄が無く自然だったからだ。


「何だ……今のは?」


 遠くから見ていた観客とは違い、総真との距離が近かった結愛は自分が何をされたのか分からなかった。

 初撃のパンチが防がれた事までは分かるが、どんな攻撃を受けたのかは分からない。

 結愛は自分の攻撃が総真に弾かれた事に意識が言っていた為、全く気付く事は無かった。

 総真は結愛の攻撃を弾いたと同時に右手で、結愛の腹部に掌底を入れていた事に。


「どうした? もう終わりか?」

「んな訳ねぇだろ!」


 結愛は再び総真に向かうと今度は右足を蹴り上げる。

 初撃の事もあり、結愛は総真からの攻撃を警戒するが、総真は結愛の蹴りをギリギリのところで上半身をずらしてかわす。

 蹴りをかわされるも、結愛は体勢を整えて連続で攻撃する。

 だが、総真は結愛の連続攻撃を軽く弾き結愛の攻撃が総真に届く事は無い。

 そんな中でも、総真は結愛の攻撃をいなすと同時にカウンターで一撃を入れていく。


「完全に腰が引けてるな」


 模擬戦を見ていた鷹虎が結愛の戦いを見ていたそう感じていた。

 鷹虎も結愛の戦いをまともに見た事は今日が初めてだが、結愛の性格と最初の一撃から考えると今の結愛は一歩踏み込まずにいるように見える。


「最初の一撃でカウンターを受けた事が効いているな。炎龍寺のカウンターが見切れない以上は踏み込み過ぎず戦うしかない。厄介な戦い方をする」


 模擬戦開始直後の総真のカウンターを結愛はまともに受けている。

 遠くから見ている観客とは違い、結愛は総真との位置が近いが故に自分が何をされたのか分からなかった。

 それを警戒する余り、結愛は普段よりも一歩引いてしまっている。


「けど、一撃でも決まれば結愛の勝ちなんだ。防がれていても、結愛は攻め続けている。幾ら炎龍寺だっていつまでも全てを防ぎ切れる訳じゃないんだ」

「だと良いのだけれど。確かに本郷さんは攻めているけど、ここまで完全に防がれていれば体力的だけじゃなくて、精神的にきついはず。一発でも攻撃が当たった時点で負ける勝負で、


守りに徹していると言う事は、恐らくは炎龍寺君は本郷さんの攻撃を全て防ぎきる自信があると言う事よ」


 斗真の言う通り、結愛は果敢に攻め続けている。

 結愛は総真に攻撃を当てた時点で勝利となる。

 その為、どんな形であれ攻撃が当たれば良い。

 しかし、幾ら攻撃しても総真は完全に攻撃を防ぎ、隙を付いてカウンターを決めて来る。

 結愛が攻めていても、攻撃が当たる気配が無ければ、体力よりも精神的な負担が大きい。

 一見すれば結愛が攻めているように見えるが、実際のところ攻めているのは総真なのだ。

 そして、総真は結愛が倒れるまで攻撃を防ぎ続ける自身があるからこその戦い方でもあるのだろう。


「どうした? 魔法も使って構わないぞ。遠慮は無用だ」


 総真は結愛の攻撃を防ぎなが指摘する。

 結愛は総真に合わせてか、未だに魔法を使わずに体術だけで戦っている。

 総真の言うような遠慮ではなく、総真が魔法を使わない為、結愛も意地になっているだけだが。


「うるせ!」


 結愛は一度距離を取る。

 このまま攻め続けたところで、総真に攻撃を当てる事は難しい。

 一度距離を取る事で、仕切り直す事にした。


「なら、使ってやるよ」


 結愛は拳を構えると両手に火がつく。

 

「くらいやられ!」


 結愛は総真と距離を保ったまま、火の付いた拳を振り抜く。

 それと同時に結愛の拳に灯っていた火が撃ちだされる。

 総真はそれを腕に魔力を集中して弾く。

 

「コイツで!」


 結愛は飛び上がって、拳と共に総真に飛び掛かる。

 火の魔法で強化した結愛の一撃を総真は飛び退いてかわす。

 結愛の一撃は総真を捕える事が出来なかったが、地面を思い切り殴り、衝撃と共に砂煙が上がる。

 結愛は砂煙に姿を隠すように体勢を低くして、地を蹴る。

 

