第4話

 平和な一日が終わり、風見市は静寂な闇に包まれている。

 風見市のオフィス街の一画のビルの屋上に一人の人影があった。

 女ではあるが、見た目は10代半ばでオフィス街のOLには見えない。

 白衣を着用し、研究者のようにも見える。

 女は屋上で瞑想しているかのように目を瞑り何かを感じようともしている。


「見ぃつけた」


 女は目を開くとにやりとする。

 どうやら何かを探しており、目的の物を見つけたようだ。

 女は右腕を振るうと、白衣の袖から野球ボール程の水の塊が3つ程、飛び出て来る。

 水の塊がビルの屋上に落ちると、野球ボール程だった水が次第に大きくなり、最終的には人と同じくらいになり、そして、人の形となる。

 3つの水の塊は人の形になると、今度は表面が黒いマントを付けた人へと姿を変える。


「ご命令を……我が創造主」


 人の姿となった水の塊は女に対して頭を垂れながら指示を仰ぐ。


「神器を取って来て」

「御意」


 女は非常に簡潔に指示を出した。

 水の塊たちも、女の指示を完全に理解したのか内容について質問はしない。


「極力荒事は避けるけど、最悪の場合は多少は手荒な真似をしても構わないわ。だけど、総ちゃんが動くような事は避ける事。総ちゃんがその気になればアンタ達程度は一瞬で蒸発させ


られるから」


 女の警告に水の塊たちは黙っている。


「ようやく、契約前の神器を見つけたんだからどぉぉぉぉぉしても欲しいからね。そんじゃ行って来て。私の僕たち」


 女はそう言うと水の塊たちは再び液状になると、風見市の闇の中に消えていった。










 初日の授業は一日中グラウンドを走らされたが、その次の日からは至って普通の授業が続いた。

 一日中グランウンドで走らされた事には心底参ったが、丸一日机に向かっての授業はそれはそれで斗真には堪えた。


「魔法は一般的に8つの属性に振り分けられる事が出来る」


 現在は魔法の基礎理論の授業だ。

 元々、机に向かっての勉強が苦手な斗真は内容をノートに取り、覚える事よりも迫り来る睡魔との戦いの方が熾烈を極めていた。

 

「火、水、雷、地、風の基本属性に加えて光と闇。魔力をそのまま使う無属性の8つに分けられる」


 何とかノートに内容を書く事に集中して睡魔に対抗するが、一度襲い来る睡魔はそう簡単には撃退は出来ない。


「魔導師は誰しも基本の5つの属性に分けられる魔力属性を持つが、稀に光と闇と言った希少な属性を持つ者も現れる」


 斗真も魔法との関わりは偶然事件に巻き込まれたからで、それまでは生活に必要な部分でしか関わらず、専門的な知識に欠ける為、基礎理論の授業の内容の半分は初めて聞く事だ。


「これは生まれつきの物で、生まれついた属性以外の属性の魔法を使う事は出来ない。君たちもいずれは自分の魔力の属性の魔法の練習を行う事になるだろう」


 必死に睡魔と闘いながら、遂に斗真は睡魔に負ける事なく、授業の終わりの合図が入り、斗真は睡魔に勝利する事が出来た。

 その代償として、授業の内容は殆ど頭に入ってはいなかったが。


「終わった……」


 魔法の基礎理論の授業が終わったところで、今日の授業は終わりだ。

 授業が終わったところで、いつものように結愛が声をかけて来る。


「今日も一段と死にそうだな」

「うるせ……」


 授業が終わると不思議と今までの眠さが嘘のように目が冴えて来る。


「まぁ、まだ魔法の基礎理論の授業は常識レベルの事だから寝落ちしても問題は無いんだけどな。あの先生が見逃してくれれば」

「……マジで?」


 斗真にとっては基礎理論の授業でもまだ分からない事も多いが、どうやらまだ授業としては序の口で自分と同じように勉強が苦手だと思っていた結愛ですらも付いていけているようだ


