ガラス少女

 青井と赤井を退けた私たちはSUVのボスの元に向かっている。いったい誰がボスなのだろうか?

「ねえ、ボスって誰なのかな~?」

「誰だろ? 今までの流れからすると、私に恨みがある人間だと思うんだけど」

「お前、かなりあの手口で大量の親父を狩ったからな~」

「どっちにしてもはっきりしてるのは男が相手だということですね」

 そう、たぶん男。

 それに、日向先生みたいなことはないだろう。私は女の敵の痴漢を狩っているので女に恨まれる覚えは無い。

 私の体をねたむなら分かるけど……。自分で言うのもなんだけどナイスボディだから……。でもそれだけの理由で、こんなことまでするとは思えない。私を狙うだけの理由なら別だけど。

「さあ、ボスの間ですよ」

 入り口の上にわざわざ『村長の間』という看板がある。

 いったいどれくらいあほな組織なのだろうか? SUVって……。わざわざ村長の間って書かなきゃ村長の部屋が分からんのだろうか? ここは幼稚園じゃないんだぞ。

「オ~プ~ン」

 海ちゃんがそういうと同時に扉を開いた。

 そして目の前に広がっていたのはとんでもない光景だった。なんかいろんなモニターがあり、コンピューターがあり、パソコンがある。かなり最新設備のそろった研究所を思わせるようなところだった。

 やはり私の心臓が狙いなのだろう。日向先生の話と、桐原さんの情報からすると、欠けているものって、やはり、私の心臓なのだろう。もしそうだとしたらボスはいったい誰なんだ? 

「やっと来たか端海、いや破壊ガラス」

 私のことを破壊ガラスと呼ぶのは、学校の先生だけ……ということは、ボスは学校の先生、しかもこの声は……。

「チョーク平井!」

 島田君がその人物の名を呼ぶ。出てきたのはチョーク平井こと平井先生だった。

「何で平井先生が……」

 海ちゃんが驚きを隠せない様子で言う。そりゃそうだ。秘密組織のボスが、担任の先生なのだ。誰だって驚くだろう、普通。

「私は何年も前からここで研究を続けていた。そう組織の再興の為にな!」

「兵器の研究ですか……」

「そうだ、兵器、それもプラズマを応用したプラズマ兵器だ。しかしそれには、どうしても何か欠けているものがあって、どうしても完成に至れなかった。だが、一週間前それが判明したのだ」

 一週間前……私がガラスの体になった日だ。……ということは……。

「欠けているものは、私のガラスの心臓」

「そうだ。欠けているのはお前のガラスの心臓だ。探したぞ、普通に考えればこの世にガラスの心臓などというものを持っているものがいないと思う」

「だけど神のおかげでそれが判明した」

「そうだ。さあ、心臓をよこせ」

「切るよ? そういわれて、はいそうですかって、渡せるなら、こんなとこにいないわよ」

「それもそうだな」

 そういうとチョーク平井はチョーク……ではなく、鉄の棒――おそらく棒手裏剣を構えた。

「そんなので私たちに勝てると思ってるの?」

 そう、私たちはただの人間ではない一人はバーナー少女ことフレイム福光、もう一人は何でも凍らすアイス北川。そして、私のナイトこと守り手、バリヤー能力のある島田君。そして、人並みはずれた動体視力とつめの刃を持つ私。

 どう考えたって私たちの勝ちは確定している。チョークが棒手裏剣に変わったからって、やつはただの人間、どう考えても私たちに勝てるはずが無い。

「今、君たちはそれぞれの能力を使えるのかね?」

「何言ってるの~? 使えないわけ……」

 海ちゃんが火を出そうとするが出ない

「あれ~? でない。なんで~?」

「僕の能力も……だめです」

「俺もだ」

 みんなの能力が封じられてる! 

 そうだ、あいつはブレイク佐藤の能力を封じていた。それならあいつの能力は止めること。やつは私たちの能力を止めている。ブレイク佐藤の情報からして上限はあるみたいだけど。私のは、装備だから、止めるもくそもない。私が一気に切りつけて……あれ? 動けない。どうして……?

