拉致された?

「端海硝子のやつガラスの心が分かったようですね」

 蝋燭がベルゼに言う。

「ウム、しかし約束の日までまだ分からん。人間というやつはすぐに分からんことをするからな。突然、狂気に見舞われてガラスを割り出すかもしれん」

 羽ペンはボソッと「あんたのほうが分からんよ」といった。

「羽ペンよ、お前とは長い付き合いだった。分かれるのは惜しいが致し方ない」

 ベルゼは彼を永遠の闇の世界――巨大なゴミ箱に捨てようとした。

「べ、ベルゼ様お待ちください! 私がいなくなると義務帳に書き足しもできなくなりますよ。それに私は……」

 必死で言い訳する彼を蝋燭たちは無言で見つめていた。ベルゼは羽ペンの言葉に耳を貸さず。そのままゴミ箱に捨てた。

「いやだああああぁぁぁ! 闇はいやだあああぁぁぁ!」

 捨てられる羽ペンを見て蝋燭たちはささやきあっていた。

「捨てられるのは嫌だからな、触らぬ神にたたりなし」

「そうだ。そうしていれば捨てられずにすむ」

「わしに逆らわんことだ」

 ベルゼはいすに座りながら言った。

「さてさて、やつにそろそろ試練を与える日が近いな」

 そういって彼は硝子に試練を与える準備を始めた。

「あの神は何であんな捨て癖があるんだろうな」

 蝋燭はボソッと彼に聞こえないようにつぶやいた。

「さあな、さっきも言ったが触らぬ神にたたりなしだ」

「……」

 それきり蝋燭は黙りこくった。




 ガラス少女になって三日目。

 今日の一時間目は面白い授業をしてくれる安藤先生だった。先生はところどころで面白いことを言い、面白いダンスなどをしてくれる。

「あははっ」

 教室のあちこちから笑いが漏れる。そんなとき、私の横から声がした。

「あんなの何が面白いんだ」

 聞きなれない声、これはまさか……。私は横の窓ガラスを見てこっそり聞いた。ほかの人に見られると変なやつに見られる。こないだ突然消えたのだ、これ以上変人扱いされてたまるか! それにしても一番後ろの席でよかった。

「あんたが言ったの?」

「そうだよ。お前らのセンスどうかしてるぜ。あんなやつどこが面白いんだ?」

 なんかこいつ性格悪そうだな。

「あのダンスとかが面白いんじゃん」

「ただのたこ踊りにしか見えん」

 安藤先生、わたしが今、必死にかばってあげてるからね。感謝してよ。

「ギャグとかも面白いよ」

「間が悪い」

 くっ。こいつ手ごわい。私の手に負えないかも。安藤先生ごめん。

「間が悪いんだよ。あとちょっと早かったらなあ、と思ったら。ああそこ遅いんだよとか。とにかくあいつは間が悪い。確かに面白いの域まで言ってるが、爆笑の域には入ってないだろ?」

