探索開始!

 さてと、まずは鳥居神社伝説だから、神社に、いってみるのが一番妥当だな。とその前に……。

「アイスでも食べましょうか」

「いいよ~でも探索は~?」

「僕はアイス食べたほうが、頭が活性化するんです」

「そうなんだ~」

 彼女のこののんびりした声は和ませてくれるが、危機感を奪っていくものがある。おそらく、本人にその自覚はないだろうけど……。

 それはそうと、なに食べようっかな~。僕はアイスショップの前でいろいろあるアイスに目移りしてしまっている。バニラにチョコレート、ミントに抹茶、そしてハワイアン。どうしよかな~。僕がそんなこんなで迷っていると福光さんが勝手に注文してしまった。

「ストロベリー二つ、お願いします~」

 ストロベリー……別に嫌いではないが、色があまり好きではない。僕は、赤よりは青がいい、早い話、赤が嫌いなのだ。なぜならアイスの天敵炎の色だからなのだ。

「わたしね~イチゴとか赤いもの好きなんだ~」

 炎の色だからだろうか……。やはり彼女は、炎が好きだから、あんな僕の天敵みたいな能力を手に入れたのだろうか。おそらくそうなのだろうな。いつも腰に簡易バーナーをつけてるんだから。

 彼女の能力は、僕とは、相反するものだ。別に彼女は嫌いではないが、あの能力は絶対にいらない。というか炎自体にかかわりたくない。

「北川く~ん。アイス溶けちゃうよ~。もし食べないなら、わたしが溶かしちゃうぞ~」

 そういうと彼女は炎をつけたままの指先をアイスに近づける。

「わああ~! 食べます、食べますから、溶かさないでください!」

 僕はアイスを食べ始める。く~、このひんやりとして、甘い感触。

 ……最高。

 僕はしばらくアイスを堪能した。福光さんも口にアイスをつけながらぺろぺろとアイスを食べている。今ふと思ったんだがこれってデートっぽくないか? 

いや完全にはたから見ればデートだ。男と女が、二人で仲良くおそろいのアイスを食べている。完璧にラブラブのカップルじゃないか! 

 そう思うとどきどきしてきた。彼女を楽しませたほうがいいのだろうか? このままではむっつりだと思われる。しかし、今こうして、改めてみると彼女は、結構かわいい……やばい好きになってしまいそうだ。いや、前から彼女のことは、少し気になってはいたのだが……。いかんいかん今は鳥居神隠し伝説の探索、調査だ。そんなこと考えてる場合じゃない。

「どうしたの~? さっきから難しい顔したり、顔赤くしたりして、ちょっと面白いよ~まさか、わたしを笑わせようとでもしてるの~?」

「いや、別にそんなわけでは」

 僕は必死に手を振って否定する。絶対に彼女を笑わせようとなどしてない。いや、ちょっとばかり楽しませようかどうか考えていたが……。彼女、結構鋭いな。

「僕は、決して、やましいことなど……」

「考えてたの~?」

「いや、考えては……」

 いや、確かに考えていたが、別にやましいことなどない。僕は決してそんな男ではない、断じてない! 彼女にはこのままでは、誤解されてしまって、嫌われる。それだけはなんとしても阻止しなければ、僕の将来のために! ……何の将来かはふめいだが。

「これからの探索のことを考えてたんですよ」

「やっぱり北川君はしっかり者だね~。私、硝子ちゃんを溶かしたら、どうなるだろうかな~とか考えてたよ。わたしは、お嫁さんにもらってもらうなら、北川君みたいに、しっかりした人にもらってほしいな~」

 こ、これって告白ってやつなのか? 

 僕はますます焦る。どうすればいいんだ? こういうときは? 今まで、こういう状況になったことはないから、どうすればいいか分からない。島田君ならこういうとき、どうするだろうか? 