「端海、お前だけは、別だ。お前には止めるべき能力がないからな」

「くっ!」

 まったく動けない。これじゃあ棒手裏剣をもろに食らってしまう。

「つまり、今のお前らは、ただの人間三人に、まったく動けないものが一人」

「だけど俺らは動ける!」

「そうです。例え能力はなくても」

『武器がある!』

 そういって島田君はあの金の短剣を、海ちゃんは簡易バーナーを、アイス北川は島田君から手渡された青井が使っていた刀を構える。

「なら、お前らから、しとめてくれるわ!」

 そういうとやつ三人に向かって棒手裏剣を投げた。

 対平井戦開始。




「なんか向こうのほうがうるさいな」

 俺はオリに手をかけ向こうを覗こうとするが見えない。どうやら音はかなり遠くからしているみたいだ。くそっ! この檻さえ壊せれば……。くそっ! 俺は檻の格子を、力を込めて握る

 ……おりょ? 壊れた……。能力が戻ってる。よし! これならいける! 俺は檻を壊し、脱出した。途中なにやら機械があって、自分の能力が戻った直後なので、破壊を楽しませてもらった。

 ……最高。

 俺は手当たり次第に機械を破壊していった。ここはおそらくSUVの秘密基地なのだろう。壊して問題ないだろう。

 ……うん。これなら、あのガラス少女も許してくれるだろう。

 俺はモニターやらのガラスを壊すのはいくら敵の施設とはいえ気が引けたので内部の回路を適当に破壊していった。これでここは使い物にならなくなるだろう。

 しかし、内部の回路だけ破壊するのは疲れるな。

 ……あまり使えないな。

 まあいい、とにかく一時的にでも使えなくできれば、それでいい。




「くっ!」

 島田君が平井先生の棒手裏剣を短剣ではじく。だが、完全に防ぎきれず。何本か掠っている。アイス北川も刀で何とか防いでいるが、島田君と同じような感じだ。海ちゃんは何とか走り回って逃げていて、バーナーを敵に当てる余裕はない。

早い話、私たちは苦戦していた。だけどやつは、みんなに気を取られていてというか、みんなの相手に精一杯のようで私に棒手裏剣を投げてくる気配はない。とりあえず。私が狙われる心配はしばらくない。

「ほらほらどうした! お前らの力はそんなもんか? はっはっはっは!」

 くそっ! 動けたら絶対に切り刻んでやるのに。やつは次から次へと棒手裏剣を投げている。いったい何本もってるんだ? あ、あいつ投げた棒手裏剣拾ってる。これじゃあ、球切れは期待できない。

 どうすればいい?

 どうすればいいんだ?

 私にできるのは考えることだけ。幸いしゃべるのはできそうだ。しかし、いい案が思いつかない。あいつはかなりすばやく動き回っていて。島田君とアイス北川を牽制しつつ、しっかり海ちゃんも近づかせないように動いている。

何かいい方法はないのか? 私はただこうしてみんながじっくりといたぶられているのを見ているしかないのか……。

 時間が経てば立つほど、みんなの体力がなくなっていき、いつか止めを刺される。そうすれば私の心臓がやつらに渡ってしまう。その前に平井に全員殺される。 くそっ! せめて動ければいいのに……。

「そらっ!」

 平井の投げた棒手裏剣が私に向かってくる。

「あぶないっ!」

 島田君が私に向かってきた棒手裏剣をはじき落とすが、息が切れている。そろそろみんなの体力が落ちてきていて、やつが私を狙う余裕ができたんだ。くそっ! このままじゃ本当になぶり殺しだ。