「そういえば爆笑したことないな……」

「だろ? もちょっと間を研究したら、爆笑に持っていけるのに惜しいよ」

「ならあんたがやってみてよ」

「……お前分かってないな」

「何が?」

 さっきからこの窓ガラス、むかつく。昨日大事にしようといったけど。割ろうかな? いや、でもそれは辛いからやっぱりやめ。

「言葉のギャグっていうものはやれと言われていきなりやれるものとは違うんだよ。ちゃんと間を計ってやらなきゃならないんだよ」

こいつ……かなり分かってるやつだな、たぶん前世は絶対お笑い芸人の窓ガラスかなんかだな。

「あんた前世なんだった?」

「お笑い芸人のメイク用の鏡」

 やっぱり、どうりでこんなに語れるはずだ。

「あんたのようなガラスもいるのね」

「そりゃこれだけ多くのガラスがいれば俺みたいのもいるさ」

「ふ~ん」

 私、今までガラスって感慨深いやつばかりだと思っていたけど、そうでもないのね。こんな風に扱いにくい、そう、まるでブレイク佐藤みたいなやつもいるのね。

「お前、俺が感慨深くないって思ってるだろ」

 うっ。的確な指摘。アイス北川並みだ。

「うん」

「俺だって六時間目にどうなるか不安なんだぜ」

「六時間目? ……チョーク平井?」

「そう、あいつがチョーク投げて俺の位置のガラスを割ったから俺はここにいる。 だから今度は俺の番かもって思ってるのさ」

「……そうなんだ」

「少しは俺への見解変わったか?」

「……うん」

 やっぱり人間とは違って、繰り返して何度も生きているだけあって、考えてることが深いわね。私ガラスのこと甘く思ってたみたい。

 安藤先生の授業が終わるころには私たちは親しくなっていた。

「じゃあ次は移動教室で理科室での授業だから」

「ああ、じゃあな」

 私が理科室に向かう途中、海ちゃんたちが話しかけてきた。

「硝子ちゃ~ん。放課後ちょっといい~?」

「俺も話がある」

「僕もあります」

 三人してなんだろ。

「島田君も呼んどいて~」

「分かった」

 島田君も呼ぶってことは私のことについてかな? 何だろうもしかして、みんなで私を守ってくれるって言うの? まさかね……。

 六時間目の平井先生の授業が始まった。そして私は話を聞かずに窓の外をボーっと眺めていた。

「端海! ボーっとするな!」

 彼がチョークを投げる。残念、当たりませんよ。私はそれをはじき落とす。

「くっ! これならどうだ!」

 平井先生はむきになって私に向かって二本のチョークを投げる。よけなくても当たらない軌道だと見切り私は見過ごそうとしたが。はっとしてはじき落とした。そして立ち上がって叫んだ。

「先生っ!」

「な、何だ?」

「無茶苦茶にチョーク投げて……ガラス、割るつもりですか!」

 先生は私の言葉にたじろぐ。まさか私がこんなこというとは思っていないのだろう。

「なっ! 俺はお前のためを思ってだな」

 彼は必死に言い訳する。

 プチッ――キレた、もう許せない。

 私は先生の元に向かってずんずんと歩いていき先生ののど元につめを当て。

「先生……あまり過ぎたことすると……切るよ?」

 そういうと先生の顔が見る見る青ざめていく。

「す、すまんかった」

 先生は私に向かって謝る。

「私じゃなくて、あのガラスに謝って」

 私はビッとさっき会話した窓ガラスを指差した。先生は窓ガラスのほうにすたすた歩いていき。謝った。

「土下座して」

「なっ! ガラスごときに向かってそんなことできるか!」

 私はすたすたと先生の元に歩いていき。のど元につめを当て。

「切るよ?」

 先生は土下座をした。みんなは終始無言だった。

「先生、ガラスにだって心はあるんだよ。だからそのガラス割るなんて私、許せない。いや、絶対許さない」

 私は先生を見下げながら言った。そうすると……。

 パチ。

 パチ、パチ。

 パチパチパチ。

 教室中から拍手が起こった。私はわけが分からず周りを見回した。皆が総立ちで拍手をしている。何で? どうして? 私そんなすごいことした?

「端海、お前すごいよ」

「端海さん、本当のガラス少女だね」

「うん、ガラスの心がわかってるみたい」

「みんなー端海さんを胴上げだー」

 私は逆らうこともできず胴上げされた。どさくさにまぎれて胸とか触るやつがいたが、今日はおおめに見といてやる。感謝しろ。それにしてもよくよく考えたら胴上げされてたときに落とされたらとんでもないことになってたな。

 