 うまくごまかすのか、話をそらすのか? どうすればいい? どうすればいいんだ。

「なんてね~今のことは気にしないで~」

 がくっ。

 焦って損した。けど彼女が僕のことを好いているのが、なんとなくだが分かった。それだけでも、よしとしよう。

「とりあえずこれからの探索ですが、やはり神社を回ってみるのがいいと思います。なんとっても鳥居神社伝説ですから」

「そうだね~でも、この町には神社が三ヶ所もあるよ~」

 三ヶ所全てを回ってみるのが一番いいだろう。どこに手がかりがあるか分からないしな。

「三ヶ所全て回りましょう。少し大変ですがこれも佐藤君のためです」

「そうだね~ところでさ~」

「なんですか?」

「北川君のアイス、溶けちゃってるよ~」

 そういうわれ手を見ると……溶けてる~! 

 ああ……最悪。

 僕は改めて青色のハワイアンアイスを買いなおし歩きながら食べることにした。彼女はまたしてもストロベリーだ。飽きないのだろうか? 色が好きなだけだから、味が好きなわけではないだろうに……。

「う~んやっぱり同じ味は飽きてくるな~」

 やっぱり飽きてた。う~ん彼女はなんというか食えない人物だな。

「だったら他の味にすればよかったのに」

「それでもやっぱり、赤いものは私のエネルギー源なんだよね~」

 何だ、それは……。彼女はひょっとして変な人なのだろうか? いや、確かにいつも簡易バーナーを持ち歩いているのだから。まともではないことだけは、確かなのだが……。しかし、赤いものがエネルギー源って……。家ではいつも何を食べてるのだろうか? 林檎とかイチゴとかばかりなのだろうか? これはプライバシーにかかわることだから、聞かないが彼女の部屋は赤一色なのだろう。まあ、僕の部屋も青一色でいつも液体窒素を持ち歩いているから、彼女のことを変とはいえない。

「ねえ、まず、どの神社からいくの~?」

 う~ん。山城神社、桐村神社、空村神社、やはり一番近い、桐村神社からいくか。

「山城神社から行かない~?」

「どうしてです? 一番近いのは桐村神社ですよ」

「あのね~桐村神社は、他の神社の中間にあるから、先にいくと他の神社に行くのが大変なんだよ~。だから山城神社からいったほうが、歩く距離が短くなるんだよ~」

「ああ、なるほど。それなら山城神社に行きますか」

「オ~ケ~」

 彼女ののんびりしたこの声を合図に僕たちは山城神社に向かって歩き始めた。彼女、案外考えてないようで考えてるな。

 山城神社に着いた僕たちはまず神社の本堂から調べ始めた。この神社、敷地面積がでかくて本堂が大きく、人が二十人は入れそうだ。中は鍵がかかって入れない。外から見た限りでは最近誰かが使った形跡はない。

「なんか、全然、手がかりないね~」

「そうですね。それでも一応神主さんに聞いてみましょうか」

 神主さんに聞いてみたがここには神隠しのような伝説はないようだ。むしろ人が出てくる伝説のほうがあるという。

 う~ん、人が出てくるか……。少し怪しいな。でも最近使われた形跡のある場所はない。それに神主さんもここに住み込みの人ではない。だから掃除はあまり行われない。だから、誰かが使ったなら、何かしらの形跡が残るはずだ。しかしここにはそれがない。つまりここははずれということだ。

「福光さん次の神社に行きましょうか」

「オ~ケ~」

 次にきたのは桐村神社だ。ここはとても小さい神社でめったに人が訪れることはない。実際神社を調べてみても誇りがたまっているかと思いきや何故かきれいだった。

「おかしいね~ここはめったに人がこないのに、きれいなんて」

「そうですね、ここは人が訪れることが少ないので、掃除もめったにされないはずです。ここはチェックですね」

「そうだね~」

「もう少し調べてみましょうか」

「うん」

 本堂はさっきの神社と同じく鍵がかかってて開けられない。しかし本堂の中はきれいで良く見ると床に妙な筋のようなもの、そして、よく見ると、髪の毛が落ちてる。

「あやしいですね。鍵がかかっているのに中には髪の毛。これでもかってくらい怪しいですね」

「でもさ~偶然、最近、掃除したのかもよ~」

 その可能性も考えられないことはない。いくら人が訪れない神社とはいえ、近所の人が掃除に来たりしたりするだろう。う~ん。ここも怪しいが、はずれか……。しかしさっきの神社と比べてみると怪しさは高い。

 次の空村神社はさっきの桐村神社よりはでかいが山城神社ほどはない。まずは本堂からだ。本堂は同じく鍵が……かかってない! 

