第7話
風雲寺から学園の寮まで2時間かけて斗真たちは戻って来た。
今朝寮を出たばかりだが色々とあり過ぎて数日振りな気もする。
寮を前にアウラが風のように姿を消したが、鷹虎曰く、鷹虎にはアウラの居場所は大体感じる事が出来、呼べば出て来るようなので、今はアウラの事はとやかく言う事もない。
寮の横には見れなれない赤い車が止まっているが、誰もそんな事は気にしない。
「何か凄い久しぶりに帰って来た気がする」
「色々あったからな」
斗真たちは寮の中に入ると、火凜が皆の帰りを待っていた。
「おかえりなさい。色々と大変だったようだけど、もう少し頑張って貰える?」
火凜はそう言い5人を食堂に連れて行く。
そこには魔法管理局の制服を来た見慣れない女が斗真たちを待っていたようだ。
女の横には真紅の髪とドレスの少女が座っているが、少女の方は斗真たちが入って来ても興味すら持たないようだ。
管理局の制服を来た女の方は年は火凜よりも上のように見える。
恐らくは魔導師で、その実力もかなりの物だと思わせる雰囲気を纏っている。
「……真理さん?」
斗真たちは見慣れない相手だが、そんな中結愛だけは相手の事を知っているようだ。
「久しぶり結愛ちゃん」
それは向こうも同じで軽く笑みを浮かべながら手を振って来る。
「知り合いなのか?」
「この人は緋村真理さん。アタシが昔色々と世話になった人。言って見れば真理さんはアタシの心の中の師匠ってところだな」
「悪いけどもう弟子は取ってないわ」
結愛が昔悪さをしていた事はそれとなく分かっていたが、管理局の人間の世話にもなっているようだ。
恐らくは真理は管理局の風見支部から来たのだろう。
「で、何で真理さんがここに?」
「事情聴取よ」
どうやら真理がここに来た理由は事情聴取で、斗真たちが事情聴取をされる理由は一つしか思い浮かばない。
「まぁ、形式上の事だし気楽にしていいわよ」
真理は斗真たちに座らせて今日の事をいくつか質問を始める。
斗真たちは真理が結愛の知り合いと言う事もあり、質問に答えながら今日起きた事を全て話した。
「成程ねぇ……そりゃ大変だ」
話しを全て聞いた真理は素直な感想を述べる。
斗真たちからすればとんでもない一日だが、真理は大変の一言で済ませた。
「そんじゃ事情聴取も終わったから。私は帰るわ」
「あの! 少し良いですか?」
話しを聞くだけ聞いた真理は用事が済んだのか、帰ろうとするが、それを斗真が止める。
「ん? 何?」
「アウラを狙って来た奴らに付いて何か分かってるんですか?」
アウラを狙った水人形の事はアウラ自身もどこの誰が差し向けて来たのか見当も付かないと言っていた。
だが、魔法管理局ならば何かしたの情報を持っている可能性がある。
アウラが鷹虎と契約した以上はこれからも狙われる危険性がある為、斗真たちは敵の事を知っておきたい。
「さぁ? 私達も知らないし、この件はこれで終わりだからこれから先も知る事は無いわね」
「真理さん! 幾らなんでもそれは無いんじゃないんですか!」
真理の言葉に聞いた斗真よりも結愛が先に立ち上がって怒りを露わにしている。
管理局はアウラを狙って来た相手の正体を知らず、捜索する気もないと言う事だ。
知らないだけならともかく、捜索する気すらないと言うのは幾らなんでもおかしい。
「大丈夫よ。少なくとも貴方達が戦った相手はもう、貴方達を狙って来ると言う事はないから。上の方で話しを付いたみたいだから」
「そう言う事じゃなくてですね!」
結愛が怒っている理由は管理局が動く気が無いと言う事で、自分達が狙われるか否かではない。
「結愛ちゃん。貴方達が納得できるかどうかは問題じゃないの。あそこは炎龍寺家の所有地で、その炎龍寺家から今日の戦闘に付いては無かった事にするように指示が出てるのよ。貴方
達が幾ら言ったところで、何かが分かる訳でも無いのよ。理不尽だろうとそれが現実。受け入れなさい」