「隙あり~!」

 海ちゃんがやつの一瞬の隙をつきバーナーを近づけるが、平井の回し蹴りが海ちゃんにもろに入る。

「ぐっ!」

 海ちゃんが五メートルほど吹っ飛ばされる。島田君たちならともかく、彼女にとっては大ダメージだ。海ちゃんはげほげほとむせっている。そこに平井の棒手裏剣が襲い掛かる。

 キンッ。

 アイス北川が平井の棒手裏剣をはじく。しかし息が上がっている。

「大丈夫ですか?」

「げほっ、げほっ、うん……なんとか……」

「この野郎!」

 アイス北川がやつに切りかかる。しかし、やつはそれを棒手裏剣で受け止め、彼の腹に蹴りを入れる。

「ぐっ!」

 アイス北川が五メートルほど吹っ飛ばされる。私は傍観しているしかできない。 吹っ飛ばされた彼の元にやつの棒手裏剣が襲い掛かる。

 キンッ。

 島田君が、棒手裏剣をはじく、しかしやつの猛攻は止まらず。海ちゃんの元に棒手裏剣が投げられる。

「くっ、だめだ~」

 キンッ。

 島田君が棒手裏剣を拾って投げ、平井の攻撃を防ぐ。

「気を抜くな! 今、気を抜くと本当に死ぬぞ」

 彼が海ちゃんに向かって叫ぶ。しかし顔はやつのほうを向いている。分かっていることだが、今まで普通の生活をしてきた私たちに、そんなことは無理に近い。

「う、うん……ごめん」

「はあ、はあ、俺だって……守るにも……限界があるぞ……」

「そろそろ終わりにしようか」

 やつが私に向かって歩いてくる島田君が前に立ちふさがるが足が振るえ、ふらふらだ。おそらく立っているので精一杯なのだろう。

 私は動けないことを呪った。せめて私が動ければ、みんなの負担が小さくなるのに。みんなは私をかばいながら戦っている。今までの間抜けな親父たちとは違って、やつは隙がほとんどない。あったとしても、逆にその隙を突けたことで生まれる油断が、逆にダメージにつながる。その悪循環でみんなの疲労はピークに近い。 海ちゃんなんかは意識を保っているのがやっとなのだろう。今にも倒れそうだ。アイス北川も限界が近いのだろうふらふらだ。

 私はこうやって冷静に分析しているが、みんなの戦いを見ていて冷や汗をかきっぱなしだ。

「くそっ! このくそ教師! 生徒をいじめて楽しいか!」

 アイス北川が必死の声で叫ぶ。

「ああ、楽しいよ。今まで教師ごっこは実に楽しかった。ただ、チョーク投げの回数を減らされたのは気に入らんかったがな。だが、あそこで教員を辞めさせられればここの研究員として不便だからな」

「ほんとにくそ教師だな」

 島田君が笑いながらつぶやく。必死の抵抗なのだろう。しかしそれが逆にやつの怒りをかった。やつが私の前に立ちふさがっている島田君を蹴り飛ばす。彼はゆっくりと弧を描き飛んでいく。五メートルくらいだろうか、私にはそれがスロー再生でもしているかのように見えた。

「島田君!」

 彼は無言、ピクリとも動かない。死んではいないだろうが気絶してしまったのだろう。

「護君! お願いおきて! じゃないとやられる!」

 私は必死に叫ぶが彼は答えない。

「島田君、起きてください! 今、戦えるのは僕とあなただけなんですよ! あなたが倒れたら、誰が、端海さんを守るんですか!」

 アイス北川の声にも反応しない。

「島田く~ん! 起きて~!」

 海ちゃんの呼びかけにも答えない。

 平井が倒れた島田君をけって仰向きにする。そして……彼の胸の短剣を抜きそれ見て鼻を鳴らしそれを島田君の胸に向かって投げる。短剣はゆっくりと島田君の胸めがけて飛んで行き、彼の胸に深々と突き刺さった。今すぐにでも彼の元に駆け寄り、彼の安否を確認したい。

「島田は死んだ」

 ……嘘。

 ……島田君が死んだ?

 ……嘘だ! 彼が死ぬなんて……。誓ったじゃない。

「嘘よ! 彼はまだ生きている」

「なら自分で確認してみろ」

 動けるようになった。私は彼の元に駆け寄り、脈を計る、手が震えてうまくできない。わずらわしいので彼の胸に耳を当て鼓動を確認する。

 止まってる。

 動いてない。

 ……。

 ……シマダクンガ、シンダ?

