あえて二手に……

「いよいよですね」

 蝋燭がベルゼに言う。

「そうだな。ついに佳境だな」

「面白かったですか?」

 机がベルゼに尋ねる。

「何を言う、楽しいのはこれからじゃ」

「それもそうですね」

「端海硝子のやつ、時々面白い一面を見せますね」

「発作のことか?」

「はい」

「そうだな、それが物語にどういう影響を与えるか楽しみだ」

 ベルゼが心底楽しそうに言う。

「ついに佳境。さらに面白くなる」




 ガラス少女になって七日目。

 私たちは桐村神社の本堂前に立っていた。島田君は昨日、青井が落としていった刀を持っている。時間は午後十二時。私が元に戻るまで残り十二時間。今日は夏休みが近いので、午前で授業は終わり。家から出るときにあのガラスのコップに別れは言ってきた。もし仮に、生きて帰れなかったときのために。……不安だから。

「端海」

 島田君が私を抱きしめる。

「福光さん……すみません」

 アイス北川が海ちゃんを抱く。

「北川く~ん」

 海ちゃんがじたばたしている。しかし、彼は強く抱きしめていて、逃げられない。

「あれ? 福光さんなんでバーナー二つ持ってるんですか? いつもは一つなのに」

「お守りみたいなもの。たくさんあったほうがいいでしょ~」

 そういって彼女は簡易バーナーを見せびらかす。

 ……よかないよ。

 ……簡易バーナーがお守りって……どういう神経してんだよ。しかもたくさんあればいいって……。まあ、彼女の場合は、特別か……。

「北川、開けてくれ」

 島田君の声を合図にアイス北川が鍵を開ける。

 カチャン。

 鍵を開き、本堂の中に入る。そんなに広い本堂ではないので、筋を捜し当て、入り口を見つけるのは容易だった。そこには地下へと続く階段があった。

「いよいよだね~」

「ああ」

「そうですね」

「行こうか」

『うん』

 私たちは階段を下りいく。地下に行くにつれ、ひんやりとしてくる。だんだんと戦いが近づいてくるのが分かる。ほんとは戦いたくないけど、仕方ないのよね。でも、よく考えれば私がガラス割りまくっていたからなんだ。

 階段を降りきると、目の前に二つの入り口があった。おそらくあの二つの広場への入り口だろう。ということは、この奥にSUVのボスの間が――。二つの入り口の上には「赤井ゾーン」「青井ゾーン」とある。

「どうします?」

「二手に分かれよう」

「わざわざ敵の策に乗るの?」

「乗ってやったほうが、面白いよ~」

 ……みんなこの状況を楽しんでる。

 神の言うとおりあくまで『神様遊戯、ガラス少女物語』なのね。

 ……いいわ。楽しんでやろうじゃない。でも、やっぱり私が原因だから素直に楽しめないのよね。

「じゃあ、俺と端海が青井ゾーンに行く」

「私は赤井ゾーンがいい~。こないだは、やられっぱなしだったし~」

「なら僕も赤井ゾーンですね」

「じゃあ、みんなあとで」

「はい」

「硝子ちゃんこそ割れないでね~」

「切るよ?」

 彼女ののどもとににつめを当てる。

「冗談だよ~」

「ああ、そうだ。みんな、あいつらつれてきて、言いたいことと、聞きたいことがあるから」

「りょ~か~い」

 私たちはそれで別れた。




 私と島田君は青井ゾーンに入っていった。

「ねえ、島田君」

「何だ? 端海」

 彼はあたりを警戒しながら私に聞いてくる。

「私不安なの」

「大丈夫。俺が守ってやる。誓ったろ?」

「でもね、こないだのあいつらとの戦いからして勝てるかどうか不安なの。私はすぐ割れるガラスだし。島田君は刀持ってるだけだし」

「……」

「彼らの力は半端じゃない」

「俺らだって特別な力を持っている」

 彼はバリヤーを張ってみせる。

「バリヤーだけじゃない」

 そう。バリヤーだけそれ以外何もない。

「お前のつめがある」

「そんなのでやつに勝てるわけない!」

 私は彼に向かって叫ぶ。そのときやつの声がした。

「なら諦めて心臓を渡してくれれば、生き残らせてやる」

 やつが刀を持って立っている。その姿はまるで落ち武者のような感じだ。

「私は心臓がなければ死ぬ」

「そうだったな。ならば今の約束はなしだ」

 島田君は刀を構える。

「二人だけで私を倒せると思えるのか?」

「やらなくちゃあ、通れないだろ?」

「そうだな……では、始めようか」

 やつが刀を構える。始まっちゃうの? 