今までとは違い真理は有無を言わさない雰囲気を纏っている。
結愛も魔導師を目指しているから分かる。
炎龍寺家は魔導師の名門とした魔法管理局に強い影響力を持っている。
特に本拠地のある日本では炎龍寺家の決定に逆らう事は不可能だろう。
その炎龍寺家が今回の戦闘その物をなかった事にすると言っている以上は、風見支部はそれ従うほかない。
「でないと自分だけの問題では済まないわよ」
真理がそう言うと、鷹虎以外は顔を背ける。
相手が炎龍寺家である以上は下手に騒いだところで、どうにかなる訳ではない。
彼らは皆、一人前として社会的に認められている訳ではない。
場合によっては親や家族にまで迷惑をかける事になり兼ねない。
真理も遠回しにこれ以上騒ぐと家族に迷惑がかかると言っているのだろう。
自分だけの問題では済まない以上は、結愛も斗真たちも引き下がるしかない。
「お利口さん」
真理も結愛たちが自分の言いたい事を理解して、口をつぐんだ事に満足しているようだ。
「行くわよ。ヴェスタ」
真理はヴェスタと呼んだ少女と共に帰って行く。
寮から出ると、寮の横に止めていた車に乗り込む」
「で、何でアンタは機嫌が悪い訳?」
車を発進させて、真理は隣に座っているヴェスタに問い質す。
ヴェスタは事情聴取の中で一言も喋ってはいない。
元々は無口と言う訳ではなく、寧ろうるさい方だ。
だが、機嫌が悪く口を一切開かなかった。
「別に……ただ、アウラの馬鹿が顔すら見せない事がムカつくだけだ」
「つまりは妹にそっぽ向かれたから拗ねていたって訳ね。子供ねぇ」
「ふざけるでないわ!」
真理の言葉にヴェスタは声を荒げる。
ヴェスタはアウラの姉に当たる。
つまりはヴェスタもまたアウラと同様に神器と言う事だ。
そして、ヴェスタの機嫌の悪い理由はアウラが事情聴取の場に居なかった事らしい。
ヴェスタ自身、他の神器に姉妹としての情をそれ程持っている訳ではないが、妹であるアウラが姉である自分に顔を見せる事なく逃げた事に腹を立てていたのだ。
それを真理は子供染みていると笑う。
ヴェスタは作りだされてからの時間は少なくとも真理に30数年の人生よりも遥かに長い筈だが、見た目は12歳程度で中身も見た目通りに子供染みている。
「大体、真理も今回は管理局の仕事ではなく、あの小僧に言われた事だろう? いつから小僧のパシリになったのだ!」
「パシリって何よ? あの子が珍しく私に頼んで来たんだから聞いてあげたくなるのが人情って物でしょ!」
「何が人情だ。あの餓鬼の事だ。用件を一歩的に行って来ただけで、頭の一つも下げてないだろうに!」
次第に程度の低い口論となりながら、真理は仕事を終えて帰って行く。
真理の事情聴取が終わり、日が落ちた頃、鷹虎は一人寮の屋上で涼んでいた。
鷹虎たちE班は下まで降りるのは不便だが、屋上に出るには便利な位置にある。
鷹虎は部屋でゴロゴロとするのも好きだが、屋上の解放感も好きだ。
「ここに居たの」
一人屋上で涼んでいると、美雪が屋上にやって来る。
どうやら美雪は鷹虎を探していたようだ。
基本的に班員だろと必要以上に他人と関わらないようにする美雪がわざわざ自分を探していたと言うのは珍しい。
「本郷さんは結構荒れているみたいだけど大神君はそうでもないよね」
「まぁな。慣れてるし」
アウラの一件の結末に斗真と結愛は余り納得はしていない。
だが、鷹虎は特に不満ではない。
鷹虎自身、大人たちの都合で理不尽な目に会う事はこれが初めてではない。
そんな時にどれだけ足掻いたところで無力な子供ではどうしようもない事を知っている。
だから、今回の事も5人の中ではアウラと契約して、最も当事者に近い鷹虎だが、区切りをつけている。
「そう言う氷川は?」
「相手は炎龍寺家だし、こちらにこれ以上厄介な事が起こらなければ良いわ」
美雪も美雪で折り合いは付けているようだ。