「成程」


 砂煙で姿を隠した結愛は総真の背後に回ると、一気に加速すると同時に総真に飛び掛かる。

 結愛は渾身の一撃を総真に喰らわせる為に、カウンターを受けても止まらずに一撃を入れるだけの覚悟を持って総真に突っ込む。

 結愛も含め観客も、この一撃は総真でも防ぎ切れないと確信した。

 だが、突如それは起こった。

 結愛が地面を殴りつけた事で巻き起こった砂煙が一瞬の内に吹き飛んだ。

 次の瞬間、勝負は決まっていた。

 総真に一撃を入れようとしている結愛だが、渾身の一撃を入れる事なく止まっている。

 結愛の顔の横には総真が蹴りを入れたのか、足が伸びている。

 しかし、総真の蹴りは結愛の顔の横で寸止めされていた。

 最後の一撃を入れる瞬間に、総真は背後から迫る結愛に対してカウンターで回し蹴りを決めた。

 そのさいの回し蹴りの速さに砂煙は吹き飛んだのだ。

 総真の回し蹴りは寸前で止められたが、直撃すれば結愛の顔を首ごと刎ねかねない勢いの蹴りは寸前で止められても、その衝撃で結愛は気絶させられていた。

 総真はゆっくりと足を下ろすと、結愛はその場でうつ伏せに倒れる。

 

「そこまで!」


 誰が見ても勝敗は明らかだ。

 結愛が気絶して倒れた時点で、審判である火凜は総真の勝利を告げる。

 総真と結愛の模擬戦が終わるが、誰も歓声の一つも上げようとはしない。

 模擬戦で完全に結愛の攻撃は見切られて防がれていた。

 だが、そんな事はどうでも良くなるような、総真の圧倒的な力を見せつける程の最後の回し蹴りだった。

 その上、総真はこの模擬戦で魔力は使ったものの、一度も魔法を使ってはいない。

 これだけの実力に更に魔法を組み合わせての総真の実力はこの場にいる誰もが想像できない。

 模擬戦は総真の勝利で終わったが、当の総真はそれが当たり前のように表情一つ変える事もなく、息を乱してすらもいない。

 模擬戦が終わり、総真は倒れている結愛に近づいて行く。

 人によっては勝負がついて尚、追い打ちをかけるかとも思われたが、総真は気を失っている結愛を抱きかかえる。

 

「医務室に連れて行く」


 総真は火凜にそう告げると歩き出す。

 グラウンドには観客席だけでなく、魔法科の特性上、授業中に怪我をする事も珍しくは無い為、校舎とは別に簡易的な医務室が設置されている。

 総真は結愛をそこに連れて行くらしい。

 火凜も結愛を医務室に連れて行く事に異論はない。

 