 クラブ活動後いつもの場所にみんなが集まった。まず一番に切り出したのは海ちゃんだった。

「硝子ちゃ~ん、今日はすごかったよ~。まるでガラスのヒーローみたいだったよ~。私感動して泣きそうだったよ~」

 みんなもそれに続く。

「俺もお前があまりにもすごいんでお前を危うく破壊するところだったぜ」

 おい。どさくさに紛れてそんなことするつもりだったのかよ。

「僕も感服しました。あれはすごかったです」

「ほんとすごかったよな、端海お前ガラスの体になった意味少しはあったんじゃないか?」

「そうだね。私あの窓ガラスと友達になれたし」

 私は遠い目をして夕日を見つめる。

「へえ~ガラスと会話もできるんだ~」

 海ちゃんが大げさに感激する。

「完璧なガラス少女ですね」

 アイス北川が眼鏡を上げながら言う。いい加減照れくさくなってきた。そろそろやめさせないとまた胴上げされる。

「も、もう。みんなもてはやしすぎだよ。私はただ、当然のことを言っただけだよ。だからそんなにもてはやさないで」

 私は小さくなる。

「そうだな。その話はもういいとして、みんな今日は話があったんだろ?」

「あ~そうだった~忘れるところだったよ~」

 おいおい。忘れるなよ、自分で呼び出しといて。

「あのね~私不思議な力を手に入れたの~多分、硝子ちゃんがガラスの体になっちゃったことよりすごいよ~」

「福光さんも不思議な力を手に入れたんですか?」

「そうだよ~見てて~」

 そういうと海ちゃんは指を空に向けきゅっと目を瞑り「えいっ」といった。刹那、海ちゃんの指先から炎の柱が立った。

 ……。

 ……。

 一同無言。

 ……フレイム少女が、バーナー少女に進化した瞬間だった。

 それを見て一同無言だったがアイス北川が口火を切った。

「僕のもお見せしましょう」

 そういうと彼は何か棒のようなものを取り出すと。剣を構えるようにした。そうすると見る見るうちに刀が出来上がった。

 ……。

 ……。

 一同またしても無言

「すご~い北川君、そんな力手に入れたんだね~」

「はい、これは、何でも凍らせることができるので、何でもアイスキャンディーや、シャーベットにできて最高です」

 ……アイス北川が、真アイス北川になった。

 彼は眼鏡を上げながら自分の力のことを説明している。そうするとブレイク佐藤がアイス北川の作った刀に触ったかと思うと。刀が粉々に砕け散った。

 ……。

 ……。

 ……真ブレイク佐藤誕生。

「俺の力は何でも触れたものを破壊できるんだ」

 ……触れたものを破壊? ……マジでやばいじゃない。

「ブレイク佐藤、近寄るな! 近寄ったらマジで切るよ!」

 私はあからさまに警戒して、島田君の後ろに隠れる。だって、こいつの性格からして「はははー!」とか言って破壊してきそうだもん。さっきもあんなこと言ってたし。

「誤解するな、ガラス少女。俺はお前を破壊しない。お前壊されると再生できるけど、ある程度壊されると死ぬんだろ? 俺はまだ殺人者になりたくない」

「うん、確かに壊されすぎて心臓が壊れると死ぬみたい」

「で、俺はお前を守ろうと思うんだ、島田のようにな」

「僕もです」

「私も~」

「みんな……」

 私は目を潤ませ、みんなに抱きつく。

「さっき近寄るなって言ったのに……調子のいいやつだぜ」

「フフッ」

「みんなで端海を守ろう」

『おー!』

 私は正直にうれしかった。みんながこんなにも私を思ってくれてるかが分かって安心した。これでアームカットするのも少しは減るだろう。私たちは駅まで楽しく会話しながら帰り。帰りにまたしても親父を一匹狩った。今回の島田君は楽しそうだった。少しは私の気持ちが分かったのだろうか。