 中に入って調べてみると。そこに埃は無く、最近使われた形跡もある。だがそれも当然といえば当然か。何せ鍵がかかってないのだから。信心深い誰かが、勝手に、掃除に来た可能性だってある。

「どう思いますか? 福光さん」

「少し怪しいけど、さっきの神社のほうが怪しいね~」

「そうですね。あまり人が訪れないのにきれいでしたし、髪の毛まで落ちてましたしね」

 そう、髪の毛が落ちていたって事は最近誰かが入ったってことだ。最近、この町でそういう風習や行事は無い。

「う~ん。もうそろそろ夕方だし硝子ちゃんたちと合流しようか~」

「そうですね」

 今日調べた三つの神社どれも怪しい。人が出てくる伝説がある神社、あまり人が訪れず鍵までかかっているのにきれいで髪の毛が落ちていた神社。それから鍵がかかっていなくて誰でも入れる神社。

 くそっ! 結局のところ、手がかり無しってことじゃないか。でも待てよ、伝説とかかわりがありそうなのは、二番目の桐村神社じゃないか? 

 一番目の神社の人が出てくる伝説はまったく逆だし、三番目の空村神社は鍵がかかっていなくて誰でも入れる――つまりは人を隠すには向いてない。それからして、桐村神社が一番怪しい。

「もしもし硝子ちゃん……うん……こっちはなんとなくそれらしい手がかりはあったよ~……うん……じゃあ、図書館に集合だね」

「図書館ですか?」

「うん。いったんそこに集まって明日のこと話そうだって~」

「そうですか、じゃあ、行きましょうか」

「オ~ケ~」

 彼女のその言葉を合図に僕たちは図書館に向かって歩き出した。その途中どちらからともなく手をつないでいた。





「なあ、端海」

 町に出て、ある場所に向かっている私に彼は尋ねてきた。

「何?」

「地下都市伝説ってどうやって調べるんだ。文献見る以外に調べる方法、あるのか?」

「私の知り合いにそういう伝説とかに詳しい人がいるの」

「いったいどういう知り合いだよ」

「ネットで知り合ったニートの人、その人、伝説とかの知識においてはそこら辺の教授なんかよりはあると思うよ」

 彼女はすごく優しい人だ。何でこの人が無職のニートなんだろうって思うくらいにいい人だ。普通に働いていておかしくない年齢なのだが。その人は鬱病を抱えていて、それが原因で、どうにもうまく人付き合いができないのだという。しかし何故か私とだけは馬が合って、仲良くなった。

「ここが彼女の住んでるアパート」

「へえ、結構、いいところに住んでるんじゃないか。何でニートなんだ」

 彼は高層アパートを見てそういったが彼女の住んでるのはそこではない。

「違う、違うその隣のおんぼろアパート」

 がくっ。彼はそんな効果音がしそうなくらい前につんのめった。

「何だ、これは? ほんとに人が住んでるのか?」

 確かに、人が住んでるとは思えないくらいぼろいアパートだ。アニメとかだと、ドロ~ンとかいう効果音がつきそうなくらいおんぼろ。地震がきたら崩れそうだ。しかし、私はこの雰囲気が好き。なんとしてでも生きてやるっていう根性を感じることがあるからだ。私にもそれくらい強い根性がほしいものだ。