 同類と思っていた結愛に斗真は軽く裏切られた気分になる。


「だったら、自分の魔力の属性とかも知ってんの?」

「風見市だと小学生くらいから自分の魔力の属性を見る事が義務づけられてるからな。ちなみに私は火属性」


 斗真の育った町とは違い風見市は魔法文化が進んでいる為、結愛の言う通り小さい子供の段階で魔力の属性を調べる事が義務となっている。

 その為、この町では魔法を使う使わないに関わらず、自分の魔力の属性を皆が知っている。


「で、大神が風でライラが地、氷上は水だって言ってたな。そう言えば斗真からはまだ聞いてなかったな」

「まぁ……」


 結愛は他の班員と積極的に交流しているのか、斗真以外の魔力の属性を知っていたが、斗真とはまだ魔法関連では余り話しをしていなかった。

 だが、斗真は事件に巻き込まれるまで自分が魔法を使える程の魔力を秘めていた事など知らなかった為、自分の魔力の属性等知りはしなかった。

 

「えっと……俺は……」


 ここで自分の魔法の属性を知らない等、言い辛かったが、かつての事件の最中に実戦は経験している。

 その事を斗真は思い出す。


「確か光属性だったな。うん。そうだよ」

「光属性って相当レアじゃん」


 事件の中で斗真の使った魔法は光の魔法だと言われていた事を辛うじて思い出した。

 そう言う事は斗真の属性は光なのだろう。

 そして、光属性の魔法は闇属性と並び、非常に貴重な属性でもある。


「結城、本郷。なんか火神先生が呼んでたぞ」


 珍しい属性を持っていた事を知り驚く結愛だが、鷹虎が二人に声をかける。

 鷹虎も結愛の驚いている理由には特に触れる事は無い。


「先生が? 何だろうな?」

「お前がさっきの授業で寝そうだった事で説教なんじゃね?」

「いや、結城だけじゃなくて俺や本郷もだし。ついでに氷川とベルクマンも呼び出される」


 先ほどの授業で斗真は危うく睡魔に負けそうだった事で、弛んでいると注意を受けるとも考えられたが、幾ら同じ班とはいえ全員が同時に呼び出されるとは考え難い。

 結愛も自分の日頃の行いが良好とは言えないが、呼び出されるような事はまだした思えは無い。


「ここで考えても仕方が無いだろ。行って見れば分かる事だしな」

「だな」


 呼び出される理由に心当たりがない以上は、教室で頭を捻っても時間の無駄でしかない。

 斗真と結愛は鷹虎と共に呼び出した火凜のいる職員室を目指した。











 学生にとって職員室は特に悪さをしていなくても緊張する物だ。

 特に結愛は過去に色々と問題を起こしていた時期もあり、職員室は学園の中で最も行きたくはない場所でもある。

 それでも呼び出しを受けた以上は来るしかない。

 職員室に入り近くの教師に火凜に呼ばれた事を告げると、職員室の横の応接室に通された。

 そこにはすでに美雪とライラは来ていたようで、呼ばれた生徒はこれで揃ったようだ。

 火凜に座るように言われて、斗真たちは応接室のソファーに座り火凜の言葉を待つ。


「これでE班は揃ったな」


 斗真たちが来た事で、火凜が話し出す。


「君たちは特別実技の授業の事は知っているな?」


 火凜の言葉に斗真以外は軽く頷く。

 斗真は特別実技の授業とやらの事は知らないが、今その事を告げる雰囲気ではない。

 斗真は知らなかったが、特別実技は魔法科の授業の中でも特殊な授業の一つだ。

 風見市では魔法が関連するしないに関わらず、大なり小なりと様々な問題を抱えている。

 それを日々、魔法管理局風見支部や警察が対応しているが、風見市の規模では全てに手が回っている訳ではない。

 そこで風見学園は魔法科の生徒を実習も兼ねて、学生レベルで対応可能な問題の対処に当てている。

 風見市としても少しでも人手を借りられ、学園側としても市に貢献する事が出来、生徒としても様々な経験を積む事が出来る。


「このメンバーを呼び出したと言う事は私達が特別実技の授業に駆り出されると言う事ですか?」


 美雪は呼び出された理由に察しが付いたのか、そう切り出す。

 