「あ、そうそう。これ。ちゃんとぴかぴかにしたよ」

 別れ際に私は島田君にあの短剣を返した。

「ありがとうな」

 そういって彼は短剣を受け取り首にかけた。

「ちゃんと守るからな」

 そういって彼は鞘から剣を抜き自分の手の甲にそれで星マークを描いた。そしてその赤い液体を剣に塗った。

「ちょっ、何やってんのよ! せっかくきれいにしたのに!」

「青魔術の誓いだ。たった一人の愛する人を命をかけて守るというな」

 彼、まだマリアさんのこと引きずってる。そんな気がした。




 砂嵐のような世界。音もザーッとしているだけでほかの音はしない。だけど意識ははっきりしている。ということは、ここは神が私に合いに来る世界――最もむかつく空間。

「出てきなさいよ。いるんでしょ」

 その声に反応して声が頭に響く。

「よく分かったな、そろそろこの世界にもなれてきたか」

「ええ、こう何度も夢に出てこられちゃあ、なれるわよ。で何? 私普通に生活してるわよ、一応」

「それはちゃんと見ておるから分かる」

「じゃあ何よ。文句でもない限り、出てこないで。私、あんたみたいな爺むかつくの」

「爺……むかつくがまあいい。とにかく今日は忠告というか試練を与えに来た」

「忠告? 試練? そういえば前から言ってたわね」

しばらくの間があって爺が口を開いた。

「ある組織がお前の仲間の佐藤弘樹を拉致した」

「ブレイク佐藤を?」

「そうじゃ」

 ブレイク佐藤を拉致ということは、そういうことなのね。

「彼を救出してみろと?」

「ああ、そうだ」

 むかつく。こいつ……私の仲間を楽しむために拉致ったのよね。絶対切ってやる。

「ねえ、一度くらい姿を見せてもいいんじゃないの?」

「姿を見せるのはお前を元に戻そうとするときだ」

「そう」

「それから一つヒントをやろう。やつを追うためのヒントだ」

「何?」

「伝説だ」

「伝説?」

「伝説を調べればたどり着ける」

「楽しむために、そんなことまでするの?」

「そういうことじゃ。それから後々、刺客も送るぞ」

「何よ! それ! 思いっきり私たちに不利じゃない!」

「お前たちには能力があるだろう?」

「……」

 こいつ正直言ってほんとむかつく。

「遊びのために私たちに能力を持たせたのね?」

「そういうことになるな」

「……神様遊戯、ガラス少女物語ってところかしら」

「そうじゃな。それが妥当な名じゃな」

「いいわ。その物語、演じきってやろうじゃない」

「フフッ、楽しみにしているぞ」

 その言葉を最後に私の意識は薄らいでいった。





 ガラス少女になって四日目。

 私は早速、ブレイク佐藤の携帯に電話してみた。

『よお、ガラス少女、何か用か?』

 何で電話に出られるの? あんた拉致されたんじゃないの?

「何であんた電話に出てるの?」

『かかってきた電話には出ちゃいけないのか?』

「……」

『黙ってないで、何かいえよ』

「あんた拉致されたんじゃないの?」

『ああ、されたよ』

 彼は淡々と答える。

「……」

『だから黙るなよ』

「もう一度聞くわ。何であんた電話に出てるの? いや、出られるの? 拉致られたんでしょ?」

『それがよー俺にもよく分からんのさ』

「どういうこと」

『いや、昨日さ……』

 彼が言うには、昨日、パソコンで調べ物をしていると突然誰かが家に煙玉を投げ込んで侵入してきたらしい。そして当て身を食らって気絶して、気づいたらどこか薄暗い場所の檻に入れられているそうだ。しかも監視なしだそうだ。

 いったいどんなやつらに誘拐させたんだ? 神のやつ相当間抜けなやつらに拉致させたんだな、きっと。それも楽しむためだろうか? 

 いや、あの神に限ってそんなことはしないはずだ。そんな面白くもないことをしないはずだ。それともこれで楽しんでるのだろうか?

 まあ、いい。あいつと連絡が取れるならすぐにでも救出できるだろう。なぜなら彼は破壊の力を持っているそれを使って脱出させればいいのだ。そう、救出しなくても彼自身が脱出してくれるのだ。こんな楽な試練でいいのかと思う。

「ねえ、あんたの能力で檻を破壊して脱出してきてよ」

『それがな。できないんだ』

「えっ?」

『俺を拉致したやつらが言っていたんだが、やつらのボスが俺の能力を止めてるんだ。そのボスってのが誰かは分からないけど、一応役に立つと思って教えとく』

 彼から私はボスの能力を聞いた。

「――ちょっとそれって反則じゃない」

『いや、どうやらそれにも限りがあるらしい』

「そうなんだ」

『何とか俺を救出に来てくれ。俺のほうでもできる限りやってみるけど』

「うん分かった」

 とにかく彼から手に入れた情報はボスの限りのある能力。それと彼は薄暗い場所に監禁されていること。この二つだけ。それと彼の居場所につながるヒントとしてあるのは、『伝説』という言葉だけ、幸いにも今日は土曜日だ、学校は休み。探索には絶好の日だ。とりあえずみんなに連絡を取ろう。まずは島田君からだ。