 私は頭の中が真っ白になった。彼は自分の手の甲に傷をつけ「お前を守る」って言ってくれた。手の甲を見ればその傷跡がまだ残っている。私は彼の亡骸を抱きしめた。そして星型の傷のついた手の甲を頬に擦り付ける。彼の最期のぬくもりを感じる。

「う、うわああー!」

「私の勝ちだな。心臓をもらおうか。そうすればやつのもとにいけるぞ」

「……さない」

「何だ?」

「許さない!」

 私はやつののどを貫こうとのどにつめを向けるが、やつののどに突き刺さる手前で止まる。

「フッ。私の能力を忘れたのか?」

「このやろう! 絶対切り刻んでやる!」

「動けもしないのにほえるな。フフッ。本当に負け犬の遠吠えだな」

「端海さん!」

「硝子ちゃん!」

 逃げたい。死んだ彼のためにも逃げ出したい。心臓を守りきりたい。しかし、そんな私の気持ちとは裏腹にやつが島田君の短剣で私の心臓を抉り出そうと構える。

「チェックメイトだな。せめてもの救いだ彼氏の武器で殺してやろう」

 もう、だめだ。

 島田君、ごめん。心臓、守りきれなかった。マリアさんごめん。私が島田君を死なせちゃった。

 そのときやつの肩に手が置かれる

「チェックメイトなのはお前だ」

 平井の後ろから声がした。

 この声は……。

「佐藤君!」

「ブレイク佐藤!」

「佐藤く~ん!」

 やつが驚き後ろを振り向く。しかしすぐに余裕の笑みを見せる。

「フッ。私の能力を忘れたのかね?」

「お前こそ俺の能力を忘れたのか?」

「何?」

「今……お前の能力を破壊した」

「なっ!」

 本当だ。動ける。私はさっとやつから短剣を奪い取り構える。アイス北川がたちあがり、氷の刀を作りながら、やつのもとに歩み寄ってくる。海ちゃんも立ち上がりゆっくりとやつのもとに歩み寄り、指先をやつに向ける。

「あ、あ、あ……」

 平井は膝をつく。

「私たちの勝ちね」

 やつは前のめりに倒れた。おそらく、力を使いすぎたのだろう。気絶している。

「硝子ちゃん。今だよ?」

「端海さん。今です」

「島田の仇を取れよ」

 ……仇……。私は手元にある彼の遺した金の短剣を見た。彼はこれを守りの誓いに使っていた。これは復讐のためのものではない。

「ううん。仇はとらない」

「なんで~! こいつ島田君を殺したんだよ!」

「なんでです! こいつは島田君を殺したんです。それに今やらないと二度とチャンスはありませんよ!」

「なんでやらないんだよ! お前、あいつのこと、好きだったんだろ!」

「……やりたいよ……私だってこいつを殺したいよ! でも、こいつを殺したって島田君は戻ってこない」

 それにきっと彼の心の中の恋人マリアさんもそれを望んでいるはずがない。

 最後には私は涙を流していた。自然と流れていた。自分の復讐心と、自分が言ったことのジレンマの間で苦しんだ上での涙だった。

「……」

 みんなは無言で私を見ている。そして泣き止んだ私はいう。

「もしみんながどうしてもやりたいって言うならやったらいいよ」

 そういうと、みんなはそれぞれの武器をやつにぶつけようとする。

「でもね。そのあとに残るのはむなしさだけだよ。自分が人を殺めたという事実と島田君が死んだ事実が残るだけだよ。ほかには何も残らないよ。やるならそのことを承知した上でやってね」

 最後には何故か自然と涙が流れていた。

「……」

「……」

「……」

 みんなはそれぞれの武器を下ろす。

「わたし、やらない」

「僕もです」

「俺も」

「みんな分かってくれてありがとう」

 私は涙をぬぐう。

「でもほんとにいいの? 一番つらいのは硝子ちゃんじゃないの? 一番やりたいのは硝子ちゃんじゃないの?」

 その言葉に私の動きがぴたりと止まる。

「……海ちゃん……それ以上言わないで。私だって必死で衝動を抑えてるの」

「硝子ちゃん……」

「今やったら島田君が悲しむと思うからやらない。だって私が殺人者になるんだもん。それにこいつにだって家族がいるんだよ」

「……そうだね。島田君は喜ばない」

 そういうと海ちゃんは島田君の亡骸を見る。そして、涙を流す。

「どんな理由であれ、もし、ここで私がこいつを殺したらその家族の人が悲しむと思う。それに死ぬことはとてもつらいことなの。ガラスたちと違って再生なんかできないの。やり直しがきかないの」