 でも私は嫌、死にたくない。

 でも戦わなきゃ殺される。

「端海、構えろ! いくらやつが人間でも中は化け物だぞ!」

「ひどいなあ。私は人間だよ、ちょっと神がくれた力を持ってるだけなんだよ」

 やつがやれやれといった仕草をする。

 ――むかつく。私は構えた。

「ほう、やる気かね」

「……やるしか……ないじゃない!」

 そうやるしかない生き残るためには!

「フッ。負け犬の遠吠えというやつかな」

「まだ……負けちゃいない!」

 そういうと島田君がやつに向かって切りかかる。

 それが戦闘開始の合図だった。

 彼がやつに向かった刀を振り下ろす。やつはそれを横に大きく跳んでかわす。

「くそっ!」

 彼はさらにやつを追い、切りかかるがそれはむなしく空を切る。

「くっ」

「そんなもんかね君の力は、次は……私の番だ!」

 やつがすごい速さで動き出す。前戦ったときと同じだ。同じ動きだが今回はそれより速い。何故? 神の力は底なしなの? 

 神のやつ……絶対切り刻んでやる。私は怒りにとらわれやつに切りかかる。しかしやつは、それをさらりとかわし、私に向かって切りかかってくる。

「危ないっ!」

 彼が私の前に立ちふさがりバリヤーで攻撃を防ぐ。しかしやつの高速の斬撃は彼のバリヤーの壁をどんどん削り取っていく。

 一秒間に約三回はふるわれるその斬撃はすごい勢いで彼のバリヤーを破った。彼はやつの斬撃を何とか受け止めるが後ろに押されている。

「ほらほら! どうしたどうした!?」

「くっ」

 私は動けない。下手に動くと彼の邪魔になる。その瞬間やつは一気に後ろに飛ぶ。

「端海! 来るぞ!」

 彼は刀をかまえ私の前に立ちふさがる。彼は私を守るので精一杯だ。私が攻撃しなければ、おそらく彼にはやつの斬撃は見えていない。何とか感覚で刀にあて、勝手に発動するバリヤーでやつの攻撃を防いでいる。しかし私にはやつの攻撃が見えている。

 海ちゃんたちはいない。攻撃できるのは今、私しかいない。私が何とかしなければ。思いつかない。仕方ない。とにかく今は攻めるしかない。私は彼の前に出て、やつの攻撃を迎え撃つ。やつが一気に飛び込んできて横から切ろうと刀を構えた。

「くらえっ!」

 私はやつの横からの斬撃を、からだをそらしてよける。そして、身をそらせたままやつの体につめをつきたてようとする。しかしそれをやつは横っ飛びでかわす。……なんて身体能力。前々からだけど……。

 そのとき胸に違和感が走る。

 まさかこれは……身をそらせたままの私が頭を起こしてみると、やつがわたしの胸を触っている。いや、もんでいる。

「最高だね、この感触」

 私はさっと身を起こし、やつの腕に向かってつめを振る。しかしその斬撃は空を切る。

 ……気持ち悪かった。ほんっとこのはげ親父むかつく!