『端海、どうしたんだ?』

「ブレイク佐藤が拉致された」

『えっ?』

「だから、神の試練がついに来たのよ。ブレイク佐藤の救出。それが神からの試練なの」

『でも、あいつ破壊能力もってるだろ? それで……』

「それも無理みたい」

『何で?』

「どうやらあいつの能力とめられちゃったみたいなの」

『……反則だな』

「でしょ? でもやらなきゃ私が元に戻れない」

『そうだな、とりあえずみんなで集まるか』

「うん」

『福光にはお前から連絡してくれ。北川には俺から連絡入れとく。どこに集まる?』

「神のやつヒントに伝説って言ったの。だから伝説を調べることから始めようと思う。だから図書館に集まろう」

『分かった』

 電話を切るとわたしは早速海ちゃんに電話をかけた。

「もしもし海ちゃん?」

『うん。そうだよ~。ふぁ~あ』

 彼女はどうやら寝起きらしい。しかしそんなことにはかまっていられない。

「ブレイク佐藤が拉致されたの」

『そうなんだ~』

 だめだ彼女はまだ完全に寝ぼけてる。

「海ちゃんしっかりして! 拉致よ! 拉致! ブレイク佐藤が拉致られたの」

『ら~ち~?』

 まだ彼女は寝ぼけている。こうなったら……。

「切るよ?」

 私はできるだけ感情を込めずに言った。

『分かった分かった! 起きるから切らないで~』

 別にのど元につめを当てていなくても海ちゃんには私のこの言葉は効果抜群だ。

「いいもう一度いうよ。ブレイク佐藤が拉致されたの」

『ええ~! 佐藤君が~!』

 この相変わらずの、のんびりした声で言われると、緊張感がなくなっていく。しっかりしろ! 私。ちゃんと緊張感を持たないと、危機感が彼女に伝わらないぞ。

「あのね。ブレイク佐藤は誰かに拉致られたらしいの。彼は脱出不可能。だから私たちで助けに行かなきゃいけないの」

『うん、じゃあ探索だね~』

「そう、私が神から与えられたヒントは、伝説という言葉だけ。とりあえず、伝説を調べようと思うから、いったん図書館に集まろう」

『分かった~じゃあ、図書館でね~』

 そういうと彼女は電話を切った。ちゃんと海ちゃんはこの非常事態を感じてくれたのだろうか? 少し不安だがいちいちそんなこと気にしてたら始まらない。とにかく行こう図書館へ!




 図書館に集まった私たちはとりあえず伝説について調べることにした。

「しかし、伝説といっても範囲が広すぎませんか?」

 アイス北川が的確な疑問をぶつけてくる。

「いや、多分この町についての伝説だけでいいと思う」

 私がアイス北川の問いに答える。

「何故です? 別に神がそう言ったわけじゃないでしょう?」

「いや、私ならそういうところにあいつを隠す。何せあの神は楽しむために拉致したんだから。そんなに無茶苦茶遠くには、しないと思う。それに……」

「それに?」

「あいつは昨日拉致されたってのに、もう檻の中にいるってことは、そんなに遠くに連れて行かれたんじゃないと思う。どう? あたしの推理おかしいとこある?」

「そうですねあなたの言うとおりですね。的確な推理だと思います。唯一つの可能性を除いては……」

「何がおかしいの?」

 私はけんか腰で聞く。

「彼らがヘリを使った場合です」

「それはないと思うよ~」

「何故です?」

「だってそんな遠くじゃ私たちいけないよ~」

「それもそうですね」

 アイス北川ってなんか海ちゃんの言うことには素直に従うな。

「じゃあ、とりあえず、この町についての伝説で、神に関係して何かを隠すことに関係しそうなことを挙げていこう」

『うん』

 そういうと私たちは図書館の伝説についての欄で、この町に関係しそうな本を挙げていった。そうしてあがったのはまずありふれた〈鳥居神隠し伝説〉、次にかなり怪しい〈地下都市伝説〉、そして神が絡んでそうな〈天上界伝説〉の三つだった。

「どれも怪しいですね」

「でもさ~この天上界伝説はないと思うよ~」

「いや、それもないとは言い難い。何せ神が絡んでるからな」

「この鳥居神隠し伝説ってのが、一番怪しいですね」

「そうね。なにせ〈神隠し〉、だもんね」

「確かに、神様絡んでそ~」

「でも、この地下都市伝説もなかなか怪しいな」

 う~ん。どれも違うとも言い切れないしそうとも言い切れない。どれだ? どれなんだ。

「とりあえず全部調べて見ましょうか」

「そうだね~全部怪しいなら全部調べてみようか~」

「じゃあ、分担しましょう」

「ちょっと待って」

 分担を言おうとするアイス北川を止める。

「どうしました?」

「天上界伝説……はずせると思う」

「どうして~?」

「神が絡んでそうだけど天上界ってことは、ブレイク佐藤は空の上。さっきも海ちゃんが言ったけど、私たちにいける? その前に一日で空に連れて行けるかな?神が拉致したならともかく。拉致したのは人間。人間がこんな短期間に空の上にいけるとは思わない。拉致した人間に神が特別な力を持たせたみたいだけど。施設まで提供したとは思えない」

「そうですね。的確な意見です」

「そうだな」

「そうだね~」

 みんなが私の意見に同意する。

「じゃあ、私と島田君は地下都市伝説を、海ちゃんとアイス北川は鳥居神隠し伝説を調べよう」

『分かった』

「じゃあ、探索開始よ!」

『おー!』

「図書館ではお静かに!」

 受付の人に注意されてしまった。

「は~い!」

 海ちゃんがまたしても大きな声で返事をする。

「お静かに!」

 海ちゃんが待たして大声を出しそうなので私は彼女の口をふさいだ。

「ん~ん~」

 とりあえず、私たちは口を押さえられじたばたする海ちゃんを引きずり、外に出て行った。まったくこの娘は。

「じゃあ、またあとで」

 そういって私たちは別れた。

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