○ おねえちゃんがだいすきっ! 〈高科由芽〉


「君らさ、ボクの妹の靴を隠すなんてことして、許されると思ってるの?」


 そう威圧された三人の少年たちは、涙を浮かべながら震えていた。少年たちは何とかその威圧から逃れられないかと、ランドセルを盾にしている。頬にあざを作っている者、鼻血を垂れ流している者、頭にタンコブをつくっている者――すでにぼろぼろの彼らは顔を恐怖に引きつらせていた。


「うん。かわいい由芽ゆめが困る姿を見るのは楽しいって事は、よく理解できるよ。でもね、理解できるのと許すか許さないかは別問題なわけさ。ね。だからさ、ちゃんと謝ってね。ちゃんと、土下座して、『ごめんなさい』……だよ?」


 三人の少年たちを威圧する人物は、背後のベンチに座ってランドセルを膝に乗せている少女を指し示した。少女――高科たかしな由芽は状況を理解しているのかいないのか、きょとんとした表情をしている。


 その少女に少年たちは大慌てで近寄り、そろって膝をつき、「ご、ごめんなさいでした!」「もう二度とやらねぇ!」「もーしわけなかったです!」と口々にわめき散らした。


「どう? 由芽、こんな感じで気がすんだ?」


 そう問われて由芽はにっこりと微笑み、


「みんな、おうち帰ったら、ちゃんとママにケガしたとこ、お薬ぬってもらってね?」


 と言った。


「よし。由芽も許したみたいだし、お前らもう行ってもいいぞ」


 少年たちはそれが競争の合図かのように立ち上がり、互いの先を争うようにして駆け出した。公園の外に出たところで三人は立ち止まって振り返り、「てめぇなんか女じゃねぇや!」「女なのに筋肉ゴリラ!」「ホントは×××ついてんだろ!」と口々に騒ぎ立てた後、走り去って行った。

 男子たちの暴言などないもののように、彼らをひれ伏させていた少女はにっこりと笑って妹の方に手を差し伸べた。


「じゃあ、由芽、ボクらも帰ろうか」

「うんっ。ありがとうね、お姉ちゃん」

「帰ったら、シュークリームでもつくろうか」

「やったぁ! お姉ちゃんのシュークリームだいすきー」


 姉妹は手をつないで家路に着いた。由芽は手を引かれながら、姉のほうを見上げた。


 ――やっぱりお姉ちゃんはすごいなぁ。


 そんな風なことを思いながら。

 由芽より三つ年上で、小学六年生の姉は何でも出来た。テストはいつも百点ばかりだし、スポーツも何をやってもみなに憧れの目を向けられている。今回のようなトラブルにも対応が早く、すぐに隠された靴と犯人を見つけ出して成敗してしまった。いつも作るお菓子もおいしい。


 容姿も、歳以上の落ち着きが顔に現れていて、凛とした顔つきをしている。長いストレートの黒髪は艶やかで、清楚な雰囲気をかもし出している。とても男子三人を相手にして勝ってしまう豪傑には見えず、とても女性らしい、由芽にとって憧れの対象だった。


 そんな姉を、由芽はとても誇らしくて、ニコニコと見つめる。

 とてもとても無邪気な笑顔で。



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