「このスケベ親父! 絶対切り刻んでやる!」

「だまれ! この自傷女!」

「っ!」

 私はその言葉に絶句し、地面にひざをついた。

「私が気づいてないと思ったか? お前が私ののど元につめを当てたときに気づいたのだ! 私は悔しいよ。こんな自傷癖を持つ馬鹿女にはめられたと思うと」

「馬鹿女……自傷癖を持つ……」

 私は頭の中がだんだん不安でいっぱいになり。発作が起こる。息が苦しい。死にそう。

「はあ……はあ……はあ……」

「端海! しっかりしろ!」

「もうだめよ。こんなやつらにかないっこない。私はだめなんだ。割られて死ぬんだ……死ぬんだ……死ぬんだ……死ぬんだ……」

「そうだ死ぬのさ。さあ心臓をよこせ」

 私が心臓を取り出そうと自分につめをつきたてようとするのを島田君が止める。

「何やってんだ!」

「だって……もう無理よ! こいつには……かなわない」

 そういった私を彼が抱きしめる。

 その隙を突いてやつが切りかかってくるが。彼のバリヤーがそれを防ぐ。やつは高速の斬撃を繰り出すが。彼の強い思いがバリヤーを強くして、やつの斬撃を完全に防ぐ。

「お前を守るっていったろ? だからそれを無駄にするようなことをしないでくれ。もう俺はマリアみたいなやつを出したくないんだ」

「私はマリアさんの代わりなの?」

「……違う。お前だから守るんだ」

「島田君……ほんと?」

 私が彼の顔を覗き込む。

「俺は誓ったんだ。お前を守るって。それに俺は抱きたい……あったかいお前を……」

 彼はさらに強く私を抱きしめる。

「島田君……ありがとう」

 彼の抱擁に私は抱きしめ返す。

「もう大丈夫か?」

「うん」

 そのとき彼の強まったバリヤーが安心したせいで弱まる。それをやつは見逃さなかった。

「もらったー!」

 敵を背にして私を抱いている彼にやつは容赦なく切りかかる。しかしそれを私は腕を犠牲にして防ぐ。私のガラスの腕はやつの斬撃を食らい折れる。彼がやつに切りかかろうとする。そのスピードがさっきより若干上がってるのは気のせいだろうか?

「くっ! こしゃくな!」

 しかしやつの連続の高速斬撃が繰り出される。

「くっ! バリヤーが! ……もたない」

 彼のバリヤーが薄くなっていく。

「はっはっはっは! これでもらったー!」

 バリヤーがきれ、彼が後ろにたじろぎ一瞬の隙ができる。そこにやつの刀が振り下ろされる。

 キンッ。

 私がもう片方の腕のつめでやつの斬撃を受け止める。

「端海!」

「私だって守られてばかりじゃないのよ!」

「こしゃくな」

 やつはきりかえし私のもう片方の腕を高速の斬撃で狙う。






 僕たちは赤井ゾーンに入っていった。

「福光さん」

「な~に~?」

 前を歩いていた彼女がこちらを振り向く。そうだ、今言っておかなければ、いうチャンスがないかもしれない。チャンスは一度つかみ損ねると二度とつかめない。頑張れ自分。さあ、言うんだ。

「もし……もし……無事に帰れたら。僕と付き合ってくれませんか!」

「いいよ~」

「えっ?」

「だから~いいって言ったでしょ~」

「ありがとうございます!」

 僕は彼女を抱きしめた。彼女もそれに応えてくれた。

 そのとき、炎が僕らに迫ってきた。僕は氷の障壁でそれを防ぐ。

「ちっ!」

 デブ親父――赤井が立っていた。こちらに向かって口づけするかのように、口を向けている。ううっ。気持ち悪い。

 僕は刀を作り出し。福光さんは指先をやつに向ける。

「ふっ。勝てると思っているのか?」

 赤井が自信満々に言ってくる。

「当然です」

「と~ぜ~ん」

「では始めようか」

 やつは炎を吹いてくる。僕は氷の障壁でそれを防ごうとするが。炎が風で曲がる。障壁を乗り越えて炎が向かってくる。そのとき福光さんが炎で炎を抑える。

「負けないよ~」

 やつは風で彼女の炎を吹き飛ばそうとするが、氷の障壁でその風を防ぐ。

「ありがとう~」

「気を抜かないでください!」

 彼女が気を抜いていた瞬間に、やつが風で炎の勢いを強めてくる。

「やばっ」

 氷の障壁で炎を何とか遮断する。しかし勢いを増した炎はどんどん氷の障壁を溶かしていく。

「くっ!」

 彼女抱きかかえ横に飛び倒れこみ、炎をよける。敵は倒れこんだ隙を逃さず炎を吹きかけてくる。それを氷の球形のバリヤーで防ぐ。その隙に彼女が立ち上がり、炎をやつに向けて放つ。

「えいっ!」

 しかし、やつは強風を吹かせ炎の方向を曲げる。

「ふっ。私を甘く見るな」

「くっそ~」

 彼女が地団太を踏む。

 くそっ!

 どうすればいい?

 どうすれば攻撃できる?

 頭の中で策をめぐらすが思いつかない。相手はその隙を突いて炎を吹いてくる。氷の障壁で防ぐが、氷はすぐに溶かされる。くそっ。

 僕はどうすればいいんだ。悪いけど彼女の炎はあまり役に立たない。炎が襲い掛かってくるのを防ぐので精一杯だ。悔しいけど僕も同じ。

刀を持っているけど、やつのところまでいけない。氷で体を冷やしながらいくか? いやそれではだめだ。それではやつの炎には耐えられないし、体が凍傷でだめになってしまう。

 考え込んでいる僕のもとに炎が襲い掛かってくる。

 しまった。障壁は間に合わない。

 万事休すか? しかし、僕の前に炎の障壁ができる。それがやつの炎を相殺する。

「北川く~ん大丈夫~?」

 福光さん……。

「ほうけてたら、死んじゃうよ~」

 いつもどじばかりしているけど頼りになるときもあるんだな。

「はあっ!」

 一気にやつに向かって切りかかる。しかし、突風で吹っ飛ばされる。

「くっ」

 それを彼女が受け止めてくれる。

「一人で向かって行ったって無理だよ~」

「だけど……僕が切り込まないと!」

「隙あり!」

 やつが何かを放つ動作をする。空気が歪んで見える、真空の刃だ。僕は障壁で防ごうとするが、障壁はいとも簡単に破壊される。やばい、彼女の炎じゃ風の向きは変えられない。くそっ!

