第22話 親子のすれ違い
「学校はどうだ?」
最初にジュリアス様にそう言われた時、理解が追いつかなかったことは内緒だ。
俺が書斎で本を読んでいたら、それを横から見ていたジュリアス様が机で肘をついて、言ったのがこれだ。
これは仕方ないだろう?
あの厳めしい面構えで、泣く子も黙るような雰囲気を漂わせてそんなことを聞くとは思わなかったのだから。
とはいえ、見た目だけで判断してはならない。これが「厄介な奴がいたら闇に葬ってやろう。いつでも言うが良い」とかいった意味で言っているわけではないことは明白だ。
そして学園に通わせられた目的を思い出して、その質問の意図を理解する。
なるほど、学園で集めてきた情報を報告せよということか、と。
なんとも貴族らしい。ここは物分りの良い貴族の子供として、立派に報告してみせよう。
そんなことを思いながら、最近の学校での出来事や、それから分かりそうなことをつらつらと述べていく。
「カミツール家の息女が、商人の息子と仲良くなっておりました。市場で魔導具の値段が上がっていたことと、息女の羽振りがよくなったことから、おそらくは買い占めて献上したのではないかと。他国から買い付けて市場におろすことを考えておく必要があるかもしれません」
「ふむ。そうか」
少し不満そうだな。どういうことだろうか。情報が足りないということだろうか。
「レオン王子は動きを見せませんね。まあ彼に限って下手な動きはしないでしょうけど。レオナがどうやら教師を買収しようとした貴族の一人を潰すつもりみたいです。あそこと何かしら契約されているのでしたらお早めに履行させて、契約用紙などの繋がりは消した方がよろしいかと」
これでどうだ。レオンもレオナも友人だ。だからこそ、信頼している。
これぐらいの情報は俺がジュリアスに渡すことぐらい織り込み済みに違いない。
そして、これぐらいの情報でジュリアス様に陥れられるようなヌルいことをしているはずがない。
レオナは腹黒だが、レオンはいい子だ。
よし、つまり二人とも問題ない。
「ほう。二人とは仲が良いのか」
これは……あれだな。
こちらへの心証がよく、繋ぎになるなら積極的に繋がりを持てばいい。手は出さない。
だがそうでないなら、弱みを握っておけということか。
「はい。二人とも親しくさせてもらっております」
うん。仲は良いはずだ。
王城に遊びに行ったりするんだから。
「友達ができたか。よかったな」
「はい」
「一緒に行くと言っていた子たちはどうだ?」
「三人とも成績上位を保持しているようです。座学はカグヤとロウが農民科で一位、二位。そしてアイラは町民科で一位のようです」
「優秀だな」
なかなか好印象なようだ。至って真顔で、鋭い目つきだから誤解されかねないがあれば喜んでいる顔だ。多分。
紹介するのは気が引けるが、今度連れてきてもいいかもしれない。
しかしまだ何か物足りないようだ。
何だ。何の情報を見落としているんだろう。
そうか、きっと教師の情報だ。
「礼儀の担当を受け持つエナ先生が結婚されました。さすがに生徒数が多いことと、学園の性質から生徒の結婚式参加は認められませんでしたが」
「当然だろう」
「礼儀作法ならあまり動きも少ないので、身籠って休むまではまだしばらくあるでしょうね」
近況で気になることというとこれぐらいか。
他に何があったかな。
「で、お前はどうなんだ?」
「えっ?!」
ジュリアス様も驚いていた。
◇
息子のレイルが家に帰ってきた。
相変わらず家にいる時は書斎にこもることが多い。本棚から二、三冊ずつ取り出してきては並べて読んでいる。
私が書斎にいてもお構いなしに本を読んでおり、話しかけたらにこやかに答えるので、どうやら怖がられたり避けられたりしているわけではないようだ。
大人にも時々怖がられるのだが、レイルはなかなか図太いものがある。
そういえばこの前、王子と姫の双子に城へと呼ばれたなどと言っていたか。
何をどうしたらそんなことになるのだろうか。
普段レイルは学校でどのようにしている(つもり)なのだろうか。
「学校はどうだ?」
まさか私が話しかけると思わなかったのか、レイルは驚いたように顔をあげてこちらを見た。だがすぐり取り繕い、本人は真面目と思っているがあまり良い印象を与えない笑顔でハキハキと答えだした。
内容は何故か学園の外のことや経済などに絡めて話している。
まあいいか、と質問を重ねるとそれに答えてくれる。特に躊躇うことも、言い淀むこともない。
この調子だと学校生活はうまくいっているようで安心できるのだが……どうして自分のことを話さんのだ。
周りのことばかり見ていて、自分のことについて話さないというのはやはりあまり人と関われていないとかないだろうか。グレイ家の悪名でひとりぼっちの生活などをしており、同情から王族の双子に庇われていたりはしないだろうな。
嫌な想像ばかりが先に立つ。
血は繋がっていないから、親の贔屓目にはならないが別に見た目が悪いわけではない。武術以外の能力が高いことはわかっており、ニコニコしていれば友人もできそうなものだが。
ここはゲンダに学園を調べさせて……いやいや、奴には奴の仕事がある。だがこの屋敷は慢性的に人不足。貴族の仕事があまり回ってこんから済んでいるのだ。仕事を増やさせるわけにはいかない。
そうだな、私としたことが。
今更何を迷っているというのだろうな。
本人に直接聞いてしまえばいいのだ。
「で、お前はどうなんだ?」
「えっ?!」
何故かレイルは驚いた。
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