「そうだ。入学早々ではあるがな」


 本来ならば特別実技は魔法科の生徒の中でも2年生や3年生が中心になって行う事が多い。

 斗真たちのような1年生は早くても半年は学園で学んでからと言うのが一般的だ。


「内容的には2年や3年を向かわせる程ではない為、君たちが適任だと上が判断した」


 特別実技の内容は毎回異なっている。

 それこそ、迷子のペット探しと言った事から害獣駆除と言った物まで様々だ。

 内容によっては、入学したばかりの斗真たちでも出来る仕事もあるだろう。


「でもさ。今年は期待のルーキーの炎龍寺兄妹がいるのに何でアタシ等なのさ?」


 結愛は少し含みを持たせた言い方をする。

 初日のマラソンで総真だけでなく穂乃火にも負けた事で結愛は一層総真に対しての対抗意識を燃やしている。

 だが、結愛の言う事も尤もだ。

 総真は炎龍寺家の跡取りで、能力的にも新入生の中ではずば抜けている。

 入学早々の特別実技に駆りだすなら、これほどの適任者もいないはずだ。


「上の判断でな。彼は今回の特別実技には適さないと判断されたんだよ」


 結愛は余り納得が行かないようだが、これは決定事項である為、文句を言ったところで何の意味も無く、生徒である斗真たちが気にしたところで情報は全て公開されると言う事はない



「君たちには拒否権はないし、これは君たちにとっても有益な事だ」


 特別実技は常に望んで行ける事でもない。

 風見ヶ岡学園に在籍している間に受けられる回数は決まって来る。

 特別実技の結果は当然、成績にも反映され、成績以上に生徒達にとっては様々な経験を積む事の出来る機会でもある。

 

「急な事だが、明日から現地に向かって貰う。原則としては特別実技には各々が魔道具を持参するんだが、今回は必要になるとは思えないから、持っていない者は持参する必要はない」


 またもや魔道具と聞きなれない言葉が出たが、ここで聞ける雰囲気ではない。


「実習内容や場所に付いては明日の朝に伝える。今日のところは早く寮に戻って明日に備えて休みなさい」


 その後は、火凜に言われた通り、いつものように寄り道をする事なく、斗真たちは学園を出て真っ直ぐ寮へと帰る事になる。


「それにしても特別実習ね。何をやらされるんだか」

「それよりもさ……魔道具って何さ?」


 寮までの道中に斗真は先から気になっていた事を皆に質問した。

 明日からの実習では必要はないようだが、知って置いて損はない。


「魔道具と言うのは魔導師が魔法を使う際に使う媒体のような物よ」


 道中で相変わらず会話に参加する気が全くなかった美雪が答える。

 魔道具とは美雪の言うように魔法を使用する際に媒体として使う道具の事だ。

 形としては常にアクセサリーとして常に身に着けて置ける物から実戦で武器として使う事も想定して武器の形をしている物まで様々な形をしている。


「媒体……もしかしてアレも魔道具って事か?」


 美雪の説明で、斗真も魔道具に関して思い当たる物があるようだ。

 斗真が魔法を関わるきっかけとなった事件で斗真が出会い使用した相棒が魔道具と呼ばれる物なのだろう。

 

「サンキュウな。それなら俺も持ってたわ」


 魔道具は今回の特別実技の授業では必要はないらしいが、あるに越した事はない。

 斗真も持っているのであれば何かしらに使える機会があるかも知れない。

 魔道具の説明も終わり、斗真たちは明日から始まると言う特別実技の授業の事を話しながら寮へと帰って行く。

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