「北川君! 刀!」

 そうだ僕には刀があった。僕は刀でやつの刃をはじく。同時に刀が粉砕する。

「やばいっ!」

 やつは真空の刃をこれでもかというほど飛ばしてくる。僕は刀を作りながら、福光さんの手を引き、やつの刃から逃げる。

「どうするの~? このままじゃ……」

「分かってます!」

 どうすれば……? せめて、やつに近づきさえできれば勝てるのに、そうだやつの口を凍らせればやつの炎攻撃が止まる。よしっ!

「はあっ!」

「うぐぅ!」

 よし! やつの唇が凍る。これで炎は防いだ!

 ……なっ!

 やつは自分の指先から炎を出し自分口の氷を溶かしている! くそっ! なんてやつだ。やつは口以外からも炎が出せるのか! 

 完全に失策だ。このままでは、もう手がない。

「ほら、ほら、ほらっ!」

 次から次へと真空の刃と炎のあわせ技で攻めてくる。逃げるので精一杯で、反撃の手立てを考えてる暇がない。

 やつは隙なくどんどん攻撃を重ねてくる。やつの力に限界はないのか? まあ、こっちにも限界がないから分からなくもないが……。

 逃げ回るのにも限界がでてきた。

 やつの刃が四方八方から迫ってくる。彼女の息が上がり始めている。僕の息も上がり始めてきた。

 端海さんなら何とか見極めてかわしたり、島田君のバリヤーで防いだりできるのに。完全にメンバーを間違えた。

 何か、何か策はないのか! 





 バシッ。

 島田君のバリヤーが私への斬撃を防ぐ。

「守るのは俺の役目だ」

 彼が口元に笑みを浮かべる。

「くっ!」

 やつが連続で高速の斬撃を繰り出すが、強い思いを秘めた彼のバリヤーは破れない。

「私たちの勝ちよ!」

 やつがバリヤーに切りかかっている隙に私がやつの刀を持った腕を切りつける。やつは痛みに顔をゆがめ、刀を落とす。

「ちっ!」

 やつが後ろに退く。私はやつを追いかけて切りかかる。

「やあっ!」

 しかし私の斬撃はやつの身体能力の前では無駄である。やつは後ろに飛び私の攻撃をかわす。私はそれを追いかけようとするが腕で制止される。

「深追いするな! 違いを考えろ!」

「う……うん」

 彼ってこんなに頼もしかったっけ? 彼が私に耳打ちしてくる。

「俺が出る。その隙を突け」

「分かった」

 彼がやつに向かって走っていく。やつは彼の作戦通り、素手で彼の刀を迎え撃つ。私はその隙にやつの後ろに回りこむ。

「そこっ!」

 やつが後ろ蹴りをして私を蹴り飛ばし。彼の刀を素手でへし折る。腹にかなりの衝撃がいったが割れてない。よかった。

「私を甘く見るなよ。神からの力。見せてくれるわ」

 やつは酔拳の様な構えを取る。

「くっ!」

 どうする? 

 私はどうすればいい? 

 今武器を持ってるのは私。彼が持っているのは折れた刀。彼は武術はできるけど、やつほどの相手にまともにやれるとは思わない。今まともな武器が在るのは私だけ。

「くっ! このままじゃあ……」

 海ちゃんたちが来るのを待つか? いや、そんなことしてたらやつに押し切られる。

 どうする? 

 どうすれば……。

 私は辺りを見回す。

 そして私は見つけた。切り札を。

 失敗すれば私たちの負け、でも勝算はある! 

 私は一気に走り、島田君の刀の折れた先を拾いやつに投げつける。それと同時に 足元の切り札をけって転がす。

「そんなもの、当たるか」

 やつはすらりと私の投げた刀をよけようと足を後ろに動かす。

 かかった!