「後は任せた」


 その場の後処理を火凜に任せると、総真は気を失っている結愛を医務室へと連れて行く。













 総真に連れられた結愛は医務室のベッドで目を覚ます。

 最後の一撃を入れるところまでは覚えているが、模擬戦がどうなったのか全く記憶になかった。

 だが、漠然と最後の一撃を入れる事なく自分が総真に負けた事は理解していた。


「起きたか」

「げっ」


 結愛は露骨に嫌な顔をする。

 あれだけ啖呵を切って総真に挑みながらも、結愛は総真に手も足も出せずに負けた。

 事実は事実として受け入れたが、やり場のない気持ちはどうしようもない。


「頭は冷えたか」

「うっせ」


 模擬戦自体、色々と収まりが付かなくなり炎龍寺家の跡取りと言うだけで絡んだ事が原因だ。

 だが、総真にボロ負けした事で結愛の中では不思議とあの時程の憤りはない。


「私だって分かってんだよ……どんなに背伸びしたってアタシ等はガキで大人たちに守られているだけだって……」


 結愛があれほど憤り納得が行かなかったのは、風雲寺での一件で自分達は当事者なのに、自分達とは関係のないところで全てが終わっていた事だ。

 結愛自身、自分達が何でも出来る立場や力がない事は分かっている。

 分かっているからこそ必死に足掻いていた。


「あの一件は俺の指示でなかった事にさせた」

「は?」

「俺が勝った時には何も話さないとは言っていない。今ならお前も冷静に話しを聞けるだろう」


 模擬戦で結愛が勝てば総真は結愛に知りたかった事を話すとは言ったが、結愛が負ければ何も話さないとは言ってはいなかった。

 結愛も勝てば話すなら負ければ話さないと勝手に思っていた。


「だったら……」


 だったら昨日の段階で話せば良いとも思ったが、昨日の結愛は普段以上に冷静さに欠けて感情的になっていた。


「お前達が戦った相手は俺の友人でな。管理局でもそれなりに顔が聞く」


 アウラ曰く水の魔法で作られた水人形は、アウラですら誰が送り込んだ物かは分からないと言っていた。

 だがそれを送り込んできた魔導師は総真の友人である事を知り、結愛も少なからず驚いているが、総真は気にせずに話しを進める。


「目的は風の神器を確保する事」


 それはアウラ自身が言っていた事で、結愛たちも分かっている事だ。

 最強の武器の一つであるアウラを狙って来たと言うのは正しかったようだ。


「契約前の神器であれば街中ならともかく、風雲寺で攻撃する事自体には違法性はない」


 結愛たちの感覚ではアウラは神器とはいえ人間に近い感覚だが、魔法管理法において神器の扱いは物でしかない。

 幾ら人の形を取っていても物である以上は、街中と言った場所を除けば強硬策で確保しようとする事自体は違法行為にはならない。

 今回のように寂れた寺で本来ならば、人はいない為、あそこでアウラを攻撃する事は法的には問題ではない。


「寧ろ、神器の確保を妨害したお前達の方が問題行動として最悪の場合は法的に罰を受けかねない」


 一見、結愛たちが襲われた被害者であるように見えたが、見方を変えれば結愛たちが神器を確保しようとしたアクアの妨害行動を取ったとも言える。

 水人形を差し向けたアクアは管理局でもある程度の権力を持っている為、双方の意見がぶつかった場合、アクアの意見が通されて、結愛たちの行動が違法行為とされて法的処置を受け


る可能性があった。

 結愛たちからすれば理不尽な事だが、相手が悪かったとしか言いようがない。


「だからなかった事にしたと?」

「そうだ。そいつもそいつで人の土地で勝手にやってるからな。神器が大神と契約を交わした以上、神器の事は諦めさせて、お互いに今後の事を考えて今回の事は無かった事にさせた」

 

 アウラは鷹虎と契約した以上、法的にはアウラは鷹虎の所有物として認められている。

 鷹虎が犯罪行為等に手を染めない限りは、鷹虎の所有物であるアウラを奪おうとする事は違法行為となる。

 向こうとしても炎龍寺家との今後の関係を考えると、勝手に炎龍寺家の所有している場所で暴れている以上、総真の提案を受け入れざる負えない。

 それにより、風雲寺での戦闘行為は無かった事にされた事で、結愛たちが法的に罰せられる事も亡くなった。


「これが真相だ。納得したか?」

「……するしかないだろ」


 自分達の行動を罰せられる言われはないが、少なくとも自分達が守られたと言う事が分かった以上は納得するしかない。


「それと……悪かった」

「この程度の事問題ない」


 真相を知った以上、総真に絡んで揉め事を起こした事を結愛は素直に謝罪する。

 尤も、総真からすれば結愛に絡められた事等、気にする程の事でもないらしい。

 

「なぁ……炎龍寺。また相手をしてもらっての良いか?」


 入学当初から名門一族の総真に対して色々と思う所のあった結愛だが、自分の最も得意とする分野で総真に完敗した。

 結愛も喧嘩の経験は豊富で腕っぷしには自信があったが、総真と模擬戦で戦って見て分かった。

 磨かれた技術の前に自分が今までやって来た喧嘩の経験等何の意味もないと言う事だ。

 だからこそ、何度でも総真に挑む事で己を鍛える必要があった。


「構わない。いつでも相手をしてやる」


 同じクラスでありながらも、違う班で接点は今まで全くなかった。

 そんな結愛のぶしつけな頼みではあったが、総真もそれが当たり前のように承諾した。


「出来る限り手加減はした。体には異常もなかったから今日はそのまま寮に帰っても問題はない」


 総真はそう言って、医務室を出て行く。

 医務室から出ると、観客席で模擬戦を見ていた斗真たちが負けた結愛を見舞いにでも来たのか斗真たちをすれ違う。

 斗真たちをすれ違うが、総真は興味がないのか斗真たちの事を一切見向きもしない。

 一方の斗真たちも今は結愛の事が優先で特に話す事も無かった。

 その後、総真は斗真たちと同じように模擬戦を見ていた穂乃火と晶と合流して寮へと帰って行く。

 この日の模擬戦により元より名門一族の跡取りとして噂となっていた総真の事は魔法科全体に知れ渡る事となる。

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