「一度きり……ですか?」

「そう、もう一度、人生があるわけじゃない。一度きりの人生。そこでやった自分の罪は、その人生で生きて償う必要があると思う。だから私、復讐はしない」

「硝子ちゃん」

 海ちゃんが私を抱きしめてくれる。

「ほんとに冷たいんだね、体」

「うん、ガラスだからね」

 私は必死の笑顔を見せる。そして私は彼の亡骸を抱きしめる。

「ごめんね護君せっかく守ってくれたのにあったかい私を抱かせてあげられないで。それにキスもまだだったよね。まだ冷たいキスだけど約束だからね」

 私は彼の亡骸にキスをした。彼の体温がまだ残っている。ひょっとしたら彼が抱きしめ返してくれるかもしれないと思って。どうしても彼から離れられない。

「護君、ちゃんと生きるよ。君が守ってくれた体、人生だものアームカットなんかしないよ。ねえ、だからさマリアさんから教わった青魔術教えてよ。ねえ、護君。お願いおきて」

 鐘が鳴った。

「十二時だ」

「私のガラスの体の期限がきた鐘だ」

 そのとき声が響いた。

「端海硝子、一週間心臓を守りきり、ガラスの心を知り、よくぞそこまでの考えを持った」

 目の前に黒色のマントを羽織った老人が現れる。おそらく神なのだろう。切り刻んでやりたいと思ってはいたが、今は、その気も起きない。

「お前の願いは何だ?」

「えっ?」

 突然の問に私は戸惑った。

「約束したじゃろう? 一週間心臓を守りきるという、わしの遊戯に付き合う代わりに、何か願いをかなえてやると」

「なら、願いは決まってる」

 そう決まっている。私は護君の亡骸を見る。私の願いは……。

「護君を生き返らせて」

「それで、いいのじゃな?」

「うん」

 私は力強くうなずく。

「よしその願いかなえてやろうといいたいがわし一人では力が足りん。もう少しでわし並みの力を持ったやつが力を行使する。それに合わせてやれば生き返らせてやることができる」

 そう声がしてしばらくしたら。島田君の体が光だし、彼の傷がみるみる癒えていくのがわかる。私は彼のもとに駆け寄った。

「島田君!」

 私は彼の胸に耳を当てる。

 ドクン。

 ドクン。

 鼓動が聞こえる。

 彼が生き返った。私は自然と涙が出てきた。彼を思いっきり抱きしめる。

 うれしくてたまらない。マリアさん。護君生き返ったよ。せっかくそっちに行って会えたのに連れ戻しちゃってごめんね。でも、きっと島田君の話の中のマリアさんなら許してくれると思う。

「みんな、心臓が動いてる……」

「ほんと~!」

「本当ですか!」

「嘘だったら破壊するぞ」

「私、もうガラスの体じゃないよ。だから多分、みんなの能力もなくなってるよ」

 皆が、それぞれに、自分のさっきまであった能力を試してみるがどれも発動しない。

「ほんとだ」

「本当ですね」

「マジでか~あの能力、俺ほとんど使ってねーんだぞ」

「うるさいなあ。疲れてるんだからゆっくり寝かしてくれよ」

 彼が声を出した。フフッ。寝ぼけてる。皆が彼のもとに駆け寄り、抱きつく。

「なんだ、なんだ? いったいどうしたんだ? そうだ平井は!」

 彼は体を起こし、構える。

「終わったよ」

「えっ?」

 彼は平井が気絶しているのを見て、安心して構えをとく。

「よかった。守りきれたんだな」

「うん。だから約束」

 私は彼の唇に唇を重ねる。

 やわらかい感触。

「あったかいな」

「えっ?」

「お前の体あったかい。ちゃんともとの体にもどったんだな」

「……うん。マリアさんとの約束守れたね」

「お前、俺がまだお前とマリアを重ねてると思ってるのか?」

「違うの?」

「たった一人の愛する人を守る誓いを果たしたんだ。これがその証拠だ」

 彼はあの短剣を見せる。……血の跡がなくなっている。彼の手の甲の傷もなくなっている。

「これって、誓いを守ると消えるの?」

「ああ。だから俺はマリアではなくお前を見ているんだ。それにあの世で言われたよ。こんなとこ来て何やってんの! あなたはちゃんと自分の守るべき人を守りなさい! あなたの相手は私じゃない、硝子ちゃんでしょ! そう言われたとたん。マリアが青魔術で俺の魂を戻してくれた」