「なっ!」

 やつは私たちの切り札――私の折れた腕を踏みバランスを崩し、足に刀を食らう。

「くっ!」

「島田君!」

「おう!」

 彼は折れた刀の残った部分を、やつののどもとに突き当てる。

「チェックメイト……だな」

「くっ!」

 やつは後ろに飛ぼうとするが、私がうなじにつめを当て、それをとめる。

「無理よ。諦めなさい」

青井はひざをつく。

 対青井戦……勝利。



「ほらほらどうした!」

 やつは次から次へと刃を飛ばしてくる。

 やつの隙は……。僕の力で作れないか……? 早く動ければやつの攻撃をよけつつ責められて、隙も作れる。早く動くには……。彼女の炎と僕の氷じゃあだめだ、やつの風ならともかく……。……氷と炎……そうだ! 僕は彼女に耳打ちをする。

「今から俺が頭の上一面に氷を作ります。それをやつが破壊したら、破片を溶かしてください」

「それでいけるの?」

「いけます」

 僕らの頭の上一面に、幾万もの氷の剣を作る。

「フン、何をするかと思えば」

 やつはいともたやすく全ての氷の剣を破壊する。

「今です!」

 福光さんが炎で一気にその破片を溶かす。あたり一面に雨が降り広場が深さ一センチほどのプールとなる。

「こんなことで私の炎は止められんぞ」

「フッ。もうあなたは策にはまっているのです」

「何っ!」

「福光さんジャンプして!」

「うん!」

 彼女と同時に僕もジャンプするそして、足元の水を一気に凍らす。こうして、僕らの足元は、スケートリンク状態になった。

 やつは足の氷を溶かしつつ、こちらに刃を飛ばしてくる。僕は彼女と背中合わせになり叫ぶ。

「前に向かって思いっきり、炎をだしてください!」

「分かった!」

 彼女が炎を出すとその勢いで彼女は後ろ――僕にとっての前に向かって、すごいスピードで滑り出した。

「わ~!」

「集中してください! 僕が方向を言いますからそっちに向かって炎をだして!」

「オッケー!」

 やつの刃を右に左へとすさまじい勢いで滑りながらよけつつ、やつとの距離を詰めていく。そのとき足の氷を溶かし終わったやつが炎を飛ばしてくる。

「斜め右前!」

 左に体が流れる。横を炎が通り過ぎていく。

「斜め左前!」

 右に体を流れる。やつの正面。彼女も要領がわかってきたようだ。動きが正確になってきた。

「くっ!」

 やつは距離を詰められ焦り始めるがもう遅い。

 氷の刀を作りながら。やつに迫る。

 そのとき、やつがありったけの炎と刃を飛ばしてくる。……左右のよけじゃ、間に合わない!

「合図したら、ジャンプしながら下!」

「えっ?」

「いいから早く!」

 やつの攻撃が間近に迫る。

「今です!」

 僕と彼女は同時にジャンプし、彼女の炎の勢いでさらに上昇する。やつの攻撃が全て足元を通り過ぎる。着地と同時にやつの頭に刃を振り下ろす。

「ひっ!」

 やつは情けない声を上げ、腕で頭をかばった。僕はやつの腕を切る寸前で刀を止めた。

「チェックメイト……ですね」

 対赤井戦……勝利





 私たちは完全に戦意喪失した赤井と青井を正座させていた。

「聞きたいことがあるの」

「なんでしょう?」

「なんでこんなことしたの?」

「罪の償いです」

「はあ?」

 私は素っ頓狂な声をだす。

「これが罪の償いだって言うの?」

『はい』

 二人は声をそろえてはっきりと返事をした。プチッ――私の中で何かが切れた。

「ふざけんじゃないわよっ!」。

「ほんとです。神に言われたんです」

「神に言われた……」

 ……そういうことか、神はやつらを使って私に試練を与える。それによって罪を許してやると言ったんだ。だからこいつらは、私たちの前に立ちふさがった。

 くそっ! あいつ、こんな情けない親父たちまで利用してでも楽しみたいのか。最低の神だな。

「もういいわ」

「えっ?」

「だから、もういいって言ったのよ」

「許してくれるんですか?」

「馬鹿なこと言わないで、許すわけないじゃない」

「じゃあ、もういいって……」

「話しは終わり。あんたらは自分の罪を償いなさい」

『……はい』

 二人はうなだれたと思ったら。倒れこんで気絶した。

「こいつら、限界まで力を使ってたみたいね」

「そのようですね」

「まあ、いい。倒れたやつを無理やり起こす必要もないだろ」

「行こうか~」

「そうだね」

 私たちはさらに先へと歩を進めた。島田君はまたしても青井の刀を失敬していた。

「あ、海ちゃん腕直してくれる?」

「いいよ~」

私の腕は少し短いが元に戻った。今更だけどガラスの体も便利なときもあるんだなぁ。


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