Monologue 4
黒髪の少年と、金髪の少年少女らの出会いは今より半年ほど前に遡る。
フランスを経由してイギリスに行こうとしていたところ、天候の不具合により欠航となってしまった。そういうことで、少年は団長と共にフランスを観光することにしたのだ。
初めて訪れたフランスは綺麗な街だった。前回まで居たイタリアも中々の街だったが、フランスはイタリアとは違う物珍しさがある。
少年と団長は教会の前を通りかかった。今日は日曜日なのでミサをやっているのだろう。教会の中では誰もが頭を垂れ、司祭の説法を聞いていた。
極東の島国では神は唯一神と言うモノではなく、八百万の神と言った具合に全てのモノに神が宿る、という考えだ。少年からすればそれが当たり前だったので、そう言った国々の文化の違いは少年の好奇心を満たすのに十分だった。
説法が終わると、今度は聖歌隊が入れ違いで入って来た。パイプオルガンの演奏に合わせて、少年少女らは讃美歌を歌う。
少年はその歌に興味が惹かれた。
何を言っているのか、どう言う意味なのかもさっぱり分からない。
それでも、少年は心を惹かれた。
――これが……讃美歌……。
清く美しい神を讃える歌に、少年は魅了されていた。
ふと、とある少年少女らと目が合う。
歌が終わると聖歌隊は袖へと消えて行ってしまった。少年はそれを目で追う。そんな少年を見ていた団長は、少年の頭に手を置くと言った。
――誰か、気になった人でもいたのかな?
父は少年の眼力を知っている。今居る音楽団の団員の殆どが、少年が見つけたダイヤモンドなのだ。もしかしたら、あの聖歌隊の中にも試金石が居るのかもしれない。
団長は少年を引き連れ、教会の中に入り、司祭に話を通して聖歌隊のいる部屋へと案内された。
聖歌隊はいきなり現れた極東の島国の人間に多少驚いていた。そして何より、音楽団の名前を口にするともっと驚く。
――あの子かな?
団長が端から順番に少年少女らを指し示していく。そうして行けば、少年の眼鏡にかなった人材を見つけられると思ったのだろう。
次々と指し示していくが、少年は首を横に振ったままだった。部屋の中に居る人全員を指し終わると、団長は明らかに落胆する。
廊下で話し声が聞こえた。どうやらまだ指し示していない人がいたらしい。団長が確認を取ろうと思った矢先、少年は駆けだしていた。そして、帰って来たばかりの少年少女らの前に立ち、見上げる。まだ拙いフランス語で日本語訛りがひどいのだが、それでも少年は一生懸命に言った。
――君たちの声、とても綺麗だね。
どうやら、この少年少女らが黒髪の少年の眼鏡にかなった人材らしい。団長はその少年少女らに近づくと団員にならないか、と提案していた。
あの有名な音楽団に入れる。そのチャンスが巡って来たというのに、少年少女らは即断はしなかった。何かを迷っているように見えるのだ。まだこの聖歌隊に居たい、そんな意思が見え隠れしていた。
困ったな、と呟く団長だったが、少年は見上げながら言った。
――この聖歌隊はとても綺麗だ。イタリアで聴いた歌よりも、とても透き通っていて心がワクワクしてきちゃう。それに、君たちは楽しそうに笑顔で歌ってる。見てるこっちまで幸せな気分になりそう。僕たちの音楽団は世界中を笑顔にするのが目的なんだ。そのためには、君たちの力が必要なんだ。だから、入って来てほしい。
団長は少年の弁に驚いていた。この少年がここまで興味を示す事なんてあまりなかったのだから。
間違いなく、この少年少女らは必要だ。
そう確信した父は司祭と話しあうことにした。朝から話し始めて昼、夜と時間が経過した。少年少女らの入団が決定したのはそろそろ日付が変わろうかと言う頃だ。
金髪の少年少女らは、自分らをあの音楽団に招き入れた少年の元へ向かっていた。そして、少年に握手を求める。
――ボクの名前はディラード・ヒューイ。歳は君よりも一つ上の八歳だよ。
金髪の少年は――ヒューイは自己紹介をした。背格好はあまり変わらないから同年代だと思っていたが、一つ上だったらしい。
――私の名前はリドアニア・アストラル。歳は坊やよりも九つ上の一六歳よ。よろしくね、小さな音楽家さん。
金髪の少女は――アストラルはとても女性らしい肉体を持っていて、実に『お姉さん』という感じだった。
少年は嬉しくて笑顔になる。その笑顔を見て、アストラルは「あぁ、可愛い……」と恍惚していた。
少年は二人の手を握って言う。
――初めましてっ。僕の名前は
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