第4話  つながる

 ここはどこだろう。

 窓の外の景色はもやがかかったようでよく見えない。

 ずいぶん前に誰かとここで楽しい時間を過ごしていたような気がするんだけど、思い出せないな。

「ほい、ついたぞー。天気がよくてよかったな。玲子、ゆうたを起こした方がいいぞ。うわ、混んでるわ。オムツのバッグは俺が持つな。」

「本当ね。風もないし、お弁当食べるとき気持ちよさそう!あ、水筒、トランクに乗せたままだわ。」

「オッケー。ゆうたとママバッグだけ頼むよ。」

ママとパパがごしょごしょ話している。ようやく頭がすっきり、目覚めた。窓の外は。遊園地だ。

「ゆうた~、起きましょうねぇ。」

ママの甘い声が耳元で囁いた。

「わ、ゆうた、めちゃくちゃ汗かいてる。パパ、ゆうたを着替えさせておくから、少し待って。暑かったねー。ちょっと待ってねー。」

とてもとても大切にしてもらっている。天然なママと、かっこいいパパ。毎日とっても楽しく過ごしているけれど、ママから生まれる前のことも少しだけ覚えている。ただ、最近はだんだん記憶が薄れてきたというか、いろいろなことがぼやけてきた。だんだん『僕』が、『今の僕』になってきている。


 最近、頭痛が続いている。身体もだるいのでよく熱を測るのだけれど、きわめて健康なのか、36度ジャスト。先週末はママに病院へ連れて行ってもらい、検査もしたのだが、とくにこれといって悪いものも出なかった。『自立神経失調症』。そう診断された。この年齢特有の悩みを抱えた『女子高生病』ですよ、気楽に過ごしてくださいね、と、その女医さんは言った。今日もクラブを早退し、5時過ぎには家に着いていた。

「ママ、お夕飯まで横になっとく。」

心配そうなママに背を向け、私は2階へ上がった。部屋のドアを開け、ふうっと大きくため息をつき、ベッドにバタンと倒れ込むと、ふさいでいた気持ちが急にもみほぐされたように柔らかくなったような気がした。

 疲れてるのかな、私。最近、色々なことに不満しか持てない。何かを考えるときは常に「どうせ」という文字が枕詞になってしまう。

 起き上がって、パソコンを起動させながらトレーナーに着替えた。いつものようにあのページを開く。おせっかいおばちゃんの温かい文章と、何人かの常連さんの日常に癒される。今日学校であったことを一通り話して、皆の話も聞いて、あと、どうでもいいこと・・・たとえば、ジャニーズのタレントがこの間ディズニーランドで目撃されたとか、今度の国語のテストには漢検1級クラスの漢字問題が20問出されるの、サイアクー、とか、ともかくなんでもかんでも呟いて、そして、受け止めてもらっているのだ。画面の向こうにこんなにも落ち着く場所が存在するなんて、ほんの少し前までは夢にも思わなかった。出会いとは、そういうものなんだろう。

 「お、今日はゆうたママファミリーは遊園地かあ。パパは平日なのにお休みなんだ。平日の遊園地、楽しそうねー。」

 ゆうたママの楽しそうな報告はすごく長かったけれど、心温まる内容に最後までストンと読んだ。あぁ、あの遊園地か。

 「あの?」

うわ、なんだろう。『あの』って。私の中に潜む何かが、懐かしさを感じていた。行ったこともないその遊園地に。既視感・・・いわゆるデジャヴ?実際見たわけじゃないから少し違うのかもしれないけれどこの懐かしさ、気になるな。










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