 えっ? じゃあ、神のやつ何もしてないってこと? それとも偶然が重なったのかな。それともマリアさんと神の力が重なったのかな。そうだそういえば神のやつそんなこと言ってたっけ。

「俺はマリアのおかげでこっちに戻ってこれた」

「マリアさんて立派な人だね。私もマリアさんみたいに立派になりたい。そして護君に守ってもらうんだ」

 そういってもう一度強く彼を抱きしめる。彼もそれに応えてくれる。彼の鼓動を感じる。……うれしい。

 私たちはやつらを残し地上に戻った。




「ふっふっふっふ。実に面白い物語だった」

 ベルゼが楽しそうに笑う。

「端海硝子、ちゃんと物の心が分かるようになりましたね」

 蝋燭が月鏡を見ながら言う。

「そうじゃな。これからも。義務を利用して楽しませてもらうとしようかの」

「ベルゼ様次は何を?」

「さあな、やつらの罪を償わせなければならないし。逆に仕事が増えてしまった。まあ言い、今回は面白い物語を見させてもらった。人間にも感謝せねばな」

「では、ベルゼ様何か人間に代償を支払ってやったらどうです」

 蝋燭の提案にベルゼはあごを鳴らす。

「う~む。それもなかなか面白そうじゃな」

「では次はそれで」

「ウム。次はそれで楽しむとしよう。しかしその前に仕事をせねばならん」

「罪の償い、ですね」

「ウム、自分の責任で起こした罪は自分で償ってもらうしかない。命があるうちにな」

「人間たちも者の心が分かれば少しは罪を減らすでしょうけどね」

「ウム。しかし今回だけじゃ者の心を分からすようにするのは」

そういうベルゼをよそに机はぼそっとつぶやいた。

「どうせまたやるくせに」




 事件のあと平井先生は姿を消し、あの親父たちは自分の罪を償っている。日向先生は教員を続けてくれていて、私のよき相談者となってくれている。結局、一番目に保健室に行った理由は、発作で運び込まれたことだった。

 でも、よくよく考えてみればこれもあの神が仕組んだことなのかもしれない。あいつ結構好き勝手やってるけど、ちゃんと神をやってるんだなと少し思う。

 あの事件のあと私たちはもとの生活に戻っていった。

 海ちゃんは相変わらず簡易バーナーを持つフレイム福光。

 アイス北川は相変わらずアイス好きで、ブレイク佐藤は相変わらずごみの破壊を楽しんでる。

 私と島田君は約束どおり彼氏と彼女の関係になった。ついでにいつ間にか、アイス北川と海ちゃんが付き合っている。

 島田君には留学の話があったそうだが、今回の一件でそれが中止になったようだった。それとは別に、私たちはマリアさんのお墓参りにもいった。

「マリアさん。護君を守ってくれてありがとう。今度は私が護君を守るからね。安心して見ていてください。それから私はもう死のうなんてしません。確かにまだ、発作が起こることはあるけど。あなたの分もしっかり生きていきます」

 あと、自分で言うのも変だけどあの趣味の悪い親父狩りはしなくなった。というかやりたくない。もう変な恨みもたれたくないしね。相変わらず痴漢はあるけど、島田君が守ってくれる。

 うれしい。

 ちなみに私はあの一件以降、何故かガラスを割らなくなった、というよりはガラスを割らないように気をつけるようになった。だってガラスには心がちゃんとあるんだもん。

 多分だけど、物にはみんな心があると思うようになった。気のせいかもしれないけど、私はそう信じて物を大切にしていきたいと思う。

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神様遊戯・ガラス少女物語 松田時宗 @ratte

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