「まあ、とにかく入ろう彼女の部屋は二階よ」

 私は慣れているので階段をほいほい上がっていくが、彼は上がるのをためらっている。

「どうしたの? 島田君」

「この階段、途中で崩れたりしないよな」

「しないよ。私だって上がったでしょ」

「いや、しかしなぁ」

 彼は何時までも渋っているので、私は階段を降り、彼の腕をとり、強引に上がった。

「おい、ちょ、端海、崩れるって」

「情けない声をだすな! 切るよ?」

「……はい」

 ……久々の快感。もう一度やろっかな? いや、今は探索、探索。

 私たちは桐原さんの家に入った。

「硝子ちゃん、今日はどうしたの? あ、彼氏できたんだ。おめでとう!」

 桐原さんは大げさに喜ぶ。昔私に友達がなかなかできないとかいったから余計にうれしいのだろう。自分のことのように喜んでくれている。

「ち、違うよ」

 違うといったけど実際そうなのかもしれないな。あ、私を一週間守ったら付き合うんだっけ。いろいろなことがあって忘れそうだった。そういえば神のやつに何を願うかも、まったく考えてない。どうしよう。まあ、それより、今は……。

「この町の地下都市伝説について聞きたいんですが」

 島田君が先に言った。もう、私の知り合いなのに。

「地下都市伝説? 何? そんなとこでデートするの?」

「違うってば、とにかく詳しいことは言えないんだけど、この町の地下都市伝説について調べてるの」

「まあ、いいか。……え~と……この町の地下都市伝説は……」

 彼女は後ろにあったパソコンのキーボードをカタカタと軽快にたたき。パチッとエンターキーを押した。

「これだね、この町の地下都市伝説」



 第二次世界大戦時に日本軍が作ったといわれる地下の秘密研究都市。ここのもとは江戸時代に作られた炭鉱が元だったといわれている。

 ただ、そこはもう日本軍ものではなく、どこかの組織のものらしい。

 ここではクローン技術の研究などさまざまな研究が行われていた。今でもその研究は進められていて、その中でも最も巨大な研究は特殊な兵器の開発であるという。

 兵器の詳細は一切不明だが何か必要なものが欠けていてどうしても完成しないのだという。その欠けているものの特定はある程度進んでいている。


「これがこの町の地下都市伝説に関する記述をまとめたもの。どう? 参考になった?」

「参考にはなるんですが、どうしてこんな早く、まとめが出来てくるんですか? なんだかまるで私たちが来るのを予見していたような……」

「ああ、これはブレイク佐藤君に話してあげようとして用意していたものだからだよー」

「ブレイク佐藤君って……」

「あれ? 友達じゃなかったっけ? あの破壊活動をこよなく愛する彼だよー」

「ええっ! なんであのがさつな奴が桐原さんと知り合いなんですか!」

「いやいや、彼をあまり侮ってはいけないよ。アレでいて頭はキレるタイプだよ……多分」

「今、多分って言いませんでした?」

「あははー、聞こえちゃったかー。まあ、彼のことはそれなりに信用していいと思うよ。それじゃ、頑張ってね」

「はい、ありがとうございました」

 お礼をいって彼女の部屋をあとにした私たちはとりあえず。炭鉱のあった場所を調べるため。図書館に向かうことにした。彼女の情報網にその方面のものは無い。あれば楽だったが現実はそう甘いものではい。

「なあ、端海。俺、ニートってまったく何もできない、だめなやつのことだと思ってたんだけど、違うんだな」

「そう、ニートだってちゃんと特技の一つぐらいは持ってるんだから。ただそれが仕事につながらなかったり、彼女みたいに鬱病が原因でニートだったりするの。早い話みんな好きでニートやってるわけじゃないの」

「思い込みって、行き過ぎると変な誤解につながるんだな」

「そう、私みたいのが、差別されるのもそのせいなの」

「つらい現実だな」

 彼は、感慨深く言う。

「うんとってもつらい。確かにやってる自分が悪いんだけど、それで変な人だとか危ないやつだとか思われたくないの。島田君はそんなことしないよね?」

「ああ、しないよ」

 そういうと彼は私を抱きしめた。ちょっと! ここ道端よ! 人様が見てるじゃない! どうして彼は私を抱きしめたがるんだろう? 彼も不安なのかな? 私だって不安なときは誰かに抱きつきたいもの。