炎龍寺家の影響力は非常に強く、まともにやり合う事は出来ない。
少なくともアウラを狙って来た相手がアウラを再び狙って来る事がない以上は美雪もそれで納得するしかないと分かっているようだ。
「それはともかく、今日は助けて貰ったわね」
「……そうだっけ?」
鷹虎は今日の事を思い出す。
確かにアウラと契約して戦闘に参加した際に美雪への攻撃を弾いた。
鷹虎はそこまで意識していた訳ではないが、確かに鷹虎は美雪を助けた事になる。
「まぁ……俺達は一応は同じ班の仲間なんだし、結城や本郷なら仲間だから当然とか言うんじゃね。俺もそこまでの事は言えないが、別に感謝される程の事でもないから、氷川も気にす
る必要はないと思うぞ」
「そう言うものかしら?」
「そう言う物なんだろう……多分」
鷹虎も斗真や結愛程真っ直ぐ言える訳ではないが、美雪も同じ班の仲間だとは思っている。
「そう……でも、これだけは言わせて貰うわ。ありがとう」
美雪はそれだけ言って屋上から出て行く。
どうやら美雪の用件はわざわざ助けて貰った事に対する礼を言いたかっただけらしい。
「笑うと結構可愛いじゃん。グヘヘヘ」
「何かってな事言ってんだ」
美雪が居なくなるとどこからともかく、アウラが鷹虎の心を代弁すかのようにそう言う。
実際に鷹虎の心を代弁した訳ではないが、鷹虎も去り際の美雪が少し笑ったように思えた。
今まで班の中でも常に距離を取っていた美雪の思わぬ顔に見とれた事は事実で、アウラには見抜かれていたのかもしれない。
「で、何でいきなりいなくなったんだ?」
「いやね……ここからおっかない気配を感じ取ったんだよね。私は風の神器だからそう言うのに敏感で……」
アウラが寮に付く前に居なくなった事はヴェスタの推測が当たっていたようだ。
だが、鷹虎はヴェスタがアウラと同じ神器だと言う事は知らない。
「まぁ良い。で、これからアウラはそうする気なんだ?」
「どうするも何も私は鷹虎を契約したからねぇ。私の事は鷹虎が好きに使って良いわよ。どこに居ても私を呼べば例え、私がお風呂に入っていてもトイレの最中でも強制的に呼び出され
るから。まぁ、私は神器だからお風呂もトイレも必要ないんだけどね」
アウラの今後は完全に鷹虎と一緒となるらしい。
薄々分かっていた事だが、鷹虎は頭が痛くなる。
「……一応聞いておくが、お前を狙っている奴らってまだいたりするのか?」
「さぁ? どうだろ。でも、一つだけ言えるのは神器を欲しがる連中はいつの時代でも後を絶たないって事だけ。管理局が上手く情報を統制しているから公にならないけど、過去に神器
を巡って国が滅んだ事もあるわ」
「だよなぁ」
鷹虎も神器の説明を聞いた時点である程度は危惧していた。
神器が世界に7つだけで1つだけでも圧倒的な力を発揮する。
そんな神器を欲しがるのが今日襲撃して来た相手だけとは限らない。
そして、神器の力を欲する輩は全うな相手よりも犯罪組織の方が多いだろう。
余り表ざたにはなっていないが、世界各地には魔法管理局と敵対する犯罪組織や魔法管理局が制定する魔法管理法を適応していない国も存在している。
神器を持っているだけで、それらから狙われる危険性は高い。
「私が飽きるまでは刺激的な人生を送る事を約束するよ!」
「いらねぇ……そんな人生」
ただ生きていくだけの人生において多少の刺激は必要かも知れないが、アウラの言う刺激的な人生は確実に鷹虎の望む人生とはかけ離れている事だけは確かだ。
今後の人生を楽する為に風見ヶ岡学園の魔法科に入学した鷹虎だが入学して1か月もしないうちに、ここに来た選択を後悔する事になる。
だが、後悔したところで今更学園を去る事も出来る訳ではない。
今はだた学園生活が無事平穏に過ごせる事だを鷹虎は祈るのだった。
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