「ありがとう」

 人が見ていて恥ずかしいが私はそれに応えて、抱きしめた。

「行こうか」

「うん」

 私たちは再び図書館に向かって歩き始めた。

 図書館に着いてまず、私たちは分担して、この町の炭鉱について調べた。この町には昔かなりの数の炭鉱があったようでそれをつなげば一つの都市になりそうなくらいある。地盤沈下とかしないのだろうか? ああ、するならもうしてて、問題になってるか。う~ん怪しい、地下都市、本当にあるんじゃないのか?

 桐原さんからの情報からして、かなりある可能性は高そうね。でもあったとしたらすごい不祥事じゃない。今でも研究を続けているか……。欠けているものってなんだろう? 私に関するものだったらビンゴね。

 たとえば私の心臓がその欠けている物だっていう可能性だってことは十分ある。何せあの神が仕組んだことだもん。しかも心臓を死守しろと、わざわざ言っていたし。うん、おそらくこの組織は必ずある。そしてブレイク佐藤を拉致したのは、おそらくその組織だ。多分あの神がそそのかしたんだろう。しかし、炭鉱はいっぱいある。しかも入り口もたくさんある。う~ん、海ちゃんたちの情報に頼るしかないか。そんな時、私の携帯がなった。

「もしもし、海ちゃん? 私たちのほうはそれらしい情報が見つかった。……うん……じゃあ、図書館に来てくれる? 明日のことも話したいし」

 そういって電話を切った。

「福光さんのほうはどうだって?」

「それらしい情報あったみたい」

「これで見つかるといいな」

「でも炭鉱の場所は分からない」

「そう悲観的になるなよ」

「うん」

 彼は慰めてくれたが、やはり不安は取り除けなかった。





 私たち四人は図書館会議室に集まった。

「で、海ちゃんたちの情報は?」

「え~とね~……あれ? 忘れちゃった。北川君お願い」

 おいおい。忘れるなよ。と突っ込みたいが今は我慢だ。情報、情報。

「え~とですね。とりあえず三ヶ所の神社を回ったのですが、どの神社も怪しいです。一つは人が消えるのではなく、人が出てくる伝説のある、山城神社。ほとんど人が訪れないのにきれいで、髪の毛が落ちていて、本堂の床に奇妙な筋があった、桐村神社。最後はかぎかかっていなくて、人の出入りが少ないのにきれいな、空村神社。僕の意見としては、桐村神社が一番怪しいと思います」

「そうね、髪の毛が落ちてるってあたりが、一番気になるわね」

「そっちはどうなの~?」

「こっちはそれらしい地下都市伝説があった、それによると謎の組織が裏で絡んでいる」

「そして、この町の昔の炭鉱を使っている可能性が高いの、ここからは推理だけど、やつらは私の心臓を狙っているかもしれない。という具合ね」

 それを聴いてアイス北川が腕組みをする。

「う~ん。これらの情報からして桐村神社か山城神社が入り口で、その先に日本政府の、秘密組織があってそこが端海さんの心臓を狙っている。そんな感じでしょうか?」

「そうね。今の情報からして、その可能性が高いわね。でも桐村神社と、山城神社は鍵がかかっていて入れないから、どうしようもないわね」

「そうだな。……なあ、みんな、今日はこれでお開きにして、詳しい探索は明日にしないか? 今日はもう遅いし」

「ちょっと待ってブレイク佐藤がまだ無事か確かめて見ましょう」

「そんなのどうやって確かめるのですか? 彼は拉致されてどこにいるかわからないのでしょう?」

「いや、それがあいつ、電話に出られるみたいなの、生きてるならまだ電話に出てくると思う」

 しかし、あの様子からして多分生きてるような確信がもてる。

「じゃあ、電話するね」

 私は彼の携帯に電話してみる……。

「もしもし」

『よお、端海、元気に探索やってるか?』

「元気よ、あんたこそ大丈夫なの?」

『大丈夫どころか最高だぜ。なんてったって三食、昼寝つきで、何にもしなくて良くて、さらに、言えば、漫画だって持ってきてくれる、ゲームだって何でもできる、しかも、トイレにもいける。ただ檻に缶詰ってのが、あるけど、それから……』

 そこで私は電話を切った。

「どうだったんだ?」

「あいつは、むかつくくらい無事よ」

「どういうこと~?」

「あの野郎、拉致られてるのか疑わしいくらい、豪華な生活、送ってやがる」

 私は怒りを込めて言った。当然だ、こっちは必死で探索してるってのに、三食、昼寝つきどころか、最高の生活送ってるのだ。

 むかつく。どうせなら、私が拉致られれば良かったのに……。

 くそ、あいつ、もし、無事に助け出せたら、切ってやる。絶対。覚えとけよ。拉致ったやつと、ブレイク佐藤、それから神。

 私がわなわなと怒りに震えてるのを島田君が抑えてくれた。ありがとう島田君……あなたが彼氏候補でよかった。もしあいつだったら付き合う前に殺してやるところだった。私、あなたの優しさ絶対に忘れないからね。やだ、これじゃまるでどっちかが死ぬみたいじゃない。私はバシッと彼の背中をたたいた。

「何だよ、端海」

「いや、別にちょっと変なこと想像しちゃって」

「何想像したんだ?」

 バシッ。

 私は再び思い切り、彼の背中をたたいた。そんなこと、言えるわけ無いじゃない。彼が彼氏候補でよかったなんて。

「頼むから、たたくのは、やめてくれよ」

「ご、ごめん」

「お二人さん熱いですね。僕の氷で頭を冷やしてあげましょうか?」

「私は大丈夫だから、島田君の頭冷やしといて」

「分かりました」

 そういうと彼は島田君の頭に、ふーっと冷気を吹きかけた。

「ちょ、北川、何やってんだよ?!」

「だから端海さんに言われたように頭を冷やしてあげてるんです」

「お前……端海の言いなりかよ」

「まだ命は惜しいですからね」

 そのときさっと、私はアイス北川ののど元につめを当てた。

「切るよ?」

「ご、ごめんなさい」

「あはは~みんな面白~い」

 私はもう片方のつめを彼女ののど元に当てた。

「切るよ?」

「ご、ごめ~ん」

「みんな端海の言いなりだな」

 私は島田君の目の前でつめを振った。

「切るよ?」

「……今……切るつもりだったろ?」

 彼の頬から血が少したれる。

「それは自分の頬に聞いたら?」

「えっ?」

 彼は自分の頬から血が出ているのを確認すると、見る見るうちに顔が青ざめていった。

「うわああー! 切れてるー!」

「私をあまり言うとこうなるからね。分かったみんな?」

 みんなはこれでもかというほど何度もうなずいていた。

 ……快感。

 ブレイク佐藤を含めてこのやり取りもう一回やりたいな。

 私たちはそのやり取りを最後に、お開きにし、明日再びこの図書館に集合することを約束して別れた。

「じゃあね~切り裂きガラス少女~」

「海ちゃ~ん、今度それ言ったら、その服が、ぼろぼろになるよ~」

 そういうと海ちゃんはしばらく固まっていた。それをアイス北川がずるずると引きずっていった。




「ふっふっふっふ、面白いやつらじゃ。人間とはこれだから面白い」

「そうですね。ベルゼ様」

「しかしあのようなやつらで大丈夫なのですか?」

 机がベルゼに心配そうに尋ねる。

「何、あのくらい間抜けなほうが、面白くなる」

 机はそうだろうか? という顔をし、それきり黙りこんだ。

「ふっふっふっふ。そろそろあいつらに刺客を送り込むかの」

「そろそろ佳境が近いですね」

 蝋燭がベルゼのご機嫌をとるように言う。

「そうじゃな」

 彼は心底、楽しそうに言う。

 彼らの人間を小ばかにする会話はなかなか絶